海をテ−マにした俳句(夏)


   季=夏


青海を瑞の籬とす避暑の荘 山口 誓子
あおば潮舳先に迫る浦戸の灯 大西 瓶子
白き帆は海のかんざし青岬 加藤 芳雪
何時の間に鯵釣船の流れゐし 直原 玉青
烏賊釣り火沖に並びて相寄らず 矢田 元彦
海の家閉づる浮き輪の空気抜き 大内 迪子
長汀を犬が嗅ぎゆく海開き 鷹羽 狩行
遠泳の潮乗り切りて列正す 上迫 しな子
朝花火海水浴の人出かな 高浜 虚子
明石の門潮青うして鱚釣るる 杉本 富佐子
夏潮に正面切って鳴る汽笛 鷹羽 狩行
航海やよるひるとなき雲の峰 高浜 虚子
舟乗りの一浜留守ぞけひの花 向井 去来
夕立が始る海のはづれ哉 小林 一茶
蛸壷やはかなき夢を夏の月 松尾 芭蕉
淋しさは船一つ居る土用波 原 石鼎
纜も旅の心も梅雨しとど 高野 素十
花火待つ港の闇に誰も向き 野澤 節子
港暑に入る風塵のクレーン見ゆ 石原 八束
日傘さすとき突堤をおもひ出す 岡本 眸
港出てヨット淋しくなりにゆく 後藤 比奈夫
漁夫老いて魚を語らず青葉潮 白坂 拓
そのむかし海が見えたる夏帽子 寺口 菊三
きまじめな貨物船発つ夾竹桃 植木 里水
両親と訣れし波止や蝉しぐれ かねこ ひで
澄む潮の底見えぬまで昆布生ふ 小島 梅雨
サーフィンに天国波と地獄波 朝雄 紅青子
すでに日の逃げて傾く砂日傘 桜井 恵美子
夜光虫燃えて赤道無風帯 山本 暁鐘
タンカーの遅々と沖航く雲の峰 島村 義弘
梅雨の海うごきて海の色なさず 森元 すぎ子
卯浪航くデッキチェアーに脚開き 黒木 爽岳
船のむき変りデッキの大西日 吉田 睦味
乙女らの髪吹かれゆく土用あい 今泉 貞鳳
空と海溶けあふブルー土用波 花沢 美佐子
葦咲いて蜑の通ひ路ながし吹く 飯田 蛇笏
夏海や一帆の又見え来る 高浜 虚子
沖を航く船煌めくや初夏の海 大井 一子
沖舟の動くともなく夏霞 野口 能大
景として見る夏潮は波寄せず 稲畑 汀子
クロスして夏潮脈を打つごとし 篠崎 代士子
夏の浜去るとき誰も振り返る 大原 志づ
波乗りの海一人占めしてをりぬ 坂井 順子
南風や島傾きて波を曳く 橋本 鶏二
南風の海に舟なく島遠し 大庭 とく
淡路の灯紀州の灯あり納涼船 三村 純也
納涼船煙草は遠く投げて消す 鷹羽 狩行
空母航く真南風の洋の太き水尾 小野 博
波止場はや夏めく白き船着けば 保坂 伸秋
浜昼顔ねむり漁師は沖に出る 中山 みさこ
噛みあうて離れぬ鱧を糶りにけり 細見 しゅこう
生鱧を買うてやさしき京言葉 島村 吉野夫
赤潮の中にかたまり日覆舟 肝村 素方
大磯はすたれし避暑地土用波 松本 たかし
昼顔にひと日けだるき波の音 鈴木 真砂女
ふるさとへ向ふ船路の明易し 葛岡 伊佐緒
梅雨明けの歯切れの悪き船の笛 大木 異郷
灼け砂のわが影を踏み海女戻る 小原 弘幹
熱砂の上一気に舟を海へ突く 北井 たつみ
水平線もりあがる時ヨット消ゆ 反田 美代
釣れてゐるうちは動かぬ夜釣りの火 広瀬 志津子
雲の峰練習船は南航す 高野 素十
夏潮の航跡流人の島へ曳く 加藤 岳雄

季=秋へ