
5V固定出力の三端子レギュレーターが多量に手元に残っている。使い道が限られると思い込んでいたが
色々の使い方がある。昔の花形ICに再び陽の目を当てさせて見た。
[基本型] AC/DCアダプターを安定化電源に
AC100VからDCに変換するアダプターがごろごろしている。この種の電源は一般に整流機能だけを持ち、
セット本体と組合せて動作させる物が多い。
セット本体が捨てられても何故かアダプターだけは残され、いつしかガラクタの仲間入りしてしまう。今回、このようなアダプターの中で分解し易いものを選び、
5Vの安定化電源に変身させた。基本的な三端子レギュレーターの使い方であり、ちょっとした工夫も加えたので手軽に実験に使え重宝している。
以下に変身過程を紹介する。
改造するACアダプター

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写真が今回改造したアダプターである。大きさは65(l)×45(w)×40(h)で、ケースの上下がネジ止めの構造となっている
(内部を取り出すのが簡単なので選んだ)。一般にケースの上下は超音波熱溶着されている。
このような物の場合には強引に溶着箇所に切れ目を入れて分割をせねばならないが、内部部品に傷をつけないよう注意し、
元に戻す時の接着シロを工夫して残すようにすべきである。
電源の使用目的は実験に手軽に使う事にある。ところが最近、目が悪くなり半田付けや細かい組み立て作業時にブリッジやショートを見落とす場合が多い。
あるいは実験途中に電源系をショートさせてしまい不動作になる事がままある。
三端子レギュレーターには短絡保護回路が内蔵されているのでダメージを与えることは少ないが、ショートに気づくのに時間がかかるのが癪の種だ。
ショートした事を目に報せる方法もあるが、耳に伝える方法、即ち警報音を発するのがベストだと常々考えていた。
そこで負荷ショート時には警報音を発する機能を追加することにした。
改造の実際
回路図と使用部品

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今回の改造では電源トランス(2次電圧7V)とケースだけを活用し、その他の部品は手持ちの部品を使うことにした。
いずれの部品もジャンク基板から部品取りしたものである。従って部品仕様の詳細を記載出来ないが、回路図を示しておくので推察して貰いたい。
アダプターがON状態でリレーには電流が流れ続けるが50mA程度なので気にするほどではなさそうだ。若しそれを嫌うならトランジスタ回路に置換えれば良いが、
限られたスペースに配置しなければならないから実装は複雑になろう。
短絡警報を発する電源内部

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全部品を組み立て接続した状態の写真を左に示す。IC(AN7805 松下製)には放熱板も取り付け多少の負荷には耐えられるよう配慮した。
ブザーはアダプターケースに密封された格好になるが音圧は十分とれたのであえて空気抜穴は設け無かった。
出力電圧は4.92Vとやや低めであるがICのスペックでは許容範囲である。(若しそれが不満なら0.6V単位で簡単に電圧を高める方法がある。
詳しくは次回掲載予定の電圧ブースト1を参照されたい)。
改造品を実際に使ってみた。負荷電流500mAで電圧が4Vに低下する。これは電源トランスの2次電圧が7Vと低いことと巻き線抵抗が高いためによるが、
大電流で使う目的ではないので想定内である。ICの最大定格電流の出力を望むなら、それに見合った電源トランスを選ばなければならない。
改造前に実験で確認することを推奨するが発熱の問題も残るので余り欲張らない方が賢明である。
本電源の出力端子はミノムシクリップとした。実験する側に電源用のPINを立てそれをクワエる使い方をしている。
ちょっと乱暴だが電源が来ているかどうかチェックのためクリップをショートさせ、ブザー音で確認が取れるから目的外の効果も発揮している。
このように意外と使い勝手が良く、簡単な実験には十分使えるので、手持ちのアダプターに陽の目をあてさせてはいかがですか!(06/01/18完)
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[電圧ブースト1]
5Vレギュレータで6Xを出力
シーラカンス工房は原理原則を重視する。固定電圧の3端子レギュレーターを使うにしても動作原理をわきまえて使えば色々と応用が可能なのだ。
3端子レギュレーターは入力端子と出力端子の間にトランジスターが直列に接続され、共通端子と出力端子の間の電圧が定めた値になるよう制御される。
制御回路に流れる電流[回路動作電流]はおおよそ3−5mA程度で、入力電圧が変化してもこの値はそれほど変化しない。
(詳しくは3端子レギュレータの規格参照されたい。
・東芝
・NEC
の社名ををクリックするとデータシートを見ることが出来ます。更にNECのユーザーズマニュアル
「3端子レギュレーターの使い方」を参照してください)
電圧ブーストの基本

