SPANA for Spectral Data Analyses [Example]

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目次
1.平衡の解析例
2. 複数の滴定データ利用
3. 滴定試薬が吸収を示す系の解析
4. サンプル濃度の希釈を伴う滴定データの解析
5. 逆滴定
6. 最適化パラメータ数の削減
7. 滴定中生成する錯体中間体のスペクトル推定
8. 滴定系中に存在する化学種の濃度
9. シミュレーション
10.波形分割
11. 組成分析
12. 3D表示
13. NMRデータの解析
14. 濃度データの解析
15.ユーザー定義関数による最小二乗最適化


1.平衡の解析例

a) 理論モデル
   ここでは下記のようなAとBがAB,BAB型の錯体を生成する2段平衡系をBで滴定するモデルを例として取り上げる。
                             A    +    B    ↔    AB          K1 = [AB]/[A][B]          eq.1
                           AB    +    B    ↔    BAB        K2 = [BAB]/[AB][B]      eq.2

[A]0をAの(全)初期濃度、[B]0を滴定試薬 B の全濃度として、平衡に関与する化学種の濃度関係は以下のように示される。

                           [A]0 = [A] + [AB] + [BAB]              eq.3
                           [B]0 = [B] + [AB] + 2[BAB]           eq.4

ここでBが分光学的に透明でAに関するスペクトルだけが平衡によって変化する場合を考えると、滴定に伴って測定されるスペクトルは以下のように表される(ここでεは化学種 X のモル吸光係数である)。
                           Abs = εA[A] + εAB[AB] + εBAB[BAB]         eq.5
eq.3とeq.5から差スペクトル, ΔAbs, はeq.6で表される。
                           ΔAbs = Abs - εA[A] 0 = Δε1[AB] + Δε2[BAB]   eq.6
ここで、
                           Δε1= εAB - εA   ,    Δε2= εBAB - εA
である。
[AB], [BAB]の濃度は、それぞれ eq.1 - 4 から K1, K2, [A]0, [B]0 を使って算出できるので、ΔAbsの理論値はeq.6から算出することが出来る。
ΔAbs に対応する測定値 ΔAbsobs があれば、測定値と理論値の二乗残差 ss
                           ss = Σ(ΔAbs - ΔAbsobs)2
を最小にするパラメーターのセット、 K1, K2, Δε1, Δε2を求めることで、これらの値の最適値を決定することが出来る。.

b) 滴定データの解析

 滴定は通常Aの初期濃度[A]0一定の条件下で行われ、差スペクトルΔAbsobsはeq. 6に従って測定スペクトルから初期スペクトルεA[A] 0 ([B]=0)を引くことによって得られる。
 [A]0 = 1x10-5 Mの溶液に対して[B] = 0 - 1.73x10-3 Mで滴定を行いSpectrum00 - 15のスペクトルを測定したデータの解析を以下に示す。

[A]0=1x10-5 (M) Spectrum00 Spectrum01 Spectrum02 Spectrum03 Spectrum04 Spectrum05 Spectrum06 Spectrum07
     [B] (M) 0 8.0x10-6 1.6x10-5 2.8x10-5 5.2x10-5 7.0x10-5 1.0x10-4 1.5x10-4
  Spectrum08 Spectrum09 Spectrum10 Spectrum11 Spectrum12 Spectrum13 Spectrum14 Spectrum15
     [B] (M) 1.9x10-4 2.8x10-4 3.6x10-4 4.7x10-4 6.4x10-4 8.8x10-4 1.17x10-3 1.73x10-3

これらのスペクトル (Nondilute1-2_example.ana) をSPANAで読み込み"View-Activate All" (menu) 又は "click on Ch.0" & "shift + click on Ch.15" の操作で全てのスペクトルを表した後 (Fig.1)、


Fig.1

表示範囲を "View-Format" menu で示されるダイアログボックス (Fig.2) で指定して(ここでは"Auto Format"boxをチェックしている)

 Fig.2

全スペクトルをフルスクリーン表示する (Fig.3)。

Fig.3

次いで、各スペクトルに対応する [B]0 を"Channel-Item Edit" menuで表示される"Item Change"ダイアログボックス中の"condition(t)" itemに入力する (Fig.4) 。

Fig.4

濃度データを設定した各スペクトルを収納するチャンネルとして、元データのCh.0 - 15に重ね書きすることを指定するために、"First Ch," に”0-"を指定する(Fig.3)。ここで、ハイフォン "-" は”指定チャンネル以下連続したチャンネル”を意味するキーワードとして使用され、各チャンネルの名前(Comment)は自動的に変更される (Fig.5)。

