2007年の俳句             

1月 老いの背の 増して丸きや 日向ぼこ
いざ山へ プロの目となる 狩の犬
猟師来て 沼の静寂 破らるる
朽ちるまで 互い見(まみ)えず 寒牡丹
2月 胸中の 暗鬼に向けて 『鬼は外』
穴釣や 無言男の 五、六人
おさな児と 飛び石数ふ 梅の宮
黙々と 鎌研ぐ農夫 二月尽
番屋の灯 消えて幾年 野水仙
そぞろ出て 一句思案の 梅見茶屋
3月 椿敷く 小径の先に 晶子歌碑
ふらここを 漕いで振り切る 迷いかな
菜の花に 手招きされて 回り道
名所へと 一路風切る 花見バス
4月 初孫の 三歩あゆみて 仏生会
留守番を 余儀なくされし 春の風邪
史に残る 合戦の山 花吹雪
一通の 誤配郵便 春うらら
5月 美しき 五月の水の ほとばしる
緑縫い 走る電車の ローカル線
詮無きは 忘るがよろし シャガの花
大将は 居るや居らずや 蝌蚪の国
6月 新緑の トンネル続く 峡の里
カタツムリ 数ミリ進み 雨三日
さ緑の カーテンさやぐ 狭庭かな
雨上がり かぼちゃの花が 砂を這う
7月 くちなしの 香も参列や 葬の庭
白球を 磨く少年 梅雨さなか
峡に住む 自慢のひとつ 河鹿笛
諍いの 気まずさ抜けて 梅雨を出る
梅雨空の 明けぬ世もなし 一休み
8月 先頭に 背かず歩む 蟻の列
茄子漬けの 何より勝る 夕餉かな
老鶯(ろうおう)の もてなし受ける 谷の宿
白球に ドラマを込めて 夏終わる
9月 鶏頭花 峡の住まいに 色添える
けもの道 なお狭めおり 萩の花
積ん読の 書庫に風入れ 獺祭忌
しんがりの 茶屋たたまれて 秋の浜
10月 髪切って 首に秋風 巻いており
飛鳥路や 栄華の跡の すすき原
峰競う 飛騨の山並み 水澄めり
晩学の 遅々たる歩み 夜長の灯
花街の 三味の音拾う 秋の宵
11月 一村の 暮れ仄白き 蕎麦の花
きのこ狩り 百科事典と 睨めっこ
背くこと ひとつ覚えて 戻り花
秀吉も ねねもまぼろし 返り花
戦国の 姫を担いで 菊仕舞い
12月 初顔も やがて同志の おでん酒
朽木椅子 座りよろしく 里小春
朝市や 火鉢離れぬ 客ばかり
極月や 無常に届く 喪中の書