2010年12月25日(老朽消火器の破裂事故防止)
 老朽化した消火器破裂事故はときどき発生しています。この安全週記でも
過去に取り上げたことがあります。2009年9月19日記載
 http://www.oshms.net/diary2009.html
 総務省消防庁のホームページで皆様の事業所でも大きく関係する内容があ
りましたので、紹介します。 http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/2212/221222_1houdou/03_houdoushiryou.pdf

 その中で、老朽化した消火器の破裂事故防止を目的として、製造年から10
年を経過した消火器に対する耐圧性能点検を義務付けるという項目がありま
す。施行(平成23年4月1日)後、3年間は抜き取りによる耐圧性能点検も可
となります。
 消火器の耐圧性能点検を業者に委託するなら、その費用で新しい消火器を
購入する方が安い場合もあるでしょう。(外観点検+機能点検+耐圧性能点
検をするなら、小型消火器であれば、新品購入の方が安いかもしれません)
 職場に相当数あると思われる消火器は10年しか使用できないと考える方が
良いかもしれません。施行日は来年4月ですが、予算処置をしておいた方が
良いと思います。
 ところで、防災用品の法改正があると、必ず出てくるのが、悪徳点検業者
です。通常点検であっても、1本2万円等の請求がありました。耐圧試験を含
むと、その額は数倍になるかもしれません。ご注意ください。
 (参考:東京消防庁)
 http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/office_adv/houmon_syoukaki.htm

 話は変わりますが、気になる報道を紹介します

 重い物持って腰痛 三井造船に1300万円賠償命令
  (12月22日 産経ニュースより引用)
  機械部品メーカーで勤務中、重い物を持って腰を痛めた男性(28)
  が、会社を吸収合併した三井造船(東京)に約2千万円の損害賠償を求
  めた裁判で、岡山地裁は22日、約1300万円の支払いを命じた。
  秋信治也裁判官は「クレーンを使用させず、人力で作業をさせたのは安
  全配慮義務違反」とした。判決によると、男性は平成18年8月、重さ約
  16キロの器具を取り付ける作業などをして腰を痛めた。クレーンの使用
  を申し出たが、「効率が悪い」と退けられた。(以上)

  腰痛の要因は重量だけではなく、労働者の体格、作業姿勢、荷の形状、
 回数などが関係するので安易にコメントできないが、労働者からの申し出
 に対しての対応の仕方によってはこのような訴訟もあるので、「意見」に
 は慎重に対応する必要があると考えます。詳細がわかれば、今後掲載して
 いきたいと思います。
                        ご安全に!

2010年12月18日(受動喫煙防止対策)
 第50回労働政策審議会安全衛生分科会(12月13日)の資料をみると
 http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000ympk-att/2r9852000000ymr1.pdf
 3項に「職場における受動喫煙防止対策の抜本的強化」の項目があります。
これによると、「全面禁煙」や「空間分煙」と事業者の義務とすることが適
当とされています。来年度の労働安全衛生法改正にはこれが法文化されると
考えます。この全面禁煙とは建物や車両内全体を禁煙することを指し、空間
分煙とは一定の要件を満たす喫煙所のみ喫煙を認め、それ以外の場所を禁煙
とすることです。法文化されると、猶予期間が設けられるか、施行日より義
務になるか分かりませんが、今から予算立て等の準備が必要と考えます。
 まず、全面禁煙にする場合は、屋外に灰皿を置けばよいので、費用的には
廉価でできますが、事業所へのお客様に見える場所は好ましくないでしょう
し、隠れて喫煙して火災が発生するのは困ります。禁煙教育・禁煙指導や、
労使協議が必要になります。
 空間分煙の場合は、喫煙室を設ける必要がありますが、単に部屋を作るだ
けでは、その場所が煙害の発生源になる可能性があります。喫煙室は外に煙
が広がらないように負圧にしなければなりません。現行のガイドラインによ
れば、浮遊粉じん濃度は0.15mg/m3以下、一酸化炭素濃度は10PPM以下、気流
は0.2m/s以上(気流は開口部で測定)となっています。これを満足するため
には換気能力が重要になります。換気能力を計算するには、開口面積(通常
はドアの面積が該当)から求めればよいでしょう
 Q(風量)=A(開口面積)×V(制御風速)になります
 例えば、ドアの大きさが0.85m×2mとすれば、面積は1.7㎡となります
 Q=60(s)×1.7(㎡)×0.2(m/s)=20.4(m3/min)=1224(m3/h)
 しかし、これだけでは開口部の風速は満足しても、喫煙本数によっては、
室内での粉じん濃度が基準を満たしません。同時に喫煙する本数に応じた換
気能力が必要になります。
 他に喫煙所で気を付けていただきたいこと。
 ①窓は閉鎖すること。外気から風が入ると、室内が正圧になり、入口から
  煙が通路側に流れます。
 ②ドア等にガラリ(空気取り入れ口)が必要です。完全に密閉されると、
  換気扇が空回りし、排気ができなくなります。
 ③ガラリと換気扇の位置はできるだけ離し、効率よく排気できるようにす
  る必要があります。
 ④喫煙所に空調機器は不要。エアコンの風により、排気の気流を乱します。
  エアコンを設置するなら、さらに換気能力が必要になります。地球温暖
  化防止のため、排気をする室内の温度調整はロスが多いので、好ましく
  ないと思います。
 ⑤排気ダクトの位置に注意してください。排気した空気が吸気口(窓等)
  から逆流すると、意味がなくなります。
 さて、以前、ある会社の安全衛生調査をしている時のことを紹介します。
 その事業所は空間分煙が導入されていたのですが、ある部署では事務机に
灰皿があり、喫煙していました。なぜかと聞くと、「うちの部署は全員で4
人、その4人が全員喫煙するので、分煙の必要がない」というのです。これ
は受動喫煙防止義務の法改正があった場合、どうでしょうか。職場であれば
非喫煙者が入室することもありますし、自分が吸わない時間帯も煙を吸うこ
とになりますので、違法となるでしょう。
 法律改正があってからの導入検討では時間的・費用的に問題が発生するか
もしれません。できるだけ早く、対応の準備をしてください。

(参考)
 職場の喫煙対策事例(安全衛生情報センター)
 http://www.jaish.gr.jp/user/anzen/sho/kitsuen/kitsuen.html
 職場における喫煙対策のためのガイドラインについて
 (平成15年5月9日 基発第0509001号)
 http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-44/hor1-44-12-1-0.htm
 「職場における喫煙対策のためのガイドライン」に基づく対策の推進につ
 いて(平成17年6月1日 基発第0601001号)
 http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-46/hor1-46-18-1-0.htm

                        ご安全に!

2010年12月11日(飲酒運転)
 12月3日の夜から4日の早朝にかけて、全国で飲酒運転の一斉取り締まりが
行われました。その結果、酒酔い運転・酒気帯び運転合わせて469件が摘発
されました。大阪府内でも135か所で検問を実施され、42人が摘発されまし
た。この数の多さに驚きましたが、全ての道路で実施されたものではないの
で、実際の飲酒運転の数は分かりません。この469件の10倍かもしれないし、
100倍かもしれません。
 (注)
 酒酔い運転とは、飲酒による正常な運転ができないおそれのある状態
 酒気帯び運転とは、呼気中のアルコール濃度が0.15mg/ℓ以上ある場合
 「飲酒運転をしてはならない」と知らない人は居ないと思います。
 摘発された人の多くは、初めての飲酒運転ではないだろうと思います。飲
酒運転による事故の報道を知っていても、「自分は大丈夫(事故しない)」
と思っているのでしょう。年末年始は飲酒の機会が増える時期です。お酒を
飲む時には、参加者がどうやって帰宅するか確認することも必要だと思いま
す。電車で帰宅する人でも、最寄りの駅からバイクや自転車で帰る人もいる
でしょう。自転車でも飲酒運転には違いがありません。
 平成19年9月の道路交通法改正により罰則が強化されています。
 再度確認してください
 (運転手本人に対するもの)
  酒酔い運転 :5年以下の懲役または100万円以下の罰金
  酒気帯び運転:3年以下の懲役または50万円以下の罰金
  飲酒検知(呼気検査)拒否:3カ月以下の懲役または50万円以下の罰金
 (運転者の周辺者に対するもの。運転者が酒酔い運転の場合)
  酒気を帯びている者に対して、車両を提供する
        :5年以下の懲役または100万円以下の罰金  
  飲酒運転を行うおそれのある者に対し酒類を提供する
        :3年以下の懲役または50万円以下の罰金
  運転者が酒に酔っていることを知りながら車両に同乗する
        :3年以下の懲役または50万円以下の罰金
 
 参考:警視庁(飲酒運転の罰則等)
 http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotu/insyu/insyu_bassoku.htm
 飲酒運転をして、事故を起こせば、多額の罰金だけでは終わりません。免
許取り消しや、被害者への賠償(自動車保険等からの給付はありません)が
あります。全ての財産を失い、働いても返せないような負債を背負うかもし
れません。自分の家族をも深い悲しみにさせてしまいます。安易な行動が一
生を狂わせる(被害者も加害者も)ことになります。
 なお、多量な飲酒の場合は、翌朝までアルコールが残る可能性があります。
仕事で運転をする場合には、アルコール検知器を備え付け、呼気検査を義務
付けることが必要と考えます。
                        ご安全に!

2010年12月4日(転落防止)
 12月3日は全国各地で雨、風の被害が相次ぎました。東京都霞が関ビルの
地下駐車場でも冠水があり、ビル管理会社の社員がマンホールを開けて、排
水している時に、誤って作業員がマンホールから転落し、命を落とす事故が
発生してしまいました。地下駐車場が冠水することは滅多にないことでしょ
うから、慣れない作業で、マンホールのふたが開いていることを失念したの
か、後ずさりした時に視界に入らかなったのでしょう。災害時での緊急処置
的な作業なので、作業の計画も立てず、その場しのぎ的な作業だったと思い
ます。しかし、マンホールのふたを開けたなら、転落防止措置を怠ってはな
りません。マンホールは直径が60~70cmありますから、人が転落する危険
があります。マンホールの中に人が入る必要がなければ、マンホールのふた
をずらすだけで、十分に排水できたと思います。
 マンホールの事故でもう一つ紹介します。
 平成20年6月東京都江戸川区のマンションで全盲の女性が清掃作業中の地
下貯水槽につながるマンホールから転落して死亡する事故がありました。
 清掃作業を請け負った会社は開放したマンホールの周囲に高さ80cmの落
下防止柵をしていましたが、被災者はそれにつまずき、マンホールに転落し
ました。警視庁は12月3日に清掃会社の社長と作業員2名を、監視員配置およ
び通路の封鎖措置を怠ったとして、書類送検しました。
 この書類送検事例から、高さ80cmの転落防止柵では事故を防ぐには不十
分ということがわかります。高さ80cmでは腰までしかなく、上半身の方が
重たいので、前に倒れ込み、転落するということです。マンションでは一般
の方が通行します。子供が柵の隙間から下を覗き込むこともあります。今回
の事故のように、視覚障害者が通ることもありますので、1mを超えるよう
なフェンスで囲んだり、監視者を付けたり、その場所の通行規制をすること
が必要になります。
 工事現場などでは、カラーコーン(円錐状の赤いーコーン)とコーンバー
で囲いをしていることを良く見かけます。注意喚起にはなりますが、転落を
防止するものとしては不十分です。
 50~100cmぐらいの浅い穴であったとしても、頭蓋骨骨折・死亡するこ
とは十分に考えられます。
 作業者の視点で考えれば、カラーコーンがあれば、「安全」と考えるかも
しれませんが、「誰に対する転落防止柵か」を考える必要があります。


                        ご安全に!
2010年11月27日(高速道路)
 11月23日の祝日には岡山県まで墓参りに行きました。高速道路の土日祝日
割引があるので、混雑を避けるために、家を朝4時半に出ました。連休では
ないので、混雑もなく、スムーズに走れましたが、まだ日が昇らない真っ暗
の中、とても怖い経験をしました。
 高速道路を走っていると、後から非常に明るく光る車が接近してきました。
ものすごいスピードです。良く見れば明るいというのではなく、ハイビーム
(正面灯の上向き)なんです。あっと言う間に追い越され、その車は前方の
車を全て追い抜いて走り去って行きました。ほんとに怖い思いをしました。
 昔から、追い越したい時はパチパチとパッシングをして追い越す車は多く
ありますが、最初からハイビームで後ろから襲うように追い越していく車は
初めての経験です。パッシングが「どいてください」という合図なら、ハイ
ビームは「どけっ!」という意図なのでしょうか?それにしても怖い。追い
越し車線を走っている車がハイビームを受けて、パニック状態になり、走行
車線の安全を確認せずに、走行車線に入ろうとすると事故になる危険の可能
性もあり、本当に危険な行為です。それも複数の車がハイビームで走り去っ
て行きました。
 さらに走り、日が昇り、ライトを消して走っていましたが、トンネル内で
ライトを付けない車が多いことが気になりました。前を走る無灯火の車より、
その前を走る車のライトが目立ち、前を走る無灯火の車の存在に気が付きに
くくなります。高速道路の危険性は以前より高くなっていると感じました。
 一般道路で危険を感じたことがありました。11月24日です。右折ラインで
停止し、右折の機会を待っている時に、さぁ右折しようと思った時に、後に
いた車が私より先に右折を始めました。後で停止している車の動向までは確
認していないので、一瞬何が起こったか分からない状態になりました。
 交通事故の死亡者は「交通戦争」と呼ばれたピークの昭和45年の16,765人
から昨年は4,914人と大幅に改善していますが、今年7月~10月にかけては増
加に転じています。
 http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001068208
 また、労働災害の死亡者は減少傾向にありましたが、交通事故(道路)は
増加しています。(死亡災害も増加しています)
 平成21年11月7日現在 交通事故(道路)181名 死亡災害合計771名
 平成22年11月7日現在 交通事故(道路)215名 死亡災害合計876名
 http://www.jaish.gr.jp/information/sokuhou.html
 これから年末にかけて、道路も混雑するでしょう。交通事故は自分が気を
付けていても巻き込まれるおそれがあります。周囲を良く確認しながら安全
運転をお願いいたします。
                        ご安全に!

2010年11月20日(裁判員裁判)
 裁判員裁判が昨年5月21日から始まり、1年半が経過しました。皆様の事業
所でも裁判員になった方がおられるのではないでしょうか。
 昨年の裁判員経験者のアンケートによると、「非常に良い経験と感じた人
が57%、「よい経験と感じた人」が40%となり、合わせて97%の人が「良い経
験」と感じたようですが、最近は殺人事件に対する「死刑」の判断を迫られ
るものもあり、昨年のアンケートを鵜のみにすることはできないでしょう。
 16日には裁判員裁判で初めての死刑判決が横浜地裁で言い渡されました。
50歳代の男性裁判員は「すごく悩んだ。思い出すと涙が出そうになる。それ
で察してください。」と語りました。この麻雀店経営者ら殺害事件では、2
人が殺害され、それも、生きたまま電動ノコギリで切断するなどホラー映画
のような残虐なものです。裁判長は判決のあと、「重大な結論なので、裁判
所としては控訴することを勧めます」と異例の発言がありました。重大な判
断を迫られた裁判員への配慮とも考えられます。その数日前に行われた、耳
かきサービス店員ら殺害事件では同じく2人が殺害されましたが、動機・反
省などの観点から無期懲役となりました。
 現在、裁判が進められている鹿児島地裁での高齢夫婦殺害事件(2人の殺
害)は判決が出るまで40日と設定され、しかも、上記の2案件と異なり、被
告は無実を主張しており、難しい判断を求められるでしょう。(判決は12月
10日予定)
 特に死刑求刑の裁判員になった方には、PTSD(心的外傷後ストレス障害)
やパニック障害に陥る可能性が高いと考えられます。もちろん死刑求刑でな
くてもPTSD等の可能性はあります。今後も死刑求刑の裁判員裁判があるかも
しれません。皆様方の事業所の社員が重大な判断をし、大きなストレスを抱
える可能性もあります。過去に裁判員裁判に参加した従業員には定期的に面
談やカウンセリングを受けさせることも必要だと考えます。
 裁判員のメンタルケア・裁判員の職務が原因となる損害の補償は非常勤の
国家公務員として扱われますが、従業員の健康管理に深刻な問題というだけ
でなく、社員が休職するなどによる会社の逸失利益も関係してきます。企業
側は自衛策を講じる必要があると考えます。 
                        ご安全に!

