日本食文化の醤油を知る -筆名:村岡 祥次-



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第5章 現在の醤油造り




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 第5章 現在の醤油造り


現在の醤油造り

■調味料としての醤油の魅力は、色・味・香り
  • 「味」は主に大豆のタンパク質が、麹菌のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)によって分解され、醤油の旨味成分であるアミノ酸を生み出します。そして、醸造によって生まれる数多くのアミノ酸が互いに働きあい、更に他の成分ととけあって旨味を引き出されます。
  • 「香り」は小麦の主成分であるでんぷんが、麹菌の酵素(アミラーゼ)の働きでブドウ糖に変わり、甘味とコクを生み出します。この”香り”はクッキング・フレーバー(加熱香気)といって、醤油の中で発酵されてできたアルコール分が作用しているのです。さらに、ブドウ糖が乳酸菌によって乳酸や酢酸などの有機酸に変化し、塩辛さを和らげ、醤油の味を引き締めます。また、ブドウ糖の一部は酵母の働きでアルコールに変わり、香りを高める働きをします。
  • 「色」はタンパク質から得られたアミノ酸とでんぷんから得られたブドウ糖が組み合わさって生まれます。
  • そして、麹菌・乳酸菌・酵母などの微生物の働きを調節するのが食塩です。全ての原材料が互いに作用しあい、じっくり時間をかけて発酵・熟成し、醤油が誕生します。

■液体調味料「醤油の種類」
醤油は、蒸した大豆(丸大豆または脱脂加工大豆)と炒り砕いた小麦を混合し、種麹を加えて麹を造り、これに食塩水を加えた諸味(もろみ)を大体半年~1年以上発酵、熟成させることによってできる清澄な液体調味料です。
醤油の種類には、原材料の配合割合等の違いにより、日本農林規格(JAS)によって「濃口しょうゆ」、「淡口しょうゆ」、「たまりしょうゆ」、「再仕込みしょうゆ」、「白しょうゆ」の5種類に分類されます。また、生産方式によって「本醸造しょうゆ」、「混合醸造しょうゆ」、「混合しょうゆ」に大別されます。




■醤油に使われる大豆は2種類
現在、醤油の製造には大部分脱脂加工大豆が使用されていますが、昔はすべて丸大豆による醤油醸造でした。流通する醤油の8割以上は脱脂加工大豆から作られています。
しょうゆ醸造で使用する大豆は「丸大豆」か「脱脂加工大豆」が使われます。丸大豆しょうゆというのは脱脂大豆ではない普通の大豆のことです。醤油の原料表示部分に、大豆と書いてあれば「丸大豆」のことを指し、脱脂加工大豆の場合は「脱脂加工大豆」と記されています。
大豆は、たんぱく質:35.3%、脂質:19.0%、炭水化物:28.2%という成分組成です。これを脱脂して19%の油を取り去ったものを「脱脂加工大豆」といいます。



【丸大豆】 丸大豆醤油の流通割合:15~20%・まろやかでコクのある醤油
・長い熟成期間が必要な反面、グリセリン(甘味をもった油)が溶け込む
・窒素の高い醤油をつくるにはそれなりの設備または技が必要

【脱脂加工大豆】 脱脂加工大豆醤油の流通割合:80~85%・すっきりとキレのある醤油
・原料コストが安価で、短い加工時間で醤油をつくれる
・窒素の高い醤油をつくりやすい



その違いは次のとおりです。
「脱脂加工大豆」という表記の醤油は、食用油を搾った(搾油)あとの大豆を原料に使います。脱脂加工大豆を原料とした醤油はキレのある風味とうま味のある醤油が特徴です。現在、醤油づくりに使われる脱脂加工大豆が全体の80~85%までを占めています。
それに対して、「丸大豆しょうゆ」は油脂を搾る前の、丸のままの大豆を原料としてつくります。丸大豆しょうゆの原料である「丸大豆」とは、この搾油を行っていない(油分を含んだ)大豆を使って醸造し、最後にしょうゆに浮いてくる油分を取り除きます。

