JARL QRP CLUB 60周年キット
21MHz DSB/CW トランシーバ JA Pepper 60 の製作
2016/6/4
Last update : 2019/6/8
JA Pepper 60 の概要
21MHz DSB/CW トランシーバ 「JA Pepper 60」(JP-60)を製作しました(2016年8月完成)。
これは、私が所属する JARL QRP CLUB 60周年キットで、会員限定60台の募集と配布が終了しています。JE1ECF 斎藤OM はじめ、JA Pepper 60 開発関係各位にはたいへん感謝しております。
ケースなしキット、ケース付キット、調整済基板キットの3種類があり、私はケース付キットを選びました。出力は 1W です。
キットを入手した方しか参考にならない部分もありますが、それ以外の方も、アイデア、考え方などを参考にして頂ければと思います。
JA Pepper 60
(中央のラジケータの右のトグルスイッチは水晶振動子切り替え用として追加)
(電源表示(緑)、送信表示(赤)の LED は私が自作機で使っている標準のものに変更)
JA Pepper 60 メイン基板
JA Pepper 60 リアパネル
(電源電圧の記載を「DC 12V」から「DC 13〜14V」に変更)
周波数表示は、Oak Hills Research DD-1 のダイレクト入力を使っています。
JA Pepper 60 と DD-1
2016年5〜7月の仮ケーシングの写真、および、到着したての専用ケースの写真を、「JA Pepper 60 の過去画像」に掲載しています。
JA Pepper 60 の過去画像 |
今回の製作概要(改造点)
CW の運用が多い周波数に出られるよう、2組の水晶振動子を切り替えできるようにし、フルブレークイン、サイドトーン、CWオーディオフィルタを追加しました。
JA Pepper 60 内部
(奥の緑の基板がメイン基板、手前中央の緑の基板が VXO 基板)
(手前左のFCZ 基板は、左から、オルゴール、サイドトーン、CWオーディオフィルタ)
(手前最も右のFCZ 基板は、水晶振動子や VXO コイル用基板)
以下の改造・調整を行いました(主な点のみ記載)(各項目の詳細は後述)。
【メイン基板関係、ほか】
【VXO 基板関係】
VXO について
CW の運用が多い周波数に出られるよう、VXOは、オリジナルの 21.250MHz の水晶振動子と、手持ちの 21.060MHz の水晶振動子をトグルスイッチで切り替えられるようにしました。スーパーVXOなので、2個の水晶振動子とコイルのセットを両側で切り替えることになります。21.060MHz の水晶振動子については、国内コンテストの周波数(21.050MHz〜)と DX の周波数をカバーしたかったので、CW 周波数用の VXO コイル(水晶振動子と直列に入れる L をこのように呼ぶことにします)は大小切り替えられるようにしました。CW-LOW、CW-HIGH、DSB (PHONE) を切り替えるため、トグルスイッチは 2極3投にする必要があり、NKKスイッチズ M-2040 を用いました。
JA Pepper 60 VXO 基板(左)と水晶振動子や VXO コイル用基板(右)
(水晶振動子や VXO コイルは別の 右のFCZ 基板に組んでいる)
CW をするには、RIT の可変範囲を少し拡げる必要があり、C2 を 3pF → 7pF に変更しました(注意:送信周波数可変範囲にも影響します)。
水晶振動子@(周波数が高いほう=主にDSB 用)の周波数可変範囲は以下の通りです。
状態 | 水晶振動子 | VXOコイル | C2 | 周波数可変範囲(※1) | RIT 可変範囲(※2) | 備考 |
仮ケーシング (お菓子の缶) |
オリジナル 21.250MHz スーパーVXO |
3.9μH +T-37#2 5T (計4.0μH) |
5pF | 21.2069〜21.2299 MHz | 330〜1400Hz | |
7pF | 21.2067〜21.2287 MHz | 520〜2000Hz | ||||
3.9μH +T-37#2 11T (計4.38μH) |
7pF | 21.1961〜21.2236 MHz | 720〜2400Hz | |||
4.7μH | 7pF | 21.1743〜21.2192 MHz 21.1786〜21.2205 MHz |
− 610〜2800Hz |
|||
4.7μH +T-37#2 5T (計4.8μH) |
7pF | 21.1628〜21.2155 MHz | 820〜3200Hz | |||
4.7μH +T-37#2 8T (計4.96μH) |
