Leonard v. Pepsico ペプシポイントを集めて本物の戦闘機をもらえるか?


ペプシのCMを見てポイントを集めれば本物の戦闘機がもらえると思った大学生

レオナード 対 ペプシコ
Leonard v. Pepsico

88 F. Supp. 2d 116
ニューヨーク南地区合衆国地方裁判所
United States District Court For the Southern District of New York
1999


 被告のペプシコは、ペプシコーラの販売で知られる著名な飲料メーカーである。1995年10月、ペプシコは「ペプシ・スタッフ(“Pepsi Stuff”)」という名のペプシコーラ販売促進キャンペーンを開始した。これは、ペプシコーラに付いているポイントを一定数集めると、それと引き換えにペプシのロゴの入ったTシャツやジャケットなどがもらえるというものであり、引換品のカタログが一般に無料配布された。このカタログには、53品目がそれに必要なポイント数とともに掲載されていた。必要なポイント数は、ジャケット用のワッペン(15ポイント)からマウンテン・バイク(3,300ポイント)までさまざまであったが、最低15ポイントを集めれば、不足分は1ポイントを10セントに換算して現金を追加して入手することも可能であった。カタログには注文書が添付されていた。
キャンペーンの一環として、テレビCMが放映された。そのCMは以下のようなものであった。
 ペプシロゴの入ったTシャツを着た10代の少年が、その上からジャケットを羽織って自室から出て来て、玄関でサングラスをかけて外出する。このシーンにそって「Tシャツ 75ペプシ・ポイント」「皮ジャケット 1,450ペプシ・ポイント」「サングラス 175ペプシ・ポイント」という字幕が流れる。場面が変わって暴風にさらされた学校のシーンが映され、垂直離着陸可能なジェット機のハリア戦闘機が校舎の横に着陸する。コックピットが開き、先ほどの少年がペプシを手に現れて「バスより断然速い」(Sure beats the bus)と言い、「ハリア戦闘機 7,000,000ペプシ・ポイント」という字幕が流れる。
 原告のジョン・レオナード(John Leonard)君(当時21歳の大学生)は、このコマーシャルに触発され、ペプシ・ポイントを集めてハリア戦闘機を手に入れようと決心したが、必要なポイントを集めるまでペプシを買い続けることは不可能であると悟った(700万ポイントを集めるためには、毎日約190本のペプシコーラを100年間購入し続けなければならない)。そこで原告は不足ポイントを現金で補って入手する方法を選択し、知人から70万ドルを集めることに成功した。1996年3月、原告は、注文書と15ペプシ・ポイント、それに700,008ドル50セントの小切手を添えて被告に送付した(現金がペプシ・ポイントの不足を補うものであるなら、小切手金額は699,998ドル50セントであると考えられるが、判決には原告の送った小切手金額の算定について説明はない)。 ペプシ・スタッフのカタログには、ポイント交換対象の品としてハリア戦闘機は記載されていなかったが、原告は注文書の「品目」欄に「ハリア戦闘機」、「合計ポイント」欄には「7,000,000ポイント」と記入した。原告は、同封した手紙に、小切手が「ペプシ・スタッフのコマーシャルの中で広告されているような新品のハリア戦闘機を特に入手するために」ペプシ・ポイントの不足分を補うものであると書いた。
 1996年5月、被告は原告の注文を拒絶して小切手を返送した。被告はその理由を次のように説明した。
「あなたが要求した品は、ペプシ・スタッフ・コレクションの一部ではありません。それは、カタログにも注文書にも含まれておらず、このプログラムでは、カタログの商品のみがポイントと交換できます。ペプシのコマーシャルのハリア戦闘機は、空想的なものであり、単にユーモアのある娯楽的な広告をつくるために盛り込まれました。あなたが経験したかもしれない誤解や混乱についてお詫びいたします。」
 原告と被告の間でさらに手紙のやりとりがなされた後、原告はニューヨークの合衆国地方裁判所に契約違反で被告を訴えた。
 通常、売買契約は、~を~円で買いませんか」という申込(offer)と、その申込に示された条件どおりで「買います」という承諾(acceptance)によって成立する。この事件の原告は、テレビコマーシャルが、ハリア戦闘機を与えるという「申込」であり、必要なペプシ・ポイントと追加の小切手をペプシコに送ったことが「承諾」になると主張した。