2010年11月13日(安全文化)
 今週、あるお客様の要望により、「安全文化の創造」について講演させて
いただく機会がありました。
 「安全文化」とは、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故で、国際原子力機関
(IAEA)の事務総長諮問グループである国際原子力安全諮問グループ
(INSAG)が報告書「チェルノブイリ事故の事故後検討会議の概要報告書」
でセーフティ・カルチャー(Safety Cultuer)として取り上げられたのが
最初と聞いています。
 日本では1999年(平成11年)のJCOの臨界事故を契機に、内閣官房副長
官、関係省庁の局長クラスで構成した、「事故災害防止安全対策会議」(10
月6日~)が開かれ、12月8日に「事故災害防止安全対策会議報告書」がまと
められた。その中の結論として、「安全文化」の創造、組織と個人が安全を
最優先にする気風や気質を育てていくことが重要だとまとめられました。
「事故災害防止安全対策会議報告書」の概要はこちら 
http://www.geocities.jp/k_iy_yi_kjp/annzendata/safety/AK601.doc
 
 ジェームズ・リーズンは、「安全文化」とは、「用心深さの文化」と言い
ました。「用心深さ」は、ことわざ「石橋を叩いて渡る」とも共通しますし、
吉田兼好の「徒然草」にある木登り名人の話にも共通します。
(吉田兼好の「徒然草」木登り名人の話は下記)
 「用心深さ」は、過去の失敗事例を知り、新たな危険有害要因を予知しな
ければ理解できないでしょう。
 しかし、実際の作業・行動では、ミスなく、ケガもなく、当たり前のよう
に続けられ、危険な作業でも危険と考えなくなってしまいます。
 作業の前のKY、作業の確認、呼吸を整えて作業することが肝要でしょう。

                            ご安全に!
 吉田兼好 「徒然草」 第百九段 (現代訳)

  ある日、高名の木登り(木登りの名人)だといわれている植木屋の頭領
  が、弟子に指図して高い木に登らせて枝を切らせていた。その頭領は、
  弟子が高くてとても危険なところにいる間は何も言わなかったのに、作
  業を終え木から降りてくる際、軒の高さほどの安全なところにきた時に、
  「けがするなよ。注意して降りろ」と声をかけた。弟子は、不思議に思
  い、「これくらいの高さであれば、飛び降りることもできるでしょう。
  高くて危険なときには注意せず、低くて安全なときに注意するのは、ど
  うしてですか?」とたずねると、その頭領はこう言った。「そこが重要
  なのです。高くて目がくらむような危険な枝の上では、自分で恐れて自
  ずと用心します。けがをするのは、きまって、低く安全なところにきて
  油断した時なのです。」

2010年11月6日(静岡県 産廃処理工場で窒息事故)
 11月4日朝8時頃、静岡県の害虫駆除会社サニックスの産廃処理処理施設で
作業員が2名窒息死する事故がありました。
 http://sanix.jp/ir/release/news/2010/20101104.htm
 当時、作業員は2名のため、原因は推定ですが、作業員2名は廃プラスチッ
クを破砕機に送る手前の中間槽で廃プラスチックに埋もれたということなの
で、中間槽に入り、点検、廃プラスチックの引っ掛かりを直そうとしたのだ
と考えられます。
 なぜ、廃プラスチックが3立方m(重量約1トン)の下に入って作業した
のでしょう。引っ掛かっていたのであれば、その引っ掛かりを外した瞬間に
落ちてくることは容易に想像できたはずです。
 新聞によりますと、日常的に、破砕機にゴミが詰まった時など、中に入っ
て棒などでゴミの詰まりを直す事があったということです。
 作業者は危険を感じていなかったのでしょうか?
 いえいえ、きっと、危険を知っていたはずです。
 しかし、そんな危険な作業でも、1度上手く処理できれば、2度目、3度目
と繰り返すうちに、「危険な作業ではあるが、100%成功する」と考えるよう
になったのでしょう。
 この作業をリスク評価するなら、(作業を見ていないので、想定です)
 重大性 : 致命的
 可能性 : 非常に高い
 リスクレベルは最高であり、すぐに作業を中止しなければならないもので
しょう。この場合のリスク低減策を考える時に、どうすれば、「安全に作業
できるか」を考えるでしょうが、それだと、引っ掛かる場所が変わるとか、
引っ掛かり具合が変わるとかで、対策が困難になるでしょう。
 この場合、「なぜ、引っ掛かるか(詰まるか)」が重要になります。引っ
掛かり(詰まり)の原因を調べ、その原因を排除することが安全の近道だと
思います。安全に作業することを求めるより、その作業を無くすことが本質
安全化だと考えます。
                            ご安全に!

2010年10月30日(茨城県 下水工事中、酸欠で死亡事故)
 10月28日 茨城県古河市の市道脇のマンホール内で2名が酸欠で倒れ、1名
が亡くなる事故がありました。(1名は意識不明の重体)
 この災害の原因として、酸素欠乏・硫化水素中毒危険作業主任者が居なかっ
た。あるいは、作業主任者が職務を遂行しなかった。酸素・硫化水素濃度の
測定未実施。換気の未実施。空気呼吸器等の不使用があります。
 意識不明の重体の方は死亡した作業者の救出のために下に降りた(空気呼
吸器等を使用せず)そうです。この救出に向かう人が被災するというのが、
酸素欠乏の危険の一つでもあります。
 この事故で、気になる点があります。発注した古河市の説明によると、マ
ンホール周辺をドリルで試掘する作業であり、マンホールの中に入る必要は
ないと証言しているのです。
 マンホールに入る必要はなくても、マンホール周辺の作業であれば、マン
ホールを開けて中の状況を確認することは必要かもしれません。ここでマン
ホールに入らなくても、被災する状況を説明しましょう。
 マンホールを開けて中を覗き込んだと想像してください。マンホールの周
囲にしゃがみ込んで、中を覗き込むような姿勢になります。この時、腕で身
体を支え、バランスを取ります。その時、酸欠空気がマンホールの中から噴
き出していると、酸欠空気を吸い込んでしまいます。その酸欠空気の酸素濃
度が相当少ないと、意識を失ったり、筋力が低下します。腕で身体を支えて
いても、腕が曲がり、前にのめり込むように倒れる(マンホールに落ちる)
ことがあります。
 10月28日茨城県には寒冷前線・温暖前線が接近しており、気圧が低い状態
でした。気圧が低いと、マンホールを開けた時に、中の気体が外に上がって
くる危険もあります。
 マンホールを覗きこむのはとても危険性が高いことを認識してください。
 (建設業にかかわらず、製造業でもあらゆる業種で、構内のマンホールの
中を確認する作業があると思います。ご注意ください)
 なお、上記のマンホールへの転落は、仮説であり、今回の事故との関係は
不明です。もしかしたら、マンホールを開けた時に、誤って携帯電話を落し、
拾いに行こうとして降りたのかもしれません。
 作業者が指示以外の動作をする可能性があります。マンホール周囲の作業
では、危険・有害性を含めて教育していただきたいと感じます。(マンホー
ルの中に入る作業では法定の特別教育が必要です)
                            ご安全に!

2010年10月23日(岐阜県 工場外壁倒壊で女子高生死亡)
 10月14日、岐阜県にあるアルミ加工工場の解体現場で、解体中の工場の壁
が歩道側に倒れ、自転車で帰宅途中の女子高生が挟まれ、死亡する事故が発
生しました。
 垂直に壁1枚が残った状態になれば、どちらかに倒れるのは、誰が考えて
も明らか。なぜ、倒壊防止のための固定がされていなかったのか、なぜ、そ
のことに誰も気がつかなかったのか。とても悲しい事故でした。
 報道によると、「解体に必要な資格者が居なかった」ということであるが、
資格者が居たら事故は防げ、資格者が居なければ事故が起こるというもので
はありません。組織的な問題だと考えます。

 まず、「作業方法は誰が決定するか」です。
 労働安全衛生法では、解体作業については、作業主任者を選任し、その作
業主任者が作業方法を決定しなければなりません。またその作業主任者は直
接作業を指揮しなければなりません。
 具体的には次の作業です(施行令第6条)
 ・コンクリート破砕器を用いて行う破砕の作業
 ・鉄骨の組み立て、解体等の作業
 ・コンクリート造りの工作物解体等の作業
 ・足場の組み立て、解体等の作業
 ・石綿を含む工作物の解体等の作業
 
 作業主任者が不在ということは、作業方法を無資格者が決定し、無資格者
が作業を指揮したということになります。
 自動車運転に例えると、無免許の人が路上を走るようなものです。
 そのことを知っていながら事業活動するということは事故の要因は組織的
なところにあったのでしょう。
 なお、今回の作業では高さ5m以上の建築物の解体作業なので、労働安全
衛生規則第517条の2により作業計画の作成が必要になります。
 労働安全衛生法等は、過去に20万人以上の死亡事故、何百万人もの災害を
基に制定された最低限の規制に過ぎません。その最低限の事を順守していれ
ば防げたはずの事故です。
 作業には、免許の必要な作業、作業主任者の必要な作業、計画届の必要な
作業、特別教育の必要な作業、作業指揮者が必要な作業、誘導者が必要な作
業、合図が必要な作業、監視人の必要な作業などが定められています。「知
らなかった」では許されるものではありません。
  「安全なくして、企業の存在なし」
                            ご安全に!

2010年10月16日記(冷凍庫閉じ込まれ事故)
 10月12日、岐阜県の宗教法人「道徳会館」の研修所の屋外に設置された、
プレハブ型冷凍庫で、45歳の女性職員が凍死した事故がありました。(現時
点では事故死とされています)
 この事故で不可解な点があります。
 「なぜ、この職員は出られなかったのか」
 このプレハブ冷凍庫は、幅、奥行き、高さとも約2mの立方体。温度はマ
イナス20度に設定され、食料品の保管に使用されています。女性職員は、た
こやきの材料を取りに行ったと報道されています。この冷凍庫は、外側から
も内側からも開けることができる構造になっています。
 被害者は亡くなっており、目撃者も居ないので、冷凍庫の中で何があった
のかは解りませんが、第一発見者が「照明は消えていた」と証言しているの
で次の事が考えられます。
 ○室内は真っ暗で、内側から開けるためのロック解除を見つけられなかっ
  た。または、ロック解除を見つけたが、解除方法の説明書きが読むこと
  ができなかった。その結果、扉を開けることができなかった。
 食料品製造業などでは冷凍庫を使うことがあると思います。
 もし、冷凍庫、冷蔵庫があれば必ず、内側からのドアロック解除の方法を
訓練してください。(説明だけでなく、実際にドアロック解除をやらせてく
ださい。今回のプレハブ冷凍庫のドアロック解除はハンドルを押しこめば解
除できますが、かなり強い力で押しこまなければなりません。)
 閉じ込められたのは前日の11日だそうです。この日は10月としては暑い日
で、汗をかいていたかもしれません。汗がにじんだ状態で、冷凍庫に入ると、
室内温度より体感温度はかなり低くなります。「閉じ込められた」というパ
ニック状態であり、ドアロック解除ハンドルを見つけたが、解除に相当な力
が必要になり「押しても引いても回しても開かない」と思ったのではないで
しょうか。
 ドアロック解除の方法を訓練したとしても、安心はできません。ドアロッ
ク解除ハンドルが壊れる場合もあります。ハンドルを誤って回して、折れる
ことも考えられます。
 ドアロック解除ボタンの故障による死亡災害も発生したことがあります。
 詳細は、2009年3月28日の「安全週記」をご覧ください。
 http://www.geocities.jp/k_iy_yi_kjp/diary2009.html
                            ご安全に!

2010年10月9日(高輝度畜光式誘導標識)
 10月6日から福岡県で開催された全国産業安全衛生大会に行ってきました。
 その中で一つ、情報を提供したいと思います。
 みなさんの事業所には避難のための「避難口誘導標識」や「通路誘導標識」
があると思います。職場の安全衛生パトロールをすると、電球が切れたまま
放置されていることが時々あります。避難口誘導標識等は、火災などによっ
て停電した場合にも、蓄電池によって、光を発し、暗闇でも誘導するための
ものですが、電球が切れてしまうと、役に立ちません。それを考えると、畜
光式の標識なら、光エネルギーを蓄積しているので、電気系統の不具合があ
っても光るので、非常時には効果があります。しかし、以前は消防法で認可
されていないため、法的な設置基準を満たすことができませんでした。
 しかし、8月の通達により(下記参照)高輝度畜光式誘導標識が認定を得
ることができましたので、従来の蛍光灯式誘導標識に代えて使用することが
できます。
 この高輝度畜光式誘導標識を使用すれば、蛍光灯の球切れの心配も無いし、
充電池の寿命も関係ないし、電気を使用しないので、電気系統のトラブルの
心配もありません。新たに取り付ける場合は、設置コストが安くなります
(電気工事が不要なため)。さらには、電力使用量の削減にもなります。
 現在、設置しているものを、高輝度畜光式に変更するのはコストもかかる
ので早急に変更することは必要ではありませんが、新たに設置する場合や、
充電池や電気系統のトラブルのため更新するのであれば、高輝度畜光式にす
るのが良いと思います。
(ただし、万能ではありません。粉じんなどが表面に付着すると、畜光が減
りますし、非常時に十分な明るさを発しないこともありますので、表面の清
掃・チェックは必要です。また、紫外線の強い場所では劣化の恐れがありま
す)
 なお、高輝度畜光式誘導標識への変更時等には、消防署への変更届または
設置届が必要になりますので、ご注意ください。また、輝度などの基準があ
りますので、認定品であることを確認してください。

 ユニットの高輝度畜光式誘導標識パンフレット
 http://www.unit-signs.co.jp/catalog/leaflet/pdf/175.pdf
 消防法施行規則の一部を改正する省令等の公布等について(通知)
     消防予第367号 平成22年8月26日 
 http://www.fdma.go.jp/html/data/tuchi2208/pdf/220826_yo367.pdf

                            ご安全に!

2010年10月2日(ガソリンと軽油の間違い)
 9月30日大阪府岸和田市のガソリンスタンドで、ガソリンと軽油を間違っ
て給油したことが判明しました。(間違った台数は107台)
 タンクローリーの運転手が、ガソリンと軽油を間違ってタンクに入れたた
めに発生しました。従業員が「におい」の異変を感じ、間違いに気が付きま
したが、すでに107台に給油が終わっていました。

 タンクローリーから給油する場合の手順は(一般的な手順)
 1.タンクローリーのタイヤに車止めを取り付け
 2.静電気帯電防止のアースをとる
 3.ガソリンスタンド(納入先)の職員とタンクの中を確認
 4.給油作業
 5.給油終了後、ガソリンスタンドの職員と空のタンクローリーを確認
 6.アース、車止めを外して、終了
 という手順になります。ということは、確認作業は2人以上で行ったにも
かかわらず、間違いが発生したのです。

 (参考:ガソリンと軽油を間違えた場合)
  ガソリン車に軽油を入れた場合、ガソリンの爆発燃焼不良によりエンジ
  ンが止まります(ガソリンタンク内の残量によります)。この場合は、
  ガソリンタンク内の燃料を抜いて、清掃すれば元通りになります。
  ディーゼル車にガソリンを入れた場合は、燃料噴射ポンプが発火により
  焼けてしまい、最悪の場合は火災になります。

 給油ミスした車の修理・点検だけでなく、ガソリンスタンドのタンクと配
管を全て洗浄しなければならないので、ガソリンスタンドは膨大な損失にな
ります(当然、営業はストップします)。ガソリンスタンド側も一番注意し
なければならない作業であるにも関わらず、ミスが発生しました。
 普通に考えれば、タンクローリーの運転手とガソリンスタンドの従業員の
2人が確認するのだから、信頼性は2倍になりそうだけど、逆に信頼性が下が
ることもあるでしょう。今回のミスはそのような事例として学習しましょう。
 間違いの背景には、今まで、何十回、何百回と経験してミスがなかった。
その成功経験から「自分はミスをしない」と勘違いしているかもしれません。
タンクローリー運転手側では、他のガソリンスタンドと勘違い・思い込んだ
のかもしれません。ガソリンスタンドの職員の確認作業が形骸化していたの
かもしれません。ガソリンと軽油は色も違えば、臭いも違います。しかし、
気が付かないということもありえるのです。
 ガソリンと軽油の間違いによって、大きな事故は報道されていません。給
油した車の多くが会員であり、連絡が取れたことが幸いしたのでしょう。
 「人間はミスをするもの」ということを常に頭に入れておく必要があると
いうことを強く感じます。
                            ご安全に!

2010年9月24日記(作業主任者の職務・責任)
 足場作業主任者の書類送検事例がありましたので紹介します。
 読売新聞9月23日朝刊より引用
  【 転落死事故で書類送検 】
   茨木労働基準監督署は22日、寝屋川市下神田町の建設会社「帯広組」
  と男性社員(35)を労働安全衛生法違反の疑いで地検に書類送検した。発
  表によると、茨木市内のマンション修繕工事現場で6月11日、足場の解
  体作業中だった男性とび工(当時44歳)が7階から18m下の地面に転落
  して死亡。解体工事を請け負っていた同社は現場の作業主任者だった社
  員に、作業員の安全ベルトの使用状況を監視させるのを怠った疑い。
  
 以前、私はこんな話をした事があります。
 「安全帯というものは、腰に付けただけでは安全帯と言わないのだよ。フ
 ックを親綱などに掛けた時に、安全帯と言うのだよ」

 安全の仕事をしているので、街で工事現場を見かけると興味がわいて、し
ばらく見ていることがあります。足場の上で立ち止まって作業をしている時
には安全帯をしている事が多いのですが、足場の組み立てや足場の解体作業
では、移動が多くなり、安全帯のフックをかけないで作業をしていることを
見かける事があります。
 ご承知の通り、死亡災害の事故として、墜落・転落が1位であり、その中に
は足場から墜落・転落するものが多く、厚生労働省では平成15年に「手すり
先行工法に関するガイドライン」を策定しました。
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/040330-6.pdf
 しかし、現実には従来方法をしている現場が多いようです。
 書類送検の事案では、まだ35歳という若い作業主任者に過失があったと判
断されました。作業主任者の職務には安全帯などの保護具の使用状況の監視
があります。事故によって亡くなった方は44歳。作業主任者より年上の方が
相当おられたのではないでしょうか。35歳の作業主任者の指揮通りに働くよ
うな職場だったのでしょうか。安全帯のように簡単にフックを外せるものに
ついて使用状況を監視するのはとても難しい業務だと思います。
 今回の事故で作業主任者が書類送検されたということは、作業主任者がち
ょっと目を離したスキに安全帯のフックを外されていたというようなレベル
ではなく、安全帯のフックを外していても、注意も指導もしなかったのでは
ないでしょうか。 
 私は、ある登録教習機関で、酸欠作業主任者技能講習の講師をさせていた
だいています。受講生の中には、平成生まれの若い人もいます。平成生まれ
でも、受講資格があれば技能講習を受けることができます。しかし、このよ
うな若い方が作業主任者に選任された場合、作業主任者の職務ができるのか、
疑問に感じる時があります。
 どうか、作業主任者を選任する時には、技能講習修了の有無だけでなく、
職務遂行能力がある人を選任してください。また、それ以前に、仕事に必要
なルールを守る社風を創ることが必要です。
                            ご安全に!