7pF | 21.1644〜21.2159 MHz | 760〜3300Hz | ←2016/5設定値(DSB) | ||
4.7μH +T-37#2 11T (計5.18μH) |
7pF | 21.1543〜21.2131 MHz 21.1365〜21.2074 MHz |
1000〜3500Hz 1100〜4200Hz |
|||
専用ケース | オリジナル 21.250MHz スーパーVXO |
4.7μH +T-37#2 8T (計4.96μH) |
7pF | 21.1668〜21.2173 MHz | 820〜3200Hz | ←現状設定値(DSB) |
※1:数値が2段あるのは、水晶振動子の基板の取り付け方の違いなどによるものです。微妙なものです。
※2:RIT 可変範囲はボリウムの上下限の差を示します。しかし、例えば 1000Hz だからと言って±500Hz ではなく、上下に差があります。「A〜B」と表示しているAは送信周波数下限のとき、Bは上限のときです。
水晶振動子A(周波数が低いほう=CW 用)の周波数可変範囲は以下の通りです。21.060MHz の水晶振動子はイギリスの Kanga Products から以前購入したものです。
状態 | 水晶振動子 | VXOコイル | C2 | 周波数可変範囲(※1) | RIT 可変範囲(※2) | 備考 |
仮ケーシング (お菓子の缶) |
21.060MHz (Kanga) スーパーVXO |
1μH | 5pF | 21.0513〜21.0593 MHz | 70〜310Hz | |
7pF | 21.0513〜21.0586 MHz 21.0480〜21.0553 MHz 21.0485〜21.0553 MHz |
− 100〜400Hz 60〜400Hz |
− ※3 ※3←2016/5設定値(CW-HIGH) |
|||
T-37#2 18T (1.3μH) |
7pF | 21.0469〜21.0530 MHz | 150〜470Hz | ※3 | ||
1.5μH | 7pF | 21.0481〜21.0554 MHz | 180〜640Hz | |||
1μH +T-37#2 18T (計2.3μH) |
7pF | 21.0315〜21.0501 MHz | 670〜1300Hz | |||
1μH +T-37#2 22T (計2.9μH) |
7pF | 20.9954〜21.0435 MHz | 2100〜2300Hz | ←2016/5設定値(CW-LOW) | ||
2.2μH +1μH (計3.2μH) |
5pF | 21.0198〜21.0485 MHz | 520〜1600Hz | |||
7pF | 21.0184〜21.0469 MHz | 890〜2500Hz | ||||
2.2μH +1.5μH (計3.7μH) |
7pF | 21.0015〜21.0415 MHz | 1300〜3100Hz | |||
専用ケース | 21.060MHz (Kanga) スーパーVXO |
1μH | 7pF | 21.0515〜21.0578 MHz | 80〜520Hz | ※4 |
T-37#2 17T (1.16μH) |
21.0488〜21.0563 MHz | 630〜550Hz | ※4←現状設定値(CW-HIGH) | |||
1μH +T-37#2 22T (計2.9μH) |
21.0169〜21.0477 MHz | 1200〜1900Hz | ||||
2.2μH +1μH (計3.2μH) |
21.0093〜21.0473 MHz | 1400〜2200Hz | ||||
2.2μH +T-37#2 17T (計3.36μH) |
20.9990〜21.0446 MHz | 1800〜2500Hz | ←現状設定値(CW-LOW) |
※1:数値が2、3段あるのは、水晶振動子の基板の取り付け方の違いなどによるものです。微妙なものです。
※2:RIT 可変範囲はボリウムの上下限の差を示します。しかし、例えば 1000Hz だからと言って±500Hz ではなく、上下に差があります。「A〜B」と表示しているAは送信周波数下限のとき、Bは上限のときです。
※3:RIT だけでは CW のピッチ(送受信の周波数の差)が不足するため、リレーを用いて、受信時のみ 0.1μH(T-37#2 5T)が VXO
コイルと直列に追加され、受信周波数が 300〜700Hz ほど下がるようにしました。
※4:※3 と同じなのですが、0.064μH(T-37#2 4T)を用いました。