≪Par.1≫
[1] First, the commercial cannot be regarded in itself as sufficiently definite, because it specifically reserved the details of the offer to the Catalog. [2] The commercial itself made no mention of the steps a potential offeree would be required to take to accept the alleged offer of a Harrier Jet. [3]Second, even if the Catalog had included a Harrier Jet among the items that could be obtained by redemption of Pepsi Points, the advertisement of a Harrier Jet by both television commercial and catalog would still not constitute an offer. [4]The absence of any words of limitation such as "first come, first served," renders the alleged offer sufficiently indefinite that no contract could be formed.


[第1文]
 First, the commercial cannot be regarded in itself as sufficiently definite,
  because it specifically reserved the details of the offer to the Catalog.

〈語句〉
・first 副)第一に、最初に
・commercial 名)コマーシャル、形)商業の 
・regard A as B 他)AをBだと見なす
・in itself 副)それ自体で
・sufficiently 副)充分に
・definite 形)明確な
・specifically 副)特に、はっきりと
・reserve A to B 他)AをB(のため)に取っておく、
・detail 名)詳細
・offer 名)申込
・Catalog 名)ペプシ・スタッフのカタログ


〈文法〉
● cannot be regarded
 受動態に cannot が付いた形であり、直訳は「見なされることはできない」と

 なるが、日本語として不自然であるので「見なすことはできない」と訳す。

  この場合、主語は、一般の人または「当裁判所、裁判官」であるが、日本語で

 は英語と異なり主語を省略できる。

● sufficiently definite  例えば、他に何も説明せずに「私の本を買いませんか」

 と述べることは、どんな本をいくらで、などが不明確であるので売買の申込とは

 見なされない。契約法上、売買の申込とみなされるためには、その内容が充分

 に明確でなけばならない。

● reserve the details~、詳細な内容をコマーシャルでは説明せずに、カタログ

 に記載するために「取っておいている」、つまりカタログの説明にまかせてい

 る、という意味である。


〈訳〉
 第1に、そのコマーシャルはそれ自体で充分に明確であると見なすこと

 がでない。申込の詳細をカタログにはっきりと委ねていたからである。



[第2文]
 The commercial itself made no mention of the steps a potential offeree
  would be required to take to accept the alleged offer of a Harrier Jet.

〈語句〉
・commercial 名)コマーシャル
mention 名)言及 他)~に言及する
 make a mention of ~の形で「~に言及する」= mention
・step 名)1.手段、段階
・potential 形)1.潜在的な、2.見込みのある
● offeree 名)被申込者(申込を受けた人)
  ※~ee は「~される人」 employee 雇われる人→従業員

● require A to do~ 他)Aに~するように求める(要求する)
   A is required to do~ (受動態)~することを求められる

・accept 他)~を承諾する
・alleged 他)~を申し立てる、主張する
・Harrier Jet ハリア戦闘機


〈文法〉
●基本構造:第3文型
   commercial made no  mention
       S      V       O  

   「コマーシャルは、~に言及していない」

● a potentialの前に関係代名詞が省略されていることは、次の3点から分かる。
  ① mention のところですでに第3文型が完成している。
  ② 2つの名詞(steps と a potential)が接続詞なく連続している。
  ③ 後続の take に目的語がない(先行詞=stepsとして前に移動している)。

  steps ←〔(which) a potential offeree would be required to take〕
   take steps 「段階を踏む、手続きを取る」が基本にあり、