2010年9月18日(特定機械 第一種圧力容器とは)

 9月16日の報道によると、食品メーカーの味の素の東海事業所で、「第一
種圧力容器」を未検査のまま使用したとして、味の素(法人)および、その
事業所の製造担当課長が書類送検されました。
 詳細は味の素のホームページに記載されています
 http://www.ajinomoto.co.jp/
 その圧力容器が設置されたのは、38年前、製造担当課長は50歳ということ
ですから、製造担当課長が入社する前からあったものです。
 味の素では、今年2月に行った社内のコンプライアンス調査で発見し、3月
に監督署に自主報告し、今回の書類送検になったそうです。
 第一種圧力容器のような特定機械としては、他にはボイラー、クレーン、
エレベーター、などがありますが、第一種圧力容器は見た目だけでは分かり
にくいという点があり、長期間、法規制の対象ということが認識されなかっ
たのでしょう。
 圧力容器とは、内部に圧力を保有する容器のことですが、容量・圧力によ
り、「第一種圧力容器」「小型圧力容器」「第二種圧力容器」「簡易容器」
に分類されています(ただし、簡易容器については法令で定義された用語で
はありません)。
 これらの区分・定義については、社団法人 日本ボイラ協会のホームペー
ジの基礎知識の中に詳しく説明されていますので、ご参照ください。
 http://www.jbanet.or.jp/faq/category/basic.html
 今回、書類送検された製造担当課長が導入・設置したものではないので、
書類送検されたことには、気の毒にも思えます。
 昭和47年に施行された労働安全衛生法は、過去にボイラーの爆発等、甚大
な災害の経験を基に作られた法律です。昨今でも重大災害(3人以上が被災
する災害)の中には、圧力上昇による爆発事故が多く存在します。
 皆さまの会社でも、圧力容器について確認されてみてはいかがでしょうか。
 (種類・内容積によっては作業主任者が必要な作業もあります。上記の
 日本ボイラ協会ホームページの中にも説明があります)
                            ご安全に!

2010年9月11日(「取る」と「撮る」)
 今週、興味深いヒヤリハットが報道されました。
 ご存じ無い方も多いと思いますので、毎日新聞の記事を最初に読んでくだ
さい。(9月7日:毎日新聞ホームページより引用させていただきました)
 
  愛知県安城市のJR東海道線で7月、20代の女性車掌が架線に引っかか
  ったビニールを素手で除去していたことが分かった。架線には1500ボル
  トの電気が流れており、JR東海の社内規定では、架線の作業は絶縁用
  防具の着用を定め、通常は感電防止の措置をした専門の作業員が担当し
  ている。感電事故の危険があったとして、同社は再発防止を乗務員らに
  指導した。
  同社広報部によると、7月22日午後0時15分ごろ、東海道線上りの安城-
  西岡崎駅間で、岐阜発岡崎行き普通列車の運転士が、架線に長さ約5m
  の黒色ビニールが絡まっているのを見つけ、列車を止めた。
  連絡を受けた同社東海総合指令所は、車掌に「写メールを撮って送って
  くれますか」と無線で指示。だが車掌は「撮って」を「取って」と聞き
  違え、ビニール除去を指示されたと誤認し、感電防止の措置をとらずに
  作業をした。列車は約17分後に運転を再開した。
  同社は指令所の指示は必ず復唱するよう乗務員を指導。指令所も「撮る」
  を「撮影する」と表現するよう改めた。同社管内では過去10年、作業中
  に9件の感電事故があり、2人が死亡している。【秋山信一】

 いかがですか、多くの方が、背筋が凍るような驚きを感じたのではないで
しょうか?
 「取って」と「撮って」は電話の話の中では、同じ「とって」なので、間
違える可能性はあります。(文面で考えると、前後の文章から考えると、取
るではなく、撮るのは分かりますが、電話だからそのような間違いは起こり
得るでしょう。女性車掌は「このビニールは取らなければならない」と考え
ながら、電話をしたので、「撮って」を「取って」と理解したのではないで
しょうか。人は自分の考えに近い方に理解する傾向があるようです。
 女性車掌は架線に高圧電流が流れていることを知らなかったのか、「取れ」
と言われたので、「安全」と判断したのかは定かではありませんが、もし、
指令所の指示通り、写真が送られ、その写真によって、安全な措置がとれる
のか疑問に感じます。写真は電話などの言語情報より多くの情報を伝えるこ
とができますが、写真に写っていない情報は伝わりません。写真だけで、指
令所が指示をするのは危険を見落とす可能性があるので、考えてみれば、怖
いことだと感じます。もし「撮る」→「撮影する」と表現を変えることで、
再発防止になるとは思えません。復唱を徹底しても、同じ“読み方”なら、
意図が通じていない状態で復唱しても意味がありません。
 蛇足ながら、私が岡山県から大阪の製造業に就職した時の事を思い出しま
した。上司は「コレ、なおしとけ」と言ったのです(岡山県では「なおす」
は「修理する」を指します)。私はドコをどのように修理するのか不思議に
思った事がありました。(上司は私に、「この部品を元にあった場所に収納
(片づけ)しなさい」と言ったのです)
 言葉で指示を送ることの難しさを考えさせられるヒヤリハットでした。
                            ご安全に!

2010年9月4日(脚立用転倒防止装置)
 今週は安全性を高める補助装置について紹介いたします。
 商品名は「セーフティーライダー」です。
 http://www.g-system-e.co.jp/cgi-bin/g-system/siteup.cgi?category=5&page=1
 製造・販売は、株式会社 G・システム
 http://www.g-system-e.co.jp/
 この商品は7月にインテックス大阪で開催された電設工業展で実際に体験
して、効果を確認してきましたので、お勧めします。

 脚立作業はどの事業所にも発生するでしょう。生産だけでなく、大掃除や
蛍光灯の取り換えでも使うことはあります。
 脚立作業の危険はいろいろあります。
 ○“さん”を踏み外して、転落する
 ○一番上(天板)まで上がって作業するときにバランスを崩して転落する
 ○開き止めを忘れて、登り、脚立が開いて転落する
 ○段差・凸凹があるところに無理やり使用して、脚立ごと倒れる
 ○脚立をたたむ時に指を挟む
 ○脚立を運ぶ時に、周囲人に脚立をぶつけてしまう
 ○脚立の上で、横に体を乗り出し、脚立ごと倒れる
 ○脚立上で、力を入れる作業で、その反動で脚立ごと倒れる
 ○片手に物を持って上がる時に、バランスを崩して転落する
 ○脚立上で作業中に、物を落して、下に居る作業者に当たる

 ありがちなのが、脚立を固定して、上がったけど、位置がずれていること。
みなさんも何度かは心当たりがあるのではないでしょうか?
 位置がずれていると、一度降りて、脚立の位置をずらすと、問題ないので
すが、体を横に乗り出して作業してしまうことが多いのではないでしょうか?
脚立の中心から体を横に出せば、「必ず倒れる」のであれば、誰もそんな事
をしないのですが、上手く、バランスを取りながら、横の作業もしてしまい
ます。そのような無事故な作業を繰り返しているうちに、脚立作業を安全に
行う自信(過信)がついてきます。自信が付いて、慣れれば慣れるほど、無
意識のうちに横に身を乗り出して作業してしまいます。そのうち、横に出す
ぎたり、力を入れ過ぎたりして、落ちてしまいます。落ちて、ケガをしてか
ら反省しても、もう、遅いですよね。
 このセーフティーライダーは、脚立の補助足を付けているため、脚立の横
幅が広くなり、故意に体を乗り出しても、倒れません。もちろん完全に転倒
を防ぐものではありませんが、作業者が無意識にやってしまう、不安全行動
があっても安全性はかなり上がります。

 使い方は簡単で、普通に脚立を立てたあと、左右の補助脚を倒せば良いだ
けです。補助脚は段差があっても固定できます。

 市販されている脚立はにはほとんど装着できます。脚立が変形して、取り
替える場合でも、一緒にセーフティライダーも取り換えができます。

 脚立作業で、脚立が倒れるリスクに対してのリスク低減措置として効果が
あります。一度ご検討されてはいかがでしょうか。
 なお、これに限らず、「これを装着すれば絶対安全」ということはありま
せん。これを装着しても、セーフティーライダーの補助脚を開かなければ、
効果ありません。また、脚立の近くを歩く人が、張り出した補助脚につまづ
いて、転倒するリスクも発生しますので、ご注意ください。
                            ご安全に!
2010年8月28日(チリの落盤事故)
 8月5日チリの鉱山落盤事故発生後17日経過した8月22日に33名全員の生存
確認のニュースは全世界が驚かせました。
 この生存は現場監督のルイス・ウルスアさん(54歳)の存在なしにはあり
得なかったでしょう。狭い避難所(シェルター)でわずかな食糧と飲料水し
かなく、通気口も十分とは言えませんでした。
 坑道にはブルドーザーなどの重機がありました。33人いるし、重機がある
からといって、自力で脱出口を作ろうと考えるかもしれません。しかし、そ
れを行うと、暑熱環境で、作業員が倒れ、重機の内燃機関(エンジン)によ
る酸素消費で、酸欠になり、生存はなかったでしょう。
 体力の消耗を抑え、救助を待つしかないでしょう。シェルターといっても、
備蓄用の食料・水があるわけではありません、休息用の僅かな食糧があるだ
けです。その僅かな食糧を48時間にスプーンで2杯づつ摂る生活を全員が行
っていました。空腹の中、目の前に食料庫があるのに僅かな量しか食べられ
ないという苦痛を我慢できるものではありません。それを統率したリーダー
のおかげでしょう。
 飢え、暑熱、狭い場所、暗い、不安の中で17日間はとても辛い日々だった
でしょう。それができたのは、リーダーの決断力・統率力・作業員との信頼
関係だと思います。
 
 生存確認ができた時にすぐに救出方法が検討され、「4カ月」という試算
がされ、その事を伝えると不安感を増長させるとして、極秘扱いされました。
その事をニュースで聞いた私は、もし、私だったら、「いつ救出できるか」
を示してもらえないと、「努力しているが、救出方法が無い。救出は不可能」
と理解すると思います。でも、24日にはその事を大統領自ら説明したことで、
先は長いが、「助かる」という希望は生まれつつあると思います。
 それにしても4カ月は長い。これから気になるのは、地盤の新たな崩落と、
作業員のストレス、病人の発生、酸素濃度、硫化水素濃度などの空気環境で
す。
 作業員のストレスについては、個室のようなスペースを作り、電話回線に
より、家族との通信、カウンセラーによるケアが必要になります。すでに、
うつ症状の労働者もおられるそうです。
 ラジオ放送などの娯楽や、携帯型のゲーム機なども効果があるでしょう。
 坑内作業のため、酸素濃度・硫化水素濃度を測定する機器はあると思うの
ですが、これから食料が増えてくると同時に排泄物が増えてきます。排泄物
の腐敗による酸素消費、硫化水素の発生が気になります。

 12月には全世界の人が33人の生還を喜びあえる日が来ることを期待してい
ます。
                            ご安全に!

2010年8月21日(自転車事故の賠償)
 18日の読売新聞に「増える重度後遺障害」という見出しがありました。
 交通事故による死者は年々減少し、昨年は4,914人となり、57年ぶりに5000
人を下回りました。死者の減少には救急医療の進歩と車の安全性能の向上が
ありますが、その半面、一命は取り留めても、重大な後遺障害が残るケース
が増えています。遷延性意識障害(いわゆる植物状態)というもので、自力
では生活ができない状態の方が全国に3万4千人以上おられると言われていま
す。この中の多くが「回復の見込みが少ない」として、医療機関を退院させ
られています。その重度障害者を受け入れる介護施設も少なく、在宅ケアで
苦労されている方も増えています。

 さて、話は変わり、同じ交通事故でも自転車事故について考えなければな
らないことがあります。自転車事故の件数は10年ほど横ばいの状態ですが、
自転車対歩行者事故、自転車同士の事故は増加傾向にあります。自転車事故
でも死亡事故は発生しています。自転車で問題なのは、ほとんどの自転車が
無保険状態で運転されており、民事訴訟で5000万円を超える高額賠償を命じ
る判決が相次いでいます。そして、東京・大阪などの主要4地裁の交通事故
専門の裁判官は、「歩道上の事故は原則、歩行者側に過失は無い」とする新
基準が示されました。
 歩道は自転車と歩行者が利用できる歩道が多くありますが、歩道は歩行者
が優先であり、自転車は歩行者に進路を譲らなければならない場所です。誰
もが安全に歩ける場所でなければならないのですから、歩道上の事故につい
て歩行者過失によるの過失相殺は成り立たないと私も思います。
 自動車は自動車損害賠償責任保険(自賠責)に入っており、さらに任意保
険に入っている人も多いのですが、自転車で損保保険に加入している人は少
ないのです。

 このメールマガジンを読んでいただいている方には企業の総務・人事の方
が多いと思います。その企業の従業員の中には、自転車で他人にケガをさせ、
多額の賠償責任を負わされた方もおられるかもしれません。
 自転車通勤の方を含め、自転車運転についても安全教育が必要だと思いま
す。そして、同時に、自転車保険(対人保障)の加入を勧める・義務付ける
ことも必要だと考えます。
 TSマークを張っていれば付帯保険が受けられますが、有効期間は点検日
から1年間なので注意が必要です。

   TSマーク・TS付帯保険はこちらをご覧ください
   http://www.tmt.or.jp/safety/index3.html

 任意保険にもTS付帯保険にも入っていない自転車による事故に会った場
合は災難です。事故に遭わないように気を付けるしかないです。

 私自身、18日には、車道を自転車で走行中(当然左側車線)、逆走(右側
車線走行)の自転車が猛スピードで走ってきます。あわてて、自転車を止め、
左側のガードレールに寄りかかって、やり過ごしましたが、その逆走の自転
車は私の方を振り向きもしません。私も、逆走の自転車もかなりのスピード
が出ていました、ほんの少しハンドルが触れただけでも、大きなケガをした
ことでしょう。20日には、歩道中で携帯電話の画面を見ながら走ってくる若
い人がいました。危険を感じ、呼び止めて、「携帯を見ながら運転すると危
ないですよ」と注意しました。その人は「はい」と答えたので、それで終わ
りにしたのですが、振り返って、その自転車を見ると、片手運転でした。お
そらく携帯電話を見ながら運転したのでしょう。追いかけて注意したいとこ
ろですが、昨日の炎天下では追いかける体力はありませんでした。

 まだまだ猛暑が続きます。屋外を歩く時には頭がボーとするかもしれませ
んが、周囲の安全、特に自転車には気を付けてください。

                            ご安全に!

2010年8月14日(ソウルのCNGバス爆発事故)
 8月9日にソウル市を走行していた路線バスが突然爆発して、17人が重軽傷
を負う事故がありました。
 映像はこちら
 http://www.youtube.com/watch?v=dBqsc13MUIw
 http://www.youtube.com/watch?v=2RTaSrVO_iQ
 (You Tube)の映像のため、リンクが消えた場合はご了承ください

 このバスは天然ガス(CNG)を使用しており、8本のガスタンクが設置され、
そのうちの1本が突然爆発したのです。
 この天然ガスを燃料とするバスは2000年から導入され、7000台を超える路
線バスがソウル市内を走っています。
 今のところ、ガスタンクそのものの欠陥が原因として指摘されています。
 ガスタンクの規格にはタイプ1~4があるそうで、(韓国の規格)
 タイプ1:アルミニウムとステンレス製
 タイプ2:クロム鋼鉄の外側をガラス繊維で覆ったもの
 タイプ3:炭素繊維複合素材 
 タイプ4:炭素繊維複合素材
 タイプ1とタイプ2の安全性はそれほど違いが無いようです。
 今回の爆発はタイプ2。現有の天然ガスバスのほとんどはこのタイプのよ
うです。
 安全性はタイプ3とタイプ4が優れているのですが、設置価格が、タイプ1
とタイプ2は約45万円。タイプ3とタイプ4は約100万円
 安全性よりコストが優先されたようで残念です。
 気になるのは、今回の事故が初めてではないそうで、2005年~2008年にか
けて、7件発生していたということに驚きました。
 国民は通勤手段をバスから地下鉄等に切り替えたり、バスの後部に乗車し
ているようです。(タンクはバスの車両の前方の床下に収納されている)
 韓国政府では2001年以前のCNGバスの運行を禁止したり、全数点検の指示
を出したようですが、公共交通網であることから、全面運行停止とはならな
いようです。
 もし日本で同じようなことが発生したらどうでしょうか?
 おそらく、原因究明まで運行停止し、ディーゼルバスなどの代替え輸送に
なるのではないでしょうか?
 この事故のあと、日本の天然ガス自動車は大丈夫なのかと思い、調べてい
ますが、高圧ガスに対する規制が日本とは異なるようなので、気になるよう
なものはありませんでした。
 ちなみに日本国内では、CNGバスの高圧容器については、「高圧ガス保安
法」が適用され、初回導入時には4年に1度の容器再検査が義務付けられ、そ
の後は2年1カ月以内に容器再検査が義務付けられています。(その後も2年1
か月以内の検査が義務付けられ、最高で15年までしか使用できません。

 その他データ
 CNGバスはディーゼルバスに比べ、
    NOx(窒素酸化物)を60%~70%削減
    二酸化炭素    20%~30%削減
    硫黄酸化物    100%削減
    PM(粒子状物質)を100%削減できます。

                            ご安全に!
2010年8月7日記(京王電鉄 踏切トラブル)
 8月6日早朝、東京都杉並区の京王電鉄井の頭線の踏切で遮断棒が下りてい
ない状態で列車が通過したことがありました。(人身事故は無し)
 原因は夜間工事した作業員が踏切の電源を誤って切ったことだそうです。
 しかし、誤って切ったことだけが問題なのでしょうか?
 と、いうのは、機械はいつか故障する可能性があります。(誤って切らな
くても同様の事が起こりえます)
 2年前の5月にはJR北海道でネズミがかじったことが原因で遮断棒が降り
ないこともありました。「故障しない機械は存在しない」と考える必要があ
ります。踏切などは、警報が鳴らず、遮断棒が降りていないと、多くの方が
「安全」と思いこんでしまいます。したがって、踏切の故障は許されないも
のなのです。
 しかし、万一の故障があったとしても、人命を守る仕組みはあります。
 これを「フェール・セーフ」と言います。
 安全システムには「危険感知型安全システム」と「安全確認型安全システ
ム」に大きく分かれます。
 踏切は電車が接近すると、遮断棒が降りるように一般的に考えられている
と思います。
 電車が接近すると、「電車が来た!危険」→「警報発令・遮断棒降下」と
いうシステムが「危険感知型安全システム」です。
 これは正常な状態であれば問題ありません。しかし、ネズミがケーブルを
かじったり、作業員が電源の投入を誤ったり、信号機の故障など、何らかの
トラブルがあれば、「電車が来た!危険」という指示を与えても、警報も鳴
らない、遮断棒も降下しないという現象が発生します。したがって、「危険
感知型安全システム」は安全を保障できないのです。
 もうひとつの「安全確認型安全システム」はどうかと言いますと、電車が
接近していない安全な状態のときに、「今は接近している電車はなく、安全
ですよ」と信号が送られます。遮断機はその信号を受けて、遮断棒を上昇さ
せます。遮断棒はその信号が無いと降下した状態です(遮断棒は引力によっ
て下がっている構造であれば、「上昇」という指示がなければ、下に降下し
たままになります)
 このシステムであれば、
 「電車が接近していないから安全」信号により→遮断棒上昇
 「電車が接近していないから安全」という信号がなければ、遮断棒は降下
 なんらかの故障があれば、遮断棒は引力により降下した状態になるので、
安全を保障することができます。
 すなわち、故障の時は必ず、安全側に故障するのです。遮断棒が上がらな
いという故障は、通行に支障があるかもしれないが、人命を守ることができ
るのです。この安全システムをフェール・セーフといいます。
 京王線の井の頭踏切では電源が切れた状態で遮断棒が上がっていましたか
ら危険感知型安全システムだったことが分かります。
 誤って電源を切ったままにしていた作業員に過失がありますが、踏切の構
造にも問題があると考えます。
                            ご安全に!

