8月 噴水や今月で退く縦社会
秋立つや雲一片に動きあり
指先に思い託して盆踊り
かなかなの声津々と奥の院

7月 「暑おすなぁ」暑さ感じぬ京言葉
一村は白夜のごとし薯の花
夏料理ここは貴船の水の上
夏やかた昭和の風を織り交ぜて

6月 紫陽花の藍を極めて雨しとど
花茣蓙を出してうたた寝癖になり
梅雨晴れや臨時物干し竿二本
明け易し短編映画のような夢

5月 後継者減る一方や青田風
隋道を抜けて緑の風を着る
朱の橋をくぐりて伸びる若楓
新緑や木魚の音のテンポよし
早苗田を二枚またぎの丹波富士
4月 春障子声しなやかに尼の経
早々と食事切り上げ浮かれ猫
山の香をこぼして木々の芽吹きけり
おおかたは降車して行く花の駅

3月 畦を焼く昭和一桁出揃いて
長編を読破しており春の風邪
嵯峨野路やおばんざい屋の木の芽の香
畦焼きや村を丸ごと煙らせて
梅日和クレーンのごとき象の鼻
2月 行き先は鼻に任せて梅を訪う
水音の整い初(そ)めて春の川
舞い降りて肩に未練の戻り雪
如月や竹割る音の響く里
1月   天守閣まくらに濠の浮寝鳥
訪うことも訪わるるもなし寝正月
初鴉常なる声に張り添えて
砥ぎ師より見事に研いで軒つらら

    

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