   それに be required toが組み合わさっている。

● would 「もしこのコマーシャルが申込であるとすれ」という仮定を含意する

 仮定法過去である。

● to accept ~ 副詞的用法の不定詞「~を承諾するために」 

  ※ to不定詞は、本来前置詞の to (toward)の意味をもっているので、
    「~する方向で」「~することに向けて」という含意をもつ 。  
   例) I am studying to pass the bar exam.  
    「私は司法試験に合格することに向けて勉強している。」 
 拙稿「原型不定詞について」『英語教育 』1997年11月号(84-85頁)参照。  

● alleged offer 「申込であると主張さ(申立てら)れているもの」
 この表現には、裁判所が申込かどうかについて認定する以前に当事者がそう

 主張しているという意味合いがある。

  このCMはハリア戦闘機の申込ではないというのがこの判決の結論である。


〈訳〉
 そのコマーシャル自体は、被申込者になりうる人が、ハリア戦闘機の申込

 であると原告が申立てているものを承諾するために取らなければならない

 手続きにいてまったく言及していなかった。



[第3文]
  Second, even if the Catalog had included a Harrier Jet among the items
  that could be obtained by redemption of Pepsi Points, the advertisement
 ofa Harrier Jet by both television commercial and catalog would still not
  constitute an offer.


〈語句〉
・Second 副)第2に
・even if たとえ~であったとしても
・include 他)~を含んでいる
・item 名)1.項目、2.品目
・obtain 他)~を手に入れる
・redemption 名)買戻し、償還 ここではペプシ・ポイントとの交換
・advertisement 名)広告、宣伝
・television commercial テレビコマーシャル
・catalog 名)カタログ
・still not まだ~ない
・constitute 他)~を構成する
・offer 名)申込


〈文法〉
● 全体が仮定法過去完了と仮定法過去の組み合わせた1文でできている。

 つまり、去に実際に起ったこととは異なることを仮定して、その場合、

 現在は~であろうと推定する表現である。

  「過去に…していたとすれば、現在…しているであろう。」
   例)If Ihad not methim at that time, Iwould beruined by now.   
  「あの時彼に出会っていなかったとすれば、今ごろ私は破滅している

   だろう。」

● 帰結節が仮定法過去であるのは、both television commercial and catalog

 does notconstitute an offer. という現在形の文が基礎にあるからである。

  コマーシャル自体が過去のものでも、判決の時点で裁判官がコマーシャルと

 カタログを目にしてそのように判断している場合は現在形を用いる。第1文で

 も the commercial cannot beregardedという現在形の表現が使われている。

● items that could ~の that が関係代名詞であり、名詞のitemsを説明している

 ことは次の2点から分かる。
   ① 直前の前置詞 among の目的語である(全体として名詞になる)。
   ② that の後に主語がない


〈訳〉
 第2に、たとえカタログがペプシ・ポイントの交換によって入手しうる品

 目1つとしてハリア戦闘機を載せていたとしても、テレビコマーシャル

 とカタグの両方によるハリア戦闘機の広告は、依然として申込を構成し

 ないであろう。


[第4文]
 The absence of any words of limitation such as "first come, first served,"
  renders the alleged offer sufficiently indefinite that no contract could be
  formed.

〈語句〉
・absence 名)不在、欠乏.
・limitation 名)制限  
・such as ~ ~(など)のような
● “First come, first served”
  最初に来て、最初に商品を提供された人→「早い者勝ち」

● S render O + C S は O を C の状態する
 → SのためにOはCの状態になる

・alleged 他)~を申し立てる、主張する
・indefinite  形)不明確な
・contract 名)契約    
・form 名)形、他)~を形成する


〈文法〉
● 基本構造:第5文型
  absence renders  offer  indefinite
    S     V     O    C 
   「欠如が申込を不明確にする」 
    →(意訳)「~がないために申込が不明確になる」

