安全週記
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一週間を振り返る

毎週土曜日更新


2009年12月26日(化学薬品メーカーでの爆発事故)
 24日、クリスマスイブの日に大阪市淀川区の森田化学工業で爆発事故が発
生し、4人の尊い命が失われました。4人は30歳から47歳までの働き盛りです。
この日仕事が終われば、家族でクリスマスケーキを食べ、楽しい一夜を過ご
す予定だったでしょう、また、恋人と愛を確かめ合う夜が待っていたことで
しょう。死亡災害には、一瞬にして、家族、親戚、知人、同僚など何十人、
いや100人を超える人が大きなショックを受けたことだと思います。
 この原因は何でしょう。三フッ化ホウ素のタンクを清掃していた時に、水
が入り込み、その水を排出するために電動ノコギリを使用した時に、三フッ
化ホウ素と水が反応し、水素ガスが発生し、電動ノコギリを使用した時の火
花で爆発したという報道になっています。(現在、原因は未確定です)
 気になるのは、「なぜ電動工具を使用したか」
 この様な事故の場合、危険性を十分理解していない人が勝手な判断により
電動工具を使って事故が発生したりすることはあるが、今回の事故について
は、当日の朝に会議し、担当者が電動工具の使用を提案し、その会議で事業
所長から許可されたということです。この事が本当であれば、作業方法の決
定には手順に従い、組織として決定したことになります。
 その場合、作業決定のプロセスに問題があったと思われます。
 @タンク内の気体は何か把握していたか
 Aその気体の危険性・有害性を確認したか
 B起こりうる化学反応による危険性・有害性を確認したか
 C作業による危険性・有害性を確認したか
 など、作業方法を決定する際には、常にリスクを予見しなければなりませ
ん。

 危険性・有害性を予見する能力はとても重要です。
 「分からなかった・知らなかった」では許されない時代になりました。
 12月22日の新聞では、2005年12月に起こったJR羽越線の脱線事故で山形
県警はJRの運行管理をしていた室長ら3人を業務上過失致死傷の疑いで書
類送検したことが報道されました。2005年12月のJR羽越線の脱線事故では
5人が死亡し、33人が負傷した事故です。当時はダウンバーストが発生した
と思われていました。ダウンバーストは予測が困難なものですが、山形県警
は「異常気象を認識しながら、安全措置を講じなかった」と判断しました。
とても厳しい判断だと感じます。でも、逆に言えば、それだけ、事故を予見
する能力が求められているということです。
 事故を予見する能力は、簡単には身に付きません。多くの事故事例を知り、
原因を追及し、それを教訓をして自らの作業に活かす必要があります。
 参考になるホームページを紹介します。
 「失敗知識データベース」
 http://shippai.jst.go.jp/fkd/Search
 多くの失敗を知ること、多くの事故を知ること。その失敗・事故から学ぶ
ことが2010年の労働災害防止に役立つと信じています。

                        ご安全に! 


2009年12月19日(ルール)
 今週気になったのは、中国の習近平国家副主席と天皇陛下の会見のことで
す。12月15日に会見が行われましたが、「外国要人と天皇陛下の会見は1カ
月以上前に外務省が宮内庁に要請するルール」が守られていないことに、与
党からも野党からもいろいろな意見が報道されました。聞けば、この1カ月
ルールは過去にも特例として認められた事があるというのです。それも相当
数におよびます。
 ルールはあっても、「特例」の2文字で容認されていては、ルールの実効
性があるとは言えないと思います。まして、幹事長が「反対するなら辞表を
出せ」と言う発言がありました。そうなるとルールは完全に崩壊してしまい
ます。

 そもそも「1カ月以上」ということしか決めていないからこんな騒動にな
るのです。
   30日以上前であれば手順A
   16日〜29日までは手順B
   0日〜15日までは手順C
 ABCと進むにつれて厳しい手順にすれば解決すると思います。
 
 さて、そのルールを考えている時に、ある会社で「関係者以外立入禁止」
の看板を見ました。既製品の安全衛生関係標識にはこの文字を入れているも
のがたくさんありますので、みなさんの会社にも同様の看板があると思いま
す。
 でも、考えてみれば曖昧な看板だと思いませんか? 
 『関係者の定義は?』『関係者の名簿は?』と聞きたくなりませんか?
 その会社に所属していれば、関係者では無いと言えないかもしれません。
その設備の取扱い資格を持ち、事業者から指名された者とも言えますし、そ
の会社に所属する者まで含むとも言えます。その標識を読んだ人によって、
関係者の範囲が異なるなら、標識の意味が無くなってしまいます。

