日本食文化の醤油を知る -筆名:村岡 祥次-



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第7章 濃口醤油と淡口醤油




第8章「醤油の特性・健康成分」に進む

 第7章 濃口醤油と淡口醤油


■「濃口醤油」・「淡口醬油」の違いと特徴
こいくちしょうゆは「濃口」、うすくちしょうゆは「淡口」と書きます。
しょうゆの歴史では「こいくちしょうゆ」 とほぼ同じ時代に作られた「うすしょうゆ」は、明治時代になって「淡口しょうゆ」の呼称となります。「濃口」の言葉は「淡口」の言葉が出たのに合わせて江戸中期に両者を区別する目的で出現したと推察されています。
日常多く使われる醤油は「こいくち」と「うすくち」です。この名前の違いは色の濃淡だけでなく、性質において対称的な違いがあります。地域、別の言い方でいえば、醤油醸造に欠かせない材料である水質(硬度)の関係で、ミネラルの多い硬水で造る「こいくち醤油」が関東で、ミネラルの少ない軟水で造る「うすくち醤油」が関西で発展してきました。

関東地方
銚子や野田
関西地方
兵庫県の龍野
硬 水 軟 水
濃厚な風味 
強い香り
青魚・肉 穏やかな風味
軽い香り
白身魚・野菜
つけ、かけ、煮物、焼き物、だし、タレ等 野菜や吸い物、鍋物等。生で使うよりも煮物
原料:大豆,小麦,塩 原料:大豆,小麦,,塩

関西では瀬戸内の鯛やカレイ、ハモといった白身の魚や新鮮な野菜が年間を通してとれたことから、素材の色や風味を消さないで味付けするために、色や香りを抑えたうすくち醤油が使われるようになったと考えられています。
一方、関東では、秋刀魚やかつおなど臭いくせがあう魚や味の濃い脂肪分の多い魚、保存した野菜などが使われたために、色も濃く香りも高いこいくち醤油が使われるようになったと考えられています。

このように、こいくち醤油は動物性食品によく合うのに対し、うすくち醤油は植物性食品に合うという違いがあります。
さらに、こいくち醤油は特有のよい香りが強いのに対して、うすくち醤油は香りが弱く、出汁の香りが効いたあっさりとした旨味が特徴です。 これが、昔から「香りの濃口」、「旨味の淡口」と言われる由縁です。

 ◇こいくち醤油


  1. 色は普通、光の透過率、刺激純度、明度で表すものですが、計測器が必要ですし、分析に時間も掛かります。そこで、醤油の色は見本の何番と同じ濃さ(日本醤油検査協会が認定、配布している標準色デスク)ということで、色の濃さを決めます。標準色の番号は大きくなるほど色は淡くなる。こいくち醤油は18番未満と決められています。
  2. 香り
    動物性食品、特に魚類には特有の生臭さがあります。この生臭さを消して、醤油特有の風味を魚につけるために発達してきたのがこいくち醤油です。醤油が発達した当時、江戸は江戸前といわれるほど多くの魚が獲れました。それも関西、特に瀬戸内海の白身の魚とは異なり、どちらかというと背の青いクセの強い魚(秋刀魚やかつおなど)が多かったこともあり、江戸を中心に関東では香りの強い醤油が好まれた背景があります。
  3. 塩分濃度
    こいくち醤油14.5g/100ml(五訂食品成分表)
  4. 原料
    大豆,小麦,塩
  5. 醸造
    大豆8割、小麦2割の割合でもろみを作って、1年から2年熟成されたもの。
  6. 料理
    赤褐色で味・香りも強く、煮物・炒め物・天出し・合わせ物・ポン酢といった何にでもよく合う万能型の醤油です。豊かな香りは生臭みの気になる肉や魚に抜群の相性です。