● absence~any は、not~anyと同様の意味であるので、「まったくない」と

 訳す。

● limitation は、それだけでは何の「制限」か分からないが、「『早い者勝ち』

 などのうな」という句が続くことから論理的に考えて、申込を承諾できる人

 の数を制限するという趣旨であることが分かる。

● sufficiently~that…
  「充分に(非常に)~であるので…」

● could be~:「カタログにハリア戦闘機が掲載されていたとしても」という

 前文の仮定が引き続き含まれている。


〈訳〉
 「早い者勝ち」などのような承諾者を制限する言葉がまったくないために、

 申込であると主張されているものが非常に不明確になっているのでどのよ

 うな契約も形成されえない。
(※注釈:例えば、コマーシャルに「先着1名限り」などの表現が含まれていたと

   すると、本当にハリア戦闘機がもらえると思った人が原告以外にも多くいた

   であろう。)




≪Par.2≫
[1] Plaintiff's understanding of the commercial as an offer must also be rejected because the Court finds that no objective person could reasonably have concluded that the commercial actually offered consumers a Harrier Jet. [2] In evaluating the commercial, the Court must not consider defendant's subjective intent in making the commercial, or plaintiff's subjective view of what the commercial offered, but what an objective, reasonable person would have understood the commercial to convey


[第1文]
  Plaintiff's understanding of the commercial as an offer must also be
  rejected because the Court finds that no objective person could reasonably
  have concluded that the commercial actually offered consumers a Harrier
  Jet.

〈語句〉
・plaintiff 名)原告  
・understanding 名)理解
・commercial 名)コマーシャル
・as 前)~として
・offer 名)申込
・reject 他)~を拒絶する
● the Court  大文字になっているのは、この判決を書いている裁判所であるこ

  とを示ているので「当裁判所」と訳す。

・find 他)(事実などを)認定する
・objective 形)客観的な 
・reasonably 副)1.合理的に、然るべく
・conclude that… …と結論する
・actually 副)実際に、本当に
・offer O1+ O2他)O1に O2を提供すると申し出る、売りに出す
・consumer 名)消費者
・Harrier Jet 名)ハリア戦闘機


〈文法〉
● 基本構造:第2文型
  understanding be rejected
     S      V    C  「理解が拒絶される」

● 主語は、Plaintiff’s understanding of A as Bという形をしている。
  これを文章化すると:
    Plaintiff understands that A is B
 「原告のBとしてのAの理解」→「原告がAがBであると理解していること。」

● no objective person could reasonably have concluded…:仮定法過去完
  if 節はないが、「客観的な人(objective person)が意見を求められたと

  すれば」いう含意がある。

● reasonably という副詞は、法律の文書ではよく見かける。reason は、動詞で

 は「理由を考える、推論する」という意味であるので、reasonable は「理由が

 分かる」という原意である。しがって、reasonably have concludedは、

 「~であると結論たしても、その理由が他の人にも分かる」という意味で

 ある。


〈訳〉
 また原告がそのコマーシャルを申込と理解していることも拒絶されなけれ

 ばならない。当裁判所は、客観的な人の中で、そのコマーシャルが本当に

 ハリア戦闘機を消費者に提供していると然るべく結論しえた人はいなかっ

 たと認定するからである。


[第2文]
 In evaluating the commercial, the Court must not consider defendant's
  subjective intent in making the commercial, or plaintiff's subjective view of
  what the commercial offered, but what an objective, reasonable person
  would have understood the commercial to convey
 
〈語句〉
・evaluate 他)~を評価する
・commercial 名)コマーシャル
・the Court名)当裁判所
・consider 他)~を考慮する、検討する
・defendant 名)被告
・subjective 他)主観的な
・intent 名)意図
・plaintiff 名)原告
・view 名)見解、意見
・offer 他)~を提供する
・objective 形)客観的な
・reasonable 形)合理的な、通常の判断能力を備えた
● reasonable personは、法律の解釈基準としてよく用いられる。ふつう人は