Fig.5

次にスペクトルのベースラインを補正するために"Spectrum-Base Line-Average Correction" menu で示される垂直カーソルを使って事実上吸光度が 0 と見なせる波長範囲(この例では300 - 330 nm)を指定し、この間の吸光度平均値が 0 になるようスペクトルを補正する (Fig.6)。

Fig.6

ベースライン補正後のスペクトルは"Base Line"ダイアログボックスで指定するチャンネルに収納する(Fig.6)。ここでは、全ての表示(被補正)スペクトルを一括指示するためにキーワード "All”が、また収納チャンネルにCh.17以降の連続チャンネルを指定するために "17-"が入力されている (Fig.7)。

Fig.7

表示スペクトルを Ch.0 - 15 から Ch.17 - 32に変更する("Deactivate All / Cls", "left-click" on Ch.17 、and "Shift + left-click" on Ch.32)(Fig.8)。

Fig.8

"Spectrum - "-" - Channel" menu を選び表示された減算ダイアログボックスに以下のように入力して、全ての表示スペクトルから初期スペクトルεA[A] 0(Channel 17)を引いた差スペクトル ΔAbsobsのデータをCh.34 - 49に作成する (Fig.9)。

Fig.9

再び、表示スペクトルをCh.34 - 49に変更し、"View -Format" menu によって表示範囲を再設定すると、以下のような差スペクトル画面を得る (Fig.10)。

Fig.10

得られた差スペクトルから、"Analyses-Least Square Analyses-Point Data" menu で表示される垂直カーソルを用いて最小二乗計算のためのデータのサンプリングを行う。この例では、415 nm, 450 nm, 516 nm の各点が選ばれている (Fig,.11)。  サンプリング波長の選択は、任意のカーソル位置で "left-click" することで順次設定され、最終のサンプリング波長の位置で "double-left-click"することで指示する。

Fig.11

サンプリング波長の選択が終了すると、各スペクトルについて滴定試薬濃度(Condition (t))及び各波長における吸光度の表が"Result"ダイアログボックスに表示される (Fig.12)。

Fig.12

データに異常値などが無いかを確認した後、"Least Sq."ボタンをclickすると、計算モデルの選択画面 "Least Square Analyses" ダイアログボックスが表示される (Fig.13)。

Fig.13

ここでは、"Equilibrium Models 1" ページ中 Sample : Constant , Sequential 1 : n Complex Formation System, n : 2 を選択して、"Go" ボタンをclickすると、以下の計算設定画面が示される (Fig.14)。

Fig.14

ここでは、A の濃度 (Conc. of A)、最小二乗計算で最適化されるパラメータ、K1 と K2,および 415 nm、450 nm、516 nm の各波長に対するΔε1 と Δε2 ( Δε*nと表示) の初期推定値入力画面が示される。
A の濃度(1 x 10-5 M) および各パラメータに対する初期推定値 (ex. K1=1x104, K2=1x103, Δε1=-3x104, Δε*1=-6x104, Δε2=4x104, Δε*2=-1x104, Δε3=3x104, Δε*3=5x104) を入力し "Calc" ボタンをclickすると最適化計算を開始する。

Fig.15

最終結果は各パラメータの最適値、その標準偏差が二乗残差 ss と共に示される (Fig.15)。

滴定の理論曲線と実測値の適合状況を確認するために "Plot" ボタンをclickすると、

Fig.16

グラフ表示のためのフォーマット設定画面 (Fig.16) が現れるので、"Auto Format"をチェックして"OK"ボタンでグラフを表示する (Fig.17)。

Fig.17

* 解析結果の信頼性を評価するうえで、データの抽出とモデルの選択は重要である。例えば、ここに取り上げた1:2 錯体形成系のデータについて、520nm付近のモノトナスな吸光度変化を示すデータのみで解析を行えば1:1錯体形成モデルを用いた解析でもかなり高い精度のフィッティング結果が得られ、結論を誤る可能性がある。

2. 複数の滴定データ利用
   1つの滴定データに対して複数波長でサンプリングしたデータを利用することは最小二乗計算の精度を上げるためにも効果的な手法だが、更に複数の滴定データを利用すれば計算精度の信頼性の向上を期待できる。SPANAはこういった多データの一括解析機能を持っている。例えば、ある1:1平衡系に対して A の初期濃度の異なる滴定を行い、次のような差スペクトルデータを得たとする("Nondilute-1-1-multi.ana""ファイル参照)。

