契約法一覧

Krell v. Henry  戴冠式パレードの中止: 見物のために借りた部屋の契約はどうなる?

エドワード7世戴冠式パレードの中止:パレード見学のための部屋の賃貸契約は有効か?


クレル 対 ヘンリー
Krell v Henry

[1903] 2 KB 740
控訴院※1
Court of Appeal
1903


 1902年の6月26日、27日にロンドンでエドワード7世の戴冠式のパレードが行われる予定になっていた。原告のポール・クレルさんは、海外に行っている間、自分の部屋を貸し出すことにし、ソリシタ※2契約などの事務手続きを依頼した。1902年6月17日に、被告のC.S.ヘンリーさんは、ロンドンのポール・モール(Pall Mall)にある原告の部屋の窓に、戴冠式が見える部屋が貸出中であるという旨の掲示を見た。ヘンリーさんは、その部屋の管理人と話をして、その部屋から戴冠式が良く見えると聞き、2日間75ポンドで借りることを管理人と合意した。6月20日、ヘンリーさんは、クレルさんのソリシタに手紙を送り、25ポンドの小切手を同封し、残金の50ポンドは24日に支払うことを約束するとともに、26日と27日の日中(夜を除く)部屋を使用できることを確認したい旨書いた。ヘンリーさんは、その日のうちにクレルさんのソリシタから自分の手紙の内容のとおり合意を確認する手紙を受け取った。 ところが、国王の急病(虫垂炎)のためにパレードが中止になった。ヘンリーさんは、残金の支払いを拒否した。クレルさんは、その支払いを求めてヘンリーさんを訴えた。

※1イギリスのCourt of Appeal は、「控訴裁判所」ではなく「控訴院」と訳され

  るのが慣例である。
※2 solicitor「ソリシタ(事務弁護士)」:依頼人と法律相談、契約書・遺言書の

  作成などの仕事をする。原則として法廷で弁論することはできない。ただし、

  扱える事件や訴額が限定されているcounty court(県裁判所)、magistrates’

   court(治安判事裁判所)では、弁論できる。
   ソリシタから依頼を受けて、法廷での弁護を引き受ける弁護士は、barrister

  「リスタ(法廷弁護士)」と呼ばれている。 依頼人は直接バリスタに弁論依

   頼をできい。
   1990年代になって、この2種の弁護士の分業制度が緩和され、ソリシタ

  も弁論実技訓練を受けるなど一定の要件を充たした場合、一般的な管轄権をも

  つ高等法院や控訴院で弁論できるようになった。 
 (小泉博一/飯田操/桂山康司・編『イギリス文化を学ぶ人のために』(世界

  思想社、2004年)第三章「法制度・政治・社会」石田裕敏、参照。)


≪Par.1≫
[1] It was suggested in the course of the argument that if the occurrence of the coronation and the procession were the foundation of the contract, so that in the event of the non-occurrence of them both parties would be discharged from further performance of the contract, it would follow that if a cabman was engaged to take someone to Epsom on Derby Day at a suitable enhanced price for such a journey, say 10 pounds, both parties to the contract would be discharged in the contingency of the race at Epsom for some reason becoming impossible. [2] But I do not think this follows, for I do not think that in the cab case the happening of the race would be the foundation of the contract. [3]The purpose of the engager would be to go to see the Derby, and the price would be proportionately high, but the cab had no special qualifications for the purpose which led to the selection of the cab for this particular occasion. [4] Any other cab would have done as well.


[第1文]
 It was suggested in the course of the argument that if the occurrence of the coronation and the procession were the foundation of the contract, so that in the event of the non-occurrence of them both parties would be discharged from further performance of the contract, it would follow that if a cabman was engaged to take someone to Epsom on Derby Day at a suitable enhanced price for such a journey, say 10 pounds, both parties to the contract would be discharged in the contingency of the race at Epsom for some reason becoming impossible.

〈語句〉
・suggest 他)1.~を示唆する、2.~を提案する
・in the course of~ ~の過程で
・argument 名)1.弁論、2.議論
・occurrence 名)起こること、出来事
・coronation 名)戴冠式
・procession 名)行列、行進、パレード
・foundation 名)基礎
・contract 名)契約
・so that したがって、それで
・in the event of ~(万一)の場合には
・non-occurrence 名)起こらないこと
・party 名)(契約の)当事者
・discharge A from B A(人)をB(契約上の義務など)から解放する
・further 形)それ以上の
・performance 名)(契約などの)履行
● it would follow that… ←it~thatの構文を用いた慣用的表現:it follows that… 「(当然の結果として)…ということになる」に仮定法のwouldが付いた形。


・cabman タクシー運転手
・engage 他)~を雇う(=hire)
・take A to B  AをBに連れて行く
・Epsom 名)エプソン、ロンドン郊外の町、競馬場で有名
・Darby 名)ダービー(エプソン競馬場で行われる3歳牡馬による競馬の著名な

  大会)
・suitable 形)適切な、ふさわしい
・enhanced 形)高められた  enhanced price 名)割増料金
・journey 名)旅、道のり
・say 例えば、おおよそ~といったところ
・pound 名)ポンド(イギリスの通貨)
・both 形)両方の
・party to the contract 契約の当事者
be discharged 義務を免れる ここでは運転手は、エプソンまで乗せて行く

 義務を免れ、雇い主は支払いの義務を免れること。

・contingency 名)不測の出来事、偶発的事件
・race 名)競馬、レース
・reason 名)理由
・impossible 形)不可能な


〈文法〉
● 文頭のItは、前に代わりをすべきものがないから、It~thatかIt~toの構文

 ある(時間や天候を表すことはまずない)。この文では、同じ行にthat節があ

 るのでIt~thatの構文であり、このthat節は文末までつづいている
     It  was  suggested ~ { that…impossible }

 It~thatの構文も、It~toの構文と同様に、先に「それは~である」と言ってお

 いて、「それとは何か?」という疑問をもたせてから、that…で説明する用法

 である。
    「それが示唆された、that…ということが」

         →「that…ということが示唆された。」 

● that 節内に if 節があり、4行目に it would follow that…「…ということになる

 であろう」という慣用表現がコンマのみで接続詞なしに始まっているので、その

 前までが if 節の範囲であることが分かる。また、そのことからso that(それで)

 は、if節の内部にあることも分かる。
   if the occurrence…, so that…contract, /it would follow

● if~were…, it would…となっているので、仮定法過去である。was suggested

 のthat節の中に入っているが、仮定法は時制の一致を受けない

  あるいは、この文を書いた裁判官が、書いている時点でも妥当する内容である

 と判断していると説明することもできる。
 「もし、戴冠式とパレードが行われることが契約の基礎であるすれば」という

 内容は「現在の事実に反する仮定」ではないが、ここで仮定法が使われている

 理由は、契約の基礎ではないと主張している原告側弁護士が、現実に反して仮

 に契約の基礎であるとすると不合理な結果になると論じているためである。

 

 ※ 仮定法になぜ過去形が用いられるかついては、さまざまな解釈があるであ

  ろうが、一つの説明として、過去のことと同様に想起の対象としてしか存在

  しない(現実の世界では現在も将来においても存在しない)ことを表してい

  るとみることができる。
    拙稿「過去概念と人ー―想起の時制」『ことばから人間を』所収、
    230~241頁(昭和堂 1998年)参照

● 主文のit would follow that…の中にさらに if 節(if a cabman~pounds)がある。
 この if 節も仮定法過去と考えられるが、現在の事実に反する仮定であるとする

 と筋が通らない(「本当はタクシーを雇っていないのに雇ったと仮定すると」)

 ので、実現性の乏しいこと(ダービーの開催が不可能になる)を例え話として

 仮定していると解釈できる。
  
● in contingency of~のof は同格、「~という不測の出来事において」
   of の後の the race は動名詞becoming の意味上の主語
    race becoming impossible
     s     v     c 
  この部分は、同格の that を使って以下のように書きかえることができる。
   in the contingency that the race became impossible
   「レースが不可能になったという不測の出来事において」


〈訳〉
 弁論の中で次のことが示唆された。つまり戴冠式とパレードが行われるこ

 とが契約の基礎であったとすれば、したがって万一それらが行われない場

 合には、両当事者が契約の履行をそれ以後免れるとすれば、タクシーの運

 転手が、ダーーの日にそのような旅程にふさわしい割増料金、例えば

 10ポンドで、エプソンに誰かを乗せていくために雇われた場合、エプソ

 ンでの競馬が何らかの理由で開催不可能になったという不測の事態におい

 て、契約の両当事者は義務を免れるということになるであろうと。

 (注釈:クレルさん(貸主)側の弁護士は、ダービーが中止された場合にタクシー

   の契約が解消されることが不合理である、ということを前提に弁論しているが、

   不合理ではないと考える人も多くいるであろう。)



[第2文]
 But I do not think this follows, for I do not think that in the cab case the
  happening of the race would be the foundation of the contract.


〈語句〉
・follow 自)当然の結果として生じる
・for 接)というのは
・cab 名)タクシー
・case 名)場合、ケース(ここでは「(訴訟になった)事件」という意味では

  ない。)
・happening 名)起こること、出来事
・race 名)競馬
・foundation 名)基礎
・contract 名)契約
 

〈文法〉
 ● this follow の this は、第1文の it would follow that…の that節の内容を受

  けいる。同じ follow という語が使われているので分かりやすい。つまり、

  競馬が開催できなければタクシー運転手も雇い主も契約の義務から免れるとい

  うこと。

   裁判官はダービーの開催は契約の基礎ではないのでそういうことにはなら

  ないと述べているのである。

 ● for の後にmeではなく I が来ているので接続詞の for「というのは~」

  である。

 ● would になっているのは、第1文の例え話に関することだからである。


〈訳〉
 しかし、私はそういうことにはならないと考える。というのは、タクシー

 のケースでは、競馬の開催が契約の基礎になるとは思わないからである。

  (注釈:競馬(ダービー)の開催が契約の基礎であると思う人も多くいるであ

    ろう。)   
  

[第3文]
 The purpose of the engager would be to go to see the Derby, and the price
  would be proportionately high, but the cab had no special qualifications for
  the purpose which led to the selection of the cab.

