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トリフィラ・タイプの定義

what are triphylla hybrids

一般的な認識とは裏腹に …

トリフィラ・タイプの定義とは何でしょう。
F. triphylla (フクシア・トリフィラ) を元に育種された品種」 またはこれに類する定義を見かけることがあります。
しかし、トリフィラ・タイプのエキスパートである P. Heavens は、BFS (イギリスフクシア協会) 発行の ALL ABOUT FUCHSIAS に次のように書いています 1)
Many of the plants that are popularly known today as the triphylla hybrids were raised in Germany at the turn of the century.
F. triphylla, F. fulgens and F. boliviana all played a part in the early development of these hybrids but it is by no means certain that F. triphylla was in the parentage of all these early crosses, therefore triphylla hybrid tends to be accepted as a descriptive rather than accurate term.
「今日、トリフィラ・ハイブリッドと呼ばれる品種の多くは、20世紀の変わり目にドイツで育種された。これらを生んだ初期の育種活動には F. triphyllaF. fulgens、そして F. boliviana がすべて関与している。しかしながら、こうした古い交配種のすべてに F. triphylla が使われていたかは定かではない。ゆえにトリフィラ・ハイブリッドとは、厳密な学術用語と言うよりは、むしろ特徴を表す用語として受け取られている」 (訳は管理人)。

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この解説には3つのポイントがあります。
  1. トリフィラ・ハイブリッドと呼ばれる品種のすべてに F. triphylla が使われていたかどうか定かではない。
  2. トリフィラ・ハイブリッドとは学術用語である。
  3. しかし実際には学術用語以外の意味で使われることが多い。

上記のポイントと 「トリフィラ・タイプとは F. triphylla を元に育種された品種」 という定義との関係を見てみましょう。
まず、日本語の 「トリフィラ・タイプ」 という言葉は英語の Triphylla hybrids に相当するものと考えてください。
そうすると上記の青字は 「トリフィラ・ハイブリッドとは F. triphylla を元に育種された品種」 となります。どこかおかしいところがありますか? ありませんね。
だって 「◯○ハイブリッド」 というのは 「◯○の交配種」 という意味ですから。
これが箇条書きの「2」で述べた「学術用語としてのトリフィラ・ハイブリッド」の意味です。

別の言い方をしますと、 「トリフィラ・ハイブリッド」 という言葉を学術用語として正しく使うかぎり用語本来の意味と実体の間に食い違いはなく、日本でよく見る定義に問題はないことになります。

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ところが Heavens によると、 「トリフィラ・ハイブリッド」 と呼ばれるクラシックな交配種の親が実際に F. triphylla だったとは言い切れないとのこと。
ついでに言いますと、ナーサリーが 「トリフィラ・ハイブリッド」 の名の下に販売している品種の中には、私が見るかぎり育種に F. triphylla が使われていないものがあります (交配親が明記されている書籍や AFS (アメリカフクシア協会) のデータベースなどで調べればどなたでも確認できます)。

こうなりますと、「3」 にあるように 「トリフィラ・ハイブリッド」 という言葉本来の意味と実体の間に食い違いが生じ、 「トリフィラ・ハイブリッドとは F. triphylla を元に育種された品種」 という定義はもはや当てはまらなくなります。

平たく言うなら、フクシア好きが日常会話でトリフィラ・ハイブリッドと言うとき、多くの場合、それは本来の◯○ハイブリッドではなくて、F. triphylla を交配親に持とうが持つまいがそのような総称で売られている品種群を指しているということなのです。
その品種群を指して 「トリフィラ・ハイブリッドというのは F. triphylla の交配種だよ」 と言えば、誤った情報を伝えていることになります。

繰り返しますが、 「トリフィラ・ハイブリッドとは F. triphylla の交配種」 というフレーズは学術用語の説明としては正しいのです。

わかりにくいですか?

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バラで考えてみましょうか。フルテミア (ロサ) ・ペルシカの交配種はペルシカ・ハイブリッド (Persica hybrids) と呼びます。
古くはハークネスのユーフラテスなど、より近年ではインタープランツ社のバビロン・ローズがそうですね。
ペルシカ・ハイブリッドとして流通するバラがペルシカの交配種であるかぎり、「ペルシカ・ハイブリッドとはフルテミア (ロサ) ・ペルシカを元に作られた交配種」 という定義はそのまま有効です。
しかしもしも同じようなブロッチを持つバラがペルシカ以外に発見されて、外見が似ているがゆえにその交配種が 「ペルシカ・ハイブリッド」 の名で流通したらどうでしょう?

上記の定義は学術的には正しいものの、現実の園芸市場では当てはまらないことになると思いませんか?
 

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トリフィラ・ハイブリッドとトリフィラ・タイプ

ネット検索をすると、販売カタログのタイトルが単に 「Triphylla hybrids」 ではなく 「Triphylla hybrids & types」 となっている海外ナーサリーがあることに気付きます。

これは F. triphylla の交配種 (本当のトリフィラ・ハイブリッド) をトリフィラ・ハイブリッドと呼び、外見上はトリフィラ・ハイブリッドに似ているものの交配上はそうではない品種をトリフィラ・タイプと呼んで区別したい意図の表れではないかと思います (先方に尋ねたわけではありません)。
「Triphylla hybrids & types」 のカテゴリーに、本当のトリフィラ・ハイブリッドと、外見上だけのトリフィラ・ハイブリッド (トリフィラ・タイプ) をまとめておけば、「ここには本当の意味でのトリフィラ・ハイブリッドと、本当のトリフィラ・ハイブリッドではないけれど外見上同タイプに分類される品種の両方が含まれていますよ」 と買い手に明示することになるでしょう?