21.060MHz の水晶振動子の場合、受信と送信とで最大 5kHz 程度周波数がずれる問題が生じましたが、結局、CW-HIGH のとき使うリレーのコイル端子(リレーを制御している回路において、ON-OFF する素子がある側)にパスコンを入れることにより解決しました。
「VXO など浮遊容量に敏感な回路でリレーを使うとき、リレーのコイル端子(リレーを制御している回路において、ON-OFF する素子がある側)にパスコンを入れる」という教訓が得られました。
周波数切替スイッチ(左)と、CW-HIGH の受信時に VXO コイルの L を増加させるリレー(右)
(周波数は、CW-LOW、CW-HIGH、DSB (PHONE))
(リレーの下のセラコンがポイント:無いと送受信で周波数がずれる:本文参照)
その他 VXO関係の改造点、気が付いた点等を示します。
送受信制御・RF出力調整・サイドトーン関係
フルブレークインにしました。と言っても、ダイオード2個で、キーダウン時に送信に切り替わるようにしただけです。
当初、送受の周波数の切り替えが遅い問題があったので見直していました(手動で運用していました)。 ⇒ 受信中に蓄えられた、メイン基板 C10 の電荷が、送信に切り替わったときに放電するのに時間がかかり、VXO基板のリレーがオフになるのが遅れることが原因と推定しました。いくつか対応方法は考えられますが、パターンカット等して
Q2、R5 の前流にダイオード(1N4002G)を入れたところ、切り替えが遅いのが解消しました。
ツインT発振回路によるサイドトーンを追加しました。FCZ 基板に組みました。出力はメイン音量ボリュームの出力側に接続しました。オリジナル回路では、Q22
によって送信時には音が出ないようになっていますが、CW 送信時には Q22 の動きを止め、サイドトーンが聞こえるようにしました。ツインT発振回路は半固定抵抗によって発振周波数が調整できるようにし、700Hz
に合わせました。
送受の周波数の切り替えが遅い対策用ダイオード(左)、サイドトーン回路(右)
(サイドトーン回路の写真の左の半固定抵抗は発振周波数調整、右は音量調整用)
オリジナル回路では CW で RF 出力が 1.6W 出ました(VCC=12V)。フルブレークインやサイドトーンを追加するため、基板の KEY 端子と KEY ジャックの間にダイオード 1S2076A を入れる必要がありましたが、Q13 のエミッタの電圧が上がるため、CW については、ちょうど RF 出力が 1W 程度に減少しました。出力微調整のためダイオードと直列に半固定抵抗も追加していますが、手持ちの関係で 2kΩ にしたら、RF 出力を0まで絞ることができました(0にする必要がない場合は 500Ω くらいが良いと思います)。
DSB 時には、基板の KEY 端子が(前述のダイオードや半固定抵抗を経由せず)モードスイッチ経由でアースされるようにしました。このような接続にすると、KEY ジャックにプラグを挿入したままモードスイッチを DSB にしても出力が出ない問題が解消します。
DSB の RF 出力はマイクゲインで調節します(前述の CW 時の RF 出力減少/調整機能は CW のみです)。私のマイクではマイクゲインを最小(VR7
最大)にしても尖頭電力が 1W 以上出たので、VR7 を 5kΩ に変更しました。
(本機のように改造しない場合、)KEY ジャックにプラグが挿入されていない時、アースされるよう配線する必要がありますが、配線図では分からなく、回路図から読み取る必要がありました。なお、本機は上記のように改造しているため、KEY ジャックにプラグが挿入されていない時、アースされるよう配線していません。
ファイナルの後のフィルタ
L1、L2 を T-37#6 22T (1.5μH)に変更しました。
ファイナルの後のT型フィルタの後に、π型ローパスフィルタを1段追加しました(T-37#6 11T + 150pF ×2)。
JA Pepper 60 ファイナル(左)、1段追加したローパスフィルタ(右)
(ファイナルの左の黄色のトロイダルコイル2個が交換したL1、L2)
ファイナルのアイドリング電流は現在 30mA に設定しています。
CW用オーディオフィルタについて
CW オーディオフィルタとして、π形2段のローパスフィルタを、AFボリウムの直前に入れました。
CW用オーディオフィルタ(左)と4回路に交換したモードスイッチ(右)
(モードスイッチの右の半固定抵抗でDSB モード時の音量を調整して、CW モードと DSB モードの音量を合わせる)
500mH のコイルが入手できたので、入出力インピーダンス 2500Ω、設計周波数 800Hz とし、両端の C=0.082μF、真ん中の 2C=0.15μF としました。