                       Set 1 : Ch. 15 - 24 ( [A]0 = 2 x 10-5 M )
                       Set 2 : Ch. 28 - 38 ( [A]0 = 1 x 10-5 M )
                       Set 3 : Ch. 42 - 51 ( [A]0 = 5 x 10-6 M )

これらSet 1 - 3 のデータは最低1つ以上の空白チャンネルを置いてSPANAのチャンネルに配置することで、以下に示す多データ解析の設定手順中で別のデータセットとして認識される (Fig.18)。


Fig.18 Data Set 1 (white), 2 (light blue) および 3 (red) のスペクトル

   最小二乗計算処理時における、単一データ解析手順との相違は"Least Square Optimization"ダイアログボックスで "Number of Data Set"にデータセット数(この場合は"3")を設定し、新たに表示されるセット2、セット3に対するAの濃度、データチャンネル位置の設定が必要になる点である (Fig.19)。

Fig.19


3. 滴定試薬が吸収を示す系の解析
   滴定試薬 B にサンプル A に重なる吸収があると、錯体形成に伴う A のスペクトル変化に加えて B のスペクトルが重なり測定スペクトル変化が複雑化するため、通常のスペクトル滴定では滴定試薬 B には吸収を示さないものが選ばれる。
しかし、滴定を通じてスペクトルに Lambert-Beer則が適応できる場合は、B のスペクトルの影響を補正して、通常の滴定と同様に解析することが可能になる。
例えばB にも吸収のある場合、1:2錯体形成系に対する滴定中の吸光度はeq.5'で示され、
                          Abs = εA[A] + εB[B] + εAB[AB] + εBAB[BAB]         eq.5'
差スペクトル ΔAbs' をeq.6'として定義する。
                          ΔAbs' = Abs - εA[A] 0B[B] 0= Δε1'[AB] + Δε2'[BAB]   eq.6'
ここで、
                          Δε1'= εAB - εA  - εB  ,    Δε2'= εBAB - εA - 2εB
とすれば、通常の1:2錯体形成系に対する式 (eq.6) と同じ形式になる。
滴定中一定値を保つεA[A] 0 と異なりεB[B] 0 は滴定ごとに異なる値をとるが、実験的に、或いはSPANAの演算機能を用いてB の標準スペクトルと濃度から、そのスペクトルを容易に算出・評価することが出来る。得られたεB[B] 0スペクトルをΔAbs = Abs - εA[A] 0から更に減算してΔAbs' を得れば、通常の解析と同様に最小二乗計算を適用することが出来る。

4. サンプル濃度の希釈を伴う滴定データの解析
   通常スペクトルによる滴定においては、測定サンプル A の濃度は滴定中一定に保たれる。しかし、Aの濃度を一定に保ちBの濃度を変化させる滴定操作は煩雑で多くの試料を必要とする場合がある。
滴定中Lambert-Beer則が成立している場合は、滴定試薬溶液の滴下によるサンプルの希釈を滴定試薬溶液の容量 v の関数として補正することで、一つのサンプルに対して可変マイクロ・ピペッターなどを用いて連続的に滴定試薬を加えたスペクトルデータから精度よく平衡の解析を行うことが可能である。
例えば.1:2錯体形成系について初濃度 [A]org 、容量 V のサンプルに対して、濃度 [B]org の滴定試薬を v 加えると、サンプル中の A、B の各濃度は以下のようになる。

                           [A]0 = (V/(V + v)) [A]org = [A] + [AB] + [BAB]              eq.3'
                           [B]0 = (v/(V + v)) [B]org = [B] + [AB] + 2[BAB]            eq.4'

この系に対して差スペクトル ΔAbsdil を次のように定義する。*

                  ΔAbsdil = ((V + v)/V) Abs - εA[A]org
                              = ((V + v)/V) (Δε1[AB] + Δε2[BAB] )                  eq.6''

滴定中のスペクトルに対して((V + v)/V) の補正を施し、初期スペクトル εA[A]org を引いた差スペクトル ΔAbsdil は eq.6'' に従って v の関数として最小二乗計算を行うことが出来る。
SPANAでは"Spectrum-Conc.Correct" menu.で示される以下のようなダイアログボックスで初期サンプル溶液容量 V (ex. 3000 μL)、及び各スペクトルに対応する滴下試薬溶液容量 v (ex. 0, 5, ・・・・・, 200, 300 μL)を入力することで((V + v)/V) の補正を行うことが出来る (Fig.20)。