  どう判断するかという基準である。「合理的な人」と訳す方が原語に近いが、

  そう訳すと通常以上に合理的精神の持ち主という意味にとられるので、

  「通常の判断能力を備えた人」と訳す。

・understand A to do~ Aが~すると理解する
・convey 他)1.~を伝える、2.~を運ぶ


〈文法〉
●基本構造:第3文型
  Court must not consider intent    
   S         V    O 

  「裁判所は、意図を考慮してはならない。」

● In evaluating the commercial 「コマーシャルを評価するさいに」

● not consider~but what…:not consider A but B  AではなくB を考慮する
  A = consider とbut に挟まれている部分、defendant’s ~offered
   or plaintiff’s~も not considerの目的語であることが分かる。

● defendant’s subjective in making the commercial
  「コマーシャルを作るさいの被告の主観的意図」

● subjective view of A 「Aに関する主観的見解」 
   A=what the commercial offered 「コマーシャルが何を提供したか」

● what~convey
  not A but B の Bにあたる部分であり、considerの目的語になっている。

● would have understand … 仮定法過去完了
 「~であれば、…をどう理解したであろうかということ」
   understand A to do~ 「Aが~すると理解する」 

● conveyの後に目的語がないので、それが what「何」となって前に移動してい

 ることが分かる。「何を伝えていると理解するか」


〈訳〉
 コマーシャルを評価するさい、当裁判所はそのコマーシャルを作るさいの被

 告の観的意図やそのコマーシャルが何を提供したかに関する原告の主観的

 見解を考してはならず、通常の判断能力を備えた客観的な人ならばそのコ

 マーシャルがを伝えていると理解したかを考慮しなければならない。




≪Par.3≫
[1] The implication of the commercial is that Pepsi Stuff merchandise will inject drama and moment into hitherto unexceptional lives. [2] The commercial in this case thus makes the exaggerated claims similar to those of many television advertisements: that by consuming the featured clothing, car, beer, or potato chips, one will become attractive, stylish, desirable, and admired by all. [3] A reasonable viewer would understand such advertisements as mere puffery, not as statements of fact.


[第1文]
 The implication of the commercial is that Pepsi Stuff merchandise will inject
 drama and moment into hitherto unexceptional lives.

〈語句〉
・implication 名)含意、趣意
・commercial 名)コマーシャル
・Pepsi Stuff ペプシ・スタッフの
・merchandise 名)商品
・inject A into B  AをBに注入する、導入する
・moment 名)1.見せ場、特別の機会、2.瞬間
・hitherto 副)今までのところ(まだ)
・unexceptional 形)例外的でない、平凡な
  反対語は exceptional 形)例外的な、非凡な


〈文法〉
● 基本構造:第2文型 
   implication is  { that Pepsi…lives }
      S     V     C  「含意は、{  } ということである。」

● will inject~の willは、主語の性質を表すいわゆる「習性のwill」と見ることも

 できるが、単に「ペプシを買えば~なる」という未来形と見ることもできる。


〈訳〉
 そのコマーシャルの趣意は、ペプシ・スタッフの商品がこれまで平凡だっ

 た生活にドラマと見せ場を導入してくれるということである。



[第2文]
  The commercial in this case thus makes the exaggerated claims similar to
  those of many television advertisements: that by consuming the featured
  clothing, car, beer, or potato chips, one will become attractive, stylish,
  desirable, and admired by all.

〈語句〉
・commercial 名)コマーシャル
・case 名)ケース、事件
・thus 副)1.このように、2.したがって
・exaggerate 他)~を誇張する   exaggerated 形)誇張された、大げさな
・ claim 1.要求(する)、請求(する)、2.主張(する)
   make a claim 主張(要求)する
・similar to 形)~に類似する
・advertisement 名)広告、宣伝
・consume 他)~を消費する
・featured 形)呼び物の、(コマーシャルなどの)対象の
・clothing 名)衣類、衣服
・attractive 形)魅力的な
・stylish 形)当世風の、いきな、ハイカラな
・desirable 形)1、望ましい、2.(性的な)魅力的のある
・admire 他)~を称賛する  admired 形)称賛された