 ◇うすくち醤油


  1. 「うすくち醤油」というのは、「こいくち醤油よりも色が淡い醤油という意味。色は普通、光の透過率、刺激純度、明度で表すものですが、計測器が必要ですし、分析に時間も掛かります。そこで、醤油の色は見本の何番と同じ濃さ(日本醤油検査協会が認定、配布している標準色デスク)ということで、色の濃さを決めます。標準色の番号は大きくなるほど色は淡くなる。うすくち醤油は標準色の18番以上・22番以上と決められています。
  2. 香り
    植物性食品の香りは一般的におだやかです。しかも、その香りを生かして調理するほうが季節感あふれる料理を味わうことができます。素材の香りを生かすには、うすくち醤油の方が好都合です。特に京都は海から遠いということもあり、昔は食卓の中心は植物性食品でした。そこで、京都を中心に関西ではうすくち醤油が発達したと考えれています。しかも、関西は瀬戸内海に面しています。そこで獲れるのはクセのない白身の魚(鯛やカレイ、ハモなど)が主力だったことも理由のひとつに挙げられます。
  3. 塩分濃度
    うすくち醤油16g/100ml(五訂食品成分表)
  4. 原料
    大豆,小麦,,塩
  5. 醸造
    小麦7割、大豆2割、米1割の割合でもろみを作って半年程度で火入れ(殺菌)をして完成。
  6. 料理
    鍋物、おでんをはじめとして、醤油の香りで材料の風味を消さないうえ、みりんを加えて加熱するとよい香りがでるので、煮物・炒め物にも良く合います。濃口とくらべると色が薄く、やや塩分が多めです。 お吸い物や淡白な白身魚、野菜など素材を生かす料理に最適で、その淡い色は料理を実に美しく仕上げてくれます。


■濃口・淡口醤油の塩分濃度の違い
醤油の濃口・淡口は、味の濃さ(塩分濃度)ではなく、醤油の色を表しています。淡口は色が薄く澄んでいますが、濃口は淡口より黒っぽく見え、透明度も低いです。一般的に醤油は濃口よりも淡口のほうが塩分濃度が高くなっています。具体的には濃口の塩分濃度の重量比は約14~15%。淡口の重量比は約16~18%程度です。ちなみに淡口醤油の色が薄いのは、高濃度の食塩で発酵・熟成をおさえて醸造期間を短くしたためです。

大さじ1(18g)あたりの食塩相当量
 ・濃口醤油 2.6g
 ・薄口醤油 2.9g
(出典:日本食品標準成分表2015年版(七訂))

日本の家庭で使用される醤油の大部分は、濃口醤油です。塩分濃度が低く、味とのバランスに優れているため、さまざまな料理に使用できます。濃口醤油の次に使用されるのが薄口醤油です。淡口醤油とも呼ばれており、名前の通り色味は薄いです。しかし、塩分濃度が高いため、色味を抑えながら塩分を追加する際に利用されます。発酵と熟成を抑えることで、苦みや酸味がある醤油となっています。


■濃口醤油・淡口醬油の一般成分



■「減塩しょう油」と「うす塩しょう油」の違い
「減塩しょう油」は厚生労働省「特別用途食品」として指定されており、塩分濃度は通常のしょう油の50% 以下と定められている。一般的な濃口醤油の塩分濃度は18%前後ですから、その半分の9%以下が減塩醤油となります。
「うす塩しょう油」は80% 以下 (13%) となっている。ちなみに、13%以下に濃度を抑えたものは、うす塩・あさ塩・あま塩醤油と呼ばれている。「減塩しょう油」は高血圧、妊娠中毒毒症などで減塩食を必要としている人向けの醤油で「うす塩醤油」 は成人病予防をに適した醤油となっている。



しょうゆと水質,「軟水」と「硬水」

軟水は、醤油の色を濃くしない特性がありますが、逆に、硬水では、醤油の色が濃くなります。おおまかに、西日本は軟水、東日本は硬水と言うように地質的に分かれます。濃口醤油成分の67.1%は水であるため、醤油の味は水質により決まるとも言われています。
また、醤油の仕込みに適した水質は軟質ともいわれ、原料としての水は発酵、旨味成分の一部を成すとともに、熟成にも影響を与えます。軟水では緩やかな発酵を促し、硬水では盛んな発酵となるといいます。


