コラム

日本の四季を化学する−第6回 七五三の化学−

11月になったというのに地球温暖化の影響か,暖かい日が続いています。11月といえば七五三。神社では晴れ着を着た子供たちとその成長ぶりに目を細める両親たちの姿をよく見かけます。ということで,今月のコラムは七五三をテーマにしましょう。

1)七五三の行事

七五三は男の子は3歳と5歳,女の子は3歳と7歳の年の11月15日に,神社に詣でて成長を祝う年中行事です。現在はお祭り的な要素が強くなってきているが,医療技術が発展していなかった時代には幼児の死亡率か非常に高かったため,成長の節目節目に神々に子供の成長を感謝し,今後の元気な成長を祈願したのです。

旧暦の11月15日は中国思想の「二十八宿」の「鬼宿」にあたり,婚礼を除いてはすべてのことにおいて吉である日とされていました。この「二十八宿」とは天の赤道帯を28に区分して,その基準となる星座を暦に当てはめて吉凶を占う中国の古代天文学・占星術の考え方で(「宿」は星座を意味します),お釈迦様が生まれたのが「鬼宿」の日でであったため,大変おめでたい日とされています。また11月は収穫期でもあり自然の恵みを神に感謝するのと同時に,子供のそれまでの成長を感謝したのでした。

七五三のおみやげ
袋の中身 神社でくばっている七五三のおみやげ(上)とその袋の中身(下)

2)七五三といえば千歳飴

七五三といえば千歳飴ですね。千歳飴は長寿の願いを込めて細長くつくた紅白の飴で,江戸期の元禄のころに浅草の飴屋が細長い飴を鶴や亀が描かれた細長い袋に入れて売り出したのが最初といわれています。水飴と佐藤を材料として煮詰めたものを冷却し,ある程度硬化したところで引き伸ばしては重ねあわせるという作業を続けて空気を入れることにより,全体が白く見えるようになります。七五三には必ず千歳飴の細長い袋をさげて写真を撮る風景が見られましたが,最近では特に都市部では千歳飴はおまけ程度でそれ以外に風船や折り紙などのおもちゃが入ったものが配られることが多いようです。

3)数字と吉凶

中国では古来より奇数は聖数とされています。これは五行説(以前,本コラムでも解説しましたので,詳しくはそちらをご覧下さい。)に基づくもので,「七福神」,「七草」,桃の節句(3月3日),端午の節句(5月5日)(「節句」に関してはコラム4「日本の四季を化学する−第2回七夕の化学−」もどうぞ)など日本でもその考え方が大きく影響ています。

ただし,日本では偶数は割り"切れる"ために縁起が悪いという考え方で浸透していますが,「9」は「苦」に,「4」は「死」に通じるとのことで嫌われたり,逆に「8(八)」は"末広がり"であるため縁起がよいとされ,言葉遊び的に吉凶を判断することがあります。また西洋ではキリストと弟子の数をあわせると「13」になり,キリストが処刑されたのが"13日の金曜日"であったという説などから「13」は凶運の数字とされています。

4)化学と数字(ここからやっと化学のお話)

ここから化学と数字に関する話題をいくつかご紹介しましょう。化学という分野が自然科学の一分野である以上,化学の世界でも数字は重要な意味をもっています。元素の性質を表すものとして原子番号(原子中の電子または原子核中の陽子の数),質量数(原子番号に原子核中の中性子の数を足したもの),原子量(炭素原子の重さを12としたときのその原子の重さを相対的に表した数字)などがあったり,化学物質の分子構造を表現するために物質名に使ったりと欠かすことはできません。

i)ギリシャ数詞
 化学で用いられる数字が天文学や数学の世界と異なる点は,1,2,3,4,5・・・といった算用数字以外にもギリシャ数詞が非常に多く用いられことです。次表に化学で用いられるギリシャ数詞を示します。実はこれらの言葉は日常生活の中にも使われているものが数多くあり,誰もが知らず知らずのうちに使っています。

ギリシャ数詞とその例
数詞参考
1 モノ(mono) モノトーン,モノクローム,モノレール
(ラテン語ではuni[ユニ]:ユニコーン,ユニット)
2 ジ(di) (ダイ)ダイオキシン,ダイアログ
(ラテン語ではbi[バイ]:バイリンガル,バイシクル)
3 トリ(tri) トリオ,トリプル,トライアングル,トライアスロン
4 テトラ(tetra) テトラパック(牛乳の紙容器),テトラポッド(四脚の波消しブロック)
5 ペンタ(penta) ペンタゴン(五角形。米国防総省の通称名)
6 ヘキサ(hexa) ヘキサゴン(六角形。クイズ番組のタイトルでもおなじみ)
7 ヘプタ(hepta) ヘプダゴン(七角形)
8 オクタ(octa) オクターブ,オクトパス,オクタン価
9 ノナ(nona) ノナゴン(九角形)
10 デカ(deca) デカスロン(十種競技),デカメロン(ボッカチオの物語文学「十日物語」)
100 ヘクト(hect) ヘクタール(土地面積の単位),ヘクトパスカル(圧力の単位。天気予報の気圧の単位でもおなじみ。)
オリゴ(oligo) オリゴ糖,オリゴペプチド
ポリ(poly) ポリエチレン,ポリスチレン

ii)元素の周期律
 元素をその原子量の順番に並べた表を元素周期表といいます。元素周期表を眺めると縦の列に並んだ元素は非常に性質が似通っています。これを元素の周期律といい,1869年から1871年にかけてロシアの化学者であるメンデレーエフ(D.I.Mendeleev)によって発表されました。当時はまだ発見されていない元素が多々存在していましたが,メンデレーエフは元素の周期律を逆手に取り,未発見の元素を場所をわざと空欄として残すことにより,未発見の元素の性質を予測したのでした。メンデレーエフは最初に発表した周期表においてほう素,アルミニウム,けい素の隣接する空欄の元素をエカほう素,エカアルミニウム,エカけい素と名づけ,その未知の元素の性質は後に発見されたスカンジウム,ガリウム,ゲルマニウムの性質とよく一致したことは有名です。

Oddo-Harkins則のモデル 宇宙における元素の相対的存在度を表すグラフ(モデル図)

iii)化学の偶数と奇数
 先ほど文化の違いによる偶数と奇数の吉凶のとらえ方についてふれましたが,化学の世界でも偶数と奇数に分けて考えられる法則があります。Oddo(1914)とHarkins(1917)が独立に発見した元素の存在度に関する規則性である「Oddo-Harkins(オド-ハーキンス)則」がそれです。この法則は偶数番号の原子番号をもつ元素の存在度が隣り合った奇数原子番号の元素の存在度よりも大きいというものです。横軸に原子番号,縦軸にけい素の宇宙における存在度を106としたときの相対的存在比をとって図にすると,原子番号の大きな元素ほど存在度は小さくなるので右下がりの曲線になりますが,細かく見ると小さく上下を繰り返し,ノコギリの歯のようなギザギザが見られます。この傾向は宇宙における元素の存在度に見られるということは,地球上に存在する元素の存在度にも見られ,特に地殻中の希土類元素(Sc,Y,ランタノイド[La〜Lu])の存在度はこの規則性によく一致することで知られています。

※参考文献

1)Webサイト「こよみのページ−暦と天文の雑学−」
    http://koyomi8.com/reki_doc/doc_0745.htm

2)「地球化学入門」半谷高久ほか著,丸善(1988).

3)「化学の法則45話」北原文雄,竹内敬人著,講談社(1993).

4)「ブルーバックス 元素111の新知識」桜井 弘編,講談社(2003).

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