「丸大豆」か「脱脂加工大豆」の違いは大豆の中の油脂のあるなしです。
「丸大豆」のこの油脂が大豆の油脂成分が醸造中に脂肪酸とグリセリンなどに分解されます。グリセリンは甘味をもった油で溶けやすい性質を持っています。これが、長い熟成の間に醤油の中に溶け込んでいくために、まろやかな風味と深いコクが特長の醤油になります。
また、油はアルコールと反応して香りのもと(エステル)になるので、醤油の香りも違ってきます。伝統文化としての醤油はもちろん丸大豆を使用します。現在、「丸大豆しょうゆ」は本物指向の高級な商品として製造・販売されています。

注1)現在の醤油は、脂肪加工大豆を原料として多く作られています。
注2)丸大豆醤油は、丸大豆を原料として昔ながらの方法で作られています。

丸大豆醤油

原料:丸大豆
大豆そのままのものを「丸大豆」と呼び、大豆油を約20%含んでいます。しょうゆを製造する過程で、最後に大豆の油が浮き出る。これを取り除いたものが丸大豆醤油となる。一般的に昔ながらの木桶で仕込む場合などには丸大豆が使われます。
また、「丸大豆しょうゆ」の方が酸化しにくく品質が落ちづらいという面があります。しょうゆは、新鮮なうちは赤みが強いのですが、空気に触れることで色がだんだん黒くなり、香りが落ちていきます。丸大豆しょうゆの場合、適度に油分が含まれていることで酸化しにくく、この美味しさを保つことができるのです。

普通の醤油

原料:脂肪加工大豆
大豆には約20%の油が含まれています。醤油の原料用として大豆から、油を搾ったあとの大豆。醤油の製造上あまり必要のない大豆油分をあらかじめ取り除いたものです。大量生産型の醤油づくりの場合には脱脂加工大豆が使われます。
油分をあまり含まない分、旨味成分の指標が高く、フレーク状になっているため成分が溶け出しやすい性質もあります。

大豆加工品の表示

■醤油の原料「大豆(遺伝子組換えでない)」への遺伝子組換え表示
遺伝子組換え大豆とは、除草剤によって枯れないよう、特別な酵素をつくる遺伝子を大豆に入れたもので、有害ではないということが厚生労働省から発表されています。醸造期間中に大豆タンパク質が分解されて製品からは検出されないため、表示は義務づけられていませんが、消費者ニーズに応えるため、ガイドラインを自主的に決めて表示するようにしています。

■国産大豆使用製品の表示(農林水産省HP,令和2年)
食品表示法により、原産地等特色ある原料を使用したことを示す場合には、使用割合を表示することが義務付けられています。これにより、「国産大豆使用」表示が可能となるのは国産大豆100%使用製品のみとなり、国産大豆使用割合が100%に満たない場合は、「国産大豆○○%使用」と表示することとなります。

また、平成29年9月からは、すべての加工食品の原料原産地表示が義務づけられており、すべての加工食品の一番多い原材料について、「国別重量順表示」や「製造地表示」等の表示をすることになっています(令和4年3月31日まで経過措置期間)。なお、豆腐・納豆については、上述の義務表示制度の開始以前から、納豆・豆腐の製造業者等が自主的に原料大豆の原産地を表示をする場合の指針として、「豆腐・納豆の原料大豆原産地表示に関するガイドライン」を平成18年に策定(豆腐・納豆の原料大豆原産地表示に関する検討会とりまとめ)し、製造事業者等の自主的な表示の取組が行われてきました。

