読売新聞 田山一郎記者が2010年12月1日から4日まで連載の
「自らの力で秋津野ガルテンの挑戦」  <2>ミカン交流 

オーナーに魅力発信

今秋、田辺市上秋津のミカン畑は、都会からのツアー客でにぎわっていた。

 ミカン農家の愛須修さん(57)は、大阪市天王寺区、夕陽丘町会のミカン狩り客22人を受け入れた。都市農村交流施設「秋津野ガルテン」からの要請を受けてのことだが、農業一筋37年の愛須さんには初めての体験だった。

 「甘いのも、酸っぱいのもあるんですね」「同じ木でも、高さや日当たりで味が違うんですよ」。もぎたてを味わう客を、笑顔で見守った。

 数日後、同町会副会長、久本健さん(68)からお礼の電話が入った。「最高でした。ガルテンの話を聞いた女房たちが『来年は自分たちも』と、今から楽しみにしてるんです」

 愛須さんは「あんなに喜んでもらえるなんて、思ってもいませんでした。丹精込めてミカンを育てた甲斐(かい)があるというものです」と目を細めた。

 ツアー客の受け入れとは別に、ガルテンが取り組む都市住民との交流事業に「みかんの樹オーナー制度」がある。上秋津のミカンの木を1本当たり2万〜3万円でオーナー契約すれば、12月に完熟ミカン30〜50キロが送られるシステムだ。

 ミカン農家の栗山和明さん(59)は今年、オーナー樹を39本提供、昨年より11本増やした。固定した収入が見込めることもあるが、それだけが目的ではない。

 ミカン狩りに訪れるオーナーらを、ミカン山に案内すれば、田辺湾を一望する景観に感激する。選果機を見せて、選果の方法を説明すると、熱心に耳を傾けてくれる。「農業への理解を深めてくれるのが、何よりうれしい」。

 オーナー制度は昨年7月から、在京テレビ局の産直品番組と提携してPR。330本の契約があったが、今年7月の2度目の放送では「即日完売」し、急きょ、110本を追加募集した。

 提供農家は月1回、「生育日記」を送る。オーナーに生産者とのつながりを感じてもらうのが狙いだ。日記には、ミカンの木の前に立てたオーナー名のプレートや、生産者の写真を付け、ミカンの成長ぶりを記す。

 栗山さんは成長の報告だけでなく、10月に田辺市の弁慶まつりで夜空を彩った花火大会の華やかさなど、季節の話題を添える。「私たちの古里に、少しでも興味を持ってもらえれば」との思いを込める。

 昨年、地元農家で結成された「秋津野農家民泊の会」(14戸)にも参加し、ガルテンの紹介で、今春から3組を受け入れた。妻(55)が育てた野菜料理を振る舞い、夜遅くまで農業の将来について語り合うこともある。栗山さんは「交流が広がったことで、新しい刺激を受ける。これまでにはなかった経験です」と声を弾ませた。



<1>主婦の力 
<2>ミカン交流 
<3>考える若手農家台頭
<4>2万円で夢を買う


(2010年12月2日  読売新聞 田山一郎記者)