壱岐郡芦辺町谷江川(たにえがわ)の上流の箱崎からの支流の合流点を郷ノ川という。この郷ノ川の鉢淵は河童の巣として知られていた。ここに一人の力持ちがいた。ある夜この力持ちの夢の中で鉢淵の河童が来て、私どもの穴の口に鬼の手があって、出入りができずに困っている、あなたは大力持ちだから取りのけてくれないか、お礼は必ずするからというのであった。
高源寺の河童像
(手に持つのは証文)その人は夢がさめて、翌日鉢淵に行って見ると河童の穴と思われるところに、農具の馬鍬(まが)が落ちこんでいるのである。その人は早速はいって行って取り除いてやった。
それからはその大力持ちの家に何か客事がある時には、必ず家の東側にある大きな クワの木の枝に、鮮魚が一掛けずつかけられた。どんな風雨の悪天候にでもちょうど使うに足るだけの魚がかけられるのであった。
このクワの木は周囲が二囲(かかえ)もあるような大木であったが、いつの頃かに枯れたという。クワの木が枯れると魚もかけられなくなったらしい。クワの大木が何か河童と関係があったもののようであると、所の人はいっている。
<西海の伝説 山口麻太郎編著 第一法規出版 昭和49年9月発行より>
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