■遺伝子組換え大豆に係る表示(農林水産省HP,令和2年)
遺伝子組換え農産物とその加工品の表示について、食品表示法の食品表示基準に定められており、義務表示と任意表示があります。
「義務表示制度」では、組み換えられたDNAまたは、これにより生じるタンパク質等の残る大豆等の加工品については、「遺伝子組換え」や「遺伝子組換え不分別」という表示が義務付けられています。
「任意表示制度」では、現行では分別生産流通管理して意図せざる混入率を5%以下に抑えている大豆並びにそれを原料とする加工食品については「遺伝子組換えでないものを分別」「遺伝子組換えでない」等の表示が可能ですが、任意表示制度については、情報が正確に伝わるよう改正され、2023年4月1日から新しい制度になります。
「新制度」では、(1)分別生産流通管理をして、意図せざる混入を5%以下に抑えている大豆並びにそれを原料とする加工食品については、適切に分別生産流通管理した旨の表示が可能。 (2)分別生産流通管理をして、遺伝子組み換えの混入がないと認められる大豆並びにそれを原料とする加工食品については、「遺伝子組換えでない」「非遺伝子組換え」等の表示が可能となり、使用した原材料に応じて2つの表現に分けることになります。

〇遺伝子組換え食品に関する表示Q&A(消費者庁HPより)
https://www.caa.go.jp/policies/policy/food_labeling/information/qa/common_03/から一部を抜粋。

『安全性が確認された遺伝子組換え農産物とその加工食品について、JAS法(遺伝子組換え食品に関する表示に係る加工食品品質表示基準第7条第1項及び生鮮食品品質表示基準第7条第1項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準。以下「基準」という。)及び食品衛生法(食品衛生法第19条第1項の規定に基づく表示の基準に関する内閣府令。以下「府令」という。)に基づき、表示ルールが定められ、平成13年4月から義務化されました。』

醤油などの加工食品に関する表示義務はありませんが、任意で表示することは可能です。
『しょうゆなど、組み換えられたDNA及びこれによって生じたタンパク質が加工工程で除去・分解され、ひろく認められた最新の検出技術によってもその検出が不可能とされている加工食品については、遺伝子組換えに関する表示義務はありません。これは、非遺伝子組換え農産物から製造したしょうゆと科学的に品質上の差異がないためです。ただし、任意で表示することは可能です。』
このため、各メーカーは任意で「大豆(遺伝子組み換えでない)」もしくは「脱脂加工大豆(遺伝子組み換えでない)」と表示をしているケースが多いのです。

醤油の製造方式

■本醸造醤油にも2種類がある
本醸造方式といわれる醤油でも、人工的な温度管理で醸造を早めた「温醸」方式と人工的な温度管理をせずに、四季の自然な温度変化の中で醸造する「天然醸造」方式の二通りがあります。温度管理したタンクで半年醸造したものと、自然の温度に合わせて1年以上も醸造した醤油でも表示は同じ「本醸造方式」となります。

温醸(速醸法)方式は、醤油製造における熟成管理と仕込みタンクと温度管理計器がセットとなった温醸設備になっていいます。これを温醸(速醸法)といいいます。醸造温度を積極的にコントロールして加熱することで醸造期間を3~6か月と短縮する方式で早く製品化できるので大量生産が可能となります。
「天然醸造」は、季節の自然な温度の中で作られ、通常、諸味の発酵が盛んになるのは5月の連休明けから7月にかけてです。このために、どうしても醸造期間は1年以上かかりますが、「温醸/速醸法」だと3ヶ月~半年で出来上がります。これは1年の温度変化を凝縮管理しているからです。


■製造方法による3分類
醤油の製法には、「本醸造」「混合醸造」「混合」の3種類があります。日本の醤油の多くが本醸造でつくられていますが、地域によっては「アミノ酸液」を加えてつくる混合醸造や混合が支持されています。製造方式は、醤油のラベルに「名称」として表示されています。
醤油の商品ラベルの名称部分に表記されている「(本醸造)(混合醸造)(混合)」は製法を表していて、「こいくちしょうゆ(本醸造)」「うすくちしょうゆ(本醸造)」のように醤油の種類とセットに記載されます。


