かがくののおと 14


高分子

  1. 天然高分子と合成高分子

     高分子(polymer)は,比較的分子量の低い分子(monomer)が,数多く結合した分子である.

     天然高分子は,生物の体に見られる,高分子であり,タンパク質やセルロース,DNAなどが含まれる.構造や機能が極めて洗練されている.

     合成高分子は,天然高分子の優れた特徴を模倣するべく作られた高分子である.中には,物性として,天然高分子を越える特徴を示す,合成高分子もあるが,必ずしもそれがいいとはかぎらない.その証拠に,最近の合成高分子の研究では,生分解性高分子が注目されている.

     合成高分子には,特性を改善したり,整形性を向上させるために,添加物が多く含まれる.合成高分子自体は,無害であっても,高分子の添加剤は,生物に対する影響がほとんど考慮されていないので,注意が必要である.

    ゲル

    ゲルは複合材料である.ゲルは,見た目の形状より,構造で考えるのがよい.ゲルの構造は,高分子の編み目構造の中に,液体が分布している.編み目構造の中に,液体が保持されているので,固体と液体の都合のいい性質を利用することが可能である.身近な例では,ゼリーやプリン,豆腐などがある.我々の体もゲルの部分が多い.紙おむつなどの吸水剤もゲルである.合成高分子によるゲルは,天然高分子の特性を目指す方向のひとつである.

     高分子の編み目構造は,高分子同士が,弱い化学結合で結ばれている場合と,強い化学結合で結ばれている場合がある.加熱すると,再溶解するゼリーや,カルシウムイオンによる豆腐などは,弱い結合である.高分子吸水剤は,重合の際に共有結合による架橋剤を加えており,これは強い結合である.

  2. タンパク質

     タンパク質は,アミノ酸が結合した,高分子である.単にアミノ酸が結合している場合は,1次構造という.1次構造だけのタンパク質であれば,人工的に合成できる.タンパク質が,さらに,らせん構造や面状の構造をもつ場合は,2次構造という.2次構造を固定しているは,水素結合であることに注意すること,タンパク質が,らせん構造をもつと,タンパク質が,機械的な骨格構造を持つことになり,立体的な特異性を発揮することができる.この場合は,3次構造と呼ばれる.工学的に注目されているのは,酵素の触媒作用であるが,これらは,タンパク質の立体的特異性が大きく寄与している.我々の体には,20数種のアミノ酸があるが,アスパラギン酸やグルタミン酸は,酸触媒として寄与し,リジンやアルギニンは,塩基性触媒として寄与する.システインなどは,SS結合により,タンパク質の3次構造を安定させることに寄与する.

      
     
      図 14.1 ペプチド結合部分の構造.p電子系により,自由度が低下し,構造が固定され,タンパク質の2次構造を形成しやすくしている.図 14.2 タンパク質の2次構造.aらせんのモデル.水素結合に注目すること.

    変性

     タンパク質は,加熱や酸により,見かけの状態が変化する.こういった変化は,変性と呼ばれ,タンパク質の1次構造は,壊れないが,高次構造が破壊されている.したがって,タンパク質の機能は失われている.

  3. セルロース

      
     
      図 14.3 セルロース.bグルコースが線状に結合している.分子鎖間で水素結合をする.
      
     
      図 14.4 セルロース.酸素分子表面のピンクの半球は,ローンペア.分子内,分子間で水素結合が重要な働きをしている.
     

  4. でんぷん

     

    でんぷんは,aグルコースが数多く結合した,天然高分子である.aグルコースが結合した場合は,隣り合うグルコース同士の水素結合により,環状になり,一周ごとずれたグルコース同士の水素結合により,らせん構造をとる.ご飯ゃ芋などを加熱調理する事は,この水素結合を切断し,らせん構造を壊すことになる.

      
     
      図 14.5 bシクロデキストリン.aグルコースが環状に結合している.シクロデキストリンの内部は,白っぽく,外周は赤っぽい.でんぷんのらせんの内部は親油性で,外部は親水性である.
      
