第三話 環境文化村構想に対するヤクシマンの想い


 
 屋久島の玄関口、宮之浦に入港し、港から町の中心部に進むと、目の前に大きな施設が見えてきます。これは屋久島環境文化村センターという施設で、屋久島環境文化村構想の中核施設の一つです。センター内では屋久島についての自然や文化、登山に際してのマナーや島内観光などの情報を得ることができるようになっています。
屋久島環境文化村構想とは屋久島における地域づくりの試みであり、ここでは環境文化村構想に焦点をしぼってみていきたいと思います。


◇ 屋久島環境文化村構想


 屋久島環境文化村構想とは、平成2年6月に策定された鹿児島県総合基本計画「21世紀新かごしま総合計画」の主要プロジェクトのひとつです。これは世界自然遺産の島「屋久島」の豊かな自然と、その自然の中で作り上げられてきた自然と人間との関わり(環境文化)を手がかりとして、屋久島の自然のありかたや、地域の生活、生産活動を、学ぶ「環境学習」を通じて、自然と人間の共生を実現しようという試みらしいです。
  地域づくりということでその活動は多岐にわたりますが、その基本的な考え方は、「環境文化を足がかりとした『共生と循環』という思想の下に、地域、産業の屋久島らしさを確立することで、屋久島のすばらしい自然環境を損なうことなく、屋久島の発展を成し遂げる」といった感じです。
 ここで『環境文化』とは、屋久島の人々が築き上げてきた自然との関わりの歴史的蓄積であり、それを見直し、評価することで、その「環境文化」を基礎にあらゆる意味での地域の「個性化」「屋久島らしさ」を目指しています。
 屋久島の地域づくりの柱となる屋久島環境文化村構想を推進する中心的な組織として屋久島環境文化財団という財団法人も設立され、屋久島環境文化村構想実現のための地域づくりを支援しています。


 環境文化村整備のための主な事業として次のようなものがあります。

@環境学習・研究活動の推進
 環境文化村では、先導的な事業として環境学習をあげ、屋久島環境文化村センター・屋久島環境文化研修センターを拠点として、屋久島全体をフィールドとした自然体験型の環境学習を推進すると共に、研究者のネットワークを構築します。
A環境形成・ボランタリー協力事業の展開
 屋久島の自然環境の保全・活用のため、ゾーニングの実施、自然利用拠点の整備や利用に対する適切な管理・調整を行なうと共に、屋久島らしい景観の形成や環境保全のための基盤整備を図ります。また、屋久島に関係する人々が、環境文化村に参加・協力する仕組みやネットワークを構築します。
B新たな地域産業の創出と交流の展開
 環境文化村の個性をいかして、環境文化村ブランドの創設や自然体験型観光「エコツアー」の推進等により地域産業の活性化を図ります。また国際シンポジウムの開催などを行い、情報の発信や交流の仕組みづくりを推進します。




◇ 環境文化村構想ってどないやねん



 環境文化村構想は屋久島の地域づくりの大枠そして主軸である。今回その地域づくりの大元となる環境文化村構想についてお聞きする機会がありましたのでそれについて述べていきます。

・ 環境文化村構想とは要するになんだ!!
 まず前提条件として、自然は守るということがあります。それは豊かで希少な自然を失うことは非常にもったいないことであり、また観光資源としての自然を永続的に役立っていってもらいたいからです。自然は守らなければならないという制約の下、何とか発展しなければならないのです。
 そこで自然を守ること、環境を保全していくことを突出させるのです。そう、それも産業の域にまでです。「環境関連産業の発達した島」、「環境の進んだ島」となるまで。その環境関連の取り組みは屋久島古来からの自然と人との共生文化とする「環境文化」という言葉にリンクされ、屋久島に息づく文化と近代の環境政策が融合した、伝統的かつ新鮮でシンボリックなイメージに生まれ変わるのです。それは観光を成り立たせるためのイメージ戦略にはもってこいです。自然だけでなく地域にも観光を呼ぶための力が宿るのです。また、これらにあやかり、これらと繋がることで地場産業も活性化されます。
 自然は守られ、さらには島の経済は振興し、もちろん環境先進地域として注目され、賞賛される。甘くておいしい話なのです。


・ 環境文化村の事業は評価できる
  屋久島環境文化村整備のための主な事業は先で述べたとおり@環境学習・研究活動の推進 A環境形成・ボランタリー協力事業の展開 B新たな地域産業の創出と交流の展開などがあります。
 まず屋久島環境文化村構想の先導的な事業としてあげられる環境学習ですが、屋久島全体をフィールドとした五感で感じる自然体験型の環境学習を重視しています。これらの環境学習は、島外だけでなく島内の人にも開かれており、島内の人にとっては屋久島の自然や屋久島の歩んできた自然との関わりを見直すこととなりますし、それにより同時に屋久島がどうして、そしてどのように評価されているのかもわかります。それは屋久島の外から島を見たときの視点が得られることであり、これからの地域づくりにはプラスであります。また環境意識を高めるということは、環境の島を目指す地域づくりのベースにはかかせない本当の根本であるところをついていると言えるのではないでしょうか。