ラベルの名称:こいくちしょうゆ(〇〇)、うすくちしょうゆ(〇〇)、たまりしょうゆ(〇〇)、 さいしこみしょうゆ(〇〇)、しろしょうゆ(〇〇)、しょうゆ(〇〇) 。
※(〇〇)の部分は、本醸造方式のものは「本醸造」、混合醸造方式のものは「混合醸造」、混合方式のものは「混合」と表示します。

現在、メーカーで作られている製造方式は、「本醸造方式」・「混合醸造方式」・「混合方式」の3種類があります。
醤油のつくり方はJAS(日本農林規格)によって醸造方式が「本醸造方式」「混合醸造方式」「混合方式」の3つに区分されています。「本醸造方式」とはアミノ酸液又は酵素分解調味液を使っていないタイプの醤油です。「混合醸造方式」「混合方式」は製造過程でアミノ酸液又は酵素分解調味液を混ぜて造る方法です。
「アミノ酸液」は脱脂加工大豆など植物性のタンパク質を塩酸分解して作ります。



■ 本醸造方式
原材料の大豆、小麦などの全てを麹菌や酵素で発酵、熟成させて造る伝統的な醤油本来の製造法方式です。
昔からの製法で、蒸した丸大豆(または、脱脂加工大豆)と、炒って挽き割りした小麦をほぼ等量混合し、種麹(たねこうじ)を加えて「麹(こうじ)」をつくります。これを食塩水と一緒にタンクに仕込んで「諸味(もろみ)」を造り、撹拌を重ねながら半年から一年、発酵・熟成させます。
麹菌や酵母、乳酸菌など微生物の力を借りて、ゆっくりと自然熟成させていきます。時間がかかる分丁寧に熟成が進み、醤油特有の色・味・香りが生まれます。発酵熟成後、搾汁して濾過した液汁(生醤油)を火入れと呼ぶ加熱殺菌をして醤油となります。

つまり、タンパク質を分解して種々のアミノ酸に変える工程を、すべて麹菌がつくる酵素の働きでおこなっています。本醸造でつくられた醤油は色や味、香りすべてにおいてバランスのとれた、よい醤油といえます。みそと清酒、醤油はいずれも麹菌を利用してつくられますが、原料のすべてを麹にして仕込むのは豆みそと醤油だけです。




■ 混合醸造方式
「混合醸造醤油」は、本醸造方式で作られた「もろみ」にアミノ酸液等などを添加し、短期間で熟成(概ね1ヶ月以上発酵・熟成)させて造る醤油です。完全な本醸造醤油では、酵母や麹菌などの力だけで発酵や熟成を進めるため、出来上がるまでにとても時間がかかってしまいます。しかしアミノ酸液をもろみに加えると、発酵が促進され、本醸造より比較的短時間で熟成させることができます。

「諸味」または、それを搾った「生醤油(生揚げ醤油)」に、大豆(脱脂加工大豆)などの植物性タンパク質から抽出したアミノ酸液を加え、3ヶ月ほど発酵・熟成後、本醸造と同様に濾過・加熱したものです。アミノ酸液特有の旨味やコクが強いので、九州など一部地域で好まれています。
大豆や小麦グルテンなど植物性高タンパク質を酸加水分解してつくったものをアミノ酸液(20種のアミノ酸を含む)といい、個々のアミノ酸まで単離せず、種々のアミノ酸などが複合した状態を保っているものです。

※ アミノ酸液とは強いうま味をもった液体調味料です。大豆など高タンパク原料を塩酸で分解し、炭酸ナトリウムなどで中和してつくったものをいいます。原材料に添加物が記載されている場合に一部の消費者の中には気になされる方がおられます。しかし、醤油造りに使われる「アミノ酸」や「アミノ酸液」は安全な食品添加物なのです。
調味料の「アミノ酸」と「アミノ酸液」(20種のアミノ酸を含む天然物)は、名称が似ていますが両者は違うもので同じではありません。「アミノ酸」はグルタミン酸ナトリウムであり、微生物の働きによって糖蜜やでんぷんから作られます。「アミノ酸液」はグルタミン酸、アスパラギン酸、プロリン、アラニンなどのうま味成分の元であるアミノ酸を多く含んでいる液体調味料です。