〈語句〉
・purpose 名)目的
・engager 名)雇い主
・go to do ~しに行く
・Derby 名)ダービー
・price 名)料金、価格
・proportionately 副)比例して
・cab 名)タクシー
・qualification 名)資格、資質
・lead to ~に通じる、結果として~になる
・selection 名)選択


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  purpose would be  [to go~]
    S        V    C     
  補語は不定詞の名詞的用法「目的は~に行くこと」
    would が入っているのは、第1文の例え話に関することだからである。

● the cab had~とhaveの過去形が使われているのは、例え話の中の話であるか

 らである。単に過去の事実を叙述する文章と仮定法過去の文章とで共通して過

 去形が使われるのは、両者とも存在しないものを頭の中で想起するからである。

 この文章でも、架空の話に登場するタクシーを想起して語られている。

 したがって、現在形で訳す。

● 文法判断の限界
 whichの先行詞なりうるのは、①purposeと、②qualifications である。どちら

 であるかは、単語の意味や文法、構文の知識だけでは、確定することができない

 文法判断の限に属する事項である。このような場合はどちらを選択すれば論理

 的な話の筋になるによって決定しなければならない。
  この文では、ダービーを見に行くという「目的」で特定のタクシーを選択す

  るというより、特別の「性能」をもっているのでそれを選択するという方が

  論理であるので、先行詞は、②qualifications である。


                ↗ 目的×
   「タクシーを選択させた」              
               ↘ 性能〇        
      qualifications ←〔which led to the selection of~〕 

 

 

〈訳〉
 雇い主の目的は、ダービーを見に行くことであろうし、値段はそれ相応に

 高いであろうが、その目的のために件のタクシーは、それを選択させるよ

 うな特別の性能を備えていないであろう。



[第4文]
 Any other cab would do as well.

〈語句〉
・any 形)どんな~でも
・do as well 同程度にうまくいく、役立つ

〈文法〉
● do as well as A 「Aと同じくらい役にたつ」のas Aにあたる部分が省略されて

 いる。 Aには、例え話で念頭に置かれているタクシーが入る。

〈訳〉   
  他のどんなタクシーでも同様に用を足せるはずである。        
 



≪Par.2≫
[1] In the case of the coronation, there is not merely the purpose of the lessee to see the coronation procession, but it is the coronation procession and the relative position of the rooms which is the basis of the contract as much for the lessor as the lessee. [2] The rooms were offered and taken, by reason of their peculiar suitability of the position of the rooms for a view of the procession. [3] Surely the view of the procession was the foundation of the contract, which is a very different thing from the purpose of the man who engaged the cab being held to be the foundation of the contract.

[第1文]
 In the case of the coronation, there is not merely the purpose of the lessee
  to see the coronation procession, but it is the coronation procession and
  the relative position of the rooms which is the basis of the contract as
  much for the lessor as the lessee.

〈語句〉
・in the case of ~の場合(ケース)では、
・coronation 名)戴冠式
・purpose 名)目的
・lessee 名)賃借人、借主 
・procession 名)パレード
・relative 形)相対的な
・position 名)位置
・basis 名)基礎 =foundation
・contract 名)契約
・lessor 名)賃貸人、貸主


〈文法〉
● not merely~but… ~だけでなく…

● to see~は、purposeを修飾する不定詞の形容詞的用法である。purposeで文型

 が完成 しているので分かりやすい。意味から直前のlesee(賃借人)ではなく

 purpose(目的)を修飾する。
      lesee × ←〔to see the coronation procession]         
     purpose 〇  ↙  
 
  To 不定詞の to は、もともと前置詞のto = towardの意味である。

  それに合わせると、この句は、「戴冠式パレードを見る方向を向い目的」

  ということである。 

  拙稿「原型不定詞について」『英語教育 』1997年11月号(84-85頁)参照

 

● but 以下は、it is A which…の強調構文になっている:

  「…であるのはAである。」
 「それは、戴冠式パレードと~である」の「それ」にcoronation procession

 などにある単数名詞を当てはめていっても意味不明の文になこと、また

 ここでは、前の部分にはない新しい要素を持ち出している部分であること、

 後ろにwhich is があることから強調構文であることが分かる。

● the coronation procession and the relative position of the roomsは、2つの

 ものの位置関係として一体として意味があるので、bread and butter

 「バターを塗ったパン」などと同様に単数扱い(which is)になっている。

● as much for the lessor as the lessee の基本にあるのは、「~にとって」とい

 う意味の for と「同程度に」という同等比較(as much as)である。部屋を貸す

 側にとっても同程度に契約の基礎であるというのは、部屋の窓に「戴冠式が見え

 る部屋が貸出中」という掲示をしたことから分かる。


〈訳〉
 戴冠式のケースでは、戴冠式のパレードを見るという賃借人の目的がある

 というにとどまらず、賃借人にとってと同程度に賃貸人にとっても契約の

 基礎となっているのは、戴冠式のパレードと部屋の相対的位置である。



[第2文]                       

 The rooms were offered and taken, by reason of their peculiar suitability
 ofthe position of the rooms for a view of the procession.
      
〈語句〉
・offer 他)~を提供する、売りに出す、貸し出す
・take 他)~(家などを契約して)借りる
・by reason of ~という理由で
・peculiar 形)1.特有の、固有の、2.奇妙な
・suitability 名)ふさわしいこと、適合性 (←suitable 形)適切な)
・position 名)位置
・view 名)1.見ること、2.視界、3.景色、4.見解 5.目的
・procession 名)パレード

〈文法〉
● by reason of~の後は、前置詞句の連続であるので、文章化すると解釈し

 やすい→
  because the position of the rooms was peculiarly suitable for a view of the
   procession

〈訳〉
 その部屋は、パレードを見物するために特に適した位置にあるという理由

 で提供され賃借された。



[第3文]
  Surely the view of the procession was the foundation of the contract,which
  is a very different thing from the purpose of the man who engaged the

  cabbeing held to be the foundation of the contract.

〈語句〉
・surely 副)確かに
・view 名)見えること、眺め、景色
・procession 名)パレード
・foundation 名)基礎
・contract 名)契約
・purpose 名)目的
・engage 他)~を雇う


● hold A to do~ Aが~すると考える、判断する→A is held to do Aは~すると

 考えられる


〈文法〉
● which 以下は、contract や foundation などの前にある単数名詞のいずれを

 先行詞であると見ても意味不明な文になるので、前文全体(の趣旨)を先行詞

 としていると判する。「そして、そのことは」

● from以下は、文章化して解釈すると分かりやすい。
   purpose being held
     s     v   c  
 being held to be…がどことつながっているかは、文法判断の限界である。
 「契約の基礎であると判断される」という意味に合うのは、cab でも man

 でもなくpurposeであるので、purpose が動名詞 being の意味上の主語

 である。文章化すると、
  the purpose of the man 〔who engaged the cab〕was held to be the
  foundation of the contract となる。


〈訳〉
 確かに、パレードの見物は契約の基礎であった。そしてそのことは、タク

 シーを雇った人の目的が契約の基礎であると判断されるのとは非常に異な

 る事柄である。




≪Par.3≫
[1] Each case must be judged by its own circumstances. [2] In each case one must ask oneself, first, what, having regard to all the circumstances, was the foundation of the contract? [3] Secondly, was the performance of the contract prevented? [4] Thirdly, was the event which prevented the performance of the contract of such a character that it cannot reasonably be said to have been in the contemplation of the parties at the date of the contract? [5] If all these questions are answered in the affirmative, I think both parties are discharged from further performance of the contract.


[第1文]
 Each case must be judged by its own circumstances. 

〈語句〉
・case 名)(訴訟になった)事件、ケース
・judge 他)~を判断する
・circumstance 名)状況、事情

〈文法〉
● its own はeach caseを受けている。eachが単数扱いになるのは、立ち止まっ

 て1つずつに焦点を当てるというニュアンスがあるからである。


〈訳〉
 各ケースは、それ独自の事情によって判断されなければならない。



[第2文]
 In each case one must ask oneself, first, what, having regard to all the
  circumstances, was the foundation of the contract? 

〈語句〉
・(一般的に)人
・ask oneself 自問する
・have regard to ~を考慮する
・foundation 名)基礎
・contract 名)契約


〈文法〉
● having regard to~「~を考慮して」は、generally speaking「一般的言えば」

 と同様に慣用的な独立分詞構文である。


〈訳〉
 各ケースにおいて、すべての事情を考慮して、何が契約の基礎であったか

 を第1に自問しなければならない。



[第3文]
 Secondly, was the performance of the contract prevented?

〈語句〉
・performance 名)(契約の)履行
・prevent 他)~を妨げる

〈文法〉
● 文頭にSecondlyとあり、前の第2文に引き続き、契約義務から免れる要件を

 列挙しえいる(次の第4文も同様)。

〈訳〉
  第2に、契約の履行が妨げられたか?



[第4文]
 Thirdly, was the event which prevented the performance of the contract of
 sucha character that it cannot reasonably be said to have been in the
  contemplationof the parties at the date of the contract? 

〈語句〉
・event 名)出来事
・prevent 他)~を妨げる
・performance 名)履行
・contract 名)契約
・character 名)性格、性質
・reasonably 副)合理的に、然るべく
・contemplation 名)1.想定、予期、2.熟考
 in the contemplation of ~を想定して
・party 名)(契約の)当事者
・date 名)特定の日、期日


〈文法〉
●主語に関係代名詞のwhichが付いている。
  was the  event←〔which~contract〕 of such a character…? 

●基本構造:第2文型の疑問文
   was  event 〔of such a character…〕?
    V     S     C  

   「出来事は〔そのような性格を〕していたか?」

● この文は The event was of a character.