 そして屋久島における自然環境保全は、自然を利用しつつその自然を損なわないという屋久島らしい新しい人と自然との関係の構築には不可欠であると思います。
環境保全の目玉的な取り組みとして、電気自動車の走行や自然エネルギーを用いる発電等があります。またリサイクルなども積極的に行っており、リサイクルのためのごみの分別方法も町ごとに規定され、住民たちも協力しています。21世紀に向けて、環境に付加の少ない暮らしや産業を支えるための技術や装置の開発が新しい産業分野として成長する可能性が大きいといわれています。環境文化村は、高度な排水処理装置の開発、リサイクリングシステム、クリーンエネルギー利用システムなど、最先端技術を駆使した新しい産業を育てる場となり、島に関連産業の広がりを作り出すことも視野に入れています。技術的な面で実行に移してゆくのは中々難しいが、非常に夢のある話であり、また話題性のある取り組みで、屋久島に注目が集まりよいことです。

 また、屋久島文化村構想では地域産業の活性化を目指しています。それは現在屋久島の第一次産業は他の地域と同様、ほかの産業への移行や、後継者不足などによる従事者の減少が起こっているからです。農業は独特の地形から小規模に、林業はコストの面から消費は島内に限られ、水産業も高齢化や後継者不足により漁獲高は下降気味で衰退の一途を歩んでいます。
 そんな第一次産業の混迷を救うため環境文化村ブランドによる付加価値化そして情報発信力で第一次産業の需要の増大を図るわけです。また環境学習やエコツアーの一環としての生産体験の場など、生産物の需要を増やすことではない新しいアプローチの仕方を検討しています。第一次産業はその土地でできたものという最もシンプルな個性を持つものであり、屋久島の個性化には欠かせないものだけに、その可能性を追う姿勢は非常に評価できるものでしょう。
 この十数年で屋久島の観光客の増大が著しくありました。観光客の量的増大による諸問題を回避しつつ地域の活性化を狙うのであれば、これからの観光形態も島の自然そして人と自然の共存を、自然をじかに体験しながら学習し楽しむ屋久島ならではのエコツアーが望ましいでしょう。 まぁ確かに屋久島のエコツアーすべてがそのような形ではなく、確立されたものではありません。そういう面ではまだまだ未熟なところであります。だからこそ環境文化村財団はエコツアーガイドを育成し、もっと確固たる産業にしていくことを目指します。これらが進んでいけば、屋久島全体をフィールドとした環境学習というのが産業として成り立っていきます。それが非常に理想的であり、現在その前段階にあたるのではないでしょうか。
 
 やはり環境文化村構想というのは非常に緻密に練られており、また長期的な展望で作られたものであるから、事業を始める上でも将来的な形を見据えつつもじっくりと基本的なところから押さえていく姿勢が見られるでしょう。

 しかし、環境文化村構想は、将来の屋久島の理想像が描かれていますが、長期的な計画という性格上その理想像は屋久島の現状とはかけ離れた部分もあります。将来的にはその理想に近づいてゆくのでしょうが、やはりまだうまくいっているというには微妙なところもあります。


・ 環境文化村構想の矛盾
 屋久島環境文化村構想では、何千年にも渡り自然を損なうことなく人が生活してきたという屋久島の自然と人との共生文化を“環境文化”と呼んでいます。そして“環境文化”というものは外来の文化ではなく、屋久島の自然と人々が作り上げた独自の文化であり、そうした文化は今も屋久島に息づくとしています。
 “環境文化”それ自体は外のモノではなく、内のモノです。しかしながら“環境文化”を見直そうという試みというのは元々屋久島にあったものではありませんし、“環境文化”という見方自体外の視点から見られたものであり、ということは“環境文化”を軸に作られている環境文化村構想も外の視点からえがかれたものであるような気がしてしまいます。“環境文化”は本来島民のなかに息づいているはずのものなのにもかかわらず、実際の環境文化は島民にとって少し疎遠なものなのではないでしょうか。


・ 環境文化ブランドによる屋久島の個別化による地域産業振興は可能なのか
 屋久島の人と自然の歴史的共生文化である環境文化を、屋久島の地域産業の発展にいかそうという試みのひとつが環境文化村ブランドの創設です。「環境文化」という付加価値をつけ、屋久島らしさを確立し、個性化、他の地域との個別化という先進的なことをやっているように写りますがそういうことは他の地域でもやってることではないのかと思えました。やはりそれは環境文化村ブランドの産物が「環境文化」というものを実際に具体的に活かして生産されたということが見えないからではないかではないでしょうか。環境文化村ブランドというのは「環境文化」という名前だけ活かしたような、うすっぺらいものであるような気がしてしまいます。屋久島名物?縄文水と一緒です。(縄文時代のみずだとか、縄文杉近辺から取れた水とかは関係なくて、島の湧き水です。が、名前だけ借りるだけで、販売促進効果抜群!水であるのに500mlで150円の高値であるが、飲みたくてしょうがなくなってしまう人も身近にいるようです。)


・ 「環境文化」を付加価値にする真意
 環境文化村構想は「環境文化」というものでありとあらゆるものに付加価値をつけ個性的な地域をつくるということです。「屋久島」という付加価値は多少なりとも既に付いているのではないかと思われるのでこのとりくみは「環境文化」という新しいものの上塗りに過ぎないのではないかという疑念もあります。「環境文化」には外部への情報発信力や見た目新しいという面で期待できるということなのでしょうか。

 環境文化村構想全体で考えても「環境文化」を活かした地域作りとあるが、何か「環境文化」は確かにすばらしいものなのだが、ソレを具体的にどう活かしていくのかが、よくわかりません。  屋久島環境文化村センターの副官長にそのところについてお伺いしたが、具体的に活かすというよりは、精神的なもの、「環境文化」という考え方にそって地域作りを進めていくにことらしいです。が「環境文化」という言葉で、うやむやにされた感が残ってしまいました。



 
 
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