アミノ酸液の代わりに下記の調味液を加えることがあります。
・酵素分解調味液(大豆を酵素で分解したもの)
・発酵分解調味液(小麦グルテンを発酵、分解したもの)


■ 混合方式
「混合醤油」は、すでに出来上がった生醤油(生揚げ醤油)に、アミノ酸液・酵素分解調味液・発酵分解調味液のいずれかを撹拌調合、加熱処理する方式で作られる醤油です。
「諸味」またはそれを搾った「生醤油」に、大豆(脱脂加工大豆)などの植物性タンパク質から抽出したアミノ酸液を加え、熟成させる。アミノ酸液は、本醸造で作られるアミノ酸とは異なる独特の香りと旨みがあり、この風味と旨味を生かした醤油です。本醸造しょうゆのように発酵・熟成は行わずに造ります。この醤油の特徴は、旨味と特有な香りがある醤油で九州などでよく使用される醤油となっています。




■ 醤油製造方式のまとめ(模式図)

「混合方式」「混合醸造方式」のどちらも「本醸造方式」より簡便で、短期間で製品化が可能な生産方式である。「混合方式」「混合醸造方式」とも、アミノ酸液を加えて製造するため「本醸造」とは異なる「味」を有している。また、これらの生産方式では添加物として砂糖や甘味料を入れることもあり、「甘い」醤油であることが多く、こうした製法でつくられた醤油が地域の味として浸透している。そのため、「本醸造」醤油を「塩辛い」と感じる地域も存在する。



しょうゆの地域性

■地域による味の違い
地域の嗜好や調理方法の違いなどによって、微妙な違いがあります。赤身の魚が多い東日本では濃口醤油が普及していたり、だしで素材を煮て醤油で仕上げる調理法が主流の関西地域で淡口醤油が誕生し普及したりしたことも、地域に根差した違いといえます。
また古くから中国や韓国の味との接触が多い九州では、甘味の強い醤油が使われています。ちなみに、醤油が甘いのは山口県あたりから西側で、九州全域にわたっています。徐々に地域差も少なくなってきていますが、現在でも各地の特性に合わせた醤油が作られています。


■「しょうゆの地域性と形成要因の調査から見えること」
(キッコーマン国際食文化研究センター誌、NO.28,NO.29、東京家政学院大学名誉教授 江原絢子)から一部を抜粋した。
しょうゆの地域性とその形成要因を明らかにするために、日本醤油協会,全国醤油工業協同組合連合会およびキッコーマン国際食文化研究センターの協力を得て、2016年から2018年に掛けて全国のしょうゆ工場を対象に事前アンケートとヒヤリング調査を行った。沖縄県を除いて(沖縄県にはしょうゆ工場が1社しかないので調査対象から外した)、全国の127工場について調査を行った。調査結果の解析については、東京家政学院大学名誉教授の江原絢子先生にご指導いただいた。

〇多様な地域性
『現在のしょうゆが「こいくち、うすくち、たまり、さいしこ み、しろ」に分類されていることやそれらのしょうゆの大枠の分布については知られており、九州のしょうゆは甘く、淡口しょうゆは濃口しょうゆより塩分が多い等も周知のことであろう。しかし、このたび日本の各地域でしょうゆの歴史や製造等の実態について聞き書調査を実施し、議論を重ねてみると、しょうゆの地域性は一般に考えられているよりもっと多様で、しかも各地域のしょうゆの嗜好性の形成過程も一様ではないようだということもわかってきた。(後略)』

