かがくののおと 13


化学結合 3

  1. 様々な化学結合

     原子と原子の結びつきが化学結合である.電子が,正の電荷を持つ核の周囲を運動するとき,複数の原子核のまわりを運動する方が,エネルギーが低くなる時に起こる.核の周りを電子が運動するときの仕方によって,以下に述べる様々な化学結合を分類することができる.化学結合を分類することはできるが,電子が結合に関与している点では,すべて本質的には同じである.

  2. 共有結合

     共有結合は,すでに見てきたとおりである.分子軌道法では,電子は分子全体を運動する.古典的な解釈の共有結合(σ結合)では,電子は2つの原子核の間に分布し,2つの原子核で同じ割合で分布する.以下の結合は,どこかしら少しだけ,共有結合と異なる.

      
     
      図 12.1 共有結合
  3. イオン結合

     イオン結合は,共有結合において,一方の原子に電子が偏った場合である.したがって,異なる原子同士の共有結合では,イオン結合の性質が大なり小なり含まれる.

    イオン結晶では,電子は全体を運動しない.そのため,電気は流れず,光を吸収しない.

      
     
      図 12.2 イオン結合
  4. 金属結合

     金属の特徴

     こういった金属の特徴は,金属の結晶中の電子の軌道によって現れる.

     ナトリウム原子は,3s 軌道に電子を1個持っている.ナトリウム原子が2個あると,s結合が生じる.しかし,ナトリウム原子のs結合は,ナトリウムの原子核にあまり束縛されておらず,ナトリウム原子が3個になると,3つの原子にまたがった結合が生じる.ただし,エネルギー準位の数も,もとのs軌道の数とおなじ3つである.ナトリウム原子の数が増えると,エネルギー準位の異なる軌道の数が増える.たとえば,1 mol個のナトリウム原子であれば,1023 個程度のエネルギー準位になる.したがって,個々の軌道のエネルギー準位は,ほとんど連続的に変化し,一番下と一番上のエネルギー準位で,エネルギーの帯のようになっている.軌道の数と電子の数は等しいので,真ん中のエネルギー準位までが,電子で満たされている.

     金属の結晶中では,結晶全体にわたって,軌道がつながっていて,電子の入っている軌道と上位の軌道のエネルギー準位が重なっている.そのため,電子は結晶内を移動できる.すなわち,導電性が生じるのである.電子が移動しやすいことは,熱伝導にも寄与する.なを,ここでもパウリの排他原理は成り立っている.金属の結晶中では,結晶全体にわたって,軌道が広がっているが,その軌道の数は,金属元素の数と同じだけあるのである.

      
     
      図 12.3 金属結合
  5. 配位結合

     銅イオンの水溶液の色は,青である.これは,銅イオンに,水が付き,銅原子の軌道のエネルギー準位が変化し,緑から赤のエネルギーを持つ光を吸収しているからである.銅イオンと水分子の結合が配位結合である.

     配位結合は,ローンペアと電子がない空軌道の組み合わせで生じる.遷移金属で重要である.金属原子に付く,物質を,配位子と呼ぶ.

      
     
      図 12.4 配位結合

     生体内での配位結合

     我々生物の体は,有機物である.基本的には,炭素,窒素,酸素,水素が主成分であるが,それだけでは,生体における高度な機能は実現できない.生物の組織には,微量ではあるが,金属が含まれ,様々な機能を実現している.ポルフィリン環は,金属と有機物を結びつける構造であり,ヘモグロビンの鉄やクロロフィルのマグネシウムの固定に寄与している.ポルフィリン環は,内側の空間に面している4つの窒素原子によって金属を固定する.4つの窒素原子のうち,2つの窒素原子は,ローンペアで金属と配位結合をする.また,もう2つの窒素原子は,イオン性の強い共有結合である.

      
     
      図 12.4b ポルフィリン.4つの窒素原子のうち,水素原子の付いた窒素原子は,水素原子と交換で,イオン性の強い共有結合を形成し,残りの2つの窒素原子は,窒素のローンペアと金属の空軌道とで配位結合をする.配位結合は,それほど強い結合ではないが,複数の結合で金属を強固に固定している.
  6. 水素結合

     水素結合の強さは,他の結合に比べて弱い.水素結合は,電気陰性度の大きい原子(酸素,窒素,塩素)に結合した水素が,プラスに分極することから起きる,静電気力による結合である.軌道の重なりが大きい場合には,水素原子の移動が起こる.

      
     
      図 12.5 

     水は,分子量の割には,沸点が高いことなど特異な液体であるが,それは,水分子同士の水素結合による.酢酸分子も,水素結合により,酢酸分子2つで会合している.アンモニアは,ふつうは気体であるが,水と水素結合をするため,異常に水によく溶解する.

    状態の変化のしやすさが,情報の伝達に寄与している点では,きわめて重要である.

      
     
      図 12.6 シトシンとグアニン.3つの水素結合により認識している.
  7.  


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Last updated, July 1, 2008