2010年7月31日(エレベーター2012年問題)
 ネットを見ていると、「エレベーター2012年問題」という記事が目に止ま
りました。いままで、「コンピューターの2000年問題」「労働災害の2007年
問題(団塊の世代が引退する年)」「派遣労働者の2009年問題(製造派遣が
3年経つため、一斉に期限がくる)」などいろいろありますが、エレベーター
に何が起こるか興味がありました。
 
 簡単に説明させていただくと、エレベーター製造メーカーが保守部品の供
給停止を決めました。保守部品が無くなると、故障した場合の修理ができな
いという事態が起こります。その保守部品の供給停止になるものに2012年が
多いということです。
 保守部品が無くなると、エレベーターが故障した時の復旧が不可能になり、
エレベーター本体を交換する必要が出てきます。エレベーターの交換は費用
的にも、納期的にも大きな影響があります。特に製造工場で、部品等を運ぶ
エレベーターが1台しか無い建物では、生産が止まることも発生してきます。
 エレベーターの大手で最初に供給停止を表明したのは三菱電機ビルテクノ
サービスだそうです。早いものは今年の9月で供給停止になります。
メーカーでは「製造の為の素材確保、製造設備や技術者の確保・維持が困難
となり、供給を継続することが限界に達しつつあります。」と説明されてい
ます。製造中止から25年以上経過したものは、多くのメーカーで供給停止を
表明しています。
 このような話はエレベーターだけではありません、2008年には家庭用の扇
風機が発火する事故が相次ぎました。メーカーでは30年経過したものは安全
性の保証ができないとして、使用中止を呼び掛けしたことがあります。
 以前、私のところに相談のメールが届きました。内容は、
「設置から30年経過したクレーンがあり、今は休止しているが、再使用検査
を受けて、使いたいと思うがどう思いますか」でした。
 私は、たとえ再使用検査に合格したとしても、金属疲労、電源部の絶縁性
等、検査で見つからないケースもありえるので、クレーンの更新を勧めまし
た。
 法定点検のある特定機械は、点検業者が点検・診断して適切な指示を得ら
れると思いますが、気になるのは、旋盤やフライス盤などの一般工作機械で
す。
 点検・整備して使用することも大切ですが、耐用年数を定め、設備の更新
も計画して進めていただきたいと考えます。 
 ちなみに
 エレベーターの法定償却耐用年数(大蔵省令第15号による)は17年と定
められております。また、社団法人建築・設備維持保全推進協会(BELCA)
のライフサイクル評価指針ではエレベーターの主要機器(制御盤等)の平均
耐用年数を20年と定めております。
                           ご安全に!

2010年7月24日(健康診断)
 7月17日~19日まで3連休だった会社も多いと思います。この3連休の直前
までの梅雨空が嘘のように晴れ渡り、急激に温度が上昇し、最高気温が35度
を超える「猛暑日」が全国各地で記録されています。この1週間で6000人近
くが熱中症の疑いで救急搬送され、50人を超える方が死亡したと報道があり
ました。
 さて、私の知人が7月20日に健康診断を受けました(会社の人間ドック)。
その知人が言うには、連休中は家でクーラー効かせてゴロゴロしてたところ
に、月曜日は午後9時までに食事を終わらせ、そのまま、火曜日の朝は食事
も水も飲まずに、家を出て、満員電車でギュウギュウになって、汗をかき、
会社に着いたあとは、ぐったりでした。のどが渇いても水さえ飲めず、健康
診断受けるために命がけだ。と言っていました。命がけは極端な表現かもし
れませんが、この時期の健康診断は体力的に厳しいと思います。空調の良く
効いた室内作業であれば、まだ回復することもありますが、屋外の仕事をこ
の健康状態で行うのは確かに熱中症のリスクが高くなります。(屋内であっ
ても、電気炉等の作業でも同じ)
 この7月・8月に健康診断をする人がいる職場の管理者、職長は健康診断受
診予定者把握し、特に健康状態の確認に気を付けてください。朝から絶食・
絶飲なのですから、通常とは全く違う状態だと理解する必要があります。そ
の日の作業を軽減するとか、勤務中も顔色、動作を確認し、声をかけてあげ
てください。健康診断が終わるまでは絶食・絶飲ですが、危険を感じた場合
は、その日の健康診断を中止し、アルカリイオン飲料を飲ませるなどの措置
が必要になります。(健康診断の項目によっては絶食・絶飲が必要ない場合
もありますので健康診断内容と、絶食などの制限内容を理解しておいてくだ
さい)
 例年7月8月に健康診断を実施している事業所では健康診断の時期を変更す
ることも検討する必要があると考えます。労働安全衛生法では1年に1回定期
的に実施することが義務付けられているため、たとえば8月に予定していた
ものを急に12月に変更するには問題がありますが、産業医、安全衛生委員会
の意見を聞きながら実施時期を見直すことも必要と思います。(7月8月の健
康診断は好ましくないというのではありません。作業負荷を考慮する必要が
あると考えます)
 健康診断を行うための絶食・絶飲が重篤な災害の原因にならないように、
ご注意をお願いいたします。
                           ご安全に!

2010年7月17日(石綿について)
 今週の安全衛生情報には石綿の関係したものが多くなりました。
 環境省から大気中の石綿粉じん濃度の報告がありました。
 全国各地で石綿の測定がおこなわれています。
 大気中石綿濃度はまったくゼロではありませんが、環境省では大気中の石
綿のリスクは無いと発表しています。
  
 WHO環境保健クライテリア(EHC 53):「都市における大気中の石綿濃度
 は、一般に1本以下~10本/Lであり、それを上回る場合もある。」「一般
 環境においては、一般住民への石綿曝露による中皮腫及び肺がんのリスク
 は、検出できないほど低い。すなわち、実質的には、石綿のリスクはない」

 本当にそうなんでしょうか?
 私は疑問に感じます。
 建物の解体現場が近くになくても、僅かながら全国的にあります。
 空気1リットル中に0.1本あったとして、人は1分間に7リットル程度空気
を吸います(60kg 男性 座った状態を基準)。ということは
 1分間に0.7本
 1時間に42本
 1日に約1,000本
 1か月に約30,000本
 1年間に約360,000本
 10年間に約3,600,000本
 40年間に約14,000,000本吸うことになります。

 私は建設業労働災害防止協会で石綿作業主任者技能講習の講師をさせてい
ただいていますが、この数字を教えています。石綿と無縁のと思っていても
これだけ多くの石綿を吸っている可能性がありますので、石綿を含む建築物
の解体では十分な対策をして欲しいとお願いしています。
 さて、石綿作業主任者技能講習で学ぶ解体作業の基本は湿潤化して、手作
業でビス・釘を1本1本抜きながら分解するように解体することを指導してい
ます。場合によってはこの基本が使えない状況があります。代表的なものが、
石綿含有屋根材です。住宅屋根用スレートとも言われています(一般に石綿
スレートというと、鼠色の波型を想像すると思いますが、カラフルな色付き
の屋根材と思ってください)。屋根ですから傾斜が付いています。その場所
で、水を撒いて解体作業をすると、滑って転倒・転落の危険があります。
 石綿を大気に放出しないことは大切ですが、労働者がケガをしては意味が
ありません。そんな作業に良い工法がありました。SS工法(シールドサク
ション工法)です。SS工法は、掃除機のような専用具を使い、飛散する石
綿を吸引除去するものです。これなら、作業者が水に濡れた屋根の上で転倒
する危険も減り、住宅内に水が浸入することもありません。
 石綿作業主任者技能講習のテキストには無いのですが、次の講習からはこ
のSS工法を含めて説明したいと考えています。
 
○アスベスト飛散防止屋根修理工事
      (SS工法:シールドサクション工法)
 http://www.ryutu.inpit.go.jp/business/download/2009_3_8.pdf

                           ご安全に!

2010年7月10日(従業員の声)
 7月6日にNHKが大相撲の生中継を中止する発表をしました。
 この発表の中で気になったのは、
 「放送中止を求める意見が8,600件、放送を支持する意見が1,600件」
 このことを福地NHK会長が発言したことです。
 確かに、圧倒的に中止を求める意見が多い。しかし、この比率が視聴者の
意見ではありません。なぜなら、現状の事実(57年間の放送実績)に反する
意見を持つ方がNHKに電話したもので、肯定する方は積極的に電話をする
とは限らないからです。
 思った通り、6日の発表の直後、放送を希望する意見の電話が殺到したよ
うです。中には「NHK受信料を払わない」という人もいたようです。
 NHKはデータの受け止め方を間違ったようです。
 11日は参院選です。NHKも民法も出口調査で当落予想の精度を競ってい
ます。これが有権者の支持率分析です。クレームの件数で世間の声を判断す
るべきではありません。
 このNHKの判断は安全衛生の分野にも関係すると思います。
 労働安全衛生法により、事業規模により安全衛生委員会が義務付けられて
います。委員の半数は労働者を代表する者です。労働者の代表の意見ですか
ら労働者の意見を集約したものでなければなりませんが、実際にはどうでし
ょう。職場からのクレームをそのまま、労働者の意見としていることはあり
ませんか。個人のクレームと職場の声を混同されないようにしなければなら
ないと思います。 
                           ご安全に!

2010年7月3日(賭博)
 日本の国技、相撲が大きく揺れています。名古屋場所の中止は回避できた
ようですが、今後どうなるのかとても心配です。日本人横綱へ期待の高い、
琴光喜や大阪出身の豪栄道がいない寂しい場所になるでしょう。
 さて、「賭博って何か」を考えてみました。
 麻雀をやっている人は多いがこれは賭博なのだろうか?
 もちろん、麻雀=賭博ではないが、お金を賭けて麻雀する人も多いと思い
ます。法に違反する掛け金の額が決まっているのかと思って調べたが、麻雀
の勝敗によって現金のやりとりがあるものは全て賭博になるようです。現金
ではなく、夕食の支払を賭けるような娯楽的なものは賭博には該当しないそ
うです。金額の大小での区分はありません。

(参考)
  刑法(賭博)第185条 
   賭博をした者は、50万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時
   の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
  刑法(常習賭博及び賭博場開張等図利)第186条 
   常習として賭博をした者は、3年以下の懲役に処する。

 みなさんの中には麻雀が好きな人もおられるでしょうし、職場の中に好き
な人もおられるでしょう。お金を賭けたら(金額に関係なく)、刑法に違反
すると自覚されているでしょうか。
 もし、職場の誰かが麻雀賭博で逮捕され、調べてみると、職場のほとんど
の人が常習的にしていたら、みんな逮捕されてしまうかもしれません。そう
なると企業活動が止まってしまいます。
 おそらく、麻雀をやられている人は、“この金額までは娯楽”と考えてい
るのだと思います。これは勝手に作られたルールです。または、黙認された
ルールと思い込んでいるのではないでしょうか。
 この勝手に作ったルール・黙認されたルールは、日常生活や会社の中にも
あると思います。例えば、大阪の横断歩道に見られます。大阪では、「青信
号は渡れ、黄色信号は渡れ、赤信号は左右を見て渡れ」と聞いたことがあり
ます。
 労働災害の原因となる不安全行動にはルールを守らなかった事故が多いと
思います。安全衛生の実務をしている方なら切実な課題ではありませんか。
ルール違反が横行している会社では
 ①社内ルールを明確にする(明確化)
 ②社内ルールを守らせる(周知)
 ③社内ルールに違反したものは黙認しない(指導・説教)
 特に「黙認をしない」ことが重要です。
 「ルール違反をしない。ルール違反を黙認しないこと」これが災害防止の
基本、安全な職場の基本だと考えます。

                           ご安全に!

2010年6月26日(マツダ工場テロを考える)
 6月22日の朝、広島県にあるマツダの自動車工場において、元従業員が工
場内を暴走し、12人がはねられ、1人が死亡する事件は本当に驚きました。
単なる暴走ではなく、殺人目的の暴走だから「テロ」と言ってもいいのでは
ないでしょうか。
 会社のリスクマネジメント(危機管理)の中に「テロ対策」を入れている
会社もあるでしょう。それは今回の事件を当てはめた時に有効でしょうか?
今回のようなケースでは、ほとんど有効ではないでしょう。工場の中を暴走
していた時間はわずか8分程度、「通り魔テロ」のようなものだから対策を
取る時間がありません。警察に通報しても、警察が到着する時間には工場か
ら逃げているので、手遅れになってしまいます。6月24日のマツダ社の株主
総会では、株主から警備責任を問う意見もあったようです。マツダの山内社
長は「ゲートの管理を含め、警備態勢を検討する」と答えたそうですが、ど
んな方法が良いのでしょうか?
 国の重要機関のように門を閉鎖し、全ての車両について検問をすれば、あ
る程度防げるかもしれません(検問でも悪意のある車両を見つけることは困
難です)。しかし、大企業であれば1日に何百何千という車両が入るため、
現実的な対策とは言えないでしょう。

 私はこの事件のあと、対策を考えましたが難しいです。たとえ、車両の進
入を止めたとしても、殺人目的で包丁を用意していたので、護身用具を持っ
ていない警備員では手に負えません。
 私が考えた対策は、防ぐのではなく、一刻も早く従業員に知らせることで
す。門を突破されたら、すぐに警報を発し、従業員に急を知らせることです。
サイレンを鳴らすことが効果的でしょう。このためにサイレン・スピーカー
を設置するのは大掛かりになりますので、どこの会社にもある「火災警報」
を発報するのが初期対応としては適切だと考えます。ベルが鳴れば、従業員
は、足を止め、手を止め、周囲を確認し、身に迫る危険を見つければ避難行
動も取れたと考えます。

 それと、この事件で気になったのは、警備員以外の被災者は後ろからはね
られているケースが多いことです。当然、前から走ってきたら避難できるの
で後ろからはねられるのは容易に考えられます。私が危惧するのは、構内を
携帯音楽プレーヤーを聞きながら構内を歩いていたのではないかという点で
す。両耳を覆い、音楽を聴いていたら、悲鳴・叫び声も、暴走するエンジン
音にも気が付かないかもしれません。
 これは今回のテロに備えたものだけではありません。横断歩道を歩く時、
車の運転手が必ず信号を守るとは限りません。脇見運転で歩行者に気が付か
ないこともあります。日常の災難から逃れるためにも、歩く時は携帯音楽プ
レーヤーは止めましょう。
                           ご安全に!

2010年6月19日(ボート転覆 女子中学生死亡)
 6月18日浜名湖で手こぎボートが転覆して20人が投げ出され、女子中学生
が死亡する事故がありました。風が強く、波が高くなり、多くの中学生が船
酔いして続行が困難として救援を呼び、モーターボートで曳航して岸まで運
ぶ時に大きな波を受けて転覆しました。中学生は全員救命胴衣をつけており、
転覆した船や近くの船につかまって救助を待っていましたが、船の下に潜り
込んだ女子中学生が亡くなりました。とても残念な事故です。
 報道を見ていると、「強風・大雨注意報が発令されているのになぜ実施し
たのか」と書かれています。しかし原因はこれだけではありません。注意報
が無くても、突風が吹くこともありますし、ゲリラ豪雨だって考えられます。
 この中学生は2泊3日の予定で自然体験学習に来ていました。この日にカッ
ターボートの体験をするとスケジュールを立てると、できるだけ実行したい
と考えるのが当然、雨が降っていても多少の風があっても実行するでしょう。
 受け入れをした青年の家では、小学生は風速8m、中学生は風速10mとい
う中止基準を設けていました。出航前の風速は4mであり、終了する2時間後
までは大きな天候の崩れは無いと判断しましたが、実際には風が強くなり、
湖面のうなりにより事故が発生しました。
 出航を判断する基準はありましたが、その基準は良かったのでしょうか?
風速を測って出航か中止を決めています。出航の判断にも条件を付ける必要
があると思います。
 たとえば、風速3mまでは出航。風速3m以上はモーターボートに救助隊員
を乗せて、湖面・船を監視させながら出航する。のように出航の条件を定め
ていれば、リスクを減らすことができます。
 
 他にも課題があります。
 ①なぜ、最初は全員救助と報告したのか
 ②なぜ、生徒数人が船酔いで動けない状態になってから救援を求めたのか
     (救援要請が遅い)
 ③なぜ、モーターボートで引き始めた時に転覆したのか
     (曳航のルート・スピードに問題はないのか)
 ④なぜ、この梅雨の時期に開催したのか
     (この時期は天候が悪い日が多い)
 ⑤なぜ、転覆した船には青年の家の職員が搭乗していないのに出航したか
     (教師だけで問題なかったのか)
 
 この事故で一番気になるのは①の最初は「全員無事」と報告をしている点
です。転覆した船に乗っていたのは生徒18人と教師2人。誰かが全員無事と
判断したようです。しかし、実際には1名は船の下に潜っていました。この
時に生徒が17人しかいないと分かっていたら職員・教員の捜索により救助で
きたのではないかと考えます。
 まさか「全員いるか~?」と聞いたのではないでしょう。
 同じ人を2回数えたのではないかと想像します。
 数え間違えるという単純なミスがあったのではないかと考えられます。
 (教師は17人乗船と間違って覚えた可能性もあります)
 私はこのカッターボートの実習覚えています。小学校5年の時でした。怖
かったけどいい思い出。今回の事故を受けて、出航中止の基準が厳しくなっ
たり。自然体験学習が減るかもしれません。でもそれは寂しい話です。救助
のための人員を配備するなど安全対策を進めて欲しいと考えます。

                           ご安全に!