  「その出来事は、ある性格をもっていたという文がもとになっている。

    be of ~には、「~(性質など)をもっているという意味がある。
    例) The news is of no importance.「その知らせは重要でない。

  仮に of such~ が直前の event を修飾する形容詞句であるとすると、
   was event of such a character〔that it cannot… 〕?
    v        s             c
   となってthat節が補語にならざるをえず、意味不明の文になる。

of ~の中に such~that….の構文が使われている。
  この構文は、先に「そのような」と言っておいて、後ろのthat 節で「どの

  よう」であるかを説明する構文である。
   例)There was such a crowd that we could hardly walk.    
 (そのような人だかりがあった。われわれがほとんど歩けなかったような)
  →「われわれがほとんど歩けないほどの人だかりがあった」
  or 「ひどい人だかりだったので、われわれはほとんど歩けなかった。」

● that 節の中の cannot reasonably be said to~「~であるとは合理的に言われ

 ることができない」という意味である。 日本語では主語が一般的な人である場

 合は省略できるので、「~であると合理的に(然るべく)言うことができない」

 と訳す。

● to have been~ は、be said の時制(現在)よりも過去の出来事を表す完了不

 定詞ある。つまり、過去に「当事者の想定の範囲内であった」と現在言え

 ない、という意味である。
  it の前に単数名詞が4つあり、そのどれの代わりをしているかは「文法判断

  の限界」である。it につづく文の内容から逆に it は何かを考える。

  つまり、当事者の想定の内にあったと言えないものは何かと考えると、

  it が event の代わりであることる。

● 最初に、that節の内容とその前の部分とのつながりを考える。そうすれば、

 such~thatの構文と be of ~という慣用句が使われていること、そして、

 which 節の範囲が分かる。


〈訳〉
 第3に、契約の履行を妨げた出来事が、契約の日に当事者の念頭にあった

 とは然るべく言えない性格のものであったか?



[第5文]
 If all these questions are answered in the affirmative, I think both parties
  are discharged from further performance of the contract.

〈語句〉
・affirmative 名)肯定的な表現
  answer in the affirmative 肯定する
・party 名)(契約の)当事者
・be discharged from~ (契約上の義務)から免れる
・further 形)それ以上の
・performance 名)(契約の)履行
・contract 名)契約

〈文法〉
● all these questions は上述の第1~第3の問いであり、問いの形で契約責任を

 免れる要件が示されている。

〈訳〉
 これらすべての問いが肯定的に答えられれば、両当事者は、それ以降契約

 の履行を免れると考える。




≪Par.4≫
 As I have expounded above, I think that the coronation procession was the foundation of this contract, and, secondly, that the non-happening of it prevented the performance of the contract; and, thirdly, I think that the non-happening of the procession was an event of such a character that it cannot reasonably be supposed to have been in the contemplation of the contracting parties when the contract was made.

〈語句〉
・expound 自)他)詳しく述べる、説明する
・above 副)上記で、前述して
・coronation procession 名)戴冠式のパレード
・foundation 名)基礎
・contract 名)契約、自・他)契約する
・non-happening 名)行われなかったこと、不開催
・prevent 他)~を妨げる
・performance 名)(契約の)履行
・event 名)出来事
・character 名)性格
・reasonably 副)合理的に、然るべく
・suppose 他)~と思う、想定する
・contemplation 名)1.想定、予期、2.熟考
 in the contemplation of ~を想定して
・contracting party 名)契約当事者


〈文法〉
● この文では、第3パラグラフで示された、契約義務を免れるための3つの基

 準をこのケースに適用し、そのすべての満たしていることを述べている。
          ① I think that the coronation…
            ② secondly, [I think] that the non-happening…
          ③ thirdly, I think…made.  

● thirdly…の部分は、第3パラグラフの第4文とほぼ同じ構造である。

 non-happeningof the procession was an event of such a character that… 

「パレードの不開催は、that…のような性格の出来事であった。」

    said → supposed、

    at the date of thecontract → when the contract was made

 と言い換えられているが、その他は第3パラグラフの第4文と同じである。


〈訳〉
 上で説明したように、戴冠式のパレードはこの契約の基礎であったと考

 える。第2に、それが行われなかったことが契約の履行を妨げたと考える。

 第3に、パレードが行われなかったことは、契約がなされた時に契約当事

 者の念頭にあったとは然るべく思えないような性格の出来事であったと考

 える。




【解説】
 ダービーの日にエプソンまで行くのにタクシーを雇う例え話は、賃料を払ってもらいたい原告(クレルさん、賃貸人))側がもち出だした例え話である。つまり、ダービーが中止になった場合にタクシーの運転手との契約が解消されるのは不合理であり、その不合理はこの事件にも当てはまり、したがって部屋の賃貸契約は解消されないと主張したのである。しかし、特別の割増運賃になっているのは、ダービーが開催されタクシーの需要が高いからであり、大抵の客はダービーを見る目的でその高い運賃を支払うのである。したがって、ダービーが中止になった場合、タクシーとの契約も解除されると考えることもできる。ただし、タクシーの場合、個々の客の目的が必ずしもダービーを見ることとは限らない(たまたまダービーが開催される日に親戚に会うためにエプソンに行くことも考えらえる)。
 この事件では、そもそも貸主は「パレードの見える部屋貸します」という掲示をしていたし、部屋の位置関係が重要であった。控訴院は、パレードの開催が「契約の基礎」(foundation of contract)であり、それがなくなった以上当事者は契約上の義務を免れると判決した。
 古いイギリスの契約法は、「約束は守られなければならない」(pacta sunt servanda)という原則に支配されてきたが、19世紀後半頃から当事者の責に帰すことのできない事情(例えば、契約対象のミュージック・ホールが焼失した)があるなどの場合に当事者は契約義務を免れるという判決が現れ始めた。この法理は、現在「フラストレーション(Frustration)」と呼ばれている原則を明らかにした。この原則は、次のように説明されている。「契約締結後、当事者の予見が不可能であり、当事者のいずれの責めにも帰しえない事態の発生により、当事者が予期した契約の目的が達成不能となること。契約目的物の滅失などのように、契約の履行不能(impossibility)を含めていうこともあるが、履行自体は可能でも当事者の共通の企図がもはや実現できないなど、当事者の予期した履行とは本質的に異なる履行となる事態をさすのが通例。フラストレーションの成立により、契約はそれ以後消滅し、当事者は、債務を免れる。」(田中英夫・編『英米法辞典』(東大出版会、1991年)参照。
 なお、エドワード7世は病気から回復し、戴冠式パレードは8月9日あらためて行われた。


2018年03月04日

Hochberg v. O'Donnell's Restaurant オリーブの種で歯が欠けてレストランを訴えた事件


マティーニに入っていたオリーブの種を噛んで歯が欠けレストランを訴えた事件

ホッチバーグ 対 オドネル・レストラン
Hochberg v. O'Donnell's Restaurant

272 A.2d 846 (1971)
コロンビア地区連邦控訴裁判所
District of Columbia Court of Appeals
1971



 原告のホッチバーグ(Hochberg)さんは、被告のレストラン(O'Donnell's Restaurant)でウォッカ・マティーニを注文した。それを飲んでいる時に、中に入っているオリーブに切り口があるのを見た。それからそれをつまんで口に入れ、強く噛み、叫び声を上げた。奥歯が欠けてしまったのである。一緒に食事をしていた人達にオリーブの種で歯が欠けたことを説明した。レストランの支配人がテーブルに呼ばれ、支配人は歯の一部とオリーブの種を見せられた。ホッチバーグさんは、奥歯の治療にかかった50ドルほどのお金を支払ってもらいたくてレストランを訴えた。
 ホッチバーグさんは、レストラン側に「黙示の保証」の違反があったと主張した。他方、レストランは、次の場合は、黙示の保証違反にならないと主張した。すなわち、料理にある物体が含まれている時、その物体が、それの見つかった食べ物の自然な一部であるか、その食べ物のタイプと自然に結びついている場合である(つまり、オリーブに種が入っているの自然なことであるのでレストランは責任を問われない)。
 第1審の裁判所がレストラン勝訴の判決を下したので、ホッチバーグさんが控訴した。

「黙示の(品質)保証」(implied warranty)
 商品の品質について、「~を保証します」と明示された保証がなくても、商品の品

 質を買主が信頼するのが正当であるという理由で、認められる品質保証。
  拙稿「英米契約法から学ぶこと」(特集「自己責任がわかる」)『法学セミナー 』

  (2001年9月号) 44-47頁参照。



≪Par.1≫
[1] Both parties agree there is a split in the authorities throughout the country as to what test should be applied where an injury is suffered from an object in food or drink consumed in a restaurant. [2] Some courts hold there is no breach of implied warranty on the part of a restaurant if the object in the food causing the injury was "natural" to the food served (if the object was "foreign" to the food there may be a recovery.) [3] On the other side are authorities which hold that the test is what should reasonably be expected by the consumer to be in the food served to him.



[第1文]
  Both parties agree there is a split in the authorities throughout the country
  as to what test should be applied where an injury was suffered from an
  object in food or drink consumed in a restaurant.

〈語句〉
● party 名)(訴訟)当事者
  both parities 「両当事者」は、原告のホッチバーグさんと被告のオドネル・

  レストランのこと。

・agree that… …ということに同意する、意見が一致する
・split 名)1.対立、不和、2.(ボーリングの)スプリット
・authority 名)(後の判決の指針となるような権威ある)先例、判決
・throughout 前)~の至るところの、~じゅうの
・as to ~について
・test 名)基準 
・apply 他)~を適用する
・where 接)…する場合に
・injury 名)1.負傷、2.被害
・suffer 他)(傷や苦痛など)を被る、受ける
・object 名)物、物体
・consume 他)~を消費する consumed 形)消費された


〈文法〉
●基本構造:第3文型 
  parties agree {(that) there is…restaurant}  
   S    V      O 
   「 当事者は、{  }ということに合意している。」  
  agree のすぐ後に there is~ という構文が続くので that が省略されているこ

  とが分かる。
   there is a split 「(意見の)対立がある」は、ボーリングのスプリット

   イメージすると分かりやすい。        

● as to A 「Aに関して」
 A にあたる部分は、 whatから文末までである。where…は、意味から appliedを

 修飾している(「…場合に適用される」)。

  したがって、〔what~where~restaurant〕は一体となって asto の目的語にな

  っている。

● where an injury was suffered
 「傷が負われた」と訳すと不自然な日本語になるので、日本語では主語が省略

  できる利点を活かして「傷を負った場合」と能動で訳す。

food or drink←〔consumed in a restaurant〕
  過去分詞の形容詞的用法 「レストランで消費される食べ物や飲み物」
   consumedが他動詞として機能していないことは、次の2点から分かる。
     ① injury was suffered までですでに第2文型の英文が完成している。
     ② consumed の後に目的語ない。


〈訳〉
 レストランで消費される食べ物や飲み物の中に入っている物体によって傷

 を負った場合、どのような基準が適用されるべきであるかについて、国中

 の先例が2つに分かれていることについて両当事者は意見が一致している。



[第2文]
  Some courts hold there is no breach of implied warranty on the part of a
  restaurant if the object in the food causing the injury was "natural" to the
  food served (if the object was "foreign" to the food there may be a
  recovery.) 