〈文法〉
● 基本構造:第3文型
  commercial makes claims
     S      V   O  「コマーシャルは主張する。」

● The commercial in this case thus makes the exaggerated claims similar to ~
   この文の文型は、文法上次の2通りに考えられる。 
    ① 第5文型: commercial makes claims similar to~ 
               S    V    O   C 
            「コマーシャルは主張を~と似させる。」
    ② 第3文型commercial makes claims←〔 similar to~ 〕
               S    V    O          
         similar to~は、claims を後ろから修飾する形容詞句  

  どちらが正しいかは文法のみでは決定できない文法判断の限界である。

 そこで、内容を考えてどちらが論理的な話になるかを検討する。第5文型で

 あるとすると「そのーシャルは、主張を多くのテレビ広告と似たのもの

 にするとなり、意味不明とまでは言えないが分かりにくい文になるので、

 第3文型「そのコマーシャルは、多くのテレビ広告と似た主張を行っている」

 であると判断する。

●:that by consuming…は、one will become attractive という第2文型の完全

 なを伴っており、コロンで区切られていること、などから同格節であるこ

 とが分かる。
  ただし、それが修飾しているものとして可能性がある名詞は、2つある。
      ① exaggeratedclaims
      ② those of television advertisements
  これも文法判断の限界である。②のthoseは、exaggerated claimsの繰り返し

 を避ける語であるので、①も②いずれも「誇張された主張」ということであり、

 that 以下には大げさな話が書かれている。
  しかし、① exaggerated claimsは、この事件のコマーシャルの「誇張された」

 主張(ハリア・ジェットで登校するなど)を指しており、that 以下の「衣服、

 自動車」などと整合しない

  しがって②those~advertisementsを説明する同格節であると見る方が論理的

 である。
   ① exaggerated claims×  that by~one will become attractive…
    ハリアジェットで登校      衣服、自動車、ビール   

   
   ② those[that by~one will become attractive…]

● attractive~adimired は、すべてbecomeの補語である(「~になる」)。
 3つ目のadmired の前にだけ and が付いているので分かる。

 


〈訳〉
 したがって、このケースのコマーシャルは、多くのテレビ広告の主張と類

 似する誇張された主張を行っている。つまり、宣伝対象の服、自動車、ビ

 ール、ポテトチップスを消費することによって、魅力的に、スタイリッシ

 ュに、望ましくなり、誰にも称賛されるという主張である。



[第3文]
 A reasonable viewer would understand such advertisements as mere
  puffery, not as statements of fact.

〈語句〉
・reasonable 形)合理的な、通常の判断能力を備えた
・viewer 名)(テレビの)視聴者
・understand 他)~を理解する
・advertisement 名)宣伝、広告
・mere 形)単なる
・puffery 名)誇大広告、誇大表現
・statement 名)述べること、陳述
・fact 名)事実


〈文法〉
● would 仮定法過去 if 節はないが「通常の判断能力を備えた視聴者であれば」
  という仮定が含意されている。

● understand A as B  AをBとして理解する、A が B であると理解する。


〈訳〉
 通常の判断能力を備えた視聴者であれば、そのような広告は単なる誇大広

 告であり、事実を述べたものではないと理解するであろう。




≪Par.4≫
[1] The number of Pepsi Points the commercial mentions as required to "purchase" the jet is 7,000,000. [2]To amass that number of points, one would have to drink 7,000,000 Pepsis (or roughly 190 Pepsis a day for the next hundred years -- an unlikely possibility), or one would have to purchase approximately $ 700,000 worth of Pepsi Points. [3]The cost of a Harrier Jet is roughly $ 23 million dollars, a fact of which plaintiff was aware when he set out to gather the amount he believed necessary to accept the alleged offer. [4]Even if an objective, reasonable person were not aware of this fact, he would conclude that purchasing a fighter plane for $ 700,000 is a deal too good to be true.


[第1文]
 The number of Pepsi Points the commercial mentions as required to
  "purchase" the jet is 7,000,000.