Fig.20

ΔAbsdil 作成後、"Least Square Analyses"ダイアログボックスから、"Diluted" モデルを選択すると、"Least Square Optimization"ダイアログボックスに [A]org, [B]org, V の設定が求められるので (Fig.21)、これらを入力して、 v の関数としてのΔAbsdil に対して最小二乗計算を行えば平衡定数、モル吸光係数などのパラメター最適値を決定することが出来る。

 Fig.21

*差スペクトルとして
                  ΔAbsdil = Abs - (V/(V + v))εA[A]org
                              =Δε1[AB] + Δε2[BAB]                  eq.6'''
を選択して最適化することも出来る。(マニュアル参照)

5. 逆滴定
   通常1 : n (A : B) の平衡系に対する滴定では B を滴定試剤として用いることが多いが、A がスペクトル的に透明で、滴定によるB のスペクトル変化を観測できる場合、A を滴定試剤とする滴定も可能である(前者では、滴定試薬濃度無限大における飽和状態で ABn 錯体の生成が想定されるが、後者では飽和状態で1:1錯体 AB の生成が想定される)。
このような逆滴定データの解析には "Least Square Optimization"ダイアログボックス中の "Titrant"項目に "A"を設定する(デフォルトでは "B"が指定されている)(Fig.22)。

Fig.22

6. 最適化パラメータ数の削減 (パラメータ値の固定)
   多数のパラメータを含む最小二乗計算では、最適化条件を満たす適切な収束が得られなかったり、計算が二乗残差 ss の局所ミニマムに落ちいることがある。こういった場合、滴定とは独立した実験等から値を推定できるパラメータがあれば、そのパラメータ値を固定化して最適化計算から除くことで適当な収束を得られる場合がある。こういったパラメータに対しては、 "Least Square Optimization"ダイアログボックス中のパラメータ設定枠横にあるチェックボックスをチェックすることで、そのパラメータを固定化することが出来る ( Fig.22)。

7. 滴定中生成する錯体中間体のスペクトル推定
   SPANA は滴定中に生成する錯体中間体のスペクトルを、最小二乗計算の結果を用いて推定する機能を持つ。例えば、1:2錯体形成系に対する最適化計算中、 "Least Square Optimization"ダイアログボックスで、"Calc"ボタン横の"Spectra estimation"ボックスをチェックして計算を行うと、最適化終了後、下のようなダイアログボックスが表示される。1:2錯体生成系に対する計算では、AB と BAB 錯体の推定スペクトルが指定した格納チャンネルに収容される (Fig.23)。

Fig.23

得られたスペクトルは AB、BAB に対応する差スペクトル、ΔAbs、なので, 初期スペクトル εA[A] を加えることでそれぞれの中間体スペクトルを推定することが出来る。

8. 滴定系中に存在する化学種の濃度
    "Least Square Optimization"ダイアログボックス中、”Plot”ボタン横の "Conc.Sim" ボックスをチェックして "Plot"コマンドを実行すると、プロット・グラフは滴定中系に存在する化学種の濃度変化を表示するグラフを作成する。例えば、1:2錯体形成系では、[A], [B], [AB], [BAB] を [B]0 に対してプロットしたグラフが示される(下の例の濃度スケールでは、[B]は表示されていない)(Fig.24)。

Fig.24

9. シミュレーション
 a) 最適化モデルのシミュレーション
 SPANA の滴定理論曲線や濃度プロフィルのグラフ化表示機能は計算設定ダイログボックスに設定されているパラメータを用いて遂次計算されているので、ユーザーが各パラメータを入力して"Plot"ボタンを押せば選択されたモデルに対する任意のパラメータによるシミュレーション・グラフが表示される。* シミュレーション曲線はグラフ画面を消去しなければ重ね描きされるので、最適化計算後、パラメータを人為的に変更してパラメータ値の変動がどの範囲でどの程度の影響を測定値に与えるのかをグラフ上で検討することも可能になる (Fig.25)。

           Fig.25  

* シミュレーション・モードは最適化計算を行うことなく "Analysis - Process Simulation" メニューから直接呼び出すことも出きる。

 b) 1:n錯体生成系の濃度シミュレーション
 ホスト分子(A)とリガンド(B)について、ABn型錯体(n = 2 ~ 5)を生成する任意の逐次平衡系に含まれる化学種濃度変化を、与えられた平衡定数に基づいてシミュレート・表示する。 平衡系の構成は、"Analysis - Equilibrium" menu から次数nを指定して表示される図中で想定する平衡経路を指示することによって行う(n = 4の場合を下に例示)。