〈語句〉
・hold… …であると(裁判所が判断を示す→)判示する
・breach 名)(契約、法律などの)違反、不履行
・implied warranty 黙示の保証
・object 名)物、物体
・cause 他)(損害など)の原因となる、~を引き起こす
・injury 名)2.負傷、2.被害
・natural 形)自然の 
・serve 他)(食べ物など)を出す、給仕する
・foreign 形)1.外国の、2.異質な
・recovery 名)損害の回復、損害賠償


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  courts hold {there…if…recovery.}
    S     V    O  「裁判所は、{ } と判示する」
  {  } の中にthere isの構文があるのことも第1文と同様である。

● if 節の中の文型は、第2文型である。
    object  was  "natural"
      S      V     C   「物体は自然であった」

object in the food 〔causing the injury〕
   causing は、現在分詞の形容詞的用法であり、一見すると foodを修飾して

  いるように見えるが、実は objectを修飾している。いずれを修飾しているか

  は文法的に決定することはできず、文法判断の限界である。
   このような場合、どちらの方が論理的な話になるかで決定する。
 
      × food ↖  
           〔causing the injury 〕was "natural" to the food
      〇 object ↙ 
 
   後続の文から「食べ物は、その食べ物とって『自然』」であるというのは、

  非論理になるのでobjectを修飾していることが分かる。具体例を考えると

  分かりやすい。
     例)焼き魚の中にその魚の骨が入っている場合。

● if 節は、there is no breach を修飾している「もし~ならば違反はない」
  「食材にとって自然な物体が入っている場合、それを食べた人が傷を負った

   としても品質保証に違反しない」(オリーブの実に種が入っているのは自

   然である)。

Some court…は、慣例的に「~する裁判所もある」と訳される。


〈訳〉
 負傷の原因となった食べ物の中の物体が、出された食べ物にとって「自

 然な」ものであった場合、レストランの側に黙示の保証の違反はない

 (その物体が食べ物にとって「異質」であった場合、損害を回復しうる)

 と判示する裁判所がある。



[第3文]
  On the other side are authorities which hold that the test is what should
  reasonably be expected by the consumer to be in the food served to him.

〈語句〉
・on the other side 他方、もう一方の側に
・authority 名)(後の判決の指針となるような権威ある)先例、判決
・hold that… …であると(裁判所が判断を示す→)判示する
・test 名)基準
・reasonably 副)合理的に、無理なく、然るべく
・be expected to do~ ~することが期待されている
・serve 他)(食べ物など)を出す、給仕する


〈文法〉
●基本構造:第1文型
  are authorities←〔which hold that…him〕
   V     S  「〔…と判示する〕先例がある。」

 be動詞には、「ある、いる、存在する」という意味がある。
 文頭に On the othersideという副詞句があるので、V→S と倒置されている。
  倒置の文にするためには、
(1)強調する語を文頭におく(ふつう後ろにあるものが一番前に出てくると目

   立つ
(2)残りの文を疑問文の語順にする。
  
  on the other side という表現は、ボーリングのスピリットのイメージによく

  適合する。

●文型の多重構造:
  which 以下の関係代名詞節の中に、
   hold {that the test…him}  という 第3文型がある。
    v     o
  さらのそのthat節の中に、test is {what…him}
                  s   v    c    という第2文型がある。

● what should~は、A should reasonably be expected…to be in~ 
 「Aが~の中にあると期待されて然るべきである」という文のAにあたるものが
  what になっていると見る。「~の中に何があると期待されるか」

● reasonably という副詞は、法律の文書ではよく見かける。
 reason は、動詞では「理由を考える、推論する」という意味である。
 rasonable は「理由が分かる」という原意である。しがって、reasonably

 expect~は 「~であると期待しても、その理由が他の人にも分かる」とい

 う意味で、結局、第3者が客観的判断しても正しいことであるということを

 表している。

● be expected by the consumer
  自然な日本語にするために能動で訳す。「消費者が期待する」

● the food ←〔served to him〕
    過去分詞の形容詞的用法「彼に出された食べ物」


〈訳〉
 他方、基準は、出された食べ物の中に何が入っていると消費者が期待して

 然るべきであるかであると判示する先例がある。




≪Par.2≫
[1] We think the better view in cases involving injury from an object in food served in a restaurant is to apply the reasonable expectation test rather than restrict the test, as the trial court did, to whether the food is wholesome or contained a foreign substance. [2] In our view it is unrealistic to deny recovery as a matter of law if, for example, a person is injured from a chicken bone while eating a sliced chicken sandwich in a restaurant, simply because the bone is natural to chicken. [3] The exposure to injury would not be much different than if a sliver of glass were there.


[第1文]
  We think the better view in cases involving injury from an object in food
  served in a restaurant is to apply the reasonable expectation test rather
  than restrict the test, as the trial court did, to whether the food is
  wholesome or contained a foreign substance.

〈語句〉
・We われわれ=控訴裁の裁判官
・view 名)見解、意見、考え
・case 名)(訴訟になった)事件、ケース
・involve 他)1.~を伴う、含む、2.~を関与させる、巻き込む
・injury 名)2.負傷、2.被害
・object 名)物、物体
・serve 他)(食べ物など)を出す、給仕する
・apply 他)~を適用する
・reasonable expectation test 合理的な期待の基準
・A rather than B BよりむしろA
・restrict A to B  AをBに制限する
・test 名)基準
● trail 名)事実審理(第1審);裁判官や陪審員の前で、原告・被告、弁護人、

     証が主張、証言を行ういわゆる「裁判」

 

・trial court 名)事実審裁判所       
・wholesome 形)健全な、衛生的な
・contain 他)~を含む
・foreign 形)異質な
・substance 名)1物質、2.実体


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  We think { [that] the better…substance }
    S   V     O   「われわれは、{ } と考える」

● thinkの { 目的語 } の内部の基本構造:第2文型
   view is 〔 to apply…substance 〕
    S   V    C   「見解は、〔…を適用すること〕である。」  

主語を探す時は動詞を探す
  think{ 目的語 }内の動詞は、isであることが明白であるので(is 動詞は動詞

  としての用法しかないので)、その前の restaurant までが大きく見た場合の

  (前置詞句などを含めた)主語であることが分かる。

●形容詞句の多重構造
  view in cases←{ involving injury… in a restaurant〕 } 
    { involving ~ in food←〔served in a restaurant〕 }   

● to apply~ rather than restrict…
  「…制限することではなくむしろ~を適用すること」

● restrict A to B 「AをBに制限する」
    A = the test
    B = whether…substance

● as the trial court did
 「事実審裁判所がしたように」は、直前の動詞である restrict を修飾する。


〈訳〉
 レストランで出された食べ物に入っている物体から生じた傷害に関わるケ

 ースでは、事実審裁判所が行ったように、その食べ物が衛生的であるか、

 異質な物質を含んでいるかということに基準を限定することではなく、

 むしろ合理的な期待の基準を適用するほうが良い考えであるとわれわれは

 考える。



[第2文]
  In our view it is unrealistic to deny recovery as a matter of law if, for
  example, a person is injured from a chicken bone while eating a sliced
  chicken sandwich in a restaurant, simply because the bone is natural to
  chicken.

〈語句〉
・view 名)見解、意見
・unrealistic 形)非現実的な
・deny 他)~を拒否する
・recovery 名)損害の回復、損害賠償
●as a matter of law 法律問題として
 例えば、「原告の歯は本当にオリーブの種が原因で欠けたかどうか」という問

 題は、事実の認定に関する事実問題(question of fact)であるが、認定された

 事実にもとづいて損害賠償が認められるかどうかは、法律の解釈に関わる法律

 問題(question of law,matter of law)である。

・is injured from ~によって負傷する
・chicken 名)鶏
・bone 名)骨
・sliced 形)スライスされた、薄切りの
・simply because 単に…という理由で
・natural 形)自然の 


〈文法〉
● it is unrealistic to deny… :it~to… の構文 
  it~to…の構文は、例えば、It is difficult to finish the work in a day. という

  文合、「その仕事を一日で終わらせるのは難しい」と訳すが、英語が言っ

  ているのは、くまで「それは難しい、その仕事を一日で終わらせるのは」で

  ある。

   つまり、はじめに「それは」と言って、「何が」という疑問をもたせて、

  あとからto不定詞で説明する用である。同じような用法に so that の構文

  がある。

   The work was so difficult thatI couldn’t finish it in a day.

   「その仕事はそれほど難しかった。一日で終わらせることができない

    ほど。」

    →「その仕事は非常に難しかったので私はそれを一日で終わらせるこ

      とができなかった。」   

● while [he is] eating~「彼が~を食べている間に」

● simply because the bone…が修飾しているものとして文法的に可能性がある

 のは、4つある(文法判断の限界)。
  ①it is unrealistic  ②deny  ③is injured  ④eating

 「単に骨が鶏にとって自然であるという理由で」と論理的につながるのは、

  ②「損害賠償を拒否する」である。


〈訳〉
 われわれの見解では、例えば、ある人がレストランでスライスチキン・

 サンドイッチを食べている時に鶏の骨で傷を負った場合、単にその骨が

 鶏にとって自然なものであるという理由で、法律問題として損害賠償が

 認められないというのは非現実的である。



[第3文]
 The exposure to injury would not be much different than if a sliver of glass
  were there.

〈語句〉
・exposure 名)晒す(晒される)こと、露出
   expose A to B 「AをBに晒す」 
・different than = different from ~と異なる
・sliver 名)薄片、破片(silver 銀、ではないので注意)
 
〈文法〉
● a sliver of glass were thereは、仮定法過去である。第2文の鶏の骨がサン

 ドイッチに入っている例を受けて、その骨がガラスの欠片であった場合を仮定

 している。


〈訳〉
 傷害にさらされる程度は、ガラスの破片が含まれていた場合と大差がない

 であろう。




≪Par.3≫
[1] Naturalness of the substance to any ingredients in the food served is important only in determining whether the consumer may reasonably expect to find such substance in the particular type of dish served. [2] Because a substance is natural to a product in one stage of preparation does not mean necessarily that it will be reasonably anticipated by the consumer in the final product served. [3] It is a different matter if one is injured by a bone while eating a chicken leg or a steak or a whole baked fish. 