〈語句〉
・the number of ~の数
・Pepsi Point ペプシ・ポイント
・mention 他)~を言及する
 mention A as B  BとしてAに言及する
・require 他)~を要求する、必要とする
 required 形)必要とされる
・purchase 他)~を購入する
・jet 名)ジェット機、ここではハリア戦闘機

〈文法〉
● 基本構造:第2文型 
  number is 7,000,000
   S     V   C  「数は700万である」

 mentions も required も、他動詞であるのに後に目的語がないので、基本構造

 を構成する動詞として機能していないことが分かる。他方、is は動詞として

 しか機能しないので基本構造の動詞であることが分かる。

number of Pepsi Points ← [which] the commercial mentions as~〕 is
  Pepsi Pointsとthe commercial の間に関係代名詞が省略されている。
     ①2つの名詞が接続詞なく並列されている
     ② mention の後に目的語(何に言及するのか)がない。
   先行詞は、The number of Pepsi Points の number である。
   「 コマーシャルが~として言及するペプシ・ポイントの数は、」

● as required to “purchase” the jet
 「ハリア戦闘機を『購入する』ために必要であるとして」
  purchase がカッコに入っているのは、実際には「購入」ではなく、ポイン

  ト交換(と補充的に現金)によって入手できるというのが原告の主張である

  からである。


〈訳〉
 そのコマーシャルがハリア戦闘機を「購入する」ために必要であると言及

 しているペプシ・ポイントの数は、700万である。



[第2文]
 To amass that number of points, one would have to drink 7,000,000 Pepsis
  (or roughly 190 Pepsis a day for the next hundred years ーーan unlikely
  possibility), or one would have to purchase approximately $ 700,000
  worth of Pepsi Points.


〈語句〉
・amass 他)~を蓄積する、大量に集める
・one (一般的に)人
・Pepsi ペプシ(コーラ)
・roughly  概算で、ざっと
・unlikely 形)ありそうもない
・possibility 名)可能性
・purchase 他)~を購入する
・approximately 副)おおよそ
・~worth of… ~の価値のある…

〈文法〉
● To amass~ 副詞的用法の不定「~を集めるためには」

● that number of points 「その数のポイント」は、前文の「700万」ポイ

 ントのことである。

● one would は、仮定法過去であり、「もし本当に集める人がいるとすれば」

 いう仮定が含意されている。

●(  )内は、700万本のペプシを1日何本で何年かかるかと言い換えてい

 るのでhave drink とつながっている。”-ー” は、it is an unlikely possibility

 が省略された形であり、it はその前に述べられた内容である。


〈訳〉
 その数のポイントを集めるためには、700万本のペプシ(ざっと日に190

 を今後100年間――ありそうもない可能である)を飲まなければならないか、

 おおよそ70万ドルの価値のあるペプシ・ポイントを購入しなければならない

 であろう。



[第3文]
  The cost of a Harrier Jet is roughly $ 23 million dollars, a fact of which
  plaintiff was aware when he set out to gather the amount he believed
  necessary to accept the alleged offer.

〈語句〉
・cost 名)1.値段、2.費用、コスト
・roughly  概算で、ざっと
・plaintiff 名)原告
・aware 形)気づいている be aware of~ ~に気づいている
・set out to do~ ~し始める
・gather 他)~を集める
・amount 名)1.総額、金額、2.量
・necessary 形)必要な
・accept 他)~を承諾する
・alleged 形)申立てられているところの
・offer 名)申込


〈文法〉
基本構造:第2文型
   cost is $ 23 million dollars 
   S  V    C    「価格は 2,300 万ドルである。」   

      
● The cost~million dollars と a fact… の前後関係は同格である。

  「~である、それは…事実である。」このことは、次の2点から分かる。
    ① dollars で第2文型が完成している。
    ② a fact 以下は、関係代名詞節で修飾されているが、

     骨組は「~という事実」という名詞である。

● a fact ←〔of which plaintiff was aware…〕
  plaintiff was aware of a factという文が基本にあり、a factを先行詞とす

