進化のメカニズム

 

 

自然選択説

中立進化説

 

参考 :適応、前適応、環境収容力、選択、進化的に安定な戦略、フォーク定理、ミーム

 

 

進化とは、生物個体群の性質が、世代を経るにつれて変化する現象です。

個体群内の遺伝子頻度の変化として、定義されることもあります。

 

文化的伝達ミーム)による累積的変化や、生物群集の変化も、進化ということがあります。

 

進化を駆動するメカニズムには、自然選択説や、中立進化説等があります(進化生物学)。

 

自然選択説と中立説は、多くは両立可能(異論もあるようですが)と考えられていますが、

中立遺伝子と非中立遺伝子の割合に関する問題は、未解決のようです。

 

生物の進化について

生物がもつ性質が、次の3つの条件を満たす時、生物集団の伝達的性質が、累積的に変化するとされます。

 

1. 生物の個体には、同じ種に属していても、様々な変異が見られます。(変異

2. 変異の中には、親から子へ伝えられるものがあります。(遺伝

3. 変異の中には、自身の生存確率や次世代に残せる子の数に差を与えるものがあります。(選択

 

自然選択による進化が、適応を生み出すのに対して、

中立進化は、前適応の原因になると考えられています。

 

自然選択が働くのは、表現型の形質と行動であり、

中立進化は、遺伝的な多様性をもたらすようです。

 

獲得形質後天的に得られた性質)は、自然選択されますが、

遺伝によって受け継がれないため、生物の進化には寄与しないとされます・・・

ミームには、影響しそうですが。

 

尚、人工生命という、進化生物学で記述される生物の進化をモデル化することを目指すものもあります。

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自然選択説自然淘汰説

自然環境が、生物に無目的に起きる変異(突然変異)を選別し、進化に方向性を与えるという説です。

1859年に、ダーウィンとウォレスによって体系化されました。

 

自然選択説に、遺伝学等を取り込んだ、ネオダーウィニズム、というものもあります。

 

適応力に応じて、自然環境がふるい分けの役割を果たすことを、自然選択といいます。

 

高い所の葉を食べるのに有利だったから、キリンは長い首を持った個体が生き残った、という例があります。

尚、キリンの首の長さが4m になるのに600万年かかっているため、一年あたり1,000分の6 mmにすぎません。

そのため、選択圧は双方向に働き、長くなったり、短くなったりしながら、今日のキリンになったと考えられます。

 

一般に、生物の繁殖力は、環境収容力を超えるため、

同種内で生存競争が起き、生存と繁殖に有利な個体は、その性質を多くの子孫に伝え、

不利な性質を持った個体の子供は、少なくなります。

 

自然選択が直接働くのは、生物の個体に対してです。

しかし、実際に選択されるのは、生物の性質を決める遺伝子です。

その結果が一般的にみられるのは、種(群)においてです。

 

自然選択は、同種内で、最も強く働くと考えられます。

それは同種の他の個体が、限られた資源(食料、配偶者)を直接奪い合う、第一の競争相手だからです。

 

生物の行動や形質は、群れや種の繁栄のために最適化されている、というものを群選択といいます。

この説では、生物がどうやって、群全体の(進化的な)状況を把握したり、将来を設計したりできるのかは説明できません。

 

生物の利他的行動の説明として、ハミルトンやメイナード=スミスらによる、血縁選択説があります。

これにより、自然選択が対象とするのは、個体や、グループではなく、

遺伝子である(利己的遺伝子リチャード・ドーキンス)という考え方が登場しました。

 

一方、エリオット・ソーバーは、多レベル淘汰という概念で、群淘汰を再評価しています。

 

不完全な性質は、全く無意味ではなく、

原始的な状態と比べて、わずかでもその形質を持つことが生存と繁殖に有利な場合、その形質は種内に広がります。

不完全な性質が、自然選択を繰り返されて、更に進んだ性質となって広がることを、累積的選択、といいます。

 

頻度依存選択は、ある性質が生存と繁殖に有利になるかどうかは、性質がグループ内でみられる頻度に依存するという説です。

性質が少数派、というだけで、繁殖率にプラスになります。

有性生殖し、かつ雌雄異体の生物では、オスとメスの性比は11に近いです。

個体の繁殖率を考えた場合、性比は11が、最もバランスがとれているようです。

 

最適化モデルは、経済学の投資と利潤の概念を用い、自然選択説を数学的に説明したものです。

同じ生殖行動でも、オスとメスでは負担が異なり、必ずしも利害が一致しない、等があります。

 

相互に作用しあって、ある性質が、

食料等、他の要因による限界に達するまで、極端化、極大化することを、進化的軍拡競争といいます(赤の女王仮説)。

またこれは、共進化の一形態でもあります。

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中立進化説

分子レベルでの遺伝子の変化は、大部分が自然淘汰に対して有利でも不利でもなく(中立的)、

突然変異と遺伝的浮動が進化の主因であるとする説(木村)です。

 

中立説に、ほぼ中立な選択性という概念を取り入れて一般化した説(太田)もあります。

 

分子レベルでの遺伝子の突然変異は、

ほとんどが自然選択に対し、有利でも不利でもない中立なもので、それが集団中に広まるのは、偶然によって決まります。

 

すなわち、遺伝子の広まりの決定要因には、運のよさと、適者生存が関係しています。

 

現存種のゲノムを比較すると、分子レベルでの違いの大部分は、自然選択に中立です。

つまり分子レベルでの違いの大部分は、生物個体の適応度に影響を及ぼしません。

根拠の一つに、遺伝子コードの縮重による、同義置換サイレント置換)があります。

このような変化は、生物学的な効果は、(ほとんど)ないと考えられます・・・

 遺伝子の立体構造が変化するので、全くないわけではないですが。

 