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この様な性質からIcの共通端子とマイナスラインとの間に電圧(Va)を与えれば、
マイナスラインと出力端子間で得られる電圧は与えた電圧(Va)分がかさ上げされる(右図参照)。
この電圧(Va)の与え方に色々の方法があり、シーラカンスも固定観念から開放されたのだ。その幾つかを紹介する。
工房にICF-7600DなるSONY製のポータブルラジオがある。 マイコンが不良となり騙し騙し使っている代物だが電源には直流の6Xが必要だ。
5Vでも十分動作するものの定格電圧で使いたいと言うのが人情だ。そこで12Vの電池パックから5V出力の3端子レギュレータを使って6Vに変換し使う事にした。
Ni−Cd電池の保存にはFULL充電された状態より空に近い方が良いらしので、目下せっせと電池パックの放電中だ。
どうせならラジオを動作させエネルギーの有効活用を計ろうと思って製作する事にした。
6V出力の実施例(左:ダイオード 右:抵抗)

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左の回路図が6Vの出力を得る実例である。電圧を「かさあげ」する方法にダイオードの順方向電圧(約0.6V)を利用した。
ダイオードを2個直列に接続する事により1.3Vブースト(=「かさあげ」)され出力電圧6.2Vを得ている。なお使った3端子レギュレーターの出力電圧は4.9V、
回路動作電流は4.4mAであった。
ダイオードの順方向電圧は温度特性を持つのでそれを嫌うなら抵抗による「かさあげ」も可能である。右図がその例である。
Rajの両端に発生する電圧は Va=Raj×(Ib+IL) である。
Raj=220,Ib=4.4mA,IL=0.49mAとするとVa=1.08Vと計算される。従って出力電圧は
Vout=4.9+1.08=5.98Vが得られる。かくして目標の電圧を得る事が出来た。現物の写真を下に掲載しておく。
メデタシメデタシ!(06/02/01完)
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[電圧ブースト2] 可変電圧ブースト電源
単三電池が6本、9Vの電源電圧で動作する機器の修理を頼まれた。ところが9VのDC電源が無い。
乾電池を買い求めるのも癪なので12VDC電源をシリースレギュレータで9Vまで落とし使うことにした。
[電圧ブースト1]と同様に固定出力の電源にしても良いのだが、
どうせ作るならブースト電圧を可変にし応用範囲の広い汎用性のある実験用電源とする事を狙った。
可変電圧ブースト電源
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ブースト電圧を可変する方法は色々有る。その中で今回はトランジスタを使ってみた。オペアンプでも良いのだが、
トランジスタの方が簡単に製作できるからである。回路図は左に示した如く相変わらずシンプルだ。使用部品も下左の写真の様にわずかで済む。
汎用性を持たせる意味で入出力間および出力とアース間にダイオードを接続し、異常な電圧が加わった場合のレギュレータICの保護を計った。
極性を間違えて接続したり、電圧のかかっている回路に接続しレギュレーターをお釈迦にした事は過去何度もある。その対策としてダイオード2個を追加したのだ。
この回路ではトランジスタのVbeが温度特性を持つ欠点がある。しかしそれを気にするほどの使い方ではないので無視することにした。
(それを嫌うなら回避する方法はある。次の可変電源で実例を示す予定)
製作は既に作った物と同じように20×38mmの基板に部品を載せ、入出力はリード線とした。12V電源のアダプター的イメージに仕上がった。
出力電圧は電圧をモニターしながら半固定抵抗を回転させ所定値にあわせる。調整できる範囲は(5V+Vbe=5.6V)から(入力電圧-2V)となる。但し、
入力電圧はICの耐圧で制限を受けるので注意が必要となる。(今回の実施例は12VDC電源に接続するので全く気にする必要はなかった。)
下に使用部品・部品搭載後の基板・全体のイメージの写真を掲げておく。全体を収縮チューブとか適当な容器に収納すれば立派な物になろうが、
どうせ暫くしたら弄りなおすと思い裸のままとしておいた。(06/02/09完)
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使用部品 |
基板完成品 |
全体のイメージ |
出力電圧9Vに調整 |
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0Vからの可変電圧電源
固定出力の3端子レギュレーターで、電圧を可変できることは上で実証した。しかし、
それはレギュレーターの定格出力値より高い電圧に限定されていた。人間の欲望には際限が無く新たな課題を設定したがるもので、