2010年6月12日(熱中症)
 厚生労働省が昨年の熱中症による死亡災害の発生状況を発表しました。
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000006xcz.html
 これによると、平成20年に比べ、死亡者が17人から8人となり半分以下に
なりました。
 別添資料の中には興味深い内容がありました。
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000006xcz-att/2r98520000006xeq.pdf

 (1)7人については、WBGT値の測定を行っていなかった。
 (2)全員について、計画的な熱への順化期間が設定されていなかった。
 (3)全員について、自覚症状の有無にかかわらない定期的な水分・塩分
    の摂取を行っていなかった。
 (4)4人については、糖尿病等の熱中症の発症に影響を与えるおそれの
    ある疾病を有していた。(疾病の影響の程度は不明)。
 (5)2人については、体調不良、食事の未摂取又は前日の飲酒があった。
    その他、2人については、被災前日まで疾病にて休業していた。

 (1)にはWBGT値の測定があります
     WBGT値とは暑熱環境による熱ストレスの評価を行う暑さ指数
     で、式①又は式②により算出できます。
      屋内の場合及び屋外で太陽照射のない場合
       式①WBGT値=0.7×自然湿球温度+0.3×黒球温度
      屋外で太陽照射のある場合
       式②WBGT値=
           0.7×自然湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度

 WBGT値の測定はこんな難しい計算をしなくても、WBGT計は市販さ
れています。たとえば、
 http://ec.midori-anzen.com/shop/g/g4076065100/
 でも、もっと簡単なタイプがあります。
 http://www.jwa.or.jp/content/view/full/3266/
 amazonで買うことができます。2,100円
http://www.amazon.co.jp/DESIGN-FACTORY-%E3%83%87%E3%82%B6%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%AF%E3%83%88%E3%83%AA
%E3%83%BC-%E3%83%8D%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E3%83%83%E3%83%97%E4%BB%98%E3%81%8D-
6973/dp/B003LPTH8M/ref=sr_1_2?ie=UTF8&s=sports&qid=1276347441&sr=8-2

 10分おきに自動測定してくれるので、使いやすいと思います。
 価格も安いし、全員に渡す方法もあると思います。
 しかし、WBGT値がわかっても災害防止になるとは限りません。
 厚生労働省のパンフレット
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000006xcz-att/2r98520000006xjw.pdf
 にあるように、作業内容によってWBGT基準値が違うことです。
 仮に作業に応じたWBGT基準を設定しても災害を防ぐことはできないで
しょう。なぜなら、上の(6)のように食事の未摂取や前日の飲酒のような
個人の体調に合わせたWBGT基準値の設定はできないからです。
 では、熱中症を防ぐことは不可能か?と聞かれると、答えはNO。
 しかし、熱中症防止は可能ですが、「これがあれば安心」というような特
効薬はありません。厚生労働省のパンフレットにあるような対策方法をでき
るだけ多く取り入れるのです。この中に「巡視による労働者の健康状態の確
認」があります。15分ごとや30分ごとに声をかけて反応を見ながら巡視をす
れば、かなり高い防止効果があります。しかし、これでは現場監督者の負担
が大きくなります。これは従業員全員がお互いに声を掛け合う方法もありま
す。従業員同志が一定時間ごとに声を掛け合うと、早く体調の異変に気が付
きます。また、これによって、一定時間ごとに「熱中症」のことを思い出し
ます。
 大切なのは、WBGT計のような数値管理ではなく、従業員が作業中に何
回も何回も、熱中症の事を意識すること。そして従業員同志でチェックする
こと。
 それと忘れてはいけないのが、作業負荷低減です。誰もが作業中に汗をか
きます。汗は体温が上昇していることを表します。極端にいうと、汗をかか
ないような作業負荷になるよう、作業の簡素化、作業負荷低減を検討してく
ださい。作業負荷低減は熱中症防止だけでなく、作業の効率化、仕事の出来
栄え、疲労の蓄積の防止、体調不調の防止になります。
 
 熱中症防止は7月8月の問題ではありません。今日から考えて実践していた
だきたいと思います。平成22年の熱中症死亡事故が無いことを祈ります。 

                           ご安全に!

参考:環境省熱中症情報
http://www.env.go.jp/chemi/heat_stroke/index.html

2010年6月5日(心肺蘇生法が変わる?)
 まず最初に、下の5月30日の毎日新聞の記事を見てください。

  心肺蘇生:胸押し続けて 人工呼吸しなくても効果…京大
   心肺蘇生には人工呼吸より、とにかく胸を押し続けて--。従来の救
  命措置の“常識”を覆す簡単な手法の普及に京都大の石見拓助教らが取
  り組んでいる。「救命措置法の普及の壁を破る手法」として海外での評
  価も高く、今年秋には国際指針となる見込みという。
   事故などで心肺停止に陥った時、蘇生が1分遅れると救命率が約10%
  下がるとされる。日本救急医療財団は一般の人向けに、人工呼吸と、胸
  部を一定のリズムで圧迫する心臓マッサージとを組み合わせた心肺蘇生
  法のガイドラインを策定しているが、口と口をつける人工呼吸への抵抗
  が根強く、普及は頭打ちになっていた。
   石見助教らは、病院外で心停止した大阪府の18歳以上の男女約4900人
  の1年後の状態を、心臓マッサージによる胸部圧迫だけと、人工呼吸を
  併用した場合とに分けて調べた。その結果、胸部圧迫だけでも4.3%が
  脳機能を回復しており、人工呼吸を併用した場合の4.1%と差がなかっ
  た。胸部を押すことで脳にも血液が送られたとみられる。
   この成果を受け、石見助教はNPO法人「大阪ライフサポート協会」
  とともに胸部圧迫の訓練キットを開発、09年から講習会を各地で実施。
  6月20日には大阪市東淀川区でも開く。
   心肺蘇生法の国際指針に影響力を持つ米心臓協会もこの結果に注目。
  既に米国内では心肺停止した大人には、胸部圧迫のみの蘇生法を指導し
  ており、秋に公表予定の新国際指針でもこの蘇生法が採用される見通し
  だ。
   日本救急医療財団の島崎修次理事長は「人工呼吸は心肺蘇生法普及の
  壁となっていた。いずれ日本のガイドラインも変更されるだろう」と話
  す。
 いかがですか? 
 従来の心肺蘇生(人工呼吸+心臓マッサージ)より、胸部圧迫だけの方が、
僅かながら効果が高い(高いというより、差がない)結果になっています。
これなら、勇気が必要な人工呼吸をしなくても救命措置ができます。
(「勇気が必要」とは誤解を招く表現かもしれませんが、一般の方には勇気
と自信と訓練が必要で、感染リスクがある行為だと思います)
 ガイドラインは過去何回も改訂されています。私が最初に教育を受けた時
には、確か、脈拍の確認がありました。2005年の改訂では心臓マッサージの
回数が変わりました。今年の改訂では劇的な変化になるかもしれません。人
工呼吸がなくなれば、口からの感染の恐れもなくなります。
 私が普段から携帯しているフェースシート(直接口と口を合わせずに人工
呼吸をするシート)はもう要らないということになりそうです。

 詳しくは大阪ライフサポート協会
 http://osakalifesupport.jp/index.htmlをご覧ください。
 「AED/心肺蘇生」のタグを開くと、ビデオがあります。
 ただし、ガイドラインはまだ改訂されていませんので、新しい方法(胸部
圧迫のみ)を従業員の方に周知・指導するのは推奨しません。
ガイドライン改訂の情報があればこの「週刊 ご安全に!」で紹介します。
 
 大阪ライフサポート協会HPには「大阪府AEDマップ」があります。みなさ
んの会社に備え付けている場合は、このマップに掲載されているか確認して
みてください。(現在の登録件数 7,473件)
                           ご安全に!

2010年5月29日(労働災害の障害認定ほか)
 
 
労災補償給付で女性より低い等級の障害認定しか受けられないのは男女平
等を定めた憲法に反するとして、国がした認定の処分取り消しを求めた訴訟
の判決が5月27日に京都地裁でありました。
 男性は精錬会社で溶けた金属をかぶってやけどを負い、胸や腹、頬に傷跡
が残りました。労働基準監督署は障害等級11級と認定しましたが、原告側は
「女性なら7級に相当するものであり、男女差別だ」と主張していました。
 判決は障害等級表について「年齢や職種、利き腕、知識などが障害の程度
を決定する要素となっていないのに、性別だけ大きな差が設けられている」
と指摘し、「この差を合理的に説明できる根拠は見当たらず、性別による差
別的扱いをするものとして憲法14条違反と判断せざるをえない」と結論付
けられました。
 
 障害等級は下記参照ください(労災保険情報センター)
  http://www.rousai-ric.or.jp/worker/07/index.html

 これは京都地裁の判決通りだと思います。今後、障害等級表の見直しが必
要だと思います。(民事訴訟では個人の状況により差が付くことはあっても
法律で差を付けるべきではないでしょう)
 さて、先日、平成21年の労働災害死亡者数が1,075人(前年比193人減)と
なり、あと少しで1000人を下回るところまでになりました。死亡災害は大き
く減少していますが、死傷災害(休業4日以上)は死亡災害の減少率ほどは
下がっていません

(全産業のデータ)
       平成21年 平成20年 増減数 増減率
 死亡災害   1,075   1,268 -193 -15.2%
 死傷災害  105,718  119,291 -13,573 -11.4% 

 ある人は平成21年はリーマンショックの影響で景気が後退し、失業・雇用
調整が原因で災害が減っていると言います。また、ある人は医学の進歩で死
亡者数が減っていると言います。また、リスクアセスメントを含む安全衛生
活動の成果があったとも考えられます。
 しかし他にも要因があります。
 総務省の統計を見ると、建設業はこの1年間で15万人の労働者が減ってい
ます。この5年間では54万人の建設業労働者が減っています。製造業はこの1
年間で62万人減っています。減少した分はその他の業種に移行しています。
死亡災害が減少することは喜ばしいことですが、それは同時に主要産業の空
洞化を表すのではないかと心配になります。
                           ご安全に!

2010年5月22日(家族への手紙)
 先日、ある企業の安全担当の方より質問を受けました。
  全国安全週間実施要綱の中に「家庭に対する安全の協力の呼びかけの実
 施」があります。当社は今年事故が多くて困っています。この準備月間に
 家族の方にも災害防止の協力を頂きくために手紙を出したいと思っていま
すが、どのような手紙を送ればいいでしょうか?
 私は少し戸惑いました。何年もこの仕事をしていますが、従業員の家族に
対して手紙を出した経験がありません。でも、いい機会なので、私なりに考
えて、サンプルを提示させていただきました。
 皆様にも紹介させていただきます。
 
(序文)
 まず、社長から家族の方へ手紙を出すことはあまりありませんので、従業
員をサポートしていただいている家族の方にお礼の言葉をいれました。

(現状)
 家族の方は会社での労働災害の状況は全くご存じないと思います。災害の
発生状況の概略と、安全週間の取り組み、会社にとっての従業員の安全に対
する意識を入れました。特にこれからの季節は熱中症のおそれがあります。

(お願い事項)
 家族の方に「労働災害防止に協力して欲しい」と言っても、何をすれば良
いのか通じるはずありません。具体的なことを列挙しました。
 1. 睡眠不足にならないようにご配慮をお願いします。
 2. 体調が悪い時には休むことを勧めてください。
 3. 体調管理に気を使ってください。
 4. 朝の出社時間に余裕を持つよう配慮してください。
 5. ご家族の方の言動にご注意ください。(自殺予防)
 * 詳細は下記の<参考>をご確認ください

(最後に)
 ご家族のご健康・ご健勝を祈る気持ちを伝える。

 いかがでしょうか?
 考えてみれば、労災の原因に本人の健康状態に問題がある場合があります。
健康で安全に働いていただくためにも、家族のサポートは必要だと思いまし
た。

                          ご安全に!
<参考>手紙の抜粋
 
 従業員に対し、「安全第一」という意識の再教育を進めているところです。

 つきましては、ご家族の皆様にもご協力をいただけないかと考え、お願い
したいことがあります。これから5月6月と気温も上昇してきます。特に夏
場は全国的に労働災害が多い時期になり、政府でも6月1日より全国安全週
間準備月間、7月1日より7月7日まで全国安全週間を啓蒙しており、弊社
においても特に安全には最大限の配慮をしていきます。

 ご家族の皆様にお願いしたいのは下記の点です。
1.睡眠不足にならないようにご配慮をお願いします。
   睡眠不足は集中力の減退につながり、単純なミスの要因でもあります。
   作業のミスにより労働災害が発生し、大切なお体を傷付けてしまうお
   それがあります。
2.体調が悪い時には休むことを勧めてください。
   従業員の皆様は本当に一生懸命働いていただいています。とても熱意
   があり、体調不良でも、出社される方がおられます。しかし、体調が
   悪い時には、得てしてミスをしやすいものです。また、労働により体
   調の悪化も危惧されます。
3.体調管理に気を使ってください。
   夏場は、熱中症のおそれがあります。
   熱中症は暑い場所での作業によって発生しやすいものですが、朝食を
   摂らない、寝不足、暴飲暴食、深酒によって発生しやすくなります。
   なお、弊社では毎年○月に健康診断をしています。もし、生活習慣病
   (高血圧、肥満、高脂血症、糖尿病)のおそれがありましたら、食事
   制限あるいは、飲酒・喫煙の注意をいただき、場合によっては早期に
   医師の診察を受けるようお声を掛けてください。
4.朝の出社時間に余裕を持つよう配慮してください
   通勤途上災害を防止する1番の方法は朝の通勤に時間的余裕を持つこと
   です。時間が無いと、急ぐことになり、事故に遭う可能性が高くなり
   ます。朝の出社は時間的な余裕を持って送り出してください。
   また、ご家族の方が出社する際には「気を付けて行ってらっしゃい」
   など、お声を掛けていただくようお願いいたします。
5.ご家族の方の言動にご注意ください。(自殺予防)
   新聞等マスコミでご存じと思いますが、国内で自殺者が1年間に3万
   人を超える状況が続いています。自殺者の中には「うつ病」から自殺
   行為をする方が多いということです。会社でも従業員の心身の状況を
   把握するよう努めていますが、全てを把握することは困難です。
   もし、「寝付けない」、「飲酒量が増えた」など以前に比べて、言動
   が変わったなど、異常と感じた場合は、医師(心療内科医等)の診察
   を勧めたり、弊社にもご一報いただければと思います。
 最後になりましたが、ご家族の皆様のご健康・ご健勝を心よりお祈りいた
 します。

2010年5月15日(ガス湯沸かし器事故)
 5月11日、パロマ工業製のガス湯沸かし器による一酸化炭素中毒で28件の
事故が発生し、21人が死亡する事故の裁判がありました。
 事故の原因は、パロマ工業の製品の欠陥ではなく、さらに、不正改造を指
示したのではなく、委託した修理業者が不正改造をしたのが原因であり、ど
のような判決になるか注目していました。
 判決は皆様もご承知の通り、業務上過失致死傷罪として有罪判決になりま
した。12日の読売新聞の社説の見出しは「安全軽視の姿勢が指弾された」で
す。
 事故の原因は不正改造ですが、なぜ、不正改造されたかという原因を突き
止めなければ、同様の事故が発生する可能性があります。
 もともと、ガス湯沸かし器は安全な機器なのです。なぜかというと、「フ
ェール・セーフ」という安全装置の仕組みが採用されいるためです。ガス湯
沸かし器の故障で一番リスクが高いのは、火が消えている状態で、ガスが供
給される状態です。これを防止するために、フェールセーフの技術が採用さ
れています。それは、火が燃えている時だけガスを供給するのです。具体的
には、火が燃えていることを熱検知し、燃焼が確認できた時に、これを「安
全信号」として、ガス供給部に送ります。ガス供給部は安全信号があった時
だけ、ガスを供給します。もし、熱検知装置に異常があった場合は、安全信
号が発せられない状態になるのでガスの供給を停止します。何らかの故障に
より安全信号がなければ、ガスは止められるという安全を確認した時だけ稼
働するシステムがフェール・セーフなのです。

 不正改造はこの安全装置を短絡(ショートカット)したため、点火スイッ
チを押すと、火が燃えていても、消えていてもガスを供給する仕組みになっ
てしまったのです。
 不正改造をした原因は修理した人が病死したため、明らかにすることはで
きませんが。次の事を推測します
 (1)安全装置の仕組みを理解していなかった。不正改造による事故を予
    見できなかった。
 (2)修理件数が多くて、一番簡単な短時間で終わる修理方法を選ぶしか
    なかった。
 (3)利益追求のため、1件当たりの修理時間短縮を考えた。

 なぜ、フェール・セーフの安全装置が必要か、安全装置が無いとどのよう
な危険があるのか理解していなかったのが原因だと思います。さらにその原
因の先には、急きょ決定した全国的な点検・修理により、十分な教育ができ
なかったのではないでしょうか。
 点検方法や修理方法を教えるだけでは不十分で、他の方法をすればどのよ
うな危険があるか、またそのリスクの程度を理解させなければならないとい
うことの失敗の事例として、また、不正改造を発見した時の企業の対応方法
の失敗の事例としていつまでも記憶にとどめたい事例だと考えます。

                            ご安全に!