各錯体間を結ぶ破線は可能な平衡経路、空のチェッ・クボックス付き実線は平衡設定の各時点で指定可能な経路、平衡定数名表示のチェック・ボックス付き太線は設定済み平衡経路を 表す。フリー・ホスト分子(A)から始め、逐次、想定する平衡経路のチェック・ボックスをチェックして平衡系を構成する。指定された経路の平衡定数は数値設定ボックスがその名前と共に画面右に逐次表示される。また、平衡経路に閉経路を生じて独立性が失われた経路は自動的に判定されて太線(チェック・ボックス無し)表示に変更される。*
標準プロセス(A溶液にBを加える)では、Aの初期濃度(Ao)、各平衡定数の想定値を入力した後、”Simulate”ボタンを選択して表示されるグラフ・プロット表示領域設定画面(下記グラフ・プロットの項参照)で、シミュレートしたい[B]の変化域、錯体濃度の変化域を指定すると、リガンド分子濃度を横(t)軸、錯体化学種の濃度を縦(y)軸とするグラフを表示する([B]の広濃度域変化を見たい場合は"Plot Style"から濃度の log 表示を指定すると有効)。

 
a) Left : [B] vs. [Cpmplexes] plot , b) Right : log[B] vs. [Complexes] plot 

*分子間の直接異性化平衡 (ABix ↭ ABiy) を含まないABn錯体逐次生成平衡系では、最大2n (リガンドを含めると2n + 1)の化学種に対して、n・2n-1 の可能な平衡経路が存在する。その内、独立な平衡過程は最大2n – 1である。

10.波形分割*
   SPANAは測定スペクトルをGauss関数、Lorentz関数、またはVoigt関数を用いて分割する機能を持つ。一例として"Overlap.ana"ファイルに有るスペクトルをGauss関数で波形分割す例を示す (Fig.26)。

Fig.26

初めにメニューから"Analysis-Wave Separation-Manual-Gauss"を選ぶと"+"カーソルがスペクトル表示画面に示される。
このカーソルを画面上でclickするとその点に輝点が残り、3点を指示した時点で、その3点を通るGauss関数が表示される。通常、Gauss関数の頂点と半値幅を示す2点の計3点を指示することでおおよそ想定したGauss関数を描くことが出来る。*
この機能を用いてスペクトルに含まれると予想されるGauss関数を指示すると(Fig.24の暗緑色カーブ)、そのGauss関数を使用するか否かを問う"Wave Set"ダイアログボックスが示されるので、使用する場合は"Set"ボタンを選択する(Fig.27)。


Fig.27

同様の操作を繰り返して(この例では3回)、波形分割に適当と想定される初期推定 Gauss関数セットを作成する。ただし、最後の Gauss関数の設定時には "Wave Set" ダイアログボックスで"OK"ボタンをclick し、表示される垂直カーソルで、分割するスペクトルの領域(2波長)を指定する。その後、"Wave Separation" ダイアログボックスが表れるので、分割最適化されたスペクトルを収納するチャンネルを指定して(この場合は"2-"を指定)"OK"ボタンをclickすると分割最適化計算が開始される (Fig.28)。


Fig.28

波形分割計算が終了すると、各分割成分スペクトル(Gaussian1-3) が Ch.2-4 に、その合成スペクトル  (Simulated Ch.0) が Ch.5 に収納される(白: Ch.0 の元スペクトル、赤: Ch.5 の合成スペクトル、残りの表示スペクトルが Ch.2-4 の成分スペクトル)(Fig.29)。


Fig.29

なお、この波形分割は全て波数単位 (kcm-1)で行われているが、各成分スペクトル(Gaussian 1-3) の数値データは、 "Channel-Channel Edit" menu から表示される "Edit" ダイアログボックスで波高 (h)、ピーク位置 (v kcm-1) および半値幅 (w kcm-1) として確認できる(Fig.30)。**

Fig.30

* 波形分割にもちいる初期理論曲線はあらかじめSPANAの"Wave Generation"で生成しチャンネルリスト上に配置された理論曲線をカーソルで指示(左クリック)することでも設定できる。
** SPANA は標準で横軸単位として波長を想定しているが、波形分割などで使用する理論曲線はデフォルトで横軸単位の逆数をとって波数(エネルギー)単位で生成する(横軸単位と同じ単位での理論曲線を用いる場合は、File-Settings-Spectrum SettingsダイアログボックスでHorizontal Axis for Theoretical Curvesを"1/x unit"から"x unit"に変更する)。


11.組成分析

   SPANAは重回帰分析の手法によって標準サンプルのスペクトルから、未知組成サンプルの成分分析を行う。一例として regression.ana ファイルのデータを取り上げる。このデータには Ch.0-4 に4種の標準化合物のスペクトル (Standard A - D) が (Fig.31)、

