【特論】サブゼロ処理の問題について



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 ハサミゲージ製作における熱処理の諸問題


  細目次 サブゼロ処理の問題

焼き戻しの必要性

シーズニング処理





□サブゼロ処理の問題

 「サブゼロ処理」というのは、焼き入れに際して加熱温度が常温にまで冷却される以前に、ドライアイスや液体窒素という手段で、0℃以下にまで引き続き冷却することを指し示す。

 この処理の意義は、加熱されてオースティナイト組織となったワークが冷却に伴ってマルテンサイトに変態するのだが、変態しきれない「残留オースティナイト」が、焼き入れ処理後に体積膨張によって寸法変化をもたらす訳なのだが、その事前の抑止のために必要とされる処理なのであって、言うなれば「残留オースティナイトのマルテンサイト化」のために必須の処理とされている。

 オースティナイト組織がマルテンサイトに変態しきれなくて一定量がオースティナイトのままに「残留する」ということはどういうことなのかという疑問が生じる。この点については特に説明されることがない。
 この点について、少し考えてみたい。
 この点について、焼き入れ処理というものは、鉄鋼材料について、一定の焼き入れ温度(代表的には850℃)にまで加熱し、そのまま冷却油に漬け込んで常温まで急冷することによってマルテンサイト変態が完遂するというプロセスになっている。冷却のスピードが問題になるわけである。
 この場合、冷却ということは、先ず加熱されたワークの表面が冷却油と接触されることでその熱を奪われ、ワーク内奥の熱が順次ワーク表面に伝導していくことによって温度が低下していく。従って、ワークの大きさ(加熱部分の大きさ)が大きな場合、全体の冷却には時間が大きく掛かるということを意味するし、熱の伝導スピードが小さければ、これも冷却に大きく時間が掛かることによって、結果として充分な冷却スピードが確保されないから、マルテンサイト変態が充分に果たされないということになる。
 結局、ワークの大きさ(焼き入れを必要とされる部分の大きさ)によって、ワークの表面部分には充分な焼き入れ硬度が実現できるが、内奥の芯の部分には充分な焼き入れ硬度は保証されない、ということが示される。
 実際、私のところの叩き定盤を作った時、焼き入れを依頼した時に「全体への焼き入れはできない」と念を押されたことがあって、確かにその後に定盤面の中央部分が膨らんできていて、折を見て定盤面を再研磨してきている。
 「サブゼロ処理」というものは、焼き入れ温度から常温までの温度降下に続けてドライアイスあるいは液体窒素の温度にまで温度降下させてマルテンサイト化変態を進めるということであるから、マルテンサイト変態とは、温度降下を変数とする関数関係にあるのではないかと思ってしまう。

 他方で、焼き入れ処理後に一旦常温に戻ったワークの焼き入れ部分について、更に追加的にサブゼロ処理を施してもその本来の効果は出ない、という指摘がある。サブゼロ処理の効果は期待できないが、しかし、マルテンサイト変態は徐々には進展していくそうだから、この段階では、常温下では、マルテンサイト変態は時間の経過を変数とする関数関係にあるということになる。

 ワークの焼き入れに際して、その焼き入れ部分全体が冷却によるマルテンサイト変態に必要かつ充分に小さなものである場合、その残留オースティナイトというものは皆無か、あっても極く僅少であれば、この点を原因とするその後の寸法(体積)変位はほとんど無視できるものにとどまるのではないか?と考えるのである。実際のところ、ハサミゲージの場合、材料厚みは4−8mmであって、その測定部焼き入れという場合の局部焼き入れ部分は非常に小さなものであるから、残留オースティナイトというものの量とその後の変位量というものも考えにくい。

 ゲージ(塊形状の栓ゲージやリングゲージ、その他治具類)の場合、総焼き入れを施す場合にはいろいろな問題が自覚されてきており、従って、ゲージ測定面だけの限られた部分への焼き入れ方法として「高周波焼き入れ」が採用されてきている。総焼き入れ+サブゼロ処理ですべての問題が解決されるというものではないのである。(高周波焼き入れをしたものを更にサブゼロ処理を施すということに意味があるのか?という話である。)



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□焼き戻しの必要性

 サブゼロ処理を行うとその後の経年変化は生じないという思い込みがあるようである。ハサミゲージの経年変化が問われる場合、サブゼロ処理を施せば解決するだろうという期待がなされるようなのだが、それは間違いだろう。

 サブゼロ処理というのは焼き入れ鋼の焼き入れ部分の結晶構造の問題であって、いわば原子レベルでの問題である。
 ハサミゲージ等の経年変化というものは、その内部応力が経年的に解放されて徐々に現出してくる変形をいい、問題の位相を異にするものである。
 常温にあるワークを850℃にまで加熱し(熱膨張)、そこから一挙に冷却する(収縮)わけだから、加熱の際の僅かな温度の揺らぎや冷却の際の僅かな不均等さによって、ワークが大きく歪むということはよく経験するわけで、この膨張と収縮という力が内部応力として残存する。

 その解消のためには、「焼き戻し処理」を丁寧に施すべきなのである。

 私らが、他方で「鏡面ラップ」だとか「リンギング現象」だとかを論じる前提として、仕立て上げたゲージ測定面が歪んだりしてはすべてがぶち壊しになるのであって、かなりな長期間でゲージ測定面の仕立て上げ品質が維持されるということが保証されなければならないわけで、そのために、焼き戻し処理の効用・効果というものを普段から充分に留意しなければならないことなのである。


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□シーズニング処理

 昔々の話になるのだが、戦前・戦中期の軍需生産においてブロックゲージの需要が膨れあがったために、津上製作所以外にも多くのメーカーがこの分野に参入したらしい。
 当時において既にブロックゲージの製作方法は広く周知されていたようで、各メーカーにおいても生産設備を準備できたらしい。
 「津上さんで作れるものなら、我々でも充分製作可能だ!」と、それら各メーカーの技術陣は自信を持って取り組んだらしい。
 しかしながら、これらのメーカーのブロックゲージは直ぐに寸法が狂うものであったから、とても信頼に足るようなものとはならなかったらしく、しかしながら、津上製作所製ブロックゲージというものはなかなか入手困難な時代であったから、やむを得ずこれらのメーカーのブロックゲージで我慢を強いられたという時代であったらしい。

 この違いの原因理由はどこに求められるかと考えれば、私らは「シーズニング処理の問題」と見ていたわけである。
 シーズニング処理の前後の違いを現物にあたって検証しようとしても、そこには何の違いも発見・検証できない。しかしながら、経年的に、必然的な違いが現出してくるものであるから、ひたすら、どのような処理を行えばどのような結果事象が現出してくるか」という経験知を積み上げていく以外には無い。
 (超)精密加工技術というものは、いろいろな前提によって成り立つべき加工技術であるから、「以て瞑すべし」という教訓で語られてきている。

 なお、ここで「らしい」「らしい」と推断で語られているのは、すべてが伝聞であったり業界噂話であったりするからで、当時のブロックゲージがどのように製作され、どのような技能者によって支えられていたかは、今となっては分からないことである。
 戦後、各ブロックゲージ・メーカーは津上製作所等幾つかを除いてすべて撤退したことは事実で、この点では「ツガミ伝説」「ツガミ神話」の類の一つか?とも思えるのだが、そのツガミさんもブロックゲージの製作から撤収してしまった・・・。


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