活動電位
活動電位の仕組み : 静止電位・刺激・脱分極・ピーク・再分極・過分極・不応期・閾値・回路モデル
活動電位の伝導 : 無髄線維・有髄線維
イオンチャネル →イオンチャネル・・・起源はプロトンポンプ?・イオンチャネルの起源
活動電位 (スパイク・インパルス)
ある刺激に応じて、細胞膜に生じる、一過性の膜電位の変化です。
活動電位は、主としてナトリウムイオンとカリウムイオンが、
細胞内外の濃度差により、イオンチャネルを通じて、受動的拡散することで生じます。
活動電位により、素早く組織間・内で情報を伝えることができます。
動物だけでなく、植物にも存在します。
活動電位は、様々な細胞でみられますが、
神経細胞の軸索で生じる活動電位が有名です。
活動電位は、全ての細胞で同じではなく、
同じ種類の細胞でも、細胞個体によって性質が異なることがあります。
細胞の内と外の間では、電位差が常に存在しています。
これは、細胞内外でのイオン分布と、イオンに対する細胞膜の透過性(特定のイオンの通しやすさ)に由来します。
電荷を持つイオンの分布が、細胞内外で異なるため、
活性化していない静止状態の細胞では、通常、細胞外と比べ、細胞内の電位がマイナスとなっています。
活動電位は、この電位差が刺激によって、一時的に逆転する現象です。
活動電位に達することを、発火ということもあります。
活動電位の速度と複雑さは、細胞の種類により異なりますが、
電位逆転の幅は、ほぼ同じです。
負から正への電位の変化に要する時間は短く、数ミリ秒です。
活動電位には、順に脱分極相、再分極相があり、多くは、過分極相の段階もあります。
活動電位は、細胞膜上の一ヶ所に留まらず、膜上を進みます(伝導)。
長距離軸索を進むこともあり、キリンやクジラのような大型動物では、数mも進みます。
活動電位の発生には、電位依存性Na+チャネルの存在が不可欠です。
Na+チャネルが存在しない細胞や、
細胞上の存在しない部位(神経細胞の樹状突起等)においては、活動電位は発生しません。
尚、Na+チャネルの代わりに、
(やはり電位依存性の)Ca2+チャネルを利用して、
Ca2+電流による活動電位を発生させる生物もいます。→カルシウムの謎
細胞が活動していない状態にある、膜の電位差を、静止電位といいます。
静止電位では、
K+漏洩チャネルは開いていますが、
電位依存性Na+チャネルは、閉じています。
正味の電流は流れていませんが、主にK+が、膜間を移動しています。
静止電位が、−70mVと、
Na+の平衡電位 +45mVよりも、K+の平衡電位 −90mVに近い値をとるのは、
イオンの透過性の違いが主な要因です。
興奮刺激による、膜の局所的な脱分極が生じると、
神経細胞の表面の膜にある、電位依存性Na+チャネルが開きます。
その結果、Na+は、濃度勾配と電気的勾配が推進力となり、細胞内へ流入します。
Na+が流入し、膜電位の負電荷が減少すると、更にNa+チャネルが開き、
正のフィードバックによって、より大きなNa+の流入が引き起こされます。
Na+チャネルが多く開くにつれ、Na+による電流は、
K+漏洩チャネルによる電流に打ち勝ち、膜電位が逆転して内側がプラスとなります。
つまり、電位変化はNa+だけの移動によらず、Na+とK+の膜間の透過性の比、の変化によります。
脱分極と、それに伴うNa+チャネルの開口が、周囲に広がっていくことで、活動電位の伝導が起こります。
膜電位が +30mV程度になると、
Na+チャネルの電位感受性不活性化ゲートが閉じ、Na+の流入を阻害します。
これにわずかに遅れて、電位依存性K+チャネルの電位感受性活性化ゲートが開きます。
尚、活動電位のどの段階においても、極めて少量のイオンの移動しか起こっておらず、
活動電位が生じている間の、細胞内外でのNa+とK+の濃度変化は、無視できる程小さいです。
電位依存性K+チャネルが開くことで、濃度勾配と電気的勾配が推進力となり、K+の流出が始まります。
K+が流出することで、膜電位の逆転と、再分極が引き起こされます。
電位依存性K+チャネルの閉鎖は、電位と時間に依存しています。
このチャネルは、膜電位の変化にすぐには応答せず、遅れて応答を返します。
そのため、膜が十分再分極した後も、K+の流出が続き、
一時的に膜電位が、通常の静止電位よりも低くなります。
この過分極状態は、アンダーシュートといいます。
刺激に反応しない期間です。
不応期は、Na+チャネルが不活性化状態となっているために生じます。
不応期は、一方向への活動電位の伝導を保証します。
不応期がなければ、活動電位は、軸索の両方向へと伝導が可能です。
しかし、活動電位の伝導方向の後ろが不応期となっているため、
活動電位の逆流が起こらないようになっています。
不応期には、絶対不応期と、相対不応期があります。
絶対不応期は、いかに電位が変化しようとも、活動電位が発生しない期間です。
これは、ほとんどすべてのNa+チャネルが、不活性化状態となっているためです。
相対不応期は、絶対不応期の次にあり、強い刺激を与えれば、活動電位の発生がおこる期間です。
つまり、閾値に達するために、より大きな電位変化が必要な時期です。
細胞が、K+の透過性が静止状態の時と比べて大きなままで、まだ過分極の状態にあること、
いくつかのNa+チャネルが、尚不活性で、閾値自体が上昇したままであるために起こります。