Fig.31

Ch.10-13 にこれらの標準化合物の混合サンプルのスペクトル (Sample A-D)が収納されている (Fig.32)。回帰分析ではこの混合サンプル・スペクトルを標準スペクトルの線形一次結合の形式で解析し、その含量を推定する。
           Sample X = a・Standard A + b・Standard B + c・Standard C + d・Standard D  eq.7

Fig.32

初めに、"Analysis-Regression" menu で表示される "Regression Analyses" ダイアログボックスに分析後のスペクトルを収納するチャンネル("16-" )と、分析に使用する各成分の標準スペクトルのチャンネル (Ch.0, 1, 2, 3) を指定する (Fig.33)。

Fig.33

"Analyze" ボタンをclickすると回帰分析計算を行い、各混合サンプル・スペクトル中に含まれている標準スペクトルの含量、eq.7 の係数 a、b、c、d、を示した表が表示される (Fig.34)。

Fig.34

また、その組成の合成スペクトルが Ch.16-19 に "Composed Ch.16-19" として収納される (Fig.35)。これらのチャンネルを右clickすると合成スペクトル(暗赤色)とその組成スペクトル(青緑色)を表示する(左clickでは合成スペクトルのみを表示する)。


Fig.35 Sample Cのスペクトル (purple, Ch.12), 合成スペクトル(dark red, Ch.18) および、その構成スペクトル (dark green)

また、表示されているスペクトルに関する組成は "Channel-Channel Edit" menu で表示される "Edit" ダイアログボックスでも表示・確認が出来る (Fig.36)。

Fig.36

12.3D表示
 このモードでは2次元表示の横軸(x軸・波長等)、縦軸(y軸・スペクトル強度)に加えて、滴定などで設定される濃度などの変数 (t) をz軸として奥行きを加えてデータの3次元表示を行う。そのため、各スペクトルに対してcondition parameter " t "が設定されていなくてはならない。
初めに、View メニューから"3D View"を選ぶと表示枠ボックスを示す画面が現れる。ボックスのx, y軸のスケールは2次元スペクトルの波長、強度のスケールが選ばれ、z軸には " t " パラメターの最大値を手前、最小値を最奥にしたスケールが初期値として設定されている。ボックスのサイズ、および x, y, z 軸の傾きを画面下部で設定して、"Show"ボタンを指示すると初期3Dグラフとして各チャンネルのスペクトルをボックス内に3次元表示したグラフを示す(Fig.37)。

 Fig.37

"Option"ボタンによってオプション・ダイアログボックス(Fig.38)を呼び出し、各種設定を指定することによって、スペクトル・サーフェスのメッシュ表示、等高表示、スクリーン表示など、及びそれらの組み合わせによる表示を行うことが出来る(Fig.39)。

 Fig.38


Fig.39 Left: Surface-Mesh, Color Separation-Height , Right: Surface-Screen,


 

13.NMRデータの解析
 a) 滴定
 NMRのタイム・スケールより速い速度で相互変換を起こす錯体生成平衡
        ABi-1 + B   ↔ ABi    i = 1 - n
においては、測定されるAのNMRシグナルは系に含まれる化学種のケミカル・シフトδABi と各化学種のモル分率 PABi によって
       δobs = ΣPABi δABi
ここで
       PABi = [ABi] / [A]Total ,  [A]Total = Σ[ABi] ,   i = 0 - n
と表される。 従って、
       Δδobs = δobs - δA = Σ(ΔδABi/[A]Total)[ABi] ,   ΔδABi = δABi - δ,   i = 1- n
となり、 ΔδX/[A]Total をΔεXと見なせばΔδobsの理論式は電子スペクトルの場合と同型になり、SPANAのモデルを適用できる。

滴定試薬濃度 vs. ケミカルシフトのデータはResult ダイアログボックスにキー・ボードから直接入力するか、"lsq"を拡張子とするテキスト・ファイルを作成すればResult ダイアログボックスに読み込むことが出来る(”lsq”ファイルのフォーマットはサンプルデータ及びマニュアルを参照)。
例としてサンプルデータに添付されている1: 2錯体生成系の2種のプロトンの化学シフト、y1 & y2、を測定したデータ”NMR1-2.lsq”を読み込むと、Fig 40のようなResult ダイアログボックスが表示される。

