50MHz AM 300mW トランシーバの製作
2001/10/2
Last update : 2020/9/21
はじめに
「300mW AM TRX」外観
「簡易型」にこだわった 50MHz AM トランシーバが欲しかったので作りました。
独断的な意見かもしれませんが、QRP自作機の流れには、キット・完全自作を問わず大きく分けて、TRX-602、OHR-500
クラスのように「基本性能はメーカー機と同等以上をねらう」というもの(本格型)と、FCZ研究所のキットのように「QRPだから部品数が少なく作りやすい」(簡易型)という2つがあると思っています。後者は前者に劣るというものではなく、「超低消費電力をねらう」、「1〜4石位までトランジスタ数を減らす」など、究極のQRPに発展するものであり、シンプルにする程、技術的には難しくなるようです。
さて、一般的な送信機の構成(周波数固定のものを除く)で、水晶発振そのままor逓倍した周波数をそのまま出せるモードは AM、CW、DSB になります。逆に周波数変換しないと難しいのが
SSB、FM です。今回は前述の「究極のQRP」ではありませんが、「簡易型」のこだわりポイントとして、AM の「周波数変換しなくても送信機ができる」特徴を活かすことにしました。
受信機については、CW、DSB はダイレクトコンバージョンが使えますが、AM なのでスーパー方式にし、セパレート型送受信機をひとつのケースに入れることにしました(2001年5月完成)。
基板構成
以下のように主に4つの基板に分かれています。ケースはタカチの「UC13-4-18GX」(W130×H40×D180)を使いました。スピーカーは薄型でないと収まりませんでした。
(1)送信部 | FCZ研究所「#237 オールインワン送信機」キットを改造 出力 300mW、VXOは周波数 50.50〜50.62MHz をカバー |
(2)受信部 | 千葉OM著「ビギナーのためのトランシーバー製作入門 AM・SSB編」 「簡易型AM受信機」ケース無しキット(アイテック電子より販売) |
(3)電源・送受信制御 ・S/RFメータ回路 (オリジナル基板) |
・12V出力、低ドロップ型電源回路 ・リレーとトランジスタ、ダイオードを使った送受信制御回路 ・S/RFメータ回路 |
(4)外付け周波数カウンタ用アンプ | アイテック電子の「MC-5 RFプリアンプ(7MHz)」を 6MHz 用に改造 周波数表示については、外付けの「Oak Hills Research DD-1」で受信周波数を表示できるようにしました(TRX-602 と共用)。詳細はこちらをご覧下さい。 |
「300mW AM TRX」内部
(左下が送信部、左上が受信部、その間の細い基板がVXO用追加水晶振動子・コイルの基板)
(右中央が電源・送受信制御・S/RFメータ回路基板、右上が外付け周波数カウンタ用アンプ基板)
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Oak Hills Research DD-1 の製作 | デジタル周波数表示は、外付けで Oak Hills Research の DD-1 を使用しています。 |
送信部
FCZ研究所「#237 オールインワン送信機」キットを使いました。以前からこのキットは「周波数変換をしない 50MHz AM QRP送信機」として、シンプルかつ実用性があるのでは、と注目していました。特に「オールインワン」という言い方が気に入っています。何がオールインワンかというと、FCZ研究所では、AM送信機に関する各種キット全てに使える「#233 万能AM送信機基板」を発売していますが、その全機能を搭載した送信機という意味です。言い換えれは、#009 10mW 送信機と比較して、
ということです。メーカー製のリグだけをお使いの方には信じられないかもしれませんが、以上の送信機を「オールインワン」と呼ぶ発想に惹かれました。
ただ、問題点として、付属の 50.620MHz の水晶振動子では、VXO にすると送信周波数が例えば 50.495〜50.595MHz となり、肝心の 50.620MHz が出ません。最初、VXOコイル(VXOの水晶振動子と直列に入っているコイル)とバリコンをスイッチで短絡できるようにし、VXO(50.495〜50.595MHz)と 50.620MHz 固定の切り替えにしようと思いましたが、50.610MHz の交信実績もあるため、結局、表のように「水晶振動子+VXOコイル」を2組用意し、スイッチで切り替えることにしました。
送信周波数 | 水晶振動子 | VXOコイル | |
LO | 50.495〜50.586MHz | 付属の 50.620MHz (1/3の周波数で発振、3逓倍) |
FCZ10S5 + 3.3μH マイクロインダクタ |
HIGH | 50.583〜50.627MHz | アイテック電子から買った 16.880MHz | 10μH マイクロインダクタ |
バリコンは付属の 25pF×2 の片側だけを使っています。
VXOコイルは付属の「VXO-2」を使っても良いのですが、私の使い方が悪いのか、調整中にコアが底に沈んでしまったので、LO側は普通の
FCZコイルを使い、不足分をマイクロインダクタで補いました。
HIGH側については、下限周波数は、LO側の上限周波数(50.586MHz)を下回り、上は
50.62MHz が確保できればよいので、マイクロインダクタ1個で済ませました。
以上、手巻きの空芯コイルではありませんが、LO側、HIGH側ともに QRH は十分少なく、AM
用としては合格点だと思います。
その他、AFの周波数帯域制限などのため、マイクアンプ周辺を変更しています。
作り方が悪かったのか、AM変調用の LM386 の出力端子Dに 1.47MHz が乗っていました(発振か?)。そこで、TRX-602
と同様の電源デカップリング回路をつけたり、LM386 の出力端子Dとパラに 0.047μF+0.1μFのセラコンをつけたり(0.1μFだけでもよいかもしれない)することにより、1.47MHz