尚、Na+-K+ポンプは、電位の変化には寄与しません。
ポンプは、濃度勾配を維持することにより、静止電位の維持に寄与しますが、
タイムスケールが長く、電位変化に関わる透過性への影響は、チャネルと比べると、無視できる程度に小さいです。
活動電位は、興奮刺激による膜の局所的な脱分極が、閾値を越えた時に引き起こされます。
閾値の電位は様々ですが、一般的には静止電位より15mV以上高いです。
尚、活動電位の閾値は、Na+チャネルが開口する閾値ではありません。
Na+チャネルには、明確な閾値は存在せず、
開口は確率的なものであり、過分極の時でも、開口するNa+チャネルがあり得ます。
活動電位の閾値は、Na+電流がK+電流を上回る電位を指し、Na+電流が有意な大きさとなる電位とは異なります。
神経細胞の脱分極は、通常シナプスの樹状突起で起こりますが、
原理的には、活動電位は神経線維のどこからでも生じ得ます。
生体膜における活動電位の伝達の仕組みは、
イオンチャネルを持つ細胞膜を、RC回路とみなすことができます。
この回路において、
イオンチャネルは、抵抗、
絶縁体である脂質膜は、コンデンサーとして表されます。
コンデンサーの容量は、電極の面積に比例し、電極間の距離に反比例します。 跳躍伝導
電位依存性イオンチャネルは、電圧によって抵抗が変わる可変抵抗であり、
K+漏洩チャネルは、通常の抵抗として表現されます。
膜間におけるNa+とK+の濃度差は、電源(電池)とみなせます。 イオン化傾向
また、軸索方向への神経伝達を妨げる要因も、抵抗として表現されます。
活動電位は、脱分極と、電位依存性Na+チャネルの開口を繰り返すことで伝導します。
ある区域において、脱分極により、電位依存性Na+チャネルが開くと、Na+は促進拡散により細胞内へ流入します。
流入した陽電荷を持つNa+は、静電気的反発によって付近の陽イオンを周りへ押しやり、同時に付近の陰イオンをひきつけます。
その結果、陽電荷の波、つまり脱分極の波が生じ、イオン自身の移動を経ることなしに、遠くまで伝わります。
近傍の区域において、十分脱分極がおこると、その区域にあるチャネルが開きます。
この過程が繰り返されることで、活動電位が伝導します。
活動電位は、より太い軸索上で、より速く伝導します。
神経伝達を妨げる主な原因は、電位差のために、細胞膜内側に集まった陰イオンであり、
直径が大きいと膜から離れた部分、つまりマイナスに帯電していない領域が増えるため、脱分極の波が速く伝わります。
活動電位が髄鞘 (ミエリン)で絶縁された部分を飛び越える、跳躍伝導という現象があります。
有髄線維で、髄鞘がまかれていない部分を、ランヴィエ絞輪といいます。
髄鞘の存在によって、直径を巨大化させずに、伝導速度を速くすることができます。
哺乳類では、
直径2μmの無髄線維の伝達速度は、約1m / sですが
同じ直径を持つ有髄線維では、約18m / sです。
尚、活動電位が跳躍すること自体は、
髄鞘が巻かれていることによる現象であり、跳躍伝導が速い原因ではありません。
跳躍伝導は、生命が大きく複雑化するという進化の過程において、
より遠くに、より速く、神経伝達を行うために、重要な役割を果たしました。
跳躍伝導がないと、伝導速度を上げるには、軸索の直径を大きくするしかないため、
神経系の体の中で占める割合は、極めて大きなものとなっていた可能性があります。
伝導を妨げる主な原因は、膜上に存在する電荷です。
コンデンサーの蓄える電荷は、二枚の板の距離が遠くなると減少します。
神経系は、細胞に髄鞘を巻くことによって、絶縁部分を太くし(膜内外の距離が遠くなります)、
膜上に存在する電荷の減少を図っています。
その結果、髄鞘がある部位における伝導速度は、格段に向上します。
しかし同時にこの部位では、髄鞘があるために、
電位依存性チャネルが存在できず、活動電位の再生は妨げられます。
そのため、髄鞘のまかれていない、ランヴィエ絞輪においてのみ、活動電位が再生されます。
ランヴィエ絞輪では、電位依存性Na+チャネルが豊富に存在するので(無髄線維における密度より、4桁多いです)、
効率的に活動電位を再生することができます。
髄鞘の長さは、跳躍伝導にとって重要です。
速い伝導を行うためには、長さが長いほどよいですが、
長すぎると信号の波が減衰しすぎて、
次のランヴィエ絞輪におけるチャネルの閾値を越えることができません。
髄鞘の長さは、信号が最低でも二つ先のランヴィエ絞輪までたどり着けるのに十分な長さをもちます。
そのため、あるランヴィエ絞輪が、損傷等の原因により、活動電位が起こせなくなっていても、
その一つ先のランヴィエ絞輪まで、信号を伝えることができます。
電位依存性Na+チャネルは、2つのゲートを持ちます。
Na+は、2つのゲートが共に開いて初めて、細胞内への流入が可能となります。
ゲートの一つは、細胞膜の電位に反応して開く、細胞質外ゲート(電位依存性ゲート)で、
膜が脱分極している間は、開き続けます。
もう一つの細胞質内ゲート(不活性化ゲート)は、
通常開いていますが、電位依存性ゲートが開くと、すぐに閉じてしまいます。
不活性化ゲートが再び開くのは、時間依存的であり、確率的なものです。
不活性化ゲートが閉じている間は、チャネルが不活性化しているといい、
不応期を生じる主な原因となっています。