2006年の俳句                  

1月 鳥翔ちて 松葉模様の 雪の庭
凍て付きし 手拭い揺れる観音堂
2月 如月の 雨に煙りし 里の山
梅見月 絵馬の花咲く 天満宮
頑丈な つらら昼には 痩せ細る
薄氷(うすらい)や 風に揺られて万華鏡
春霖(しゅんりん)や 鈍く響いて 寺の鐘
牡丹雪 まばたきほどの命かな
3月 参道の つばき深紅に 日が沈む
春昼や 猫と並びて 大あくび
啓蟄と 聞けば小石も虫に見え
合わす手を 撫でる風あり 彼岸かな
居座れぬ 季節暴れる 雪の果
4月 昨日より 今日ぞとばかり 水草生う
初蝶に ようこそと目で ものを言い
涙して その場を濁す 花粉症
藪影に 色褪せぬまま 椿落つ
そびらにも 緊張走る 新入生
5月 薫風や しなやかな幹 駆け抜ける
廃屋に 勿忘草の いろ淋し
山里に 青き香りや 茶摘み時
紅ひいて 癖毛をなおす 五月闇
狛犬の 頬をくすぐる 若楓
6月 燕の子 園児の列へ 初飛行
田いちめん 渡る風あり 五月尽
花栗を 駆けて少女は 思春期へ
花菖蒲 雨の一村 濃し色や
花栗の 覆いたる道 足早に
7月 モザイクの町 噴水の向こう側
短夜に 夢の半分 吸い込まれ
水無月や 橋の袂に 石ひとつ
円陣を 組んで噴水 天を突く
夏座敷 竹の隙間に 山ひとつ
8月 渓流や 背骨に沁みる 涼しさよ
かなかなの声九十九折れ 山暮るる
本堂へ 首傾けて 池の蓮
夏の昼 いきなり休む 古時計
夕餉の香 路地に漂う 青すだれ
ちりちりと 海原焦がし 夏没日
揚げ花火 果てて奈落の 闇となる
9月 ひと扇ぎ 程よき風の 秋団扇
指先を 闇に返して 風の盆
水澄みて ふるさと遠し ダムの底
目の合うて 背な向く雑魚や 水澄めり
10月 ローカル線 ひと駅ごとの 虫時雨
秋高し 小刻みに舞う 竿のシャツ
踏み岐(わか)れ 人気(ひとけ)あるらし 萩の道
塀乗り越えて 尼寺の石榴(ざくろ)笑む
数ミリの ひつじ穂揺れて 里暮るる
夕日浴び 一人舞台の 捨案山子
鈴の音や ただ鈴の音の 秋遍路
11月 里山の 見えつ隠れつ 柿すだれ
紅葉山 背にも目の欲し 飛騨盆地
落人の 墓を潜めて 谷紅葉
夕光に 負けじと群れる 赤とんぼ
古都の柿 熟れて栄華の 灯の如し
菊うらら 嵯峨野の寺に 長し列
12月 観世音 おはす目の先 石蕗の花
結界へ 煙ひと筋 落ち葉炊き
禁猟の 堀にひねもす 浮寝鳥
一僧の声 朗々と 冬日和