Traditional Folk Music



南イタリア - 1(代表的グループ)


 

 

Nuova Compagnia Di Canto Popolare

 南イタリアの伝統音楽の復興を目指して結成された、現在も活動を続けているナポリ出身のグループ。イタリアに於けるトラッド・グループの中で最も重要なバンドのひとつと言えよう。70~80年代初めにかけて発表された作品は、タランテッラやナポレターナをはじめ南イタリアの伝統的な民謡を収録し、若い世代にも古き良きトラッドを知らしめたという功績は大きい。その後10年近くはアルバム制作もされない期間があったものの、90年代にはオリジナル曲中心としたコンテンポラリー・トラッドのグループとして復活し、素晴らしくクオリティの高い作品を発表している。

Medina

Tzigari

Li Sarracini Adorano Lu Sole

 90年代以降では各アルバムどれも甲乙つけがたいが、「Medina」と「Tzigari」の2枚をN.C.C.P.の代表作としてだけでなく、イタリアン・コンテンポラリー・トラッドの名盤として推薦したい。初期の作品はどのアルバムも民謡曲集として粒揃いだが、作品的にもこなれてきた感のある70年代中期の「Li Sarracini Adorano Lu Sole」あたりをお勧めとしておこう。



NCCP- Giovanni Mauriello e Fausta Vetere in "Tzigari"
95年発表の「Tzigari」からタイトル曲。ジョヴァンニ・マウリエッロとファウスタ・ヴェテーレの掛け合いがすばらしい。

 

 

Musicanova

 N.C.C.P.のオリジナル・メンバーとして活躍したEugenio BennatoとCarlo D'angioが中心となり、70年代半ばに結成されたグループ。タランテッラなどの南イタリアの伝統音楽を基本としているが、アレンジや演奏、アルバムコンセプト面においてN.C.C.P.よりも更にアーティスティックな傾向が強く感じられる。最終アルバムではポップスに歩み寄った凡庸な作品を残して解散という残念な結果になってしまったが、Eugenio Bennatoの足跡を追っていくなかで避けては通れない重要なグループである。

Musicanova

Quanno Turnammo a Nascere

 一般的にMusicanovaというと、特に出来の良い2ndアルバム「Musicanova」が彼らの代表作であろうが、次の3rdアルバム「Quanno Turnammo a Nascere」も良作である。



pizzica minore - musicanova eugenio bennato
かなり後期だと思われるライブ映像から、彼らの代表曲「Pizzica Minore」。

 

 

Eugenio Bennato

 前述のN.C.C.P.~Musicanovaの中心的人物であるEugenio Bennatoは、Musicanova解散後はソロ活動に移行した。当初の80年代はポップス調のカンタゥトーレ的な作品に留まっているが、90年代半ばからは自身のルーツ・ミュージックとしての伝統音楽に再び目を向け直し、汎地中海音楽と現代的なポップ感覚を融合させた作品をリリースすることになる。これがタランタ・パワーという作品であり、ひとつのアルバム制作だけに留まらず、タランテッラや地中海周辺地域の伝統音楽をアピールするべく、同名のプロジェクトを立ち上げてトラッド系ミュージシャンの発掘・育成にも力を注いでいる。

Mille e Una Notte Fà

Taranta Power

Che Il Mediterraneo Sia

 Eugenio Bennatoといえばタランタ・パワーと言う事で、超ハイセンスな現代版タランテッラを堪能できる「Taranta Power」と「Che Il Mediterraneo Sia」の2作品が彼の代名詞であろう。それ以前の作品としては、微かなトラッド的エッセンスを絶妙にブレンドしたカンタゥトーレ作品である「Mille e Una Notte Fà」が、個人的には大好きなアルバムである。



Eugenio Bennato - Riturnella - live @ Alpheus
細かいカット割りやストップ・モーションなどのビジュアル・エフェクトの効果と相まって、とんでもなくお洒落なサウンドのPVだ。

 

 

Enzo Avitabile

 Enzo Avitabileはナポリ生まれのボーカリスト兼サックス奏者。ジャズ/ポップス/ロック/トラッドなど幅広い活動経歴をもつミュージシャンであり、80年代からアルバムを発表しているが、当初はポップスやロック調のカンタゥトーレ的な作品が多かったようだ。90年代以降の作品では、タランテッラやピッツィカに代表される南部イタリアの伝統音楽のみならず、ナポレターナと呼ばれるナポリ民謡、コルシカ民謡、ボッタリというワイン樽などの木製パーカッションによる南イタリアのリズム、汎地中海的な意味合いでの北部アフリカやアラブ音楽への接近など、アルバム毎に様々な音楽要素を取り入れている。当然ジャズ/ポップス/ロックといった現代的な音楽イディオムも持ち合わせた人なのでミクスチャー的な視点でも興味深く、それでいてアルバム毎に趣向は違うものの、地中海音楽に根差したサウンドという統一感がある作品が多い。ダニエレ・セペほどのごった煮感は少ないので、地中海系トラッドに興味のある人にはお勧めの人材かもしれない。プログレ/トラッド関係では、古くは70年代にチッタ・フロンターレの「El Tor」やMusicanovaの「Briganti se more」に参加しており、90年代の再結成Osannaのライブアルバムにクレジットされている。