2010年5月8日(雨の中の交通事故)
 5月7日は朝から雨でした。大阪市此花区に車で仕事にいった帰りに国道1
号線を通っていると、車道の脇に人が倒れているのを発見しました。交通事
故です。すぐに脇に車を止めて、救援に行きました。
 被災者は自転車を運転していた40歳ぐらいの男性。加害者は30歳ぐらいの
男性で軽トラックの運転手。現場にはもう一人、30歳ぐらいの目撃者がいま
した。路上には折れた傘があり、被災者は傘をさしたまま運転していたよう
です。
 被災者をみると、額に打撲のあとがあり、腫れあがり、少し出血していま
す。左足は膝の角度とつま先の角度が不自然な状態になっています。
「大丈夫ですか?」と聞くと、意識はほんのわずかに確認できました。加害
者は気が動転しているのか、「すいません。すいません。」と繰り返すだけ
です。加害者に、「救急車は呼びましたか」と聞くと、加害者が携帯電話で
119電話し始めました。
 大量出血は認められませんでしたが、頭を強く打っていることがわかりま
す。「名前は?」「僕の顔わかりますか?」と声をかけても眼を固く閉じた
まま苦痛の表情です。「大丈夫ですよ。すぐ救急車が来ますからもう少し頑
張ってください」と何度も声をかけ続けました。気になったのは、手も足も
全く動く気配がありません。とても心配になりました。手を握り、「手を握
ってください」と声をかけても指先ひとつ動きません。
 それと気になったのは、濡れた路面の上に寝ていることです。傘を立て掛
け、雨を防ぐことはできましたが、濡れた路面で体温が下がる恐れがありま
す。3メートルぐらい動かすと、高架下になり、雨を防ぐことができます。
そこへ抱え上げて運び、車の窓用のサンシェードを下に敷きました。プチプ
チ状なので保温効果はあるはずです。そして、体の上には私の上着をかけて
おきました。
 処置はここまでです。頭の出血もほとんどおさまっています。足は骨折の
恐れがありましたが、副子になる材料もなく、本人が苦痛を訴えないので、
あえて、確認しませんでした。
 次は救急車の誘導に向かいました。通報から4分ぐらいで救急車が到着し
ました。救急隊員は「意識はありますか?」と聞かれたので、「意識はかす
かにあります。頭蓋骨と足の骨折の疑いがあります」と伝えました。

 被災者は搬送され、ひと安心です。
 私は車に戻り、落ち着いて、今の措置を振り返りました。
 「良かったのだろうか?」
 疑問を感じたのは下記の2点です
 一つは、体温が奪われる可能性がある濡れた路面から動かしたことです。
交通事故の場合、頸椎への損傷の可能性があります。動かして良かったのだ
ろうか?手指が動かせない状態ということは、その可能性が高いと考えるべ
きだっただろう。
 二つ目は、処置が終わったあと、救急車の誘導に向かったことです。加害
者はどこかに電話しているようだし、被害者に何をすれば良いかわからない
状態でした。被災者から眼を離すべきではなかった。眼を離している間に、
症状が変わる可能性もあったのではないだろうか。
 
 もし、今後同じような場になれば、今回の反省も覚えておき、もっと適切
な処置ができるようにしたい。車の中にも三角巾と保温用のシートは備え付
けよう。

 今回の事故の原因は、青信号で左折しようとした運転手が助手席の荷物を
見た時に、一瞬、眼をそらした時の出来事だったと言っていました。左折を
する時の横断歩道の確認を怠ったことが原因のようです。しかし、傘を持っ
て運転していた被災者の方にも問題があったと思われます。
 被災者の全快を祈っています。しかし、脳への障害が残ることが心配です。
最悪の場合、被害者も加害者にも一生残る事故かもしれません。
 改めて、交通事故の怖さを感じました。皆様の交通安全をお祈りします。
                            ご安全に!

2010年5月1日(口は災いの元)
 4月28日のニュースでとても興味深いものがありました。
 イギリスのブラウン首相が、遊説中、市民との対話の場を作り、65歳の年
金暮らしの女性と移民問題や犯罪対策で議論する場がありました。数分のや
りとりの後、最後に「あなたに会えて良かった」と笑顔で別れたのです。し
かしブラウン首相の背広の襟にはテレビ局が用意したピンマイクが付けられ
て(市民との会話を録音するため)いました。笑顔のまま女性と別れて車に
乗った首相はピンマイクを外し忘れていたのです。
 車に乗り込んだ首相はすぐさま、秘書に文句を言いました。「あー最悪だ。
あんな女性に会わせるなんて、誰の考えだ?偏見だらけの女性じゃないか」
この音声は直ちに全国に放送されてしまいました。
 首相は女性の自宅を訪れて謝罪しましたが、謝罪で済むような問題ではあ
りません。
 これを聞いて、「笑える話ではない」と思った人はいませんか?
 昔から、「壁に耳あり、障子に目あり」というように、陰で悪口を言った
り、秘密の話をして、それが本人の耳に入るというのは、あり得る話で、テ
レビドラマでもそんなシーンがあります。
 ブラウン首相のような失言は、取り返しのつかない内容です。いくら謝罪
を繰り返したとしても、失言の内容は本心であり、謝罪によって消えるよう
なものではありません。
 もし、職場でこんなことがあったら大変ですよね。
 職場といっても、元々は他人の集まりです。考え方も違って当然です。
 例えば、あなたがAさんとして、Bさんに対して、Cさんの悪口を言った
とします。Cさんはそこに居ないと思っていたけど、実は死角にいて気が付
かなかった(Cさんに聞かれていたことは知らない)。その後、Cさんは、
Aさんに対する態度が変わります。Aさんは益々、Cさんを嫌ってしまいま
す。こうなれば、AさんとCさんは対立の度合を高めるだけになるでしょう。
 昔、私がサラリーマンしていた時に、私の同僚が同僚同士でトラブルを起
こしたことがあります。それは、Dさんが、Eさんの悪口をFさんにメール
しようとして、間違って、当のEさんに送ってしまったのです。Eさんは怒
り心頭です。私はこれを聞き、Eさんを静めようと思ってEさんと話をしま
したが、関係修復はできませんでした。
 「口は災いの元」です。これが元で、殺人などの犯罪や自殺も考えられま
す。工作機械より、重篤な「起因物」かもしれません。今回のブラウン首相
のことから学びましょう。
 ちなみに、イギリスの総選挙は5月6日です。
                            ご安全に!

2010年4月24日記(自殺未遂 その後に)
 22日の裁判員裁判で、すごく悲しい事件を知りました。
 2009年7月15日に当時40歳の男性が勤務先で首つり自殺を図りました。一命
は取り留めたものの、医師からは「意識が回復する確率はとても低いと」と
告げられ、男性の母親、妻を含め、家族は自殺のショックだけでなく、回復
の見込みが無いことに大きなショックを受けました。さらに「自殺は健康保
険の適用外」と告げられ、医療費は毎月500万円が見込まれました。
 将来を悲観した妻は、呼吸器を外すことを医師に訴えました。それを聞い
た母親は10日後の7月25日、「長男を死なせることが私の責任」と出刃包丁
で長男を刺殺してしまいました。
 今年4月22日に長男を刺殺した母親に対する裁判が行われました。
 検察側は「同情すべき点はあるものの、結果は重大」などとして懲役5年
を求刑しました。
 裁判員裁判の出した結論は「懲役3年、執行猶予5年」
 裁判員の多くが、「自殺」という衝撃的事実を突き付けられ、高額医療費
が全額自己負担という深刻的な現実を聞き、に冷静な判断はできない。と同
情しました。
 本当に悲しい事件です。自殺を行っただけでも、家族・親族には大きなシ
ョックを与えたのに、さらに殺人にまでいたりました。家族・親族、そして、
職場の同僚、友人にも大きな、深い悲しみを感じていることでしょう。
 自殺者数は毎年3万人を超えています。自殺未遂者も含めると、その10倍の
30万人と言われています。毎日800人もの人が自殺を図り、毎日80人もの人が
命を失っているのです。
 今回の事件になったような、自殺未遂と高額医療費で苦しんでいる人は他
にもたくさんいるのだと思います。
 私も、「加害者になった母親は間違っている」という判決は出せないでし
ょう。
 もし、間違いがあるとしたら、自殺未遂を起こす前の、家族・職場・友人
の対応かもしれません。自殺まで思いつめる前に、手を差し伸べ、亡くなっ
た男性の心の声を聞いてあげたら、自殺も無かったし、殺人も無かったのか
もしれません。
 今週、政府は、「うつ病を定期健康診断でチェック」という方針を打ち出
し、2011年からの実施を目指していると発表しました。今後、労働安全衛生
規則の改定し、健康診断項目を追加するようです。具体的には、問診表で対
応するのではないかと言われています。
 でも私には疑問です。1年に1度の健康診断に含めることで良いのかという
ことです。生活習慣病を見つけるのというものと一緒に考えることに疑問を
感じます。
 私は4半期ごとのセルフチェックが必要と考えています。さらに、職場の
環境が変わった1ヶ月後(人事異動や急激な繁忙期など)の実施も効果があ
ると考えます。

(参考:中央労働災害防止協会)
  労働者の疲労蓄積度チェックリスト
  職業性ストレスチェックリスト
    http://www.jisha.or.jp/web_chk/strs/index.html
                            ご安全に!

2010年4月17日記(お祭りと安全対策)
 先週のテレビで、長野の諏訪地方で7年ごとに行われる御柱祭で「木落し」
を見ました。最大斜度35度の木落とし坂を6トンを超える御柱(もみの木)
を落とすもので、その御柱の1番前にまたがる「花乗り」の特集番組でした。
最大斜度35度というと、スキーのジャンプ台やモーグル競技みたいなもので、
坂というより崖みたいなものです。そこに落とすわけだからもの凄いスピー
ドです。振り落とされる危険もあります。木にまたがらない人は走って坂を
降ります。坂を転げ落ちたり、激突したりする危険があります。その番組で
は、花乗の人が、振り落とされず、最後まで耐え、全員で雄叫びをあげ、英
雄になりました。
 考えてみれば、全国でいろいろなお祭りがありますが、危険と紙一重なも
のも多いです。岸和田で有名な「だんじり祭」の「やりまわし」などは4トン
を超える山車を勢いよく直角に角度を変えるのだから、とても危険。
 私たちが働く産業の場では危険なものは、「止める・改善する」ものだが、
祭りはこれでいいのかなと考えている矢先に、千曲市の御柱祭りで長さ10m
の柱を直角に立てる時に突然倒れ、男性4人が下敷きになり、1人が頭を強く
打って死亡する事故がありました。(4月11日)原因は綱がほどけて、柱の
バランスが保てなかったということです。
 
 安全に柱を立てるなら、クレーンなどの重機を使えば、ほんの短時間で安
全に確実にできますが、それでは神事にならない。伝統を守る必要があるの
でしょう。「伝統を守る」のか「人間を守る」のかという二者択一というも
のではないのかもしれません。
 伝統を守りながら、人間の生命を守る工夫が必要だと考えます。
 今回の柱が倒れた事故の現場は4方向から綱で引っ張っていました。これを
8方向から引っ張ったらどうでしょうか。もし、1本が切れても簡単には倒れ
ない。さらに数を増やして16方向から引っ張ればもっと安全だと思います。

 調べてみると、クレーンを利用しているところもありました。
 神田千鹿頭(ちかとう)神社(松本市神田)では20年以上前から、人力と
クレーン車を併用して柱を建てています。クレーンは作業をするのではなく、
人力で立てますが、万一、綱が切れても、クレーンで柱を吊っているため、
倒れないというものです。
 これなら人力でやるのと同じです。クレーンは安全装置にすぎません。こ
の安全対策なら、神様も理解してくれるでしょう。逆に、人命を守るために
文明の力を利用することを求めているといると考えますが、皆様はどうお考
えになりますか?
                            ご安全に!

2010年4月10日記(車火災)
 4月2日の夜に北海道で乗用車内に残された乳幼児4人が火災によって命を
失うとても悲しいニュースはご存知でしょうか。
 (概略)
  北海道厚沢部町で24歳の棚橋さんが実家の前で車を止め、3歳児、2歳児
 と7カ月の双子を車内に残したまま、実家に入りました。この時乳幼児4人
 は寝ていたため、エンジンをかけたままにしていました。30分後、車は炎
 上し乳幼児4人が亡くなりました。
 事故から1週間経過し、事故の原因は3歳児がライターで火遊びしたのが原
因ではないかと言われています。
 ニュースを最初の見た時は、そんなに簡単に燃えるものか?と思いました。
昔は、タバコの吸い殻を落として、火災になった事が多かったそうです。今
は乗用車の内装は難燃材が使用されているので簡単には燃えないようになっ
ているそうです。
 報道によると、車内には多くの紙くず、おむつなど可燃物がたくさんあり、
かなり散らかった状態になっていたと言われています。3歳児がライターで
火遊びをし、可燃物に燃え移ったようです。さらに、エンジンをかけたまま
のため、エアコンの送風により燃焼のための酸素が供給されていました。事
故のあった乗用車は3列シートであり、一番後方に座っていた3歳児は逃げる
事ができなかったようです。(逃げるためには2列目のシートを倒す必要が
あり、3歳児では逃げられない状態であった)
 この痛ましい事故を防ぐことは可能だったはずです。
 男性の証言によると、3歳児がライターを使った火遊びを過去にしたこと
があり、注意したことありました。
 事故の前に「ヒヤリハット」があったということです。そのヒヤリハット
があった時に注意する(叱る)にとどめていた事が残念です。3歳児でも簡
単に着火できるような電子ライターという起因物を無くす対策をしていたら
この事故は防げたはずです。また、火の勢いを強めた可燃物をの存在も見逃
せません。整理・整頓・清掃ができていたら、この事故は防げたかもしれま
せん。ヒヤリハットの放置や、整理・整頓・清掃の不備が事故の要因になっ
ており、産業の場も日常生活も災害防止の基本は同じだと感じました。
 その後のニュースで、「チャイルドレジスタンス(CR)」という言葉を
知りました。電子ライターですでに採用されています。一般の電子ライター
はレバーを押すだけで着火しますが、CR機能付き電子ライターは、レバー
を横に押し込まないとロックが外れないため着火できません。幼児が火を付
けることを防止するためなので、力も必要になり、アクションが増えるため、
使いにくいそうです。
 しかし、チャイルドレジスタンス機能を備えたライターでも安心はできま
せん。着火しないのではなく、着火しにくいものだから事故防止の限界があ
ります。タバコを吸う人は、ライターを首にぶら下げて、いつも肌身離さず、
ライターを保管するなど、「触らせない」ことが重要だと感じます。
 愛煙家が使用すれば、便利な道具ですが、子供が使えば、ハザード(危険
源)になることを忘れないようにしていただきたいものです。
 参考
 株式会社東海のチャイルドレジスタンス(CR)機能付きライター
 http://www.vesta-tokai.co.jp/
                            ご安全に!

2010年4月3日(バス運転手の急病)
 3月29日大阪高槻市のスイミングスクールの送迎バス運転手が運転中に体
調を崩し、激突・炎上する事故がありました。
 炎上は乗客が車外に逃げたあとなので最悪の事態は避けられました。しか
し、運転手は逃げることができず、死亡しました。

 子供たちの証言によると、運転手は突然うめき声を上げて、首を手で押さ
えながら苦しんでいたようで、30秒ほど蛇行運転し、壁に激突して停車しま
した。激突の衝撃で出火したようです。
 運転者は65歳の男性で、スイミングスクールの運転歴だけで7年あります
のでベテランだと思われます。
 この事故を聞いて、急病はいつどこで発生するか分かりません。ベテラン
の運転手でも、停車させることができなかったのです。幸い子供たちに大き
な怪我が無く済みましたが、大きな事故になる可能性もありました。
 停車させることができないような錯乱状態や意識を失う状態を考えてくだ
さい。足はアクセルペダルの上にあったとすると、意識を失った状態で前に
倒れると、アクセルペダルを強く踏み込んだ状態になります。運転手不在で
暴走するようなものでとても危険です。
 運転中に体調を崩す事例はたくさん発生していると思います。その中で一
部が今回のように停止することができない状態になっているのです。
 運転手は健康診断を受けていましたが、特に異常はなかったようです。こ
のような体調の悪化を健康診断で防ぐことはできないでしょう。
 そこで、私の車を考えてみました。
 サイドブレーキはペダル式です。前の車は手で引くタイプで、乗り換えた
時は違和感がありましたが、慣れるとペダル式の方が操作しやすいと思いま
す。しかし、このペダル式サイドブレーキは弱点があります。今回のバスの
様な運転手の急変があった時に、助手席の人がハンドルを操作しながらサイ
ドブレーキをかけることができないのです。手で引くタイプであれば、助手
席の人がハンドルを操作しながら、サイドブレーキをかけることが可能です
が、ペダル式はそれができません。別にペダル式サイドブレーキを否定して
いるのではありません。ペダル式にも利点があるのですから。
 意識の無い時にアクセルペダルの踏み込みを防止する方法は、進められて
います。居眠り運転防止のために、まぶたの開閉をセンサーで確認し、一定
以上、目を閉じると、ブレーキがかかるシステムは開発されています。
 バスの運転手のように突然体調を崩し、倒れることはよく耳にします。最
近では、4月2日にはプロ野球の巨人の木村拓也コーチ(37歳)がノックをし
ている時に突然倒れ、くも膜下出血で意識不明になっています。
 鉄道ではATC(自動列車停止装置)がついていますが、バスにはありま
せん。私は、バスに乗る時は、一番後ろの右側、すなわち非常口に近いとこ
ろが一番いいと思っています。(エンジンの真上に位置するが、逃げるとい
う点を考慮すると、非常口の近くが良いと思っています)
                            ご安全に!