それがここで取り上げる0Vからの電圧を得る電源だ。一見して不可能に思えるのだが頭を柔らかくして考えれば実現可能だから面白い。
今回は立証実験までにとどめるが、必要性が出てきたな製作してみたいと思っている。
思考過程の図面化すると!
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少し趣を変え今回は目的へ向かったシーラカンスの思考過程を説明してみる。
左の回路図が思考過程を図面化したものである。Fig.1は基本型だ。5V出力のレギュレータICをテーマとしているため出力電圧を
5Vとしたが汎用性を待たせるには(xxV)とすれば良い。
先に述べた[電圧ブースト1・2]ではレギュレーターの共通端子と電源のマイナス側との間に抵抗・ダイオード・トランジスタ等を挿入し電圧を持ち上げていた
しからばFig.2のように電池Eoを図の向きに接続すれば出力電圧は[5V(xxV)-Eo]となるはずだ。
もしEo=5V(xxV)とすれば出力電圧は0Vになる。さらにFig.2から電池の配置場所を変えるとFig.3となる。
この回路図は別の言い方をするなら入力電圧を[E+Eo]とし、その接続点からマイナス側の出力端子を引き出した回路なのだ。
Fig.3において共通端子とマイナス側にトランジスタ接続し、ベース電圧を出力電圧を分割して加えるようにするとFig.4が得られる。
これは電圧ブースト2と全く同じ回路だ。ただし出力端子に現れる電圧は最大値が
[E+Eo-Eo−Esat]=[E−Esat]で、
最小値は[5V-Eo]である。ここでEsatはレギュレータICのドロップ電圧で、通常2V程度だ。
最小値は[5V-Eo]であるから
Eoを5Vとすれば最小値は0Vになる。ここに目出度く0Vからの出力電圧を取り出せる回路が成立したのだ。
具体化するにはもう少し検討が必要だ。その一つははEoの取り扱いだ。電池でも良いのだが電圧が安定しない。
もともとのテーマは5Vレギュレータの様々な使い方
であったからこれを使うことにする。下に示したFig.5が電池Eoをレギュレータに置換えたものだ。
これでもアマチュアが使う上での問題は無いのだが、温度特性を持つ欠点があるのを知っておかねばならない。
少しばかり欲張って[電圧ブースト2]で未解決にしておいたこの温度特性の問題も解決しよう。
出力電圧は先の式では[5V(xxV)-Eo]と簡略化したが正確にはこの式は
[5V(xxV)+Vbe-Eo]となる。ここでVbeが温度特性を持つのだがあえて数式化しなくても良い。
影響をなくするにはEoにもVbeを加算してやればキャンセルされるからだ。
即ち、Eoを作り出すレギュレータICに同じ種類のトランジスタを挿入すれば良いのだ。
但しダイオード接続でよいからFig.6に示したような回路が完成し目的が達成されるのだ。
基本の回路がこの様に完成した。残るのはこれに多少のお化粧を施す事だ。発振防止のコンデンサーの接続および、
異常接続への対策のダイオード等を追加すればFig.7が出来上がる。お化粧については
「3端子レギュレーターの使い方」
等に詳しく説明されているのでここでは省略する。
AC100VからのDC電源を製作するならば右に示したFig.8のような回路となるのが予測される。しかし余り推奨はしたくない。
シリースレギュレータでは効率が低く特に低電圧で使用する場合の熱損失が問題となるからだ。スイッチングレギュレータが効率の点では理想的でそれを使うべきと思う。
もし、それが発する雑音が問題となるような場合にシリースレギュレータタイプの出番となる。
シーラカンスは未だその様な場面には遭遇していないので製作するところまでには至らなかったのだ。
右の写真はCAD上で回路図を作成し図面上の検討のあと、実証する時に使ったバラックである。頭で考えるだけでなく必ず実証実験をする事を推奨する。
Fig.7において可変抵抗器に直列接続の3.3Kは実験の結果挿入したものである。狙った項目は全て達成したので本項は完了とする。(06/02/20完)
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AM変調に使える AC重畳電源
元来、Regulateの意味は「調整する」・「整然とさせる」である。直流電源として好ましく無い変動成分=AC成分を取り除き、
安定した電圧の純粋な直流を供給するのが三端子レギュレーターの働きである。ところが今回のテーマは全くその逆にAC成分を重畳させた電源を作る事なのだ。
工房のシーラカンスはへそ曲がりだと思われるだろうが目的がある。シーラカンスは目下周波数が20kHz以下の電波受信に挑戦していて
20・5khzまでの電波受信には成功している
。それには同一周波数の信号があると何かと便利なためシグナルジェネレーターの出力を1/10分周して使っていた。
しかし、それには変調がかかっていないため活用に限界がある。そこでデジタル回路で分周された信号にAM変調をかけようと考えたのだ。
ACを重畳させる基本回路