  る関係代名詞節になっている。

● the amount と he believed~ との間に関係代名詞が省略されている。
  このことは、次の2点から分かる。
   ① amountで文を完結できる。
   ② amount と he の間に接続詞がない。
   ③ believeの目的語が後にない。

  → he believed amount necessary to…
     S   V    O     C
  この5文型の文章(「原告はその金額が…するために必要であると信じた」)

  が基本にあり、the amount を先行詞とする関係代名詞節になっている。


〈訳〉
 ハリア戦闘機の価格は、おおよそ2,300万ドルであり、それは、申込であ

 ると原告が申立てているものを承諾するために必要であると信じた金額を

 集め始め、原告が気づいていた事実である。


[第4文]
  Even if an objective, reasonable person were not aware of this fact, he
  would conclude that purchasing a fighter plane for $ 700,000 is a deal too
  good to be true.

〈語句〉
・even if たとえ~であるとしても
・objective 形)客観的な
・reasonable person 通常の判断能力を備えた人
・be aware of ~に気づいている
・conclude that… …と結論する
・purchase 他)~を購入する
・fighter plane 戦闘機
・for ~(の値段)で
・deal 名)取引
・true 形)本当の


〈文法〉
● Even if~were は、仮定法過去である。通常の判断能力を備えた人は、普通こ

 の事実に気づくであろうが、「たとえ気づいていないとしても」という意味で

 ある。

● this fact「この事実」とは、前文の「ハリア戦闘機の値段は、おおよそ2,300

 万ドル」という事実のことである。

● conclude that…のthat節の中の主語は、目的語をとる動名詞である。
   S=〔purchasing fighter plane〕  
       (v)       (o) 「戦闘機を購入すること」
  ※ joggoing, shopping, training などの日本語化しているものを想起すると、
   動名詞が名詞であることはとらえやすい。             


● deal ←〔too good to be true〕
  形容詞句が後からdealを修飾している。deal の後に which is が省略されてい

  ると見てもよい。 「あまりに有利で本当ではありえない取引」


〈訳〉
 たとえ通常の判断能力を備えた客観的な人がこの事実に気づいていないと

 しても、戦闘機を70万ドルで購入することは、あまりに有利な取引で本

 当ではないと結論するであろう。



【解説】
 わかりやすく単純化して言うと、売買契約は、「~を~円で買いませんか」という売主による『申込』(offer)がまずあり、「はい、その値段で買います」という買主の『承諾』(acceptance)があって成立する。
 新聞広告やテレビコマーシャルなどで商品を表示することは、売買の申込ではないと解釈されてきた。そう解釈しないと広告を見た人の買いたいという申し出がすべて承諾になって売買契約が成立してしまい、品切れの場合でも売主に契約責任が生じるからである。したがって、広告は『申込の誘引』(invitation to offer)、つまり買主の「買いたい」という申込を誘うものと解釈されてきた。買主が申込むのであるから、在庫切れなど場合などは、売主は承諾を拒むことができる。
 しかし、例外的に広告が申込であるとみなされる場合がある。それは、例えば「〇月×日、先着50名様に限り、半額の5,000円でご提供」などのように条件が明確で交渉の余地がなく、在庫切れを心配する必要がないなどの場合であり、この場合は、売主はその日の先着50名に5,000円で売る責任がある。
 Leonard事件のテレビコマーシャルも、カタログと一体となって、一定のペプシ・ポイントを集めるという条件を満たせば商品がもらえるというものであり、例外的に申込にあたると言える。しかし、ハリア戦闘機については、カタログにも掲載されておらず、テレビコマーシャルを見たふつうの人は、ハリア戦闘機がもらえるとは解釈しないので、この例外には当たらないという判決になった。この判決には、このコマーシャルを見て応募する年齢層(子供)がどう判断するかを検討しなければならないという批判がある。ペプシコは、この事件の後、コマーシャルの中で表示されるハリア・ジェットのポイントを100倍の7億ポイントに変更した。
   拙稿「 英米契約法における申込の誘引と広告による申込について」
  姫路法学59号(2016年)参照

2018年03月04日