2010年3月27日記(2007年シエスタ爆発)
 2007年6月19日東京渋谷区の温泉施設「渋谷松濤温泉シエスパ」が爆発し、
3人が死亡し、5人が負傷した事故を覚えておられるでしょうか。
 温泉施設の地下に温泉水を地中からくみ上げる設備がありました。その温
泉水にはメタン等の天然ガスを含んでおり、温泉施設では温泉水と天然ガス
の分離装置が付いていました。しかし、分離した天然ガスが排出できず、ガ
ス濃度が上昇し、爆発した事故でした。
 この3年前の事故に対し、3月24日に東京地検が業務上過失致死傷罪で2人
を起訴することになりました。
 この事故のポイントは
 「ガスが充満する危険性」を建設会社は認識をしていたが、シエスパ側に
 十分説明をしていなかった。
 施設運営会社の担当者は「メタンガスの漏出を知っていた」が、ガス検知
 器等の設置を怠った。

 この事故で注目したのは、メタンガスを排出するために付けられた「U字
管」です。設計段階では、直管でしたが、付近住民より「家の近くにガスの
排出管を出すのをやめて欲しい」と苦情があり、直管からU字管に変更され
たのです。「U字管」というのは、名の通り、アルファベットのUの形をし
ており、一般家庭の台所排水などによく使われています。U字のところに水
が溜まることによって、悪臭が逆流しないように匂い対策のために利用され
ています。住民対策のために、苦肉の策としてU字管を使ったようですが、
結露の水が溜まると密閉状態になります。その結果、排出口がふさがれてし
まいました。建設会社の方は、中に水が溜まると、排出できない事は認識し
ていたので、水抜きが必要になりますが、それがユーザー側に指示されてい
ませんでした。たとえ、水抜きを指示していても、それを怠ると大きな災害
につながりますので、U字管を使った時点で、建設会社の判断誤りだと感じ
ます。
 もうひとつはガス検知器の未設置でした。3年前の事件発生時には温泉水
にメタンガスが含まれていることを知らないのだろうか?と不思議に思って
いたが、実際にはガスの漏出事故も起きており、危険性を認識していました。
危険を認識していたにも関わらず、必要な対策を怠っていました。さらに、
開業前の住民説明会では、ガス検知器を設置することを約束していたにもか
かわらず、未設置でした。
 爆発の点火源は機械室の制御盤の火花だと考えられています。機械室の機
器を全て防爆構造にすることは膨大な費用を要します。機械室には可燃性・
爆発性の気体は禁物です。機械室にそのようなガスが流入する構造上の欠陥
があったと考えられます。
 ハード面の問題があり、関係者はその危険性について認識していたにも関
わらず、必要な措置を怠り、結果的に、3人の尊い命を奪ってしまいました。
とても残念な事故です。
 私たちは、このような失敗の経験から多くを学び、安全のための施策を実
行しなければなりません。リスクを評価し、必要な対策を実施し、残留リス
クを関係者に周知・対策をしなければなりません。「設計者」「施工者」
「保全者」「施設管理者」のコミュニケーションが重要なのです。
                            ご安全に!

2010年3月20日記(救急法)
 3月17日~19日まで日本赤十字大阪支部の救急員講習を受けてきました。
救急法については、消防署主催の普通救命講習には過去何度も行きましたが、
赤十字の講習は初めてでした。
 赤十字と消防署の内容は少し違います(心肺蘇生法は同じ)。消防署では
「どうしましたか?大丈夫ですか?」という問いかけから始まりますが、赤
十字の講習では、被災者のところに近寄っても大丈夫かという確認から始ま
ります。「上を見て、地面を見て、周囲の安全確認を指差呼称してから、被
災者に近づきます。消防隊の立場の「人命第一」と赤十字ボランティアの生
命、まず自分を守る「救助者第一」の違いでしょう。
 講師の方がAED(自動体外式除細動器)による「社会復帰率」を力を入
れて説明されていました。「我々はAEDで命を救うだけではない。助けた
方の社会復帰が重要なんだ」
 ちょうど3月18日の新聞でも掲載されましたので、ご覧になった方も多い
と思います。
 新聞のデータを掲載すると、
 2005年から2007年の3年間でAEDの使用対象は1万2631人
  内訳 462人は市民がAEDを使用
     1万1697人は消防隊がAEDを使用
  社会復帰率は市民が使用した場合は32%
        消防隊が使用した場合は14%
 
 このように社会復帰率は倍以上違います。
 1分違うと社会復帰率は9%違います。
 万一に備えてAEDは常備された方がいいでしょう。しかし、高価なもの
だからなかなか常備できない会社もあるでしょう。その場合は、お近くの会
社または学校、駅、病院等を確認してください。
 貸出を拒否するような会社はないでしょう。近所の会社に電話すれば、A
EDを走って持って来てくれるような関係が望ましいですね。大阪府の救急
車が現場に到着するまでの平均時間は5.9分で全国3位。全国3位でも6分ぐら
いかかるのです。これは平均です。実際にはもっと時間がかかることもあり
ます。
 AEDを常備していない会社は一番近いAEDはどこにあるか確認してく
ださい。救急車の到着より1分早ければ、10%ぐらいの差が生じます。
 もちろん、人命を救うのはAEDだけではありません。AEDや救急隊が
到着するまでの間の、気道確保・人口呼吸・心臓マッサージが必要です。こ
れは、お近くの消防署または赤十字等で講習会をやっています。多くの方が
救急法を身に付けて欲しいと思います。同時に、過去、受講した方も3年に
1度は再受講をお勧めします。ほとんどの方が受講時以外の経験がありませ
ん。心肺蘇生の方法は忘れるものです。
 最後に、赤十字の講師が言っていました。
 「AEDの使用方法を間違って、そのために症状を悪化させた事例は聞い
たことがない。誰が使っても失敗しないようになっているから、市民が使用
できるのです。勇気を持って、AEDのフタを開けて電源を入れてください。
電源を入れたら、あとはAEDが音声で教えてくれる。AEDを持って来て、
フタを開け、電源を入れることは誰でもできることです。」
                           ご安全に!

2010年3月13日記(酸素欠乏死亡事故
 3月10日に埼玉県日高市の下水道のマンホールで2人の方が亡くなりました。
酸素欠乏症によるものです。私は、建設業労働災害防止協会で酸欠作業主任
者技能講習の講師をさせていただいていますので、酸欠の事故があるととて
も辛いです。
 
 状況
 日高市の下水道にたまった汚泥を取り除く作業
 (マンホールの底の汚泥にホースを突っ込み、吸引除去する作業)
 3人で作業する予定でしたが、当日1名が現場に遅れていました。その1名
 は、酸素濃度計と送風機を持って行く予定でした。その1名が遅れたため
 に2人で作業を始めたようです。当然、酸素濃度計が到着していないため、
 酸素濃度は測定されず、送風機も使用せずに作業にかかり、2名が亡くな
 りました。
 当事者が亡くなっているので、想像になりますが、2人しかいない時に、
2人ともマンホールの中に入ったとは考えにくいので、1人がマンホールの
中に入り、もう一人は上から見ていたのだと思います。そして、異常を発見
し、救助に行こうとしていたのではないかと思います。しかし、酸素濃度は
大気(約21%)をはるかに下回る約14%しかありません。14%しかなければ、
めまい、吐き気があり、身体を動かすことも困難になります。
 今回の作業計画では、一人を地上に残して、汚泥の除去をするそうですが、
これには疑問があります。作業場所は地面より2.5m下になります。もし、
酸欠等があれば、救助に行かなければなりませんが、1人では助けられませ
ん。というのは、マンホールの直径は約60cmしかありません。人間がやっと
一人通れるような穴しかありません。このような狭い場所から救出するには
一人が下からロープで縛りつけて、上から引き上げるしかありません。救助
のためには最低2人必要なのです。
 私は酸欠作業主任者の講義の時に、作業計画を立てる時には、救助方法を
検討してください。そして、作業を開始する前には救助のための空気呼吸器
を準備・点検して、救助のための担架、ロープ等を準備するように説明させ
ていただいています。
 法規制では作業前に酸素濃度の測定を義務付けていますが、それでは不十
分です。作業中、同じ空気環境が継続するとは限りません。昨年6月大分県
の銅鉱石を扱うところで酸欠によって3人が亡くなっています。この時は、
作業前に酸素濃度が20.9%あったことを確認したのですが、酸素濃度の変化
がおこり、事故が発生しています。
 酸素欠乏の怖いところは、目に見えないことです。特に下水道のような悪
臭がある場所ではその悪臭による体調の変化があるため、酸欠による体調の
変化との区別ができないのだと思います。
 酸素欠乏の可能性がある場所で業務されている方は、酸素欠乏作業主任者
技能講習を受けていただくことをお勧めいいたします。
申し込みは次の、またはお近くの指定講習機関に問合せください。
 建設業労働災害防止協会 大阪支部
 http://www.kensaibo-osaka.jp/
                           ご安全に!

2010年3月6日記(2億4千万円)
 長時間労働に関する損害賠償額で2億4千万円で和解したという報道があり
ました。(過労障害事件の解決額としては最高額)
 鹿児島県にあるレストランのチェーン店の店長が200時間を超える時間外
労働を何ヵ月も続け、連続出勤は203日間におよび、人手不足やノルマのス
トレスを抱え、低酸素脳症で倒れ、5年たった今でも意識が戻らず、寝たき
りになっています。被災者は35歳の男性で「店長」という肩書きでしたが、
勤務や権限から「名ばかり管理職」のようです。それにしても、200時間の
所定時間外労働とは多すぎます。所定労働時間の倍以上働いていることにな
ります。年中無休の飲食店の店長はこのような連続出勤がしいられるのでし
ょう。
 100時間を超えると過労死の危機的状況だと言われています。その時間の
倍ぐらい働いており、重い障害や過労死になるのは当然の結果とも言えるで
しょう。
 被災者が働いていたレストランチェーンは康正産業株式会社でした。鹿児
島県を中心に60店舗展開しており、年商は90億円に達しています。10年前に
は45億円でしたから、10年で倍増しています。その急成長の裏には、このよ
うな過重労働があったということです。
 労働安全衛生法では100時間を超える時間外労働について2006年から医師
による面談を義務付けていました。

 ところで、みなさんは今年4月より労働基準法が改正になることを知って
いますか。
 主な改正点
 ①1カ月の時間外労働45時間超の場合
   労使で時間短縮・割増賃金率を引き上げる(努力義務)
 ②1カ月の時間外労働60時間超の場合 割増賃金50%
 その他詳細はこちらをご確認ください
 http://www.mhlw.go.jp/topics/2008/12/tp1216-1.html
 リーフレット
 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」
 http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/070614-2.pdf
 なお、2億4千万円の内訳は、被災者に対して2億2千万円(46年分の介護費
を含む)、両親に対する慰謝料として390万円、未払い賃金の1270万円があ
り、和解の条件として、会社は被災者と両親に対して心から陳謝する。があ
りました。
                           ご安全に!

2010年2月27日(銀メダルおめでとう)
 2月26日バンクーバーオリンピックのフィギュアスケートで浅田真央選手
が銀メダルを取りました。彼女の代名詞であるトリプルアクセルを2つも完
璧に決めましたので、私はとても満足です。そんな浅田選手をはるかに超え
るキム・ヨナ選手の演技には感嘆いたしました。
 キム・ヨナ選手の演技を見ると、「人間はミスをする動物」という言葉を
忘れてしまいそうです。
 スケートの番組を見ていると、解説者が「切り替えていきましょう」とい
う言葉が何度も出てきます。ミスをしてもその事を引きずらないようにしよ
うという意味です。この「切り替え」はとても大事です。この「切り替え」
は安全作業にも言えることです。
 ここで、「フェーズ理論」を紹介します。
 人間の信頼性は意識に依存しているが、この意識レベルを5段階のフェー
ズに分けた考え方をフェーズ理論といいます。

 フェーズ0
  意識の状態:無意識、失神
  注意のモード:ゼロ
  生理的状態:睡眠、脳発作
 フェーズⅠ
  意識の状態:サブノーマル、意識ボケ
  注意のモード:不注意状態、ミスの可能性が高い
  生理的状態:疲労、単調、居眠り
 フェーズⅡ
  意識の状態:ノーマル、リラックス状態
  注意のモード:間違いやミスを起こすことがある
  生理的状態:休憩時、安静状態
 フェーズⅢ
  意識の状態:ノーマル 積極的活動、前向き思考
  注意のモード:ほとんどミスを起こさない
  生理的状態:仕事に対する意欲が高い状態
 フェーズⅣ
  意識の状態:ハイパーノーマル、過緊張、興奮
  注意のモード:注意は1点に凝結
  生理的状態:慌てる、パニック状態

 人間がミスを起こさないようにするにはフェーズⅢの状態がいいのですが、
積極的な意欲があるフェーズⅢは長続きしないものです。フェーズⅡになっ
たらフェーズⅢに引き上げなければなりません。逆にフェーズⅣになれば、
フェーズⅢに戻さなければなりません。フェーズレベルを切り替えるために
は緊張状態を刺激する方法が必要になります。その方法の一つとして指差呼
称があります。手を動かし、声を出すことによる「間」が効果をあげている
と考えています。
 さて、オリンピックで競技している選手のフェーズレベルはどうなってい
るのでしょう。意欲的なフェーズⅢではあるが、周囲の歓声、プレッシャー
小さなミスなど、ちょっとしたことで、フェーズⅣになるでしょう。なぜ、
あのような大歓声の中とプレッシャーの中で集中して競技ができるのか信じ
られません
 私などは仕事で安全講話をする事がありますが、ちょっと人が多いとすぐ
にフェーズⅣになってしまいます。ある精神科の先生に伺うと、「腹式呼吸
を3回くらいしなさい。その時、息を吐く力は一定にして、5秒ぐらいかけ
てゆっくり吐いてください。そうすれば落ち着きますよ」と教えていただき
ました。
 フェーズⅢを維持する工夫をすること。これが安全衛生活動の一つだと考
えます。
                           ご安全に!

2010年2月20日(家庭用除雪機)
 2月13日に秋田県で家庭用除雪機に4歳の男の子が巻き込まれて死亡する事
故がありました。この除雪機はガソリンエンジンで前部にローターというラ
セン状の金属盤が回転して雪をかき込むもので、幅が90㎝、長さが185cm、
重さが350kgもあるものです。操縦していたのは65歳の男性で、巻き込まれた
のは4歳の孫でした。このニュースを聞いて、大泉逸郎さんの代表曲「孫」を
思い出しました。“なんでこんなに可愛いのかよ~”と、孫に対する愛情を
歌にしたものです。
 そんな大切なお孫さんの命を奪った男性の気持ち、家族の気持ちを考える
と残念でたまりません。
 家庭用の除雪機は近年、需要が伸びているそうです。除雪機の多くは、回
転するラセン状の金属板が露出しています。もし、その回転部に巻き込まれ
ると大きな事故になることは避けられません。
 災害を防止するためには、回転部分に手指が入らない構造にしなければな
りません。そのためには回転部分をガードする柵が必要だと考えました。そ
のアイデアを知人に言うと、新雪を除雪するならそれも可能だろうが、日数
が経過して硬くなった積雪になると、柵が邪魔になり除雪ができないと言わ
れました。なるほど、ごもっともです。
 それなら、人間の体温を感知する赤外線センサーで緊急停止機能を付けれ
ばいい。いや、分厚いダウンジャケットを着ていたら、体温を感知できませ
ん。この1週間の間、家庭用除雪機のリスク低減措置を考えていましたが、
改善策が思いつきません。この家庭用除雪機の普及は年々増加しているそう
です。早く改善しなければ、この種の災害は増加する可能性があります。操
縦者が注意すれば事故が無くなるというものではありません。
 
 どなたか、家庭用除雪機の巻き込まれ事故を防ぐ方法を考えていただけな
いでしょうか。 
 このメールマガジンは500人以上の方に配信しています。多くの方の知恵
を結集すれば、安全な家庭用除雪機を開発することは可能なはずです。
 皆様の知恵を貸してください。お願いします。
                    ご安全に!
(参考)
本田技研工業様の除雪機
http://www.honda.co.jp/snow/
クボタ様の除雪機
http://www.jnouki.kubota.co.jp/jnouki/page.aspx/josetsu001/kanrenkiki_josetsu.men/kanrenkiki-josetsu.bre
ヤマハ発動機様の除雪機
http://www.yamaha-motor.jp/snowthrower/index.html


2010年2月13日
服装の乱れ
 2月13日バンクーバーオリンピックの開会式がありました。ご覧になった
方も多いいと思います。今回のオリンピックで私が注目するベスト3は、フ
ィギュアスケートの男子と女子、それと中学生ながらオリンピック代表にな
ったスピードスケートでしょうか。多くのメダルを取って欲しい、そして、
景気が低迷している日本に感動と元気を与えて欲しいですね。
 さて、そんなバンクーバーオリンピックですが、残念なニュースがありま
した。それは男子スノーボード・ハーフパイプの日本代表の国母選手のこと
です。日の丸日本の公式スーツのズボンをずり下げたり、Yシャツの裾をズ
ボンの外に出し、ネクタイもゆるめて垂れ下がっていました。スキー連盟に
は苦情の電話・メールが殺到し、オリンピック村への入村式と開会式の参加
を止めさせることになりました。服装の問題だけでなく、ドレッドヘアと鼻
ピアス。ドレッドというのは「恐ろしい」と意味のある名で、縮れた毛が固
まったように見える房状の髪型です。おまけに鼻にピアスが付いている。私
にはとても許容できないスタイルです。オリンピックの代表を決める際の審
査に付け加えるべきだと思います。大相撲で話題になった「品格」はどのス
ポーツどの世界でも共通でなければならないと思います。
 このニュースを聞いて、「割れ窓理論」を思い出します。
 「割れ窓理論」とは、軽微な犯罪も徹底的に取り締まることで凶悪犯罪を
含めた犯罪を抑止できるとする環境犯罪学上の理論で、アメリカの犯罪学者
ジョージ・ケリングが考案しました。「建物の窓が壊れているのを放置する
と、誰も注意を払っていないという象徴になり、やがて他の窓もまもなく全
て壊される」というものです。

 具体的には、治安が悪化するまでには次のような経過をたどる。
 1.建物の窓が壊れているのを放置すると、それが「誰も当該地域に対し
   関心を払っていない」というサインとなり、犯罪を起こしやすい環境
   を作り出す。
 2.ゴミのポイ捨てなどの軽犯罪が起きるようになる。
 3.住民のモラルが低下して、地域の振興、安全確保に協力しなくなる。
   それがさらに環境を悪化させる。
 4.凶悪犯罪を含めた犯罪が多発するようになる。

 これは犯罪学だけではありません。安全衛生の活動にもかかせないものだ
と思います。
 例えば、ヘルメットのアゴ紐を締めないとか、通路を守らないとか、職場
の2S活動(整理・整頓)にも当てはまります。
 異常を見つければ、放置しないで、ただちに是正のためのアクションを行
うことが重要だと考えます。
                   ご安全に!