[第1文]
  Naturalness of the substance to any ingredients in the food served is
  important only in determining whether the consumer may reasonably
  expect to find such substance in the particular type of dish served.

〈語句〉
・naturalness 名)自然さ
・substance 名)1物質、2.実体
・ingredient 名)(料理の)材料、食材
・serve 他)(食べ物など)を出す、給仕する
・determine 他)~を決定する、確定する
・consumer 名)消費者
・reasonably 副)合理的に、無理なく、然るべく
・expect to do~ ~することを期待する
・substance 名)1物質、2.実体
・particular 形)特定の
・dish 名)料理 


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  Naturalness is important
     S      V   C     「自然さは重要である。」
 主語を探す時は動詞を探す:is が基本構造の動詞であることが明白であるので、

 その前の served までが大きく見た場合の(前置詞句などを含めた)主語である

 ことが分かる。

Naturalness of the substance to~
 意味的にはof の前後で S V の関係があり、このような of を「主格の of 」と
 呼ぶことがある(the substance is natural to ~)。
  「物質が~にとって自然かどうかは」と訳す。

● food ←〔 served 〕:served は過去分詞の形容詞的用「出された食べ物」
    serve の後に目的語がなく、すぐ is がつづくので分かる。

● in determining A「Aを決定するにさいして」
  Aにあたる部分は whether the consumer…served である。

●dish served: served は過去分詞の形容詞的用法「出された料理」


〈訳〉
 物質が、出された食べ物の食材のいずれかにとって自然であるかどうか

 は、された特定のタイプの料理にそのような物質が入っていることを

 消費者が期待して然るべきであるかどうかを確定するさいのみに重要で

 ある。



[第2文]
  Because a substance is natural to a product in one stage of preparation
  does not mean necessarily that it will be reasonably anticipated by the
  consumer in the final product served.

〈語句〉
・substance 名)1物質、2.実体
・natural形)自然な
・product 名)生産物、製品
・stage 名)段階
・preparation 名)準備
・mean that… …ということを意味する
・not necessarily (部分否定)必ずしも~ない
・reasonably 副)合理的に、無理なく、然るべく
・anticipate 他)~を予期する、予想する
・consumer 名)消費者
・final product名)最終生産物、最終製品
・serve 他)(食べ物など)を出す、給仕する


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
{Because a substance…preparation} does not mean {that it will be…}
        S                V     O
 Because は、副詞節であるので、主語にはなれないが、ここでは that 節

 「~ということは」と同様の使い方がされている。

  そう分析しないとdoes not meanの主語が見つからない。ただ、that 節とは

  異なり、「~であるからと言って」という意味がこめられている。

● mean that…内の it になりうるのは、substance, product, stage, preparation

  の4つある(文法判断の限界)。論理的に考えて、つまり、「最終品に入って

  いることが消費者によって予期される」かどうかが問題になるものは何かと考

  えると、substance「物質」であることが分かる。

● final product ←〔 served 〕 
  served は過去分詞の形容詞的用法「出された最終品」

                

〈訳〉
 ある物質が準備の一段階の製品にとって自然であるからと言って、その物

 質が出される最終品に入っていることを消費者が予期して然るべきである

 ことには必ずしもならない。



[第3文]
 It is a different matter if one is injured by a bone while eating a chicken leg
  or a steak or a whole baked fish.


〈語句〉
・matter 名)問題、事柄
・is injured 負傷する
・bone 名)骨
・steak 名)ステーキ
・whole 形)全体の、まるごとの
・baked fish 名)焼き魚

〈文法〉
● 文頭の It の中身は、「それは別問題である」という文の「それ」にあたるも

  のが It前にないので、後続のif one is …である。「もし…であるとしても、

  それは別の問題である。」

  この文のように、後続の if 節の内容を文頭のit で先に示すことがある。
  例)It will be very helpful if you carry my baggage.
  (それは助かります。もしあなたが私の荷物を運んでくれれば。→)
   「あなたが私の荷物を運んでくれれば大変助かります。」

●while [he(=one) is] eating~


〈訳〉
 鶏の足、ステーキ、あるいは焼き魚まるごと一匹を食べている時に、骨で

 負傷したとしても、それは別の問題である。




≪Par.4≫
[1] Turning to the facts of this case, it appears the crucial consideration for the purpose of this review is that appellant saw the hole in one end of an olive and therefore assumed it had been pitted, chewed the olive and injured his tooth on the pit.  [2] This narrows the problem to whether on these facts he was reasonably justified in expecting there was no pit in the olive and could chew without care.


[第1文]
  Turning to the facts of this case, it appears the crucial consideration for

  thepurpose of this review is that appellant saw the hole in one end of

  an oliveand therefore assumed it had been pitted, chewed the olive

 and injuredhis tooth on the pit.

〈語句〉
・turn to ~に考えを向ける
・fact 名)事実
・case 名)(訴訟になった)事件、ケース
・it appears that…=it seems that… …のように見える、思える
・crucial 形)決定的な、鍵を握る、2.命にかかわる
・consideration 名)考慮、考慮事項
・for the purpose of ~の目的のために
・review 名)(裁判所による)審査、審理
・appellant 名)控訴人 ここでは第1審で敗訴したホッチバーグさん
・olive 名)オリーブ
・assume 他)想定する、思い込む
・pit 他)~の種を取り除く、名)(果物の)種  
・chew 他)~を噛む
・injure 他)~に傷を負わせる
・tooth 名)歯


〈文法〉
● Turning to…は、意味上の主語が筆者である独立分詞構文=If we turn to…。
 この場合の筆者は、この判決を書いている裁判官である。
  分詞構文は、その意味上の主語が主節と同じであるのが通常であるが、

 この文の主節の主語は、後続の形式主語の it であるので、それが turning

 の主語だとすると意味不明な文になる。 
  分詞構文は、文脈に合う適当な接続詞を補う 。何が適当かは自分で考える
      ・Feeling sick,  Mary went to school.  
       「 体調が悪かったけれども 、メアリーは学校に行った。」
       ・Feeling sick,  Mary was absent from school.  
        「体調が悪かったので、メアリーは学校を欠席した」  
    これらの例文では同じFeeling sickでも文脈によって含意が異なる。

● 文型の多重構造
  it appears  { [that]… } の{ }内の基本構造: 第2文型
     consideration is {that appellant…on the pit}
         S     V   C 

     「考慮事項は、{ that…ということ}である。」

  この that 節の内部の文型=第3文型
     appellant saw hole
        s     v   o  「控訴人は、穴を見た」 

● that 節の主語 appellant の動詞が並列されている。
     ① saw and assumed  
     ② chewed 
     ③ injured….
 saw と assumed は一体のものであり、③ injured の前に並列の and がある。

● had been pitiedが過去完了形になっているのは、オリーブを見て噛む前に」

 という含意がある。


〈訳〉
 このケースの事実に立ち戻ると、この審査の目的にとって決定的に重要な

 考慮事項は、控訴人がオリーブの端に切り口があるのを見て、それゆえ種

 が抜かれていると想定して、オリーブを噛んで、種で歯を損傷したという

 ことであるように思われる。



[第2文]
 This narrows the problem to whether on these facts he was reasonably
  justified in expecting there was no pit in the olive and could chew without
  care.

〈語句〉
・narrow 形)狭い、他)~を狭める
・problem 名)問題
・on 前)~にもとづいて
・fact 名)事実
・reasonably 副)合理的に、無理なく、然るべく
・justify 他)~を正当化する、正当であると説明する
・expect 他)~を期待する
・pit 名)種
・olive 名)オリーブ
・chew 他)~を噛む
・care 名)注意、配慮


〈文法〉
● This narrows A to B 「このことは、AをBの範囲まで狭める」
    A = the problem
    B = whether…care
  →「このことによって、問題が…かどうかに狭められる。」
   This は、前文の内容を受けている。

● on these fac tの on は、「~にもとづいて(on the basis of)」という意味で

 ある。

● whether節内の構造
        ↗ was reasonably…
     he
       ↘ could chew…

in~ing ~することにおいて
  was justified in expecting [that]…
    「…ということを期待することにおいて正当化された」
     →「…ということを期待することは正当であった」
   expecting は、[ that ] there was…という節を目的語を取る動名詞   


〈訳〉
 これによって、次のことに問題が絞られる。すなわち、これらの事実にも

 とづいて、控訴人が、オリーブに種がないと期待したことが然るべく正当

 化され、注意せずに噛むことができたかどうかということである。



【解説】
 ホッチバーグさんがオリーブの種が抜かれていると予期したことが合理的であったか否かという問題について、陪審に判断させるために、控訴裁判所は事件を事実審裁判所に差し戻した。種が抜かれていると期待して然るべきであったと陪審が認定した場合は、「黙示の保証」の違反があったのでレストランは損害賠償責任を負うことになる。しかし、残念なことに、控訴裁判決の後、ホッチバーグさんはレストランと和解したので(和解金1,000ドル)、地裁の陪審の判断を見ることはできなかった。
 レストラン側は、食べ物の中にその食べ物にとって自然な物体が含まれていて、それで負傷したとしても、レストランは責任を負わないと主張した。つまり、オリーブの実にとって種は自然のものであり、それで歯が欠けてもレストランに責任はないということを一般化して主張したのである。
 しかし、そのような一般化は、自己のケースのみならずより広く一般的に妥当することであると言うことによって自己の主張を強化できるが、他方、両刃の剣のような危険もある。例えば、フグにはテトロドトキシンという猛毒が自然に含まれているが、フグ料理を食べてこの毒にあたって死亡しても、レストランは責任を負わないことになってしまい不合理である。この判決が言うように、消費者の期待(予期)を基準とする方が合理的である。刺身に骨が入っていることは予期されていないから、客がその骨で口を切った場合、レストランは責任を負うが、焼き魚の場合は負わない。

 (原告のPhilip R. Hochbergさんは、現在、メアリーランド州で弁護士をされており、この事件の説明には、Hochbergさんからemail で直接教えて頂いた内容が含まれています。Hochbergさんは、愛すべき人柄の人で、事件にまつわるおもしろい話をして下さったが、プライバシーに関わらない範囲で説明内容を補いました。)

2018年03月04日

Leonard v. Pepsico ペプシポイントを集めて本物の戦闘機をもらえるか?


