2009年の俳句                         

1月 媚びぬ猫 むりやり抱いて 冬篭り
朝市や 訛(なま)る売り女(め)の 股火鉢
寝ては覚め 曜日分からぬ 三が日
おでん酒 昔話の リフレイン
一計の 出ぬ聞き役の 懐手
屏風絵の 虎と目の合う 初詣
寂寞(せきばく)と 響く樹林の しづり雪
2月 生者みな 鬼を潜めて 鬼やらひ
寒紅を ひいて厨(くりや)の 枠を出る
秒針音 しじまに響く 凍夜かな
山陰の列車 ゆきぐも 曳(ひ)いてくる
饒舌の をみな(おんな)黙して 松葉蟹
越前の 風に生(あ)れしよ 波の花
3月 ふるまいの お薄飲み干す 梅見茶屋
はんなりと 都の路地に 春兆す
うすらひを 割って治める 腹の虫
梅林を 濡らしきらずに 通り雨
春しぐれ 傘も一興 京の町
4月 うららかや 青空市に 昭和あり
往く人の 影かろやかに 春障子
浮雲の 二つ三つあり 芽木の空
一村を 丸呑みにして 大霞
春愁や 吐(つ)かねばならぬ 嘘もある
4月bQ 第二部の 夢もつぶさに 大朝寝
乾く暇 なき寺柄杓 さくら時
戯言(たわごと)は 本音半分 花菜風
古刹より 古刹へ続く 花篝(はなかがり)
春光や 生きとし生ける ものに注(さ)す
5月 結界を 越えて寺苑の 若楓
葉擦れ音 響かせ宮に 初夏の風
藤棚の 下に翁の 詰将棋 
鼻歌は 昭和なりけり 聖五月
夏はじめ 少年野球の 声高し
6月 いま七堂伽藍は雨の 七変化
文明の 道の割れ目に 草の息
山里の 雲の白さよ 梅雨晴れ間
夏帽のぴくりともせず太公望
低空の 燕を避けて 低速車
7月 時計見る また時計見る 熱帯夜
十薬の 花庭隅の 豆ランプ
くちなしの 香りを畳む 豪雨かな
峡(かい)暮らし 涼気枕の 小半時
8月 採り残す葉陰の茄子のメタボかな
アルプスの水滾々(とうとう)と原爆忌
かがり火の揺れも佳境の鵜飼舟
言いたきを飲んで突き出す心太(ところてん)
聖堂の鐘高らかに原爆忌
9月 秋月を半分こして二軒路地
故郷を一望にして墓洗う
萩の風心そぞろに吹きにけり
暮れ方をより金色(こんじき)に花薄
10月 町騒を消して台風突っ走る
秋の川つかず離れず雑魚の群れ
詩心の生(あ)れては消える秋の夜半
急行の停まらぬ駅舎花野風
11月 かりそめの世にかりそめの返り花
白壁を掻きむしるかに蔦紅葉
届きたる喪の書一枚秋深む
篤姫や江戸も薩摩も菊日和
12月 冬うらら六万石の城下町
底冷えの鴨川べりに七味買う
裸木となりて己を主張する
風花や一字消されて宅配便