単独の ON-OFF スイッチは設けず、CW モードの場合のみ ON になるようにしました。そのようにするために、モードスイッチは 4回路のものに変更しました。
CW モードと DSB モードの音量を合わせるため、DSBモードの音量調整用に 30kΩ の半固定抵抗を追加しました。
周波数カウンタ出力用アンプ増設
周波数表示に使っている DD-1 からノイズが混入していたので、VXO 基板と周波数カウンタ出力用ジャックの間に、アンプを増設しました。
アンプとしては、キャリブレーション から販売されている「RFプリアンプ」(21MHz)を使用し、リアパネルの裏側に設置しました。
周波数カウンタ出力用アンプとして使用した、キャリブレーションの RF プリアンプ(左)と、その設置状況(右)
(レベル調整用に、出力端子に 100Ω の半固定抵抗を入れている)
設置前に一応効果があることを確認したのですが、実際の効果は、使ってからレポートしたいと思います。
その他改造点等
シャックの電源は 13.5〜13.8V なので、低ドロップ型の三端子レギュレータ(μPC2412AHF)で 12V に落としました(専用ケースに「DC 12V」と印刷されていたので、「DC 13〜14V」に文字修正しました)。
低ドロップ型の三端子レギュレータを用いた電源部(左)とオルゴール基板(右)
オルゴールの電源は、説明書では外部電源からではなくボタン電池からとなっていました。3.3V の三端子レギュレータから供給することも考えましたが、結局ボタン電池からとしました(外部電源がなくても音がします)。
その他改造点、気が付いた点等を示します(VXO関係以外)。
交信状況など
交信回数は 81 回になりました。日本各地に加え、以下の国・地域と交信できました(2018/7/16 現在、大陸別、交信順)。
無印は CW、(*) は DSB での交信実績です。
Oceania | Asia | North America | Europe | South America |
East Malaysia Hawaii Guam Indonesia Australia Mariana Is. Palau(*) Philippines |
Thailand Asiatic Russia China Hong Kong Taiwan |
United States of America | - | - |
21MHz CW 1W の 交信実績は QP-21R が豊富なので、そちらもご覧ください。
ハムフェア2017での展示
2017/9/2〜3 に開催されたハムフェア2017 の JARL QRP CLUB ブースで実物を展示しました。
ブースにお越しいただいたみなさま、ありがとうございました。
ハムフェア2017 の JARL QRP CLUB ブースで展示した、430MHz FM トランシーバ(左)と JA Pepper 60 (右)
(いずれも中が見えるよう、上部と左右をアクリル板(厚さ 2mm)にしている)
北海道ハムフェア2017での展示
2017/9/23〜24 に札幌市で開催された北海道ハムフェア2017 の JARL QRP CLUB ブースで実物を展示しました。
ブースにお越しいただいたみなさま、ありがとうございました。
北海道ハムフェア2017 の JARL QRP CLUB ブースで展示した JA Pepper 60
(中が見えるよう、上部と左右をアクリル板(厚さ 2mm)にしている)
関西アマチュア無線フェスティバル (KANHAM 2018) での展示
2018/7/14〜15 に開催された関西アマチュア無線フェスティバル (KANHAM 2018) の JARL QRP CLUB ブースで実物を展示しました。
今回は電源が確保できたので、アンテナを設置し、受信に加え、交信もしました。
ブースにお越しいただいたみなさま、ありがとうございました。
関西アマチュア無線フェスティバル (KANHAM 2018) の JARL QRP CLUB ブースで展示した、JA Pepper 60
(中が見えるよう、上部と左右をアクリル板(厚さ 2mm)にしている)
写真右の配布資料はこちら(PDF)。
hamlife.jp にも掲載して頂きました。
関連リンク
製作にあたり、参考にさせていただきました。ありがとうございました。
2016年5〜7月の仮ケーシングの写真、および、到着したての専用ケースの写真を、「JA Pepper 60 の過去画像」に掲載しています(再掲)。
JA Pepper 60 の過去画像 |
Copyright (C) 2016-2019 by MATSUMOTO Koichi, JN3DMJ