〇意外に多かった混合しょうゆの地域分布
『しょうゆの地域性と形成要因について明らかにするため、2016年から2018年まで、研究代表者(舘 博)および 共同研究者(宇都宮由佳・福留奈美)により、全国のしょうゆ醸造所(以下、醸造所)を対象にヒアリング調査を行ってきた。協力していただいた醸造所は、127件に上った。いくつか調査できなかった県もあるが、ほぼ全県を調査した。またこれに加え、各醸造所の歴史、製造量、しょうゆの種類別製造比率、JAS法製造形態別製造比率などについてのアンケート調査に回答いただいた。



(中略) 調査した各醸造所内のしょうゆのJAS製法による分類のうち、混合しょうゆ(生揚げしょうゆにアミノ酸液などを加えて調整したしょうゆ)の分布を 図1 に示す。比率は、各醸造所内で製造される製造方式(本醸造・混合醸造・混合)の混合しょうゆの比率を示しており、生産量を示すものではない。生産量で見れば、全国のしょうゆの約8割が本醸造しょうゆである。
 図1を見ると、九州は、各醸造所の50%以上の製造を混合しょうゆとしているところが多い。また、東北、北陸、中国・四国も混合しょうゆの比率が高い醸造所が多い傾向が見られる。さらに、混合醸造しょうゆは、島根、愛媛、香川などの一部に見られるほかは、ほとんどつくられていないので、混合しょうゆの比率が少ない地域、すなわち北海道、関東、甲信越、愛知、三重、兵庫などは、本醸造しょうゆの比率が高い地域といえる。
 ヒアリングでも九州の多くで甘味のあるしょうゆが多い傾向が見られるだけでなく、愛媛、高知などの四国、富山など北陸でも甘いしょうゆが確認され、混合しょうゆの比率の高い地域とほぼ一致した。
 混合しょうゆには、アミノ酸液や酵素分解調味液などだけではなく、甘味原料が添加されている事例が多く見られる。例えば中国地方の混合しょうゆのラベルをみると、アミノ酸液、脱脂加工大豆、小麦、食塩のほか、糖類(砂糖、ブドウ糖果糖液糖)、酸味料、調味料(アミノ酸等)、甘味料(甘草、ステビア)、カラメル色素、増粘剤などの記載がある。複数の甘味や酸味などをブレンドして微妙な味の違いを調整することで、地域の好みに合う工夫が行われたと思われる。』

〇種類別に見たしょうゆの分布
『次に、しょうゆのJASによる種類別(濃口、淡口、再仕込み、たまり、白)にみた各醸造所の製造比率のうち、図2 は、淡口しょうゆの比率分布を見たものである。濃口しょうゆは、全国に分布しているが、淡口しょうゆは、当初、関西に集中しているのではと考えられた。しかし、アンケートから見ると、九州、四国、中国地方などでも製造されている。九州におけるヒアリングでも、刺身しょうゆは、甘みのある濃い粘性のあるしょうゆを使うが、煮物には、淡口を使うところも多く、使い分けをしているという。宮崎では8割、鹿児島では6割を淡口の製造にあてているところもある。
 いっぽう、たまりしょうゆは、岐阜、愛知、三重に集中しており、ほかに大阪にあるが、他の地域ではほとんど製造されていない、地域性が極めて明確なしょうゆである。この地域は、豆味噌文化を持つ地域と重なり、いずれも始原的調味料文化を継承している地域ともいえる。白しょうゆも地域が限定され愛知県の碧南に見られるが、ほかは、わずかながら群馬、千葉、埼玉に見られた。再仕込みしょうゆも中国地方にやや見られるほか、静岡などにあるが、他のほとんどのところでは生産されていない。』

〇近代におけるしょうゆの呼称の定着と用途
『うすくちの表現は、『日本家事調理法』(1904年)が初出とある。それ以前は、「色薄き醤油」「うすしょうゆ」の表現も使われ、江戸時代の料理書にも「淡(うす)」,「薄(うす)」,「稀(うす)」等の表記があり、揚げ鯛を「淡醤油」で煮る等の料理が紹介されている。
『簡易速成和洋料理法』(1909年)では、しょうゆの種類は、「たまり、色無ししょうゆ、普通のしょうゆ」の3種だけとし、たまりはどろりとして甘く非常にうまく、刺身や掛しょうゆによく、色無しは色のつかないような煮物をする場合やなますに用いるとある。
これからみると、たまりは甘い味に、淡口しょうゆは色の淡さに特徴があり、それ以外を普通のしょうゆと分類し、濃口しょうゆは普通のしょうゆと認識されていたのではないかとも考えられる。』