          Fig.40

電子スペクトルデータの場合と同様に、平衡モデル(1:2 Sequential)を選択し最適化計算を行うと、

         Fig.41

K1 = 5.7 x 103, K2 =1.0 x 103, Δδ1AB= 4.1 (Δε1 x [A]Total), Δδ1AB2= 0.98 (Δε*1 x [A]Total)
Δδ2AB= 1.0 (Δε2 x [A]Total), Δδ2AB2= 2.0 (Δε*2 x [A]Total) の結果を得る(Fig.41)。

* NMRにおけるサンプルの希釈を伴う連続滴定の eq.6" に対応する式は
   Δδobs = δobs - δA = ((V + v)/V)Σ(ΔδABi/[A]org)[ABi] ,   ΔδABi = δABi - δ,   i = 1- n
  で、ΔδX/[A]org =ΔεXとしてΔδobs に対して電子スペクトルの対応する解析が適用できる。

b) NMR Line Shape Fitting

 NMRシグナルの波形解析から平衡の速度パラメータを決定する。これは
       A  ↔ A'
の平衡下にあるプロトンのシグナル波形、I(ν)、の理論式を

       I(ν) = f (ν, νA, νA'PA, kA, T2A, T2A', C )
    νA: Aの化学シフト、νA’: A’の化学シフト、PA: Aのモル分率、kA: A→A’の反応速度定数
    T2A: Aのスピンースピン緩和時間、T2A': A’のスピンースピン緩和時間、C: 規格化因子

の形で表し、測定波形に合わせてこれら7つのパラメータの最適化を行う方法である。3)

サンプルデータとして添付されている"nmrfit-spana.lsq"の解析例を以下に示す。このファイルを読み込んだ後、最小二乗計算モデルの選択画面から"Miscellaneous-NMR Line Shape Fitting"を選択する( Fig.42)。

         Fig.42

表示される最適化計算画面に、初期推定値を入力して、最小二乗計算を行うと、Fig.43 のような反応速度、kA、他のパラメータ値が得られる。

        Fig.43

また、Plotコマンドを実行すると、Fig.44に示す実測・理論波形の対応図を表示する。*

       Fig.44

  * 最適化計算においてパラメータ T2 が残渣変動に敏感で不適切な探索値になることがある場合は、当初 T2 値を固定し
   計算を行いその他のパラメータの適値を決めた後、 T2 値の固定を解除して全パラメータ探索で最適値を決定すること
   が有効な場合がある

14. 濃度データの解析
 SPANAのフィッティング最適化のモデルは多くがスペクトルを測定対象とするものだが、そのスペクトル強度は電子スペクトルにおけるLambert-Beer則あるいは類似の関係によって測定系中に存在する化学種の濃度と直接比例関係にある。従って、その比例係数を1とするとモデル理論式は直接濃度を対象とするものになり、このことを利用して濃度データを対象にした解析が可能になる。
その一例として、濃度測定による逐次反応、 A → B → C、の反応速度解析の例を以下に示す。サンプル・データに添付されている "Series.lsq"はA,B,C,の各濃度を時間ごとに測定したモデルデータで、これをSPANAで読み込むとFig.44のようなデータ・テーブルが示される。
            Fig.44

このデータはCh.1 - 5がAの初期濃度101.53から開始して時間 0.1 - 1.5まで、Ch.6 - 13が初期濃度200.1から開始して時間0.15 - 2.1まで、A (y1), B (y2), C (y3) の各濃度を測定したものである。
ここで、"Least Square Analyses" ダイアログボックスの"Miscellaneous Model"ページ(Fig.42)から"Successive Reaction"
を選び以下のように最適化の設定を行う(Fig.45)。

            Fig.45

データ・セットは2つあるので各データの区切りを示すCh.数(1, 6)及び、各データに対応するAの初期濃度(101.53、200.1)を入力する。ここで、SPANA で定義されている吸光度と各化学種濃度の関係は、
      Absobs = ε1[A] + ε*1[B] + ε**1[C]
で、y1はAの濃度に対応するデータなのでy1に対する各モル吸光係数、<ε1, ε*1, ε**1>、はそれぞれ<1, 0, 0>,  以下同様にBに対応するy2に対しては <0, 1, 0>,  Cに対応するy3に対しては<0, 0, 1> のモル吸光係数パラメータを与え、さらにそれらを最小二乗計算の対象から除外して固定化するためにパラメータ横のチェック・ボックスをチェックする。最後に速度パラメータの初期推定値を入力して最適化計算を行うとFig.45の結果が得られる。また、Plotコマンドを実行すると、Fig.46のデータとの対応グラフを示す。
          Fig.46