2010年2月6日(ボルト締め忘れ)
 1月29日東海道新幹線で停電事故があり、多くのビジネスマンの足が奪わ
れました。私の知人も、この停電事故に巻き込まれ、東京に足止めを余儀な
くされました。その日のうちに運転を再開しましたが、超満員の車両に乗り、
帰宅は翌日になったそうです。
 今週、その事故の原因が発表されました。
 原因というのは舟体(ふなたい)のボルトを4本止め忘れたということで
す。4本のボルトがない状態で営業運転され、東京・新大阪間を往復したあ
との事故ということです。ほんとに驚いたというか、呆れたというか、言葉
を失うミスです。しかも、作業員が取り付けしたあとに、ベテランの車両技
術主任が確認していたのですが、見落とされているのです。

 停電の原因は「ボルトの締め忘れ」と謝罪会見があり、報道されましたが、
停電の原因と言われた「締め忘れ」は、再発防止を考える上では「原因では
なく結果」なのです。なぜ、「締め忘れた」のか、また、なぜ「締め忘れた」
ことに気が付かなかったのか、が再発防止のポイントになります。
 報道によりますと、作業員は同種のボルト・ナットを多数持っており、締
め忘れにより余るはずのボルト・ナットが分からなくなっていました。

 私は20年以上前ですが、ラジカセを作る製造ラインで働いたことがありま
す。ベルトコンベアで流れてくる製品に部品を取り付けていくのです。私の
作業は、最初に、前の人が作業した工程を確認することから始まります。そ
れでも、作業ミスは見落としてしまいます。やはり、「人間は間違いを起こ
す動物」なのです。ある作業でビスを10数本締め付ける作業がありました。
数が多いと、作業が抜けてしまう事があります。そのため、ビスを入れる治
具が作られました。1台の製品に取り付けるビスが10本とすると、10本づつ
並べて箱に入れる特製のビス入れです。もし、1か所締め忘れがあると、ビ
スが1本残るので、作業ミスが一目瞭然です。
 ラジカセの修理にしても、分解する前に作業台を清掃し、外した部品を部
品入れに入れます。ビスなど細かい部品も同じように入れます。そうすれば、
修理が終わって再組み立てをする時に、もし、部品の取り付け忘れがあれば
部品が残るわけですから、すぐに修理作業にミスがあることがわかります。

 私たちが人間である限り、ミスを完全に防ぐことはできません。でも、作
業の方法や、作業手順、確認手順、部品の形状、固定方法等を工夫すれば、
ミスの発生を少なくすることは可能です。
 この新幹線停電事故を「対岸の火事」と考えず、自分の作業に置き換えて
考えることが大切です。
                   ご安全に!

2010年1月30日(虚無報告)
 大相撲初場所は横綱朝青龍が25回目の優勝を飾りました。
 大鵬32回、千代の富士31回に次ぐ、3番目の記録です。昭和の大横綱で、
当時「憎らしいほど強い」と呼ばれた横綱北の湖の24回を追い抜きました。
大鵬の記録を抜く可能性のある横綱です。
 しかし、初場所6日目の夜から明け方まで飲み、暴力を振るったというこ
と、しかも、当初は、「被害者は朝青龍のマネージャー」と報道されたが、
一転、「被害者は一般男性」と残念な報道をされました。事実は不明ですが、
もし、事実であれば、横綱の名を汚すものであることに違いありません。
 横綱朝青龍は「厳重注意」を何度も受けています。私は「厳重注意」は無
期限の「執行猶予付きの判決」と同じものではないかと考えています。
 もし、暴力と嘘の報告が事実なら、横綱の地位にとどまることはできない
でしょう。
 このニュースを聞いた時に、私は「労災隠し」を連想しました。
 労働災害が発生したにも関わらず、健康保険で処理する労災隠し。事故が
発生した場所を違う場所で発生したように見せかける「労災とばし」があり
ます。このような労災隠しには、労災保険に未加入であったり、注文先に迷
惑をかけないようにするものです。
 「労災隠し」は重大な過失があるとして、書類送検になることも多く、送
検事例は、「労災隠し・書類送検」でgoogle や yhooで検索するとたくさん
でてきます。
 労災隠しをして、書類送検を受けると、注文先からの仕事を失うことにも
なります。仕事を失えば、事業の存続にもかかる大きな汚点になるでしょう。
 労災隠しは、事業の存続にかかわるリスクを伴います。それだけ大きなリ
スクを負ってまで隠す必要があるのでしょうか?
 書類送検を受けた事例はたくさんありますが、まだ一部に過ぎないと思い
ます。
 2007年の「今年の漢字」は、「偽」でした。嘘が露見したときの社会的制
裁は皆さんの脳裏に残っていると思います。思い出してください。あれから
3年が経とうとしています。3年間にどれだけの偽装があったでしょうか?
「反面教師」という言葉がありますが、もう反面教師はたくさんです。
 多くの企業が、虚無報告し、多くが露見し、大きな損失を出しています。
労災隠しは、「知らなかった」では済まされません。「大丈夫だろう」とい
うのは大きな間違いです。問題の先延ばしに過ぎず、何もメリットはありま
せん。そればかりか、先延ばしにした労災隠しは、企業を崩壊させる爆弾で
あり、社員一人一人が正しい判断をする必要があります。
 労災隠しはやってはいけない。でも、その前に労働災害を無くすことが第
一です。何と言っても安全第一。今日もご安全に!


2010年1月23日
(試運転の危険)
 1月19日茨城県日立市の「かみねレジャーランド」でジェットコースター
の点検中に災害があり、1人が死亡しました。
 事故の状況を簡単に説明すると、
 当時、ジェットコースターは塗装工事のための足場を組んでおり、足場が
あっても運転に支障がないかを点検するために、職員がジェットコースター
に乗り込み、走行している時に、張り出した足場の鉄パイプに頭をぶつけま
した。ジェットコースターは時速30km以上のスピードが出ていました。
 この職員は乗車の前にレール上を歩きながら目視点検し、無人運転し、異
常がないことを確認した後で有人走行テストをしたものです。一見、手順に
従ったように感じられます。
 事故の原因は、歩行時の目視点検での「見落とし」が考えられます。
 しかし、事故の原因は「見落とし」なんでしょうか?
 原因は「見落とし」ではなく、「安全距離」の認識が不十分だったと考え
ます。「安全距離」とは、体格の大きな人が故意に手を上や左右に伸ばした
距離と、身体の揺れを加味した長さ(ジェットコースター着席時の可動範囲)
をいい、この安全距離の内側には何も存在しないことが必要なのです。それ
なのに、無人運転して大丈夫と判断したことに大きな間違いがあると想像し
ます。
 ただし、事故の詳しい調査結果は公表されていないので、足場の鉄パイプ
が、なんらかの理由により、被災者が知らない間に移動していた可能性も否
定できません。私の考えが違う場合もありますので、あらかじめお断りいた
します。
 ジェットコースターの事故では大阪のエキスポランドを思い出します。 
 (2007年5月5日 乗客の女性が1名死亡)
 乗客の命を奪っただけでなく、結果的に閉園に追い込まれ、ファンの楽し
みを奪い、働く人達の仕事も奪ってしまいました。
 ジェットコースターは緻密な計算により、「怖いけれども、安全」な乗り
物であるはずなのに、人間の判断の誤りにより、凶器にもなります。
 今回の事故原因を明らかにして頂きたいと思います。
 単に「原因は点検漏れだから、次回から気を付けよう!」とか「塗装作業
の時は全て運休にしよう」で終わらずに、
 ジェットコースターはなぜ安全な乗り物なのか?
 安全な乗り物を安全に運転するために何が必要なのか?
 人間は間違いを起こすもの。そのミスがあっても安全にするためには?
 乗客の行動によるリスクは何があるか?
 など、従業員教育や安全点検について見直しをしていただきたいと考えま
す。
                       ご安全に! 

2010年1月16日(筆談ホステス)
 1月10日に毎日放送で「筆談ホステス」というドラマがありました。
 とても感動したので、今週はこの話から始めさせていただきます。
 主人公は、銀座のNo1ホステスとなった斉藤里恵さんです。
 里恵さんは1歳の時に病気で聴力を失い、青森県のクラブで筆談の魅力に
目覚め、上京し、銀座の人気ホステスになりました。彼女の執筆した「筆談
ホステス」はドラマ化もあり、ベストセラーになるでしょう。
 ドラマではホステスになることに反対した母とケンカになり、家出同然で
ホステスになり、青森のクラブから銀座のクラブに単身上京し、成功を収め、
家に戻り、筆談によって、母との心のすれ違いを元に戻したという話です。

 筆談というと、日常的に会話をしている私たちには面倒なものかもしれま
せんが、筆談の時の「間」というのが、とても新鮮に思えてきました。健常
者からみると、「何を書くのか?」という期待の「間」があるのです。日常
会話ではこの間が無く、次から次へと会話が進みます。メールだと、返信ま
での間が空きすぎます。里恵さんの達筆な字と、笑顔・手振りと「間」が多
くのファンを作り、ナンバー1になることができたのでしょう。
 斉藤里恵さんの筆談の名言を少し紹介します

「辛いのは、幸せになる途中ですよ。」
「隣に誰かがいるだけで、"憂い"は"優しさ"に変わります」
「難題の無い人生は、無難な人生。難題の有る人生は、有難い人生」
「相手の心を想う。“思う”のではなく、“想って”あげてください」
「少し止まると書いて『歩』く。着実に前に進んでいます」
「忙しいは、心を亡くすと書きます。忘れるも、心を亡くすと書きます」

 里恵さんが作る「間」は次から次へと休みなく、働くビジネスマンの心に
響いたのでしょう


 さて、話を安全の方に戻します。
 この「間」というのは、安全にとっても非常に重要なものです。
 作業現場では「一呼吸、一仕事(ひとこきゅう、ひとしごと)」という言
葉を使って、災害防止をしているところもあります。作業の前に深く息を吸
って、作業しましょう。そうすれば「うっかりミス」を防ぐこともできる。
息を吸っている間に、機械の不調や材料の不良を見つけることもできるし、
手順を確認することもできます。というものです。
 次から次へと効率よく、テキパキと作業するのは、一見、生産性が高いよ
うに見えますが、トラブルになると、返って作業が遅れたり、災害が発生し
てしまします。
 作業を正しく、安全な作業をするためには、「手順の確認、機械の確認、
部品の確認、周辺の安全の確認、危険予知の確認など。これをするのが、呼
吸であって、「間」なのです。

 
鴨長明の方丈記の中に、こんな文章があります
「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず。よどみに浮ぶう
 たかたは、かつ消えかつ結びて久しくとゞまることなし。世の中にある人
 とすみかと、またかくの如し。」
 この文章の意味は 
 川の流れは全体としてみた時は、永遠に変わらないように見えるが、部分
 としてみた時は絶えず変化している。淀みに浮かんでいる水の泡もできた
 り消えたりして、長くとどまっている例はない。人と住いの関係も同じで
 ある。
 この文章は、私の安全講話でも良く使います。
 いつもと同じ作業であっても、部品は絶えず変わります。機械のコンディ
ションも日々変化します。
 その、作業の前に、ひと呼吸し、見る・感じる「間」が大切だと考えてい
ます。
                        ご安全に! 

2010年1月9日(トンネル内で発電機を使用)
 2010年がスタートして、正月明けから多くの事故が発生しています。
 一部ですが紹介します
 1月8日発生 東京都清瀬市
   改修工事現場でエレベーターで2人死亡
 1月8日発生 神奈川県横浜市
   日本カーリット横浜工場での爆発事故により11人が負傷
 1月6日発生 京都市南丹市
   大型クレーンが倒れ、1人死亡
 1月5日発生 大分市大分川ダム
   一酸化炭素中毒により6人が被災
 1月2日発生 山形県 河北町
   除雪車のタイヤに空気入れ中にタイヤが破裂し、1人死亡1人被災

 新年早々の年末年始無災害運動の最中ですが、多くの尊い命が失われ、と
ても残念です。
 その中で、大分川ダムのトンネル内の酸素欠乏・一酸化炭素中毒について
述べさせていただきます。簡単に状況を説明すると、
 全長250mのトンネル(旧農業用水路のトンネル)の水漏れ防止工事にお
いて、入口から100mぐらいの地点で、ガソリン式発電機を使用し、発電機
が酸素を消費したことにより、酸素濃度が低下しました。そして、同時に、
一酸化炭素も発生しました。6人は病院に運ばれましたが、幸い命には別状
無いようです。
 この事故で問題となるのは
  労働安全衛生規則(内燃機関の使用禁止)
  第578条 事業者は、坑、井筒、潜函、タンク又は船倉の内部その他の
  場所で、自然換気が不十分なところにおいては、内燃機関を有する機
  械を使用してはならない。ただし、当該内燃機関の排気ガスによる健
  康障害を防止するため当該場所を換気するときは、この限りでない。
 今回の事故現場には換気のための排気装置があったが、入口から30m~
40mのところまでしかないため、発電機を使用した場所の換気は不十分で
した。さらにトンネル内では溶接作業も行われたため酸素の消費が多くな
りました。
 新聞記事の中で気になった部分を掲載すると
 『ダム工事事務所は、施工計画にない発電機を使った作業が常態化してい
 たとみており、「施工計画は工事手順の“教科書”。計画にない機材を使
 ってはならない」としている。』
 これから読み取れるのは、施工計画には“発電機”の使用を記載していな
い。ということです。それなら、『発電機の使用禁止』を明記したのでしょ
うか?
 施工計画には細かい指示が書かれていますが、禁止事項も明記する必要が
あると思います。
 それと、溶接作業も行われました。発電機の使用がなくても酸欠の危険は
ありました。このような作業を行う際には携帯型の酸素濃度計を装着するこ
とを望みます。
 それにしても死者が出なくて良かった。酸欠の症状や一酸化炭素中毒の症
状を自覚した時には、筋力が低下し、100mを避難するのは困難だったと思
います。新聞によると、元請け業者の作業員が、異常な煙を発見して、中に
入ったということです。この異常な煙に気がつかなかったら、大惨事になっ
ていたことでしょう。
                        ご安全に! 

2010年1月2日(自殺撲滅)
 今年1番目の安全週記のテーマに「自殺」を選びました。
 新年1番のテーマとしてはふさわしくないかもしれませんが、今年こそは
3万人の大台を切って欲しいと思います。昨年12月25日に警視庁が発表した
自殺者数は30,181人です。12月を待たずして、3万人の大台を超えている状
態です。
 厚生労働省の動画チャンネルは連日、「年末年始、生活にお困りの方へ」
というテーマでメッセージを流しています
   1月2日福島大臣メッセージ 
   1月1日山井政務官メッセージ
   12月31日湯浅参与メッセージ
   12月30日菅副総理メッセージ
   12月29日湯浅参与メッセージ
   12月28日山井政務官メッセージ
   12月27日長妻大臣メッセージ
   12月26日鳩山総理大臣メッセージ
  http://www.youtube.com/user/MHLWchannel
 2008年の自殺数は32,249人、そのうち8,997人が被雇用者です(無職者は
15,930人)無職者の自殺も問題ですが、被雇用者の自殺はとても大きな問題
です。自殺の原因には「うつ病」が起因しているものが多いです。「うつ病」
は「心の風邪」と呼ばれた時代もありますが、「風邪」で済まされるもので
は決してありません。「うつ病」の原因として、強いストレスがあります。
ストレスを強く感じる人の割合は7割近くいます。
「自殺の10大危機要因」を御存じでしょうか?
 ①うつ病、②家族の不和、③負債、④身体疾患、⑤生活苦、⑥職場の人間
 関係、⑦職場環境の変化、⑧失業、⑨事業不振、⑩過労
 この10個のうち、一つも該当する事が無い人はとても少ないでしょう。
 ちょっと、職場の中を見回してください。いつもと同じように働いている
同僚、上司、部下がいると思います。見た目では分からないでしょうが、そ
れぞれの方が何かのストレスを抱えて仕事をしているのです。強いストレス
を感じる労働者は7割います。あなたの職場の半分以上の方が強いストレス
を感じていると考えてください。
 ストレスは自分でコントロールすることが基本ですが、自分でコントロー
ルできない人が多いのです。
 まず、職場を見て、誰が一番多くのストレスを抱えているか、見つけまし
ょう。見つけたら、何がストレスか聞きだしましょう。原因が分かれば、ス
トレス軽減は不可能ではありません。

 連日のように自殺と業務との関連性を問う「労災遺族補償請求取り消し」
の訴訟があり、多くの自殺が労災として認められています。労災が認められ
ると、遺族の方は「損害賠償請求」の民事訴訟を起こすことがあります。損
害賠償請求されると、会社にとっては、イメージダウンも賠償額も大きな負
担になります。リスクマネージメントとして、自殺になる前に、そして、う
つ病になる前に「手を打つ」こと、「安全先取り」は労働災害防止だけでは
ありません。うつ病対策、自殺対策としても「安全先取り」が必要だと考え
ます。
                        ご安全に! 

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