国内の生産状況

平成29年(2017)醤油業界の概況(醤油業界 ヒアリング資料:日本醤油協会、全国醤油工業協同組合連合会)
  • 業界全体の市場規模
     国内:76万8766kL 平成29年 (平成24年比Δ4.7%)
     輸出;3万3564kL 平成29年 (平成24年比+94%)
  • 構成
     醤油製造事業者数 1231社
     日本醤油協会(大手5社及び全国醤油工業協同組合連合会)
     全国醤油工業協同組合連合会(以後全醤工連と略す) (全国48組合;中小企業が加盟)
  • シェア 大手5社で53.4%、全醤工連上位23社で24.4%
  • 取扱い品目
     しょうゆ(濃口しょうゆ、淡口しょうゆ、たまりしょうゆ、再仕込しょうゆ、しろしょうゆ)
     しょうゆ加工品類(加工しょうゆ、粉末しょうゆ、つゆ、たれ等)
 


平成29-30年(2017-18年) 国内の醤油生産状況
1
全国のしょうゆ生産量の比率
は、濃口醤油が全体の84.0%を占め、淡口醤油が12.0%、溜(たまり)醤油が2.2%、再仕込み醤油が1.0%、白醤油が0.8%となっています。この比率は地域によって偏りがあり、東日本では濃口醤油がおおむね9割を占めていますが、西日本では約6~8割に下がり、代わりに淡口醤油の比率が2~4割と東日本より高くなっています。
(2018年度 農林水産省食料産業局,一般財団法人日本醤油技術センター資料による)

2
全国のしょうゆ生産方式による生産量の比率
は、本醸造方式が全体の84.0%、混合方式が11.3%、混合醸造方式が0.5%となっています。
(2018年度 農林水産省食料産業局,一般財団法人日本醤油技術センター資料による)

3
醤油の都道府県別生産量(平成29年度(2017年)農林水産省総合食料局)と主なメーカ

1位 千葉県 283,508 kl (キッコーマン、ヤマサ醤油、ヒゲタ醤油など)
2位 兵庫県 121,967 kl (ヒガシマル醤油など)
3位 愛知県  45,648 kl (盛田醤油、イチビキなど)
4位 群馬県  44,943 kl (正田醤油など)
5位 香川県  40,379 kl (マルキン忠勇など)
 総生産量 768,766 kl

4
平成29年度(2017年) 醤油の生産動態等統計調査(農林水産省大臣官房資料)より
〇醤油生産量の変化:
・昭和30年(1955):973,800 kl → 昭和43年(1968):1,018,565 kl → 昭和52年(1977):1,155,997 kl → 平成元年(1989):1,197,279 kl → 平成15年(2003):981,100 kl → 平成20年:904,813 kl → 平成25年(2003):793,3634 kl → 平成29年(2017):768,766 kl

〇醤油企業数の推移:
昭和30年(1955):6,000社 → 昭和43年(1968):4,131社 → 昭和52年(1977):3,135社 → 平成元年(1989):2,307社 → 平成15年(2003):1,509社 → 平成20年(2008):1,537社 → 平成25年(2013):1,330社 → 平成28年(2016):1,231社



都道府県別の醤油生産量:平成30年(2018年)

順位 県名 生産量(kl)
1 千葉県 283,270
2 兵庫県 118,085
3 群馬県 44,641
4 愛知県 42,566
5 香川県 39,772
6 大分県 27,750
7 三重県 24,962
8 青森県 21,835
9 福岡県 21,632
10 北海道 18,566
総生産量 757,237





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