Q49. 交換輸血について教えて下さい。
私の知り合いのB型RhD(−)の女性が、妊娠したのですが、仮に第一子がRhD(+)であった場合、出産時に母体に免疫抗体ができ、第二子もRhD(+)であった場合子供の交換輸血をおこなわなければならないことになる可能性が高いと思うのですが....?お父さんはRhD(+)のようです。
A.49
以前は、Rh(D)陰性の妊婦さんが抗D抗体を産性すると第二子以降の出産時に新生児溶血性疾患(Hemolytic disease of the
newborn:HDN)が起こることがありいろいろと大変になることが多かったのですが、最近は、抗D免疫グロブリンを投与しますので抗D抗体産性や新生児溶血性疾患(HDN)の心配はほとんどありません。
出産後72時間(3日以内)の1回投与、または妊娠28週(Rh(D)陰性妊婦が抗D抗体を産生する時期は約90%が妊娠28週以降であるため)と出産後3日以内の2回投与する方法があります。但し、抗D免疫グロブリンで中和しきれなかった場合は、抗体を産性してしまうこともあるようです。
さて、交換輸血についてですが、血液型不適合による新生児溶血性疾患(HDN)は、母親の免疫抗体(IgG性抗体)が胎盤を通過して胎児に移行し、その抗体と赤血球とが反応(溶血)するために貧血や高ビリルビン血症が起こる疾患で、重症な場合は、核黄疸を防止するために交換輸血などの処置が必要となります。
IgGサブクラス(IgG1〜IgG4)について
補体活性化能 IgG 3 > IgG 1 > IgG 2
IgG 4は補体活性化能が無いため臨床的意義が低い。
IgG 3とIgG 1は重症な溶血反応を起こしやすい。
胎盤通過性能 IgG 1 > IgG 3
私の経験談ですが、
-D-型の妊婦さんで抗Hr0(抗体価2048倍)を保有されており、臍帯輸血や交換輸血を行った症例があります。しかし、抗体があるからといって必ず交換輸血が必要になるとは限りません。抗E(抗体価64倍)保有の妊婦さんで、臍帯輸血や交換輸血もせずに済んだ症例もあります。ちなみに、この時は家系調査の結果、お父さん(A/O型CcDEe)とお母さん(B/O型CCDee)の組み合わせが全てのABO血液型の子供が生まれる可能性があったので、交換輸血用に各血液型4単位、E抗原(-)のMAPを探すなどして結構大変でした。でも結局交換輸血はしなくて済みました。ちなみにベビーはB型CcDEeでした。他にも、抗C+抗e(抗体価8倍)保有あるいは抗Bg疑いの症例で交換輸血はもちろん光線療法も未実施で済んだ症例もあります。
経験した症例一覧
母親 児
症例 抗体名 抗体価(DDT処理) T-Bil値(生後日数) IAT DAT 光線療法 交換輸血
1 抗E+抗c 64倍(32倍) 10.9mg/dl(生後1日) + + あり なし
2 抗C+抗e 8倍(2倍未満) 5.8mg/dl(生後5日) - - なし なし
3 抗Bg+抗HLA+抗HPA 1倍 8.9mg/dl(生後5日) + - なし なし
4 抗M 1倍(2倍未満) 21.2mg/dl(生後5日) - - あり なし
5 抗E 8倍 11.9mg/dl(生後5日) + + なし なし
6 抗Hr0 2048倍 17.7mg/dl(生後0日) + + あり あり
(抗体価:アルブミン加抗グロブリン法)
経験症例一覧(詳細)
[症例1]母親
B型CCDee 抗E+抗c(R2R2血球での抗体価64倍)。36週2日 男児出産。児
B型CcDEe抗E+抗c(抗体価4倍)、DAT 陽性、抗体解離試験 陽性(抗E+抗c)。生後T-Bil 3.3 mg/dlから10.9 mg/dlと上昇。光線療法実施。
[症例2]母親 A型ccDEE 抗C+抗e(R1R1血球での抗体価8倍)。40週0日 男児出産。児 O型CcDEe 不規則抗体 陰性、DAT 陰性、抗体解離試験 陰性。生後5日目T-Bil 5.8 mg/dl。光線療法なし。
[症例3]母親 B型Rh(D)陽性 抗Bg疑い(抗体価1倍以下)+抗HLA+抗HPA。40週3日 男児出産。児 B型Rh(D)陽性、不規則抗体 Bg(+)血球との反応 陽性、DAT 陰性、抗体解離試験 陰性。生後5日目T-Bil 8.9 mg/dl。光線療法なし。
[症例4]母親 A型 NN 抗M(抗体価1倍)。39週3日 男児出産。児 A型、不規則抗体 陰性、DAT 陰性。生後5日目T-Bil 21.2 mg/dl。光線療法実施。
[症例5]母親 A型 CCDee 抗E(抗体価8倍)。37週4日 男児出産。児 O型CcDEe、抗E(抗体価1倍)、DAT 陽性、抗体解離試験 陽性(抗E)。生後5日目T-Bil 11.9 mg/dl。光線療法なし。
[症例6]母親 A型 -D- 抗Hro抗体(抗体価2048倍)。28週0日 臍帯輸血実施。33週4日 男児出産。児 O型、抗Hro(抗体価256倍)、直接クームス試験 陽性。生後T-Bil 9.8mg/dlから17.7mg/dlと急上昇。交換輸血3回。光線療法も実施。
(上記抗体価は、DTT未処理血清でアルブミン加抗グロブリン法にて測定した抗体価を記載した。)
余談ですが・・・・産婦人科の先生から「Rh(D)陰性の妊婦さんの抗D抗体価を測定して欲しい」と依頼され抗体スクリーニングを実施したら抗Dではなく抗M抗体が陽性になったことがありました。妊婦さんがRh(D)陰性ですと、すぐに抗D抗体と思ってしまう先生がおられるようで....。
参考ページ