ペプシのCMを見てポイントを集めれば本物の戦闘機がもらえると思った大学生

レオナード 対 ペプシコ
Leonard v. Pepsico

88 F. Supp. 2d 116
ニューヨーク南地区合衆国地方裁判所
United States District Court For the Southern District of New York
1999


 被告のペプシコは、ペプシコーラの販売で知られる著名な飲料メーカーである。1995年10月、ペプシコは「ペプシ・スタッフ(“Pepsi Stuff”)」という名のペプシコーラ販売促進キャンペーンを開始した。これは、ペプシコーラに付いているポイントを一定数集めると、それと引き換えにペプシのロゴの入ったTシャツやジャケットなどがもらえるというものであり、引換品のカタログが一般に無料配布された。このカタログには、53品目がそれに必要なポイント数とともに掲載されていた。必要なポイント数は、ジャケット用のワッペン(15ポイント)からマウンテン・バイク(3,300ポイント)までさまざまであったが、最低15ポイントを集めれば、不足分は1ポイントを10セントに換算して現金を追加して入手することも可能であった。カタログには注文書が添付されていた。
キャンペーンの一環として、テレビCMが放映された。そのCMは以下のようなものであった。
 ペプシロゴの入ったTシャツを着た10代の少年が、その上からジャケットを羽織って自室から出て来て、玄関でサングラスをかけて外出する。このシーンにそって「Tシャツ 75ペプシ・ポイント」「皮ジャケット 1,450ペプシ・ポイント」「サングラス 175ペプシ・ポイント」という字幕が流れる。場面が変わって暴風にさらされた学校のシーンが映され、垂直離着陸可能なジェット機のハリア戦闘機が校舎の横に着陸する。コックピットが開き、先ほどの少年がペプシを手に現れて「バスより断然速い」(Sure beats the bus)と言い、「ハリア戦闘機 7,000,000ペプシ・ポイント」という字幕が流れる。
 原告のジョン・レオナード(John Leonard)君(当時21歳の大学生)は、このコマーシャルに触発され、ペプシ・ポイントを集めてハリア戦闘機を手に入れようと決心したが、必要なポイントを集めるまでペプシを買い続けることは不可能であると悟った(700万ポイントを集めるためには、毎日約190本のペプシコーラを100年間購入し続けなければならない)。そこで原告は不足ポイントを現金で補って入手する方法を選択し、知人から70万ドルを集めることに成功した。1996年3月、原告は、注文書と15ペプシ・ポイント、それに700,008ドル50セントの小切手を添えて被告に送付した(現金がペプシ・ポイントの不足を補うものであるなら、小切手金額は699,998ドル50セントであると考えられるが、判決には原告の送った小切手金額の算定について説明はない)。 ペプシ・スタッフのカタログには、ポイント交換対象の品としてハリア戦闘機は記載されていなかったが、原告は注文書の「品目」欄に「ハリア戦闘機」、「合計ポイント」欄には「7,000,000ポイント」と記入した。原告は、同封した手紙に、小切手が「ペプシ・スタッフのコマーシャルの中で広告されているような新品のハリア戦闘機を特に入手するために」ペプシ・ポイントの不足分を補うものであると書いた。
 1996年5月、被告は原告の注文を拒絶して小切手を返送した。被告はその理由を次のように説明した。
「あなたが要求した品は、ペプシ・スタッフ・コレクションの一部ではありません。それは、カタログにも注文書にも含まれておらず、このプログラムでは、カタログの商品のみがポイントと交換できます。ペプシのコマーシャルのハリア戦闘機は、空想的なものであり、単にユーモアのある娯楽的な広告をつくるために盛り込まれました。あなたが経験したかもしれない誤解や混乱についてお詫びいたします。」
 原告と被告の間でさらに手紙のやりとりがなされた後、原告はニューヨークの合衆国地方裁判所に契約違反で被告を訴えた。
 通常、売買契約は、~を~円で買いませんか」という申込(offer)と、その申込に示された条件どおりで「買います」という承諾(acceptance)によって成立する。この事件の原告は、テレビコマーシャルが、ハリア戦闘機を与えるという「申込」であり、必要なペプシ・ポイントと追加の小切手をペプシコに送ったことが「承諾」になると主張した。


≪Par.1≫
[1] First, the commercial cannot be regarded in itself as sufficiently definite, because it specifically reserved the details of the offer to the Catalog. [2] The commercial itself made no mention of the steps a potential offeree would be required to take to accept the alleged offer of a Harrier Jet. [3]Second, even if the Catalog had included a Harrier Jet among the items that could be obtained by redemption of Pepsi Points, the advertisement of a Harrier Jet by both television commercial and catalog would still not constitute an offer. [4]The absence of any words of limitation such as "first come, first served," renders the alleged offer sufficiently indefinite that no contract could be formed.


[第1文]
 First, the commercial cannot be regarded in itself as sufficiently definite,
  because it specifically reserved the details of the offer to the Catalog.

〈語句〉
・first 副)第一に、最初に
・commercial 名)コマーシャル、形)商業の 
・regard A as B 他)AをBだと見なす
・in itself 副)それ自体で
・sufficiently 副)充分に
・definite 形)明確な
・specifically 副)特に、はっきりと
・reserve A to B 他)AをB(のため)に取っておく、
・detail 名)詳細
・offer 名)申込
・Catalog 名)ペプシ・スタッフのカタログ


〈文法〉
● cannot be regarded
 受動態に cannot が付いた形であり、直訳は「見なされることはできない」と

 なるが、日本語として不自然であるので「見なすことはできない」と訳す。

  この場合、主語は、一般の人または「当裁判所、裁判官」であるが、日本語で

 は英語と異なり主語を省略できる。

● sufficiently definite  例えば、他に何も説明せずに「私の本を買いませんか」

 と述べることは、どんな本をいくらで、などが不明確であるので売買の申込とは

 見なされない。契約法上、売買の申込とみなされるためには、その内容が充分

 に明確でなけばならない。

● reserve the details~、詳細な内容をコマーシャルでは説明せずに、カタログ

 に記載するために「取っておいている」、つまりカタログの説明にまかせてい

 る、という意味である。


〈訳〉
 第1に、そのコマーシャルはそれ自体で充分に明確であると見なすこと

 がでない。申込の詳細をカタログにはっきりと委ねていたからである。



[第2文]
 The commercial itself made no mention of the steps a potential offeree
  would be required to take to accept the alleged offer of a Harrier Jet.

〈語句〉
・commercial 名)コマーシャル
mention 名)言及 他)~に言及する
 make a mention of ~の形で「~に言及する」= mention
・step 名)1.手段、段階
・potential 形)1.潜在的な、2.見込みのある
● offeree 名)被申込者(申込を受けた人)
  ※~ee は「~される人」 employee 雇われる人→従業員

● require A to do~ 他)Aに~するように求める(要求する)
   A is required to do~ (受動態)~することを求められる

・accept 他)~を承諾する
・alleged 他)~を申し立てる、主張する
・Harrier Jet ハリア戦闘機


〈文法〉
●基本構造:第3文型
   commercial made no  mention
       S      V       O  

   「コマーシャルは、~に言及していない」

● a potentialの前に関係代名詞が省略されていることは、次の3点から分かる。
  ① mention のところですでに第3文型が完成している。
  ② 2つの名詞(steps と a potential)が接続詞なく連続している。
  ③ 後続の take に目的語がない(先行詞=stepsとして前に移動している)。

  steps ←〔(which) a potential offeree would be required to take〕
   take steps 「段階を踏む、手続きを取る」が基本にあり、

   それに be required toが組み合わさっている。

● would 「もしこのコマーシャルが申込であるとすれ」という仮定を含意する

 仮定法過去である。

● to accept ~ 副詞的用法の不定詞「~を承諾するために」 

  ※ to不定詞は、本来前置詞の to (toward)の意味をもっているので、
    「~する方向で」「~することに向けて」という含意をもつ 。  
   例) I am studying to pass the bar exam.  
    「私は司法試験に合格することに向けて勉強している。」 
 拙稿「原型不定詞について」『英語教育 』1997年11月号(84-85頁)参照。  

● alleged offer 「申込であると主張さ(申立てら)れているもの」
 この表現には、裁判所が申込かどうかについて認定する以前に当事者がそう

 主張しているという意味合いがある。

  このCMはハリア戦闘機の申込ではないというのがこの判決の結論である。


〈訳〉
 そのコマーシャル自体は、被申込者になりうる人が、ハリア戦闘機の申込

 であると原告が申立てているものを承諾するために取らなければならない

 手続きにいてまったく言及していなかった。



[第3文]
  Second, even if the Catalog had included a Harrier Jet among the items
  that could be obtained by redemption of Pepsi Points, the advertisement
 ofa Harrier Jet by both television commercial and catalog would still not
  constitute an offer.


〈語句〉
・Second 副)第2に
・even if たとえ~であったとしても
・include 他)~を含んでいる
・item 名)1.項目、2.品目
・obtain 他)~を手に入れる
・redemption 名)買戻し、償還 ここではペプシ・ポイントとの交換
・advertisement 名)広告、宣伝
・television commercial テレビコマーシャル
・catalog 名)カタログ
・still not まだ~ない
・constitute 他)~を構成する
・offer 名)申込


〈文法〉
● 全体が仮定法過去完了と仮定法過去の組み合わせた1文でできている。

 つまり、去に実際に起ったこととは異なることを仮定して、その場合、

 現在は~であろうと推定する表現である。

  「過去に…していたとすれば、現在…しているであろう。」
   例)If Ihad not methim at that time, Iwould beruined by now.   
  「あの時彼に出会っていなかったとすれば、今ごろ私は破滅している

   だろう。」

● 帰結節が仮定法過去であるのは、both television commercial and catalog

 does notconstitute an offer. という現在形の文が基礎にあるからである。

  コマーシャル自体が過去のものでも、判決の時点で裁判官がコマーシャルと

 カタログを目にしてそのように判断している場合は現在形を用いる。第1文で

 も the commercial cannot beregardedという現在形の表現が使われている。

● items that could ~の that が関係代名詞であり、名詞のitemsを説明している

 ことは次の2点から分かる。
   ① 直前の前置詞 among の目的語である(全体として名詞になる)。
   ② that の後に主語がない


〈訳〉
 第2に、たとえカタログがペプシ・ポイントの交換によって入手しうる品

 目1つとしてハリア戦闘機を載せていたとしても、テレビコマーシャル

 とカタグの両方によるハリア戦闘機の広告は、依然として申込を構成し

 ないであろう。


[第4文]
 The absence of any words of limitation such as "first come, first served,"
  renders the alleged offer sufficiently indefinite that no contract could be
  formed.

