読売新聞 田山一郎記者が2010年12月1日から4日まで連載の
「自らの力で秋津野ガルテンの挑戦」  <3>考える若手農家台頭 



ともに育つ
   


都市農村交流施設「秋津野ガルテン」(田辺市上秋津)の北約1キロの県道沿いにある農産品直売所「きてら」で11月30日から、温州ミカンジュースの初搾りが始まった。23平方メートルの小さな工場では、地元農家が出荷したミカンが機械で圧搾され、絞り出された100%の無添加ジュースが、次々と瓶詰めされた。

 「きてら」は、地元農家などの出資で1999年に開店した。農家が出荷したミカンや梅干し、野菜、加工品などを、農家自らが考えた値段で委託販売する。

 04年からはミカンジュースの製造、販売も開始。50トンで約15万円にしかならない規格外のミカンが、ジュースに加工することで約2000万円になる。「きてら」の売り上げは2009年度、1億1500万円に達した。

 「きてら」は地元農家に新たな経営の道を開いただけでなく、秋津野ガルテン開設の基礎になった。

 若手専業農家の一人、芝翼さん(29)が「きてら」に初めてミカンを出荷したのは04年。愛媛大農学部を卒業して古里に戻り、祖父の畑を手伝うようになって間もなくのことだ。ジュース工場の開設にも加わり、加工から販売までのすべてを体験した。

 ガルテンが地域づくりのノウハウを伝える「地域づくり学校」も08年の開講以来、毎回受講。知り合った同世代の7人と「橙(ダイダイ)」の活用法の研究にも取り組んでいる。

 「きてらは農協以外の出荷先として新たな挑戦の機会を与えてくれ、ガルテンは異業種の人たちとの出会いの場になった」と言う芝さんは今、農業を通じた地域づくりが自らの目標でもある。

 ガルテンが取り組む新規就農者支援で、若者3人に農業を指導している。教えるだけでなく、自身の体験を伝え、農業のあり方について語り合う。「『農業は成長産業』と夢を膨らませる彼らに農業を始めた頃の自分がよみがえる。新鮮な刺激です」

 新規就農者の一人、田中信太郎さん(23)は大阪の建設会社に就職したが、仕事中のけががもとで古里に戻った。09年9月から就農支援を受け、芝さんら農家5人の畑を順番に手伝いながら、指導を受けている。

 2年目に入り、田中さんは「ミカン栽培でも、農家によって少しずつ違いがあり、それぞれに、なるほどと思う。農業は面白いと感じるようになりました。将来の夢は、専業農家になること」と言い切った。

 「専業で生計が成り立つ農家づくり」はガルテンが掲げる目標でもある。木村則夫専務(54)は「栽培、出荷だけでなく、流通市場などにも視野を広げ、考える農家でなければ、専業は成り立たない」と言い、芝さんら若い世代を「考える農家に成長している」と頼もしそうに話した。

 地域づくりでまいた種が、着実に育っている。


<1>主婦の力 
<2>ミカン交流 
<3>考える若手農家台頭
<4>2万円で夢を買う




(2010年12月3日 読売新聞 田山一郎記者)