は止まりました。
完成当時オシロが無かったため、AM変調度を適切に調整するのが思ったより難しかったです。
現在はRF出力を、FCZ研究所の「#205 QRPパワーメータ (M)」を使ってAM検波し、その波形をポケットオシロ(ハイレル
HH972 ポケットスコープ)で見ながら調整しています。安定してきれいな波形であることを確認しています。
受信部
千葉OM著「ビギナーのためのトランシーバー製作入門 AM・SSB編」の「簡易型AM受信機」(以後、「ビギトラAM受信機」)をほぼそのまま使っています。
FCZ研究所「#237 オールインワン送信機」とペアにする受信機としては、同社の「#214
50/AMスポット受信機」に VXO を付ける方法(モービルハム誌 1999/11 参照)も
FB ですが、
の3点を理由に、これを選びました。なお、「#214 50/AMスポット受信機」は別途「AM ミニトラ」で使っています。
「ビギトラAM受信機」はアイテック電子からケース付きキットが売られていますが、今回は送信機等と1つのケースに入れるため、ケース無し(基板ユニットのみ)と指定して購入しました。
変更点は、Sメータ出力端子、周波数表示のための第2局発取り出し端子など、端子類を追加した位です。
電源・送受信制御・S/RFメータ回路
●電源回路
「#237 オールインワン送信機」の説明書によると、電源電圧は 9〜12V に対応しており、12V 時に 300mW の出力が得られる、となっています。安定して 300mW の出力を得るためには、電源電圧を正確に 12V に保てば良いのですが、自宅の安定化電源は 13V 台で使っており、バッテリー運用も考えると、安定して 12V にするには一工夫必要です。普通の3端子レギュレータでは入出力間のドロップは 2V 以上必要であり(入力 14V 以上必要)、低ドロップタイプでも 1V 以上必要です(入力 13V 以上必要)。
そこで、電子回路の教科書などを参考に、大したものではありませんが、オリジナルの定電圧回路を考え、作りました。ドロップを少なくしようとすれば、メインとなるトランジスタをエミッタ出力型にせず、コレクタ出力型にすればよいのですが、具体的回路が見つけられず、適当に考えて作りました。結果として、問題なく動いており、電圧も安定しています。
正確に測定したわけではありませんが、20〜240mA の負荷変動で、入力がだいたい
12.1V 以上あれば、出力はだいたい 12.0V になるようです。ただ、今回は、究極まで低いドロップにしたため、出力短絡保護を省略しています。トランシーバの必要電流の数倍で保護されるようにすれば、ドロップは
0.1〜0.2V ですむため、次回からは保護回路を省略しないようにしようと思いました。
●送受信制御回路
マイクの PTT スイッチにより送受信が切り替わるように、トランジスタとリレーを組み合わせただけ、といえばそれまでですが、送信の
VXO は送信時になって初めて電源 ON になることへの配慮と、切り替えノイズの低減のため、少しだけ工夫をしています(ダイオード5個使用)。セパレート型なのでキャリブレーション・・・送受信周波数一致もできるようにしています。
受信から送信に切り替えたときは、直ちに受信にミュートがかかると共に、送信の
VXO に電源が入り、リレーの反応時間分遅れて、送信のドライバ、ファイナルの電源が入ります。逆に送信から受信に切り替えたときは、受信のミュート解除、送信部の
OFF が同時に行われます(受信のミュート解除をさらに遅らせた方がベターか?)。
●S/RFメータ回路
Sメータ回路は「#214 50/AMスポット受信機」の説明書(または、モービルハム誌
1999/11)を参考にし、加えて感度可変にしました(LA1600 のH から取り出します)。キャリブレーションが必要なので、Sメータがはあった方が便利です。RFメータ回路は
TRX-602 を参考にしました(普通の回路です)。
S/RFメータ回路
製作後の感想
「はじめに」に書いた通りのものができましたが、追加基板の検討・製作、小さいケースに押し込む検討など、結構手間ひまかかりましたので、アイテック電子の
TRX-501 のような本格的 AM キットを作るより、時間も費用もかかった気がします(
TRX-501 はトランシーブ動作ができ、受信感度も上のようです)。
受信音ですが、TRX-602 (SSBです) のクリアで素朴な受信音に対し、全体的に簡易受信機的な?感じがします(LA1600
を使ったら必ずこうなるのか、回路構成によるのか、作り方が悪いのかは分かりません・・・もともとこの「簡易型AM受信機」はビギナー向けであり本格指向ではない)。VFO
については QRH はありますが、( SSB の送受信ではなく) AM の受信ですし、慣れれば問題ありません。
キャリブレーションについては、受信のフィルタ(455kHz)の帯域が広い(±7.5kHz)ため(わざと広くしているようだ)完全に合わすのは難しいです(狭いフィルタに切り替えできるようにすれば、合わせやすくなるかもしれません)。
アッテネータは今のところ使う機会がありません。Sメータのフィーリングは良好です。
いずれにせよ、全体構成も考え、ケース加工からした初めてのトランシーバなので、大切な1台となりました。
その後・・・
2002/5/4 の「 6m AM コンテスト」にて、弱い信号を受信する機会がありましたが、その弱い信号に対し YAESU FT-100M の AM モードより了解度が良いことが分かりました。300mW では相手に届きそうになかったので FT-100M、5W で交信しましたが(実際に送ったレポートは「33」)、やはり「簡易型AM受信機」の感度は良いようです。・・・ということは、TRX-501 は、もっと感度が良いのでしょうか!?
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