〈語句〉
・absence 名)不在、欠乏.
・limitation 名)制限  
・such as ~ ~(など)のような
● “First come, first served”
  最初に来て、最初に商品を提供された人→「早い者勝ち」

● S render O + C S は O を C の状態する
 → SのためにOはCの状態になる

・alleged 他)~を申し立てる、主張する
・indefinite  形)不明確な
・contract 名)契約    
・form 名)形、他)~を形成する


〈文法〉
● 基本構造:第5文型
  absence renders  offer  indefinite
    S     V     O    C 
   「欠如が申込を不明確にする」 
    →(意訳)「~がないために申込が不明確になる」

● absence~any は、not~anyと同様の意味であるので、「まったくない」と

 訳す。

● limitation は、それだけでは何の「制限」か分からないが、「『早い者勝ち』

 などのうな」という句が続くことから論理的に考えて、申込を承諾できる人

 の数を制限するという趣旨であることが分かる。

● sufficiently~that…
  「充分に(非常に)~であるので…」

● could be~:「カタログにハリア戦闘機が掲載されていたとしても」という

 前文の仮定が引き続き含まれている。


〈訳〉
 「早い者勝ち」などのような承諾者を制限する言葉がまったくないために、

 申込であると主張されているものが非常に不明確になっているのでどのよ

 うな契約も形成されえない。
(※注釈:例えば、コマーシャルに「先着1名限り」などの表現が含まれていたと

   すると、本当にハリア戦闘機がもらえると思った人が原告以外にも多くいた

   であろう。)




≪Par.2≫
[1] Plaintiff's understanding of the commercial as an offer must also be rejected because the Court finds that no objective person could reasonably have concluded that the commercial actually offered consumers a Harrier Jet. [2] In evaluating the commercial, the Court must not consider defendant's subjective intent in making the commercial, or plaintiff's subjective view of what the commercial offered, but what an objective, reasonable person would have understood the commercial to convey


[第1文]
  Plaintiff's understanding of the commercial as an offer must also be
  rejected because the Court finds that no objective person could reasonably
  have concluded that the commercial actually offered consumers a Harrier
  Jet.

〈語句〉
・plaintiff 名)原告  
・understanding 名)理解
・commercial 名)コマーシャル
・as 前)~として
・offer 名)申込
・reject 他)~を拒絶する
● the Court  大文字になっているのは、この判決を書いている裁判所であるこ

  とを示ているので「当裁判所」と訳す。

・find 他)(事実などを)認定する
・objective 形)客観的な 
・reasonably 副)1.合理的に、然るべく
・conclude that… …と結論する
・actually 副)実際に、本当に
・offer O1+ O2他)O1に O2を提供すると申し出る、売りに出す
・consumer 名)消費者
・Harrier Jet 名)ハリア戦闘機


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  understanding be rejected
     S      V    C  「理解が拒絶される」

● 主語は、Plaintiff’s understanding of A as Bという形をしている。
  これを文章化すると:
    Plaintiff understands that A is B
 「原告のBとしてのAの理解」→「原告がAがBであると理解していること。」

● no objective person could reasonably have concluded…:仮定法過去完
  if 節はないが、「客観的な人(objective person)が意見を求められたと

  すれば」いう含意がある。

● reasonably という副詞は、法律の文書ではよく見かける。reason は、動詞で

 は「理由を考える、推論する」という意味であるので、reasonable は「理由が

 分かる」という原意である。しがって、reasonably have concludedは、

 「~であると結論たしても、その理由が他の人にも分かる」という意味で

 ある。


〈訳〉
 また原告がそのコマーシャルを申込と理解していることも拒絶されなけれ

 ばならない。当裁判所は、客観的な人の中で、そのコマーシャルが本当に

 ハリア戦闘機を消費者に提供していると然るべく結論しえた人はいなかっ

 たと認定するからである。


[第2文]
 In evaluating the commercial, the Court must not consider defendant's
  subjective intent in making the commercial, or plaintiff's subjective view of
  what the commercial offered, but what an objective, reasonable person
  would have understood the commercial to convey
 
〈語句〉
・evaluate 他)~を評価する
・commercial 名)コマーシャル
・the Court名)当裁判所
・consider 他)~を考慮する、検討する
・defendant 名)被告
・subjective 他)主観的な
・intent 名)意図
・plaintiff 名)原告
・view 名)見解、意見
・offer 他)~を提供する
・objective 形)客観的な
・reasonable 形)合理的な、通常の判断能力を備えた
● reasonable personは、法律の解釈基準としてよく用いられる。ふつう人は

  どう判断するかという基準である。「合理的な人」と訳す方が原語に近いが、

  そう訳すと通常以上に合理的精神の持ち主という意味にとられるので、

  「通常の判断能力を備えた人」と訳す。

・understand A to do~ Aが~すると理解する
・convey 他)1.~を伝える、2.~を運ぶ


〈文法〉
●基本構造:第3文型
  Court must not consider intent    
   S         V    O 

  「裁判所は、意図を考慮してはならない。」

● In evaluating the commercial 「コマーシャルを評価するさいに」

● not consider~but what…:not consider A but B  AではなくB を考慮する
  A = consider とbut に挟まれている部分、defendant’s ~offered
   or plaintiff’s~も not considerの目的語であることが分かる。

● defendant’s subjective in making the commercial
  「コマーシャルを作るさいの被告の主観的意図」

● subjective view of A 「Aに関する主観的見解」 
   A=what the commercial offered 「コマーシャルが何を提供したか」

● what~convey
  not A but B の Bにあたる部分であり、considerの目的語になっている。

● would have understand … 仮定法過去完了
 「~であれば、…をどう理解したであろうかということ」
   understand A to do~ 「Aが~すると理解する」 

● conveyの後に目的語がないので、それが what「何」となって前に移動してい

 ることが分かる。「何を伝えていると理解するか」


〈訳〉
 コマーシャルを評価するさい、当裁判所はそのコマーシャルを作るさいの被

 告の観的意図やそのコマーシャルが何を提供したかに関する原告の主観的

 見解を考してはならず、通常の判断能力を備えた客観的な人ならばそのコ

 マーシャルがを伝えていると理解したかを考慮しなければならない。




≪Par.3≫
[1] The implication of the commercial is that Pepsi Stuff merchandise will inject drama and moment into hitherto unexceptional lives. [2] The commercial in this case thus makes the exaggerated claims similar to those of many television advertisements: that by consuming the featured clothing, car, beer, or potato chips, one will become attractive, stylish, desirable, and admired by all. [3] A reasonable viewer would understand such advertisements as mere puffery, not as statements of fact.


[第1文]
 The implication of the commercial is that Pepsi Stuff merchandise will inject
 drama and moment into hitherto unexceptional lives.

〈語句〉
・implication 名)含意、趣意
・commercial 名)コマーシャル
・Pepsi Stuff ペプシ・スタッフの
・merchandise 名)商品
・inject A into B  AをBに注入する、導入する
・moment 名)1.見せ場、特別の機会、2.瞬間
・hitherto 副)今までのところ(まだ)
・unexceptional 形)例外的でない、平凡な
  反対語は exceptional 形)例外的な、非凡な


〈文法〉
● 基本構造:第2文型 
   implication is  { that Pepsi…lives }
      S     V     C  「含意は、{  } ということである。」

● will inject~の willは、主語の性質を表すいわゆる「習性のwill」と見ることも

 できるが、単に「ペプシを買えば~なる」という未来形と見ることもできる。


〈訳〉
 そのコマーシャルの趣意は、ペプシ・スタッフの商品がこれまで平凡だっ

 た生活にドラマと見せ場を導入してくれるということである。



[第2文]
  The commercial in this case thus makes the exaggerated claims similar to
  those of many television advertisements: that by consuming the featured
  clothing, car, beer, or potato chips, one will become attractive, stylish,
  desirable, and admired by all.

〈語句〉
・commercial 名)コマーシャル
・case 名)ケース、事件
・thus 副)1.このように、2.したがって
・exaggerate 他)~を誇張する   exaggerated 形)誇張された、大げさな
・ claim 1.要求(する)、請求(する)、2.主張(する)
   make a claim 主張(要求)する
・similar to 形)~に類似する
・advertisement 名)広告、宣伝
・consume 他)~を消費する
・featured 形)呼び物の、(コマーシャルなどの)対象の
・clothing 名)衣類、衣服
・attractive 形)魅力的な
・stylish 形)当世風の、いきな、ハイカラな
・desirable 形)1、望ましい、2.(性的な)魅力的のある
・admire 他)~を称賛する  admired 形)称賛された


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  commercial makes claims
     S      V   O  「コマーシャルは主張する。」

● The commercial in this case thus makes the exaggerated claims similar to ~
   この文の文型は、文法上次の2通りに考えられる。 
    ① 第5文型: commercial makes claims similar to~ 
               S    V    O   C 
            「コマーシャルは主張を~と似させる。」
    ② 第3文型commercial makes claims←〔 similar to~ 〕
               S    V    O          
         similar to~は、claims を後ろから修飾する形容詞句  

  どちらが正しいかは文法のみでは決定できない文法判断の限界である。

 そこで、内容を考えてどちらが論理的な話になるかを検討する。第5文型で

 あるとすると「そのーシャルは、主張を多くのテレビ広告と似たのもの

 にするとなり、意味不明とまでは言えないが分かりにくい文になるので、

 第3文型「そのコマーシャルは、多くのテレビ広告と似た主張を行っている」

 であると判断する。

●:that by consuming…は、one will become attractive という第2文型の完全

 なを伴っており、コロンで区切られていること、などから同格節であるこ

 とが分かる。
  ただし、それが修飾しているものとして可能性がある名詞は、2つある。
      ① exaggeratedclaims
      ② those of television advertisements
  これも文法判断の限界である。②のthoseは、exaggerated claimsの繰り返し

 を避ける語であるので、①も②いずれも「誇張された主張」ということであり、

 that 以下には大げさな話が書かれている。
  しかし、① exaggerated claimsは、この事件のコマーシャルの「誇張された」

 主張(ハリア・ジェットで登校するなど)を指しており、that 以下の「衣服、

 自動車」などと整合しない

  しがって②those~advertisementsを説明する同格節であると見る方が論理的

 である。
   ① exaggerated claims×  that by~one will become attractive…
    ハリアジェットで登校      衣服、自動車、ビール   

   
   ② those[that by~one will become attractive…]

● attractive~adimired は、すべてbecomeの補語である(「~になる」)。
 3つ目のadmired の前にだけ and が付いているので分かる。

 


〈訳〉
 したがって、このケースのコマーシャルは、多くのテレビ広告の主張と類

 似する誇張された主張を行っている。つまり、宣伝対象の服、自動車、ビ

 ール、ポテトチップスを消費することによって、魅力的に、スタイリッシ

 ュに、望ましくなり、誰にも称賛されるという主張である。



[第3文]
 A reasonable viewer would understand such advertisements as mere
  puffery, not as statements of fact.