一般的に、硬度は水の味に影響を与え、硬度の高い水は口に残るような味がし、硬度の低すぎる水は淡白でコクがなく、適度にあるとまろやかな味になるといわれています。

水には硬度があり、硬度の高いものが硬水、低いものが軟水です。硬度とは水中のマグネシウムイオンとカルシウムイオンの含有量を示したものです。水には主にカルシウムイオンとマグネシウムイオンが含まれていて、水1000ml中に溶けているカルシウムとマグネシウムの量を表わした数値を「硬度」といいます。簡単にいうと、カルシウムとマグネシウムが比較的多く含まれる水が硬水になります。
軟水と硬水の違いは「水に含まれるマグネシウムとカルシウムの量(ミネラル分)の違い」で、これを硬度と呼びます。硬度が低いと軟水、高いと硬水ということになります。英語でも軟水は「soft water」硬水は「hard water」だそうです。

硬度の計算方法にはアメリカ硬度、ドイツ硬度、フランス硬度、イギリス硬度などがありますが、日本では「アメリカ硬度」を採用しています。これは水1リットル中に含まれるカルシウムとマグネシウムの量を基準に、硬度を算出する方法です。 アメリカ硬度の計算式は下記の通りです。
ミネラル分の計算方法は、“硬度(mg/Lまたはppm)=カルシウム量(mg/L)×2.5+マグネシウム量(mg/L)×4.1”です。
例えば水1リットル中にカルシウムを40mg、マグネシウムを20mg含んでいる場合の硬度は 40(mg/L)×2.5+20(mg/L)×4.1=182(mg/L)となり、硬度は182と算出されます。

また、世界保健機構(WHO)の飲料水質ガイドラインによれば、硬水と軟水は次のように分けられています。WHOでは「カルシウム塩の量とマグネシウム塩の量を合わせて炭酸カルシウム (CaCO3) の量に換算した値(mg/L)」(アメリカ硬度)を硬度としています。
WHOの「飲料水水質ガイドライン」では、アメリカ硬度によって計算された値を使用しています。硬度60未満を軟水、60以上120未満を中程度の硬水、120以上180未満を硬水、180以上を非常な硬水と4種に分類しています。

軟 水 硬度0~60mg/リットル未満
中程度の軟水(中軟水) 硬度60~120mg/リットル未満
硬 水 硬度120~180mg/リットル未満
非常な硬水 硬度180mg/リットル以上


■日本に軟水が多い理由
以下は「日本に軟水が多い理由・硬水ができる理由/サントリー「水大事典」」より引用


日本は、地質の特性や国土の狭さなどから、水へのミネラルの溶け込みが少なく日本の水のほとんどが軟水です(ただし一部のカルスト地域や沖縄県は硬水が多い)。ヨーロッパや北米には硬水が多く存在します。これは大地を形成する地殻物質が異なるからです。天然水は地中にしみ込んだ雪や雨水が地層中で汚れやゴミを濾過し、地層中のミネラルを吸い取って湧き出しています。日本は国土が狭く地層に浸透する時間が短く、ヨーロッパや北米の大陸では地層(カルシウムを多く含む石灰岩地質)に接する時間が長いことが、硬水と軟水を生み出す要因のひとつとされています。

なお、厚生労働省が発行している『おいしい水の要件』によると、硬度10~100mg/リットルの水がおいしいとされています。国内の水道水の平均は50mgなので、高度10~100mgも水が飲みやすく、好まれる傾向があります。一方、硬水は苦味を感じる人もいますが、しっかりとした飲みごたえがあり、スポーツ後のミネラル補給や便秘解消に役立つといわれています。

水の硬度はその土地の食文化と密接に関連しています。日本は軟水が多いため、和食にも軟水が適しています。軟水は米や野菜を柔らかくする作用があり、食材からダシの成分であるアミノ酸などが溶け出しやすく、出汁を利かせる料理にも適しています。煮物など、具材に味を染み込ませる料理など日本食には軟水が向いています。飲み物に関しても、日本人がよく飲む緑茶も水そのものの味が左右することもあります。茶道が発達した理由のひとつに軟水もあげられます。







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