つまり、進化的変化の大部分は、中立遺伝子に働く遺伝的浮動の結果であり、

遺伝子に起きた中立的な突然変異が、全くの偶然によって広がることでも進化が起きる、とされます。

 

中立進化は、前適応の原因と考えられており、遺伝的な多様性をもたらすようです。

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参考

適応

前適応

環境収容力

選択

進化的に安定な戦略

フォーク定理

ミーム

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適応

自然選択により選別された生物が、環境に適した生態、形態を有することです。

適応の度合いを、適応度といいます。

参考

 

 

適応 中立進化説

生物の進化において、ある環境に適応して、器官や行動等の形質が発達する時、

それまで他の機能を持っていた形質が転用された場合、この転用の過程や、転用された元の機能を、前適応といいます。

参考

 

 

環境収容力キャリング・キャパシティ自然選択説

ある環境において、そこに継続的に存在できる生物の最大量です。

特定の生物群集の密度(個体群密度)が飽和に達した時の個体数です。

 

環境収容力は、生物種によって異なり、

また利用できる食物・水供給源・生息地等を含む環境要因の変動よっても変化します。

参考

 

 

選択 自然選択説

自然環境は、急激に変化することはまれであるため、特定の方向に選択を偏らせることがあります。

実際に生存率に差をもたらす自然環境の力を、選択圧といいます。

 

生息する環境が異なれば、生物は異なる選択圧を受けます。

生物は、常に様々な選択圧にさらされており、また一つの性質に対して複数の選択圧が働くのが普通です。

参考

 

 

進化的に安定な戦略ESS

突然変異で対立遺伝子が発生し、別の戦略を取って他の生物に働きかけようとしても、

母集団を侵略することはできず、逆に自然淘汰で排除されてしまうような戦略です。

 

進化生物学やゲーム理論の重要な概念で、

ジョン・メイナード=スミスとジョージ・プライスによって1973年に提唱されました。

 

戦略 X を採用している母集団に、戦略 Y を採用している個体が侵略してきた場合、

その母集団内でゲームを行い、得点が高い個体が生き残ると仮定します。

 

戦略 X ESS とは、

X 以外の、いかなる戦略 Y によっても侵略されないということで、以下の 2 条件を満たします。

 E ( i, j ) を、戦略 i が戦略 j と対戦した場合の i の得点とすると、

 

X 以外の、任意の戦略 Y に対して、

1.E (X, X) E (Y, X)

2.E (X, X) = E (Y, X) ならば E (X, Y) > E (Y, Y)

 

これはナッシュ均衡と密接に関係しています。

1 の条件から、ESS は、対称ナッシュ均衡 (自分も相手も同じ戦略を取っているナッシュ均衡)を構成する戦略の部分集合です。

 

ある個体群に属する個体が、全て進化的に安定な戦略を採用している時、進化的に安定な状態といいます。

 

この時採られる進化的に安定な戦略は一つとは限らず、

複数の戦略が同時に存在して、進化的に安定な状態を構成する時、それらの戦略を、混合 ESS といいます。

 

尚、ESS は、たまたま発生する侵略的戦略に対しては安定ですが、

大挙して来襲する侵略者に対しては、安定とは限りません。

参考

 

 

フォーク定理

ゲーム理論において、無限回の繰り返し囚人のジレンマ・ゲームにおいて、協力解が均衡解として成立するという理論です。

 

有限回の囚人のジレンマ・ゲームでは、非協力解が均衡解となります。

 

無限回の繰り返しゲームになると、協調解がナッシュ均衡解として成立します。

 

アリエル・ルービンシュタインは、繰り返しゲームにおいて、

将来利得が現在利得と同程度に評価される(割引因子が十分に 1に近い)場合には、

パレート最適な配分を含む、多くの協調的な利得ベクトルが、繰り返しゲームの完全均衡点として実現できることを示しました。

 

無限回ゲームの下では、報復が可能であり、

今回非協力であった相手に対して、

次回協力しないことで、報復することが可能です。

 

他のプレイヤーの行動が決まれば、プレイヤー i の利得の上限も決まります。

 

他のプレイヤーが、プレイヤー i の利得の上限を最も小さくするような行動のことを、ミニマックス行動と呼び、

その時のプレイヤー i の利得を、ミニマックス利得といいます。

 

2 人のプレイヤーが、しっぺ返し戦略(最初は協力を選択しますが、2 回目以降は相手の前回の行動と同じ行動をとるという戦略)をとる場合。

 

相手がしっぺ返し戦略を採用する場合に、こちらが裏切ると、その回だけは一時的に自己の利益になりますが、

次回には相手から報復を受け、高々ミニマックス利得以下の利益しかもたらしません。

 

他方、相手が裏切った場合には、こちらが報復しないと自己の利益が損なわれるので、報復した方が利得は大きいです。

 

そのため、将来の利得の割引率が小さい(割引因子が大きい)場合には、しっぺ返し戦略は均衡解となります。

 

この時、互いの合意がなくても暗黙の協調が生まれ、この時の利得は、ミニマックス利得を上回ります。

参考

 

 

ミーム 「ことば」

習慣や技能、物語等、人々の間で、心から心へとコピーされる情報で、社会・文化を形成するものです。

 

情報は、マスメディアや会話、本、人々の振る舞い、儀式等によって、心から心へとコピーされていきます。

 

ミームは、遺伝子との類推から生まれた概念です。

 

遺伝子が、生物を形成する情報であるように、ミームは、文化を形成する情報です。

遺伝子が子孫へコピーされる生物学的情報であるのに対して、ミームは、人から人へコピーされる文化的情報です。

 

遺伝子が進化するように、ミームも進化しており、それによって文化が形成されていくようです。

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