Salvamm'o munno

Sacro Sud

Napoletana

 「Salvamm'o munno」はEnzo Avitabile & Bottari名義での作品で、ゲストとしてカメルーン・スーダン・チュニジア・エジプト・パレスチナのミュージシャンが参加している。南イタリアの伝統的なリズムとアラブ文化圏である北部アフリカの音楽と掛け合わせで、土着的かつ躍動感あふれるリズミックなサウンドに仕上がっている。第三世界的な色合いからか、ワールド・ミュージック系のサイトでは彼の代表作として紹介されることが多いようだ。「Sacro Sud」は南イタリアの民謡を洗練された現代的なタッチで蘇らせた作品で、丁寧に作られたサウンドに乗せて歌われる古いメロディーが心に沁みわたる。「Napoletana」はその名もずばりナポリ民謡集。カンツォーネ・ナポレターナとはプロの作詞家・作曲家によって作られた商業用の大衆歌謡曲であり、いわゆるナポリ語で歌われる流行歌のこと。イタリアン・ロックのメロディアスな部分の一つがこういう音楽から来ているのかなと思わせる、人懐っこいメロディが堪能できる。



Bottari di Portico Enzo Avitabile & Manu Dibango (PRIMO MAGGIO 2008)
i Bottariの叩き出すトライバルかつダンサブルなリズムが心地よい。

 

 

Ambrogio Sparagna

 Ambrogio Sparagnaはイタリアのトラッド界を代表するアコーディオン奏者のひとりである。 出身こそローマであるが、南イタリアのタランテッラを中心とした伝統的な民謡を得意とし、1977年のデビュー以来息の長い活動を続けている。 彼の音楽は古来からの伝統音楽に根差した純粋なトラッドの再現が基本であり、アコーディオン特有の哀愁漂う音色と、南イタリアの軽やかで明るい伝統的な民謡が心地好い作品が多い。自身で歌う事もあり、ボーカリストとしての才能もなかなかのものだ。

La via dei Romei

Vorrei ballare

Ambrogio Sparagna

 伝統音楽に忠実なこともあり、それぞれの作品はトラッドの小曲集という趣きが強いかもしれない。しかしながら、イタリアン・ロックやポップスの歌モノにぞっこんの方々にこそ聴いていただきたい。それらの人懐っこく流麗な歌メロの源流は、こういった伝統的な音楽から面々と受け継がれてきているのだと実感できるだろう。



Ambrogio Sparagna - Taranta d'Amore (versione live Voce-Organetto 8-01-2010)
弾き語りアコーディオン奏者というのも珍しいかも。しかも中々のイケメン。

 

 

Teresa De Sio

 Musicanovaの元メンバーであり、マウロ・パガーニの1stソロ「地中海の伝説」への参加でプログレ界隈でも知名度が高い女性ボーカリスト。しかし一般的には、70年代後半から90年代にかけてのカンタゥトリーチェとしての数多いソロ・アルバムが、彼女のキャリアの大部分を占めるのだろう。中にはトラッド曲を歌っているものもあるが、アルバムの多くはポップスの範疇にある作品が大半である。Musicanova脱退後の2作品はトラッド要素の強いアルバムだったが、その後の20年間はポピュラー音楽界でカンタゥトリーチェとしての地歩を固めたと言えるだろう。

A Sud ! A Sud !

Sacco e Fuoco

 90年代の終わりというと、イタリアでのルーツ・ミュージック復興の動きが活発になりだした頃合いであり、その外的要因が影響しているのか否かは想像の域に留まるが、90年代末のライブ盤を発表した頃から彼女もトラッドへの回帰が著しくなった。そして2000年代になって発表された「A Sud ! A Sud !」「Sacco e Fuoco」はトラッド要素満載のアルバムとなった。この2つのアルバムの出来は素晴らしく、時に地中海を吹きわたる風の様な優しい歌声に酔いつつも、時に巻き舌で扇動的に歌うドスの効いた灰汁の強い歌声に圧倒されてしまう。変幻自在の女性ボーカリストだ。



TERESA DE SIO & RAIZ - TAMMURRIATA NERA
エレクトリックな演奏と迫力のあるボーカルが相まって、イタリア民謡の「Tammurriata Nera」がほとんどロックと化している。