<一年B組、中谷光彦のその日>
僕は、いつものように学校に向かっていた。
「中谷君、おはよう!」
矢沢先生が、僕の横を歩いている。化粧の香りが僕の鼻をくすぐった。
先生はにっこり笑って、僕を追い越していった・・・。
「中谷君、おはよう!」
僕の高校の女子の制服・・・ブレザー姿の女子が走って来た。ショートカットの髪、細い体、綺麗に伸びた白い足には、紺色のハイソックスを穿いている。
「おはよう!」
「ああ・・・おはよう・・・」
誰だったかなあ・・・僕は、必死に思い出そうとしていた。
「どうしたの?」
彼女が、にっこり笑って僕の顔を覗き込んだ。
「いや・・・君は誰・・・」
「いやだなあ・・・なにとぼけているの?」
彼女が笑い出した。
「前の席に座っている人間を忘れないでよ・・・山田でしょう」
彼女は笑った・・・僕も頭の中で彼女のことを思い出した。
「ああ・・・悪かったね・・・」
彼女は、にっこり笑って頷いた。
「早く行かないと、遅刻するよ!」
そう言うと、彼女はくるっと回って学校に向かって走り出した。回った拍子に、ブルーのチェックのプリーツスカートがふわっと広がった・・・彼女の綺麗な足が僕の目に飛び込んできた。
驚く僕を、彼女は、にっこり笑って見つめると学校に向かって走っていった。
学校に着いた・・・校門をくぐると、やけに女子生徒の姿が目立った・・・
「こんなに・・・女の子がいたかなあ・・・」
僕は、なんとも言いようの無い違和感を感じていた・・・
教室に入ると、また驚いてしまった・・・教室の3分の2を、ブレザーを着た女子生徒が占めていたのだ・・・
「あっ・・・中谷君、おはよう!」
女の子達が声をかけてきた。
「ああ・・・おはよう!」
僕は答えた。女の子達は、明るい笑顔でみんなとおしゃべりをしている。その光景を見ながら、僕は自分の席に座った。前には、山田が座っている。そのブレザー姿の背中と、サラサラのショートカットの髪を見ていると、僕は不思議な気がしていた。
矢沢先生が入ってきた。いつものように出席をとっていく・・・女子の人数が多いのが気になったが、記憶の中では、何もおかしいところが無い。
「もともと、この学校は、女子高だったのだから」という結論になってしまう。
いつものように、一日が始まった・・・
「おい!中谷!ちょっと来いよ!」
昼休みに、僕は、クラスでもワルと言われている、高橋に呼び出された。
「なんだよ・・・」
僕は、高橋に、校舎の屋上に連れてこられた。
「おまえ・・・この学校・・・何かおかしいと思わないか?」
髪を赤く染めた、長身で厳つい顔の高橋が、僕に向かって言った。
「なぜだ?」
僕が尋ねると、高橋は言った。
「だいたい・・・共学なのに、俺達のクラスは、3分の2が女子だぞ!確かに、記憶にはおかしいところは無いけどな・・・それに俺は昨日の夜、見たんだ」
「なにを?」
「学校の礼拝堂に、たくさんの男子生徒が入っていくところを・・・いいか?たくさんの“男子生徒”だぞ!誰だか思い出せないんだけどな・・・その男子生徒たちは、いったいどこに行ったんだ?」
高橋が一気に言った。
「俺は・・・今夜、礼拝堂に行ってみる。帰ってこなかったら、探しに来てくれ」
「なぜ、僕に?」
高橋は、笑いながら言った。
「おまえ・・・おとなしいやつだけど、意外に根性が座っているからな。何よりも、俺を全く怖がらない。俺だって友達が欲しかったしな・・・」
高橋が笑った。僕も笑った。2人の笑い声が、屋上に響いた。
<一年B組:高橋 佳一>
<一年B組:山田 明乃>
<一年B組担任・数学科:矢沢 詠子>
<翌 日>