15. ユーザー定義関数による最小二乗最適化 4)
 SPANA には予め組み込まれた関数の他にユーザーが定義した関数に対して最小二乗最適化計算を行う機能が付加されている(ユーザー定義関数のSPANAへの組み込みについては”Analyses"の項参照)。ここでは組み込まれた関数の使用法について述べる。

以下、"titrn283-323.ana"という1:1錯体生成系について異なる温度で滴定を行ったデータから、熱力学パラメータを推定する例について説明する。このファイルには、以下のような5つの異なる温度で収集された滴定データが収められている。この滴定の差スペクトルをFig.4に示す。

Data Set No. 1 2 3 4 5
Ch. 200-209 215-224 230-240 245-254 260-270
Temp (K) 283 293 303 313 323
Conc. [A] (M) 1.0 x 10-5 0.83 x 10-5 1.0 x 10-5 1.15 x 10-5 0.91 x 10-5
Conc. [B] (M) 0 - 5 x 10-5 0 - 1 x 10-4 0 - 2 x 10-4 0 - 5 x 10-4 0 - 1 x 10-3

 Fig.47

最小二乗計算を行うためのデータを”Result"ダイアログボックス(Fig.12)の形式に収集した後、 "Least Square Analyses" ダイアログボックスの"Miscellaneous Model"ページ(Fig.42)から”External"ボタンを押すとユーザー関数を使用するためのダイアログボックス(External Least Square Program : Fig.48)が表示される。

              Fig.48

ここに、必要に応じてデータセットの数、データセットの区切り(2.複数の滴定データの利用の項参照)等を設定した後、ユーザー定義関数に対する最小二乗計算プログラム(*.exe形式)を選択、”Do Program"ボタンをclickして最適化計算を実行する。
ここでは"Analyses"および"Least Square"の項に示したSPANAの標準最小二乗プログラム (SPANA_LSQ.c)と温度依存滴定データ解析の用サブルーチン "titrn_t-dep.c" を用いてこの滴定解析のために作成された"titrn_t-dep.exe"で解析する例を示す(これらのプログラムについてはSPANA Ver.5に含まれるExternalProgram.zip 参照)。
このプログラムは"Result"ダイアログボックスに収集されたデータを読み込んでテキストベースのMS-DOS WINDOWを開く。また、プログラムでは、[A]0、温度 (T) を条件定数 c[1] , c[2] 、ΔH 、ΔS を最適化パラメータ p[1]、p[2]、更に各測定波長のΔεを最適化パラメータ p[3] - p[8] として定義している。
プログラムに従ってパラメータの数、条件変数([A]0 、温度)の数を指定した後(この例ではパラメータ(p[i])数 , i=8、条件定数(c[i])の数 , i=2)、各データセットに対する[A]0 、温度、及び最適化するパラメータ(ΔH 、ΔS 、Δε)の初期推定値を入力して計算を実行するとFig.49に示すような結果 (ΔH=p[1]=-15.5kcal/mol、ΔS=p[1]=-29e.u.)を得る。

Fig.49

計算結果が妥当なものであれば、メニュー"2) Next Step" - "4) Graphic Data"と選び、シミュレーション数値データの幅([B} の最小・最大値)、データの刻み幅を指定してグラフ作成用データを作成すると、External Least Square Program ダイアログボックス中の"Plot"ボタンからシミュレーション・グラフを表示できる(Fig.50)。

 Fig.50


参考文献.
 1) 非線形最適化については、例えば
    a) S. L. S Jacoby, J. S. Kowalik, J. T. Pizzo, "Interative Methods for Nonlinear Optimization Problems", Prentice Hall, Inc., New Jersey, 1972.
    b) 中川 徹、小柳 義夫、 "最小二乗法による実験データ解析”、(UP 応用数学選書 7)、 東京大学出版会, 1982.
 2) スペクトルデータの回帰分析および波形分割については、例えば
    a) D. J. Leggett, "Numerical Analysis of Multicomponent Spectra", Analystical Chemistry, vol.49, 276, 1977
    b) R. D. B. Frasher, E. Suzuki, "Resolution of Overlapping Absorption Bands by Least Squares Procedures", Analytical Chemistry, vol. 38, 1770, 1966.
    c) 南 茂夫、”科学計測のための波形データ処理”、CQ出版㈱、1986 および、その参考文献.
3) 日本化学会生体機能関連化学部会編「生体機能関連化学実験法」 化学同人、2003、p.71、水谷義、山本泰彦、第5章”NMRによる速度定数の決定”
4) この項に関する詳細について不明な点があれば、メールでお問い合わせください。