〈語句〉
・reasonable 形)合理的な、通常の判断能力を備えた
・viewer 名)(テレビの)視聴者
・understand 他)~を理解する
・advertisement 名)宣伝、広告
・mere 形)単なる
・puffery 名)誇大広告、誇大表現
・statement 名)述べること、陳述
・fact 名)事実


〈文法〉
● would 仮定法過去 if 節はないが「通常の判断能力を備えた視聴者であれば」
  という仮定が含意されている。

● understand A as B  AをBとして理解する、A が B であると理解する。


〈訳〉
 通常の判断能力を備えた視聴者であれば、そのような広告は単なる誇大広

 告であり、事実を述べたものではないと理解するであろう。




≪Par.4≫
[1] The number of Pepsi Points the commercial mentions as required to "purchase" the jet is 7,000,000. [2]To amass that number of points, one would have to drink 7,000,000 Pepsis (or roughly 190 Pepsis a day for the next hundred years -- an unlikely possibility), or one would have to purchase approximately $ 700,000 worth of Pepsi Points. [3]The cost of a Harrier Jet is roughly $ 23 million dollars, a fact of which plaintiff was aware when he set out to gather the amount he believed necessary to accept the alleged offer. [4]Even if an objective, reasonable person were not aware of this fact, he would conclude that purchasing a fighter plane for $ 700,000 is a deal too good to be true.


[第1文]
 The number of Pepsi Points the commercial mentions as required to
  "purchase" the jet is 7,000,000.

〈語句〉
・the number of ~の数
・Pepsi Point ペプシ・ポイント
・mention 他)~を言及する
 mention A as B  BとしてAに言及する
・require 他)~を要求する、必要とする
 required 形)必要とされる
・purchase 他)~を購入する
・jet 名)ジェット機、ここではハリア戦闘機

〈文法〉
● 基本構造:第2文型 
  number is 7,000,000
   S     V   C  「数は700万である」

 mentions も required も、他動詞であるのに後に目的語がないので、基本構造

 を構成する動詞として機能していないことが分かる。他方、is は動詞として

 しか機能しないので基本構造の動詞であることが分かる。

number of Pepsi Points ← [which] the commercial mentions as~〕 is
  Pepsi Pointsとthe commercial の間に関係代名詞が省略されている。
     ①2つの名詞が接続詞なく並列されている
     ② mention の後に目的語(何に言及するのか)がない。
   先行詞は、The number of Pepsi Points の number である。
   「 コマーシャルが~として言及するペプシ・ポイントの数は、」

● as required to “purchase” the jet
 「ハリア戦闘機を『購入する』ために必要であるとして」
  purchase がカッコに入っているのは、実際には「購入」ではなく、ポイン

  ト交換(と補充的に現金)によって入手できるというのが原告の主張である

  からである。


〈訳〉
 そのコマーシャルがハリア戦闘機を「購入する」ために必要であると言及

 しているペプシ・ポイントの数は、700万である。



[第2文]
 To amass that number of points, one would have to drink 7,000,000 Pepsis
  (or roughly 190 Pepsis a day for the next hundred years ーーan unlikely
  possibility), or one would have to purchase approximately $ 700,000
  worth of Pepsi Points.


〈語句〉
・amass 他)~を蓄積する、大量に集める
・one (一般的に)人
・Pepsi ペプシ(コーラ)
・roughly  概算で、ざっと
・unlikely 形)ありそうもない
・possibility 名)可能性
・purchase 他)~を購入する
・approximately 副)おおよそ
・~worth of… ~の価値のある…

〈文法〉
● To amass~ 副詞的用法の不定「~を集めるためには」

● that number of points 「その数のポイント」は、前文の「700万」ポイ

 ントのことである。

● one would は、仮定法過去であり、「もし本当に集める人がいるとすれば」

 いう仮定が含意されている。

●(  )内は、700万本のペプシを1日何本で何年かかるかと言い換えてい

 るのでhave drink とつながっている。”-ー” は、it is an unlikely possibility

 が省略された形であり、it はその前に述べられた内容である。


〈訳〉
 その数のポイントを集めるためには、700万本のペプシ(ざっと日に190

 を今後100年間――ありそうもない可能である)を飲まなければならないか、

 おおよそ70万ドルの価値のあるペプシ・ポイントを購入しなければならない

 であろう。



[第3文]
  The cost of a Harrier Jet is roughly $ 23 million dollars, a fact of which
  plaintiff was aware when he set out to gather the amount he believed
  necessary to accept the alleged offer.

〈語句〉
・cost 名)1.値段、2.費用、コスト
・roughly  概算で、ざっと
・plaintiff 名)原告
・aware 形)気づいている be aware of~ ~に気づいている
・set out to do~ ~し始める
・gather 他)~を集める
・amount 名)1.総額、金額、2.量
・necessary 形)必要な
・accept 他)~を承諾する
・alleged 形)申立てられているところの
・offer 名)申込


〈文法〉
基本構造:第2文型
   cost is $ 23 million dollars 
   S  V    C    「価格は 2,300 万ドルである。」   

      
● The cost~million dollars と a fact… の前後関係は同格である。

  「~である、それは…事実である。」このことは、次の2点から分かる。
    ① dollars で第2文型が完成している。
    ② a fact 以下は、関係代名詞節で修飾されているが、

     骨組は「~という事実」という名詞である。

● a fact ←〔of which plaintiff was aware…〕
  plaintiff was aware of a factという文が基本にあり、a factを先行詞とす

  る関係代名詞節になっている。

● the amount と he believed~ との間に関係代名詞が省略されている。
  このことは、次の2点から分かる。
   ① amountで文を完結できる。
   ② amount と he の間に接続詞がない。
   ③ believeの目的語が後にない。

  → he believed amount necessary to…
     S   V    O     C
  この5文型の文章(「原告はその金額が…するために必要であると信じた」)

  が基本にあり、the amount を先行詞とする関係代名詞節になっている。


〈訳〉
 ハリア戦闘機の価格は、おおよそ2,300万ドルであり、それは、申込であ

 ると原告が申立てているものを承諾するために必要であると信じた金額を

 集め始め、原告が気づいていた事実である。


[第4文]
  Even if an objective, reasonable person were not aware of this fact, he
  would conclude that purchasing a fighter plane for $ 700,000 is a deal too
  good to be true.

〈語句〉
・even if たとえ~であるとしても
・objective 形)客観的な
・reasonable person 通常の判断能力を備えた人
・be aware of ~に気づいている
・conclude that… …と結論する
・purchase 他)~を購入する
・fighter plane 戦闘機
・for ~(の値段)で
・deal 名)取引
・true 形)本当の


〈文法〉
● Even if~were は、仮定法過去である。通常の判断能力を備えた人は、普通こ

 の事実に気づくであろうが、「たとえ気づいていないとしても」という意味で

 ある。

● this fact「この事実」とは、前文の「ハリア戦闘機の値段は、おおよそ2,300

 万ドル」という事実のことである。

● conclude that…のthat節の中の主語は、目的語をとる動名詞である。
   S=〔purchasing fighter plane〕  
       (v)       (o) 「戦闘機を購入すること」
  ※ joggoing, shopping, training などの日本語化しているものを想起すると、
   動名詞が名詞であることはとらえやすい。             


● deal ←〔too good to be true〕
  形容詞句が後からdealを修飾している。deal の後に which is が省略されてい

  ると見てもよい。 「あまりに有利で本当ではありえない取引」


〈訳〉
 たとえ通常の判断能力を備えた客観的な人がこの事実に気づいていないと

 しても、戦闘機を70万ドルで購入することは、あまりに有利な取引で本

 当ではないと結論するであろう。



【解説】
 わかりやすく単純化して言うと、売買契約は、「~を~円で買いませんか」という売主による『申込』(offer)がまずあり、「はい、その値段で買います」という買主の『承諾』(acceptance)があって成立する。
 新聞広告やテレビコマーシャルなどで商品を表示することは、売買の申込ではないと解釈されてきた。そう解釈しないと広告を見た人の買いたいという申し出がすべて承諾になって売買契約が成立してしまい、品切れの場合でも売主に契約責任が生じるからである。したがって、広告は『申込の誘引』(invitation to offer)、つまり買主の「買いたい」という申込を誘うものと解釈されてきた。買主が申込むのであるから、在庫切れなど場合などは、売主は承諾を拒むことができる。
 しかし、例外的に広告が申込であるとみなされる場合がある。それは、例えば「〇月×日、先着50名様に限り、半額の5,000円でご提供」などのように条件が明確で交渉の余地がなく、在庫切れを心配する必要がないなどの場合であり、この場合は、売主はその日の先着50名に5,000円で売る責任がある。
 Leonard事件のテレビコマーシャルも、カタログと一体となって、一定のペプシ・ポイントを集めるという条件を満たせば商品がもらえるというものであり、例外的に申込にあたると言える。しかし、ハリア戦闘機については、カタログにも掲載されておらず、テレビコマーシャルを見たふつうの人は、ハリア戦闘機がもらえるとは解釈しないので、この例外には当たらないという判決になった。この判決には、このコマーシャルを見て応募する年齢層(子供)がどう判断するかを検討しなければならないという批判がある。ペプシコは、この事件の後、コマーシャルの中で表示されるハリア・ジェットのポイントを100倍の7億ポイントに変更した。
   拙稿「 英米契約法における申込の誘引と広告による申込について」
  姫路法学59号(2016年)参照

2018年03月04日