     
      図 14.6 でんぷん.aグルコースが環状に結合している天然高分子.でんぷんは,多数のグルコースがらせん状になった高分子.水素結合により,らせん構造になる.でんぷんのらせんの内部は,シクロデキストリンの内部と同じく,親油性で,外部は親水性である.でんぷんのらせんの内部には,油脂が取り込まれている.ヨウ素-でんぷん反応は,ヨウ素がでんぷんのらせん構造の内部に入ることで,紺色になる.加熱により,らせん構造が壊れると,ヨウ素-でんぷん反応の色は消える.
     

  5. ポリアミド(ナイロン)

     ナイロンは,絹を模倣して作られた,合成高分子である.古くからある,合成高分子であるが,優れた特性を持つ.これは,タンパク質である,絹を模倣した当然の結果かもしれない.

    66-ナイロン 融点 268
    6-ナイロン 融点 215
     耐溶媒性良 非プロトン性強極性溶媒に可溶
     引っ張り強度大 曲げ摩擦に強い 耐久力大
     吸水性小
     衣服 ロープ タイヤコード ブラシ 歯車
     100℃まで

  6. ポリエチレンテレフタレート(PET)

     

     ナイロンと同じく繊維によく用いられるが,耐熱性で劣る.近年では,PETボトルとしてよく使われている.

     

    テレフタル酸とエチレングリコール
     商品名 テトロン、ダクロン、マイラーなど
     弾力があり、しわがよりにくい 感触が羊毛ににている 
     吸湿性がなく 肌気には適さない 
     耐光性良 化学的には比較的安定 
     70℃まで

  7. ポリエチレン (PE)

     

    合成方法の違いにより,2種類のポリエチレンがある.チーグラー.ナッタ触媒によるポリエチレンは,低圧ポリエチレンもしくは,高密度ポリエチレンと呼ばれる.枝分かれのない高分子鎖になり,結晶性が高い.従って,不透明になる.それに対して,高圧ポリエチレンは,枝分かれが生じるため,結晶性が低くなり,透明である.

     

    最も多く生産されている  密度は0.92-0.96
     半透明もしくは乳白色 
     耐水性 電気絶縁性 耐薬品性 化学的に安定  一般の接着剤は不可 加熱溶接
     高密度ポリエチレン 80℃まで
     低密度ポリエチレン 60℃まで

  8. ポリプロピレン(polypropylene : PP)

     

    ポリプロピレンもチーグラー.ナッタ触媒によって,合成される.優れた,特性を持つ.ポリエチレンに比べ,高温にたえるが,低温で脆化する.

     最も軽いプラスチック 比重0.89-0.92
     軟化点が高い 110℃
     引っ張り強度 弾性率
     耐薬品性 化学的に安定
     耐紫外線は弱い

  9. ポリスチレン (polystyrene : PS)

       

    かさ高さのため,結晶性が悪い.そのため,透明性がよい.成型のさいに,ガスを含ませると,発泡スチロールとなる.

     無色透明 もろい 耐水性 高周波特性良 
     耐酸性 耐アルカリ 炭化水素系有機溶媒に可溶
     70℃まで

  10. ポリメチルメタアクリレート(PMMA)

       

    (polymethylmethacrylate : PMMA)
     透明性良 有機ガラス 耐光性良
       ポリスチレンより靭性あり
     70℃まで

  11. ポリ塩化ビニル(polyvinylchroride : PVC)

     

    機械的特性,化学的特性に優れているが,近年,ダイオキシンの発生源となり,使用量の削減がのぞまれている.家庭では,軟質ビニールやサランラップとして浸透している.

     耐薬品性良 耐光性は悪い 
     軟質 60℃まで 
     硬質 80℃まで 

  12. その他の高分子

    ポリオキシメチレン
     ポリカーボネイ
     ケブラー
     ポリ酢酸ビニル
     ポリビニルアルコール
     ビニロン
     テフロン (PTFE)
     尿素樹脂 (Urea resin)
     エポキシ樹脂


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Updated, 7.10, 2001