写真の Fuji-san は AFS の登録データによると F. decussata x F. denticulata です。 Roualeyn Fuchsias (北ウェールズのナーサリー) のサイトを見ると、この品種は 「Triphylla hybrids & types」のカテゴリーに入れて販売していることがわかります 2)
学術的な意味でのトリフィラ・ハイブリッドでないことは明らかですから、このナーサリーではこのような品種をトリフィラ・タイプとしているのだろうと推測しています (あくまで管理人の推測です)。

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私がこのページの最初の方で、『日本語の 「トリフィラ・タイプ」 という言葉は英語の Triphylla hybrids に相当するものと考えてください』 とお願いした理由が、このあたりでおわかりいただけたと思います。ちょうど英語のTriphylla hybrid (学術的な意味でない方のTriphylla hybrid です) と同様の使われ方をしていますね。

しかし、英語のTriphylla hybrid が本当のトリフィラ・ハイブリッドを指すときにも使える言葉であるのに対して (本来その意味ですから)、日本語のトリフィラ・タイプは本当のトリフィラ・ハイブリッドを指す言葉にはなりません。

日本でも本当の意味での F. triphylla の交配種だけをトリフィラ・ハイブリッドと呼び、それ以外をトリフィラ・タイプなど別名で呼ぶことが理想だと思いますが、そのようになるまでの道のりは遠そうに感じます。

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20世紀初頭前後に育種されたトリフィラ・タイプ

 

後続の説明にある育種年、育種者名、国名は、Leo Boullemier による The Checklist of Species, Hybrids and Cultivars of the Genus Fuchsia に基づいています 3)。Maori Pipes の年号のみAFS の登録年です。 Edwin Goulding 育種のフクシアについては、本人の書著 FUCHSIAS The Complete Guide に基づいています 4)
20世紀初頭前後に育種されたトリフィラ・タイプとは、皆さんよくご存知の品種です。
  • Andenken an Heinrich Henkel (アンデンケン・アン・ハインリッヒ・ヘンケル) (1897 Berger、ドイツ)
  • Mary (メアリ) (1894 Bonstedt、ドイツ)
  • Koralle (Coralle) (コラール) (1905 Bonstedt、ドイツ)
  • Thalia (タリア) (1905 Bonstedt、ドイツ)
  • Gartenmeister Bonstedt (ガルテンマイスター・ボンシュテット) (1905 Bonstedt、ドイツ)
などがそうです。
このうち、Mary、Koralle、G. Bonstedt については、Leo Boullemier の The Checklist of Species, Hybrids,and Cultivars of the Genus Fuchsia に種子親 (母親) が F. triphylla であることが記されています。

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日本で入手性が高いトリフィラ・タイプには、こうしたクラシックな品種が多いようです。
上に示した5つの品種は、いずれもBFS によるショー・リストに掲載されています 5)

BFS 関連のフクシアショーにトリフィラ・タイプとして出品できるのは、BFSが発表している 「トリフィラ用のショー・リスト」 に掲載された品種だけです。
ナーサリーでトリフィラ・タイプとして扱われていても、このリストになければトリフィラ・タイプとしては出品できません(他のカテゴリーによる出品はできます)。
またこのリストには 「植物学的なリストではない (not a botanical listing)」 との注意書きがあります。これは 「このリストに掲載されているからといって、F. triphylla の交配種であることを保証するものではない」 と暗に言っているように感じます。

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現代に育種されたトリフィラ・タイプ

古いタイプ以外にも数多くの品種がありますが、国内での入手性は低いように思います。

ここでは育種者別に代表的な品種を挙げてみます。
交配親の後にある数字は、交配データの出典を表します。
[1] = Fuchsia CD-ROM (MöhltiMedia publishing) 6)
[2] = FUCHSIAS The Complete Guide (著者:E. Goulding) 7)

Reiter (USA)
  • Trumpeter (トランペッター) (1946)、Gartenmeister Bonstedt x Mrs. Victor Reiter [1]
  • Mantilla (マンティラ) (1948)、F. triphylla x San Francisco [1]
Goulding (UK)
  • Brighton Bell (ブライトン・ベル) (1985)、Thalia x Lye's Unique [2]
  • Golden Arrow (ゴールデン・アロー) (1985)、Thalia x F. fulgens v. gesneriana [2]
Stannard (UK)
  • Edwin J. Goulding (エドウィン J. グールディング) (1992)
  • Piper's Vale (パイパーズ・ベール) (1992)
上記の品種もすべて BFS のトリフィラ用ショー・リストに含まれます。

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余談ですが de Graaff の Maori Pipes (マオリ・パイプス) (1987) はFuchsia CD-ROMによると花粉親 (父親) が F. triphylla ですが、2009年8月12日の時点では BFS のトリフィラ用ショー・リストには入っていません (リストは変更されることがあります)。

F. triphylla を交配親に持っていても、トリフィラ用ショー・リストに掲載されていない品種があるのです。
(2010年1月2日)

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参考(数字をクリックするとページ内のリンク先へジャンプします):

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