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既に出力電圧をブースとしたり0V出力即ち下降させたりすることには経験済みだ。
これらはいずれも直流電圧を共通端子に与えて実現していたが交流を与えれば目的が達成されそうだ。
そして左に示したトランス式とトランジスタ式2つの基本回路を考え出した。二つの方式の特長を考えると次のようになる。
トランス式はレギュレーターの基準出力電圧を中心に加えられるAC電圧がスイングする。
5Vレギュレーターであれば0Vから10VまでのAC電圧が重畳させることが出来る。まさに理想的なのだが部品としてかさばるトランスが必要となる。
一方トランジスタ式では基準出力電圧にある値の電圧をブースとさせておき、その電圧を中心としてスイングすることになる。
共通端子にマイナス電圧は加えられないからスイングのマイナス側は基準出力までにしかならない。
歪を考えると重畳できるAC電圧のスイング幅はブーストした電圧の2倍までとなる。部品が単純な反面深い変調は望めそうにない。
幸いなことにシーラカンス工房には仕様不明なれど1:1のライントランスがあったのでこれを使ってトランス式で実現することにした。
重畳させる信号を作る
シーラカンス工房にはAFの発振器が無い。無ければ作れば良いのだが汎用性を持たせるのは大変なので、
専用の単一周波数のAF発振器を作ることにした。AF発振回路の具体化には色んな方式が考えられるがトランジスタ1個で動作する移相発振回路を選択した。
AC重畳電源(AM変調用)

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移相発振回路は最低3段のCR移相回路が必要である。0.1μと10k×4のアレー抵抗を使って3段を実現し、トランジスタのバイアス回路
//入力抵抗とで1段の合計4段で実現した。コンデンサーは容量を測定し値が2%以内の物を選び使用している。右に全体の回路を示したが、帰還コンデンサーを図のように接続した時(4段)1Khzの発振が得られた。
また500Hzと記載されているポイントにを接続しても確実に発振し(即ち3段の移相回路となる)、周波数は約500Hzであった。なおアレー抵抗全部を使い5段の移相回路とすると1.5kHzの発振周波数となり少し高めなので4段にとどめた。
最終的にはスイッチで1kHzと500Hzのいずれかを選択できるようにする予定だ。
発振出力は半固定VRを介してドライバートランジスタに加えている。VRを調整することで重畳させるACのスイング幅が可変できる。AC重畳出力端子で観測したスイング幅は1kHzにて1.5V−7.0V(最大値)が得られた。なおスイング幅は変調周波数で変化する。これはトランスの1次側に並列に接続されている.1μのコンデンサーの影響である。
どうやらトランスのインダクタンスが十分でなく負荷インピーダンスが高くならない。止む無くコンデンサーを接続し共振状態に近づけて使っているのが原因のようだ。仕様不明のありあわせのトランスを使っいるのだからやむを得ない。
2次側に接続している1kよび.01μは実際の変調に使った時の波形整形する為の物である(抵抗負荷であれば不要)。これが負荷となりスイング幅を制限しているようだが回路図には表わせない帰還を形成するCRLが存在するためこれもやむを得ない。ドライブ能力を高めれば100%スイングは可能のようだがそこまでは必要ないので上記回路を最終とした。
下左図に発振トランジスタのコレクターで観測した波形を、中央にAM変調付分周器の外観、右に10kHzのキャリアーでAC重畳電源をスイッチングした波形を示す。AC重畳の出力波形を示したっかったが直流分の表現が写真では出来ない。そのためにあえてスイッチングされた波形を示したのである。なおAC重畳電源を使った[AM変調分周器]は別途記事を作成し掲載の予定だ。
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AF-OSC 発振波形(歪んでいる) |
AM変調分周器の外観 |
分周信号でスイッチングされた波形 |
上の写真に示した波形は必ずしも理想的ではないが、実用上は問題なく使える。三端子レギュレータを思いがけない方面で使うことが出来てシーラカンスはご満悦だ。なおAC重畳電源の応用としてはリップル除去率等の測定用電源としても使えると考えている。(06/03/7完)
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