 酸素欠乏危険場所の標識には明確な物がありました。それには
 「作業主任者の許可を得た者以外立入禁止」と書かれています。
 酸素欠乏危険場所には作業主任者名が表示されていますので、その人の許
可を得ていない人は立入禁止ということが明確になります。

 これを読まれた方は、『そんな面倒な事は、とてもできない』と思われる
でしょう。ごもっともです。他の人が入ったからといって、重大なリスクが
あるのではなく、みだりに立入・通り抜けがあるのは困るという程度であれ
ば、「注意書き」的なものとして適切だと思います。
 しかし、電気室・ボイラー室などの危険の高い施設や、石綿吹付けの解体
作業や、酸素欠乏危険場所のようなリスクが高いところでは曖昧な表示をす
るべきではありません。
 
 例えば、
 ・「作業主任者の許可を得たもの以外立入禁止」
 ・「下記の者以外立入禁止」として作業者名を書き出す
 ・「特別教育修了者以外立入禁止」
 あるいは「関係者以外立入禁止」とし、常時施錠する。
   (これなら鍵の管理者以外は入室できない)
 などがあります。
 重要なのは、リスクアセスメントをして、リスクまたは残存リスクに応じ
た表示ができているか確認することが必要だということです。

                        ご安全に! 


2009年12月12日(労災隠し)
 住宅設備大手のINAX(愛知県)で労災隠しが行われていたことが明ら
かになりました。

 簡単に状況を説明すると
 2005年8月にユニットバスを製造している上野緑工場の請負業者の社員が、
樹脂をプレス機に左手を挟まれて、指を2本骨折する重傷で、1か月休業しま
した。プレスラインの担当係長が上司の工場課長に報告しましたが、この工
場課長は本社に報告しないように、部下および請負会社の社長に指示しまし
た。労災隠しが発覚したのは、匿名の投書があり、調査の結果、労災隠しが
発覚しました。

 このニュースを読んで、「なぜ、当時の工場課長は隠したのだろうか?」
と思いました。なぜなら、請負会社の中の労働災害については、注文主の会
社に責任はありません。(下のような例外はあります)
 責任があるとしたら、請負でありながら直接指示をする派遣の形態であっ
た場合と、貸与した設備に重大な欠陥があったのかのどちらかでしょう。

 この元工場課長は懲戒処分になりました。
 元工場課長自身に大きな過失があって、隠したのか、会社のためを考えて
隠したのかは定かではありませんが、結果的に、自分自身は処罰を受け、新
聞等で事実が公になり、会社に莫大な損害を与えてしまいました。

 労災隠しは時々、報道されますが、これが全てではないはずです。「氷山
の一角」かもしれません。労災隠しをすると、いつかはこのように露見し、
大きな責任がかかるものです。

 また、労災隠しには、次の災害が発生する可能性があります。労災を隠す
と、再発防止が十分にできない場合があります。そうなると、新たな被災者
を生むこともあります。最初の災害が、小さな怪我であっても、再発した人
には重篤な災害になる可能性もあります。
 小さい災害であっても、怪我のないヒヤリハットでも、報告して、原因を
究明し、リスクアセスメントを行い、対策することが、労働災害の予防につ
ながりますが、それが隠されたなら、「失敗は成功の母」にならないのです。

 労災隠しの関連する法規制
   労働安全衛生法 第100条第1項(報告等)
   労働安全衛生法 第120条第5号 50万円以下の罰金
   労働安全衛生法 第122条(両罰規定)
   労働安全衛生規則 第97条第1項(労働者死傷病報告)
  法文は下記HPの「法令・通達(検索)」で探してください
   http://www.jaish.gr.jp/index.html

                        ご安全に! 


2009年12月5日(いのちの日)
 “30,145人”これは今年3月22日に開催された“東京マラソン”の参加人数
です。テレビで東京マラソンを見た人、実際に走った人は、こんなにも多く
の人が走る姿を見て驚いたと思います。私も驚きました。来年2月28日にも
東京マラソンが開催されます。余談ですが、私も参加申し込みしたのですが、
抽選ではずれてしまいました。
 この3万人という数字ですが、これを読んでおられる方は、「3万と言えば
自殺だな」と思ったでしょう。報道で「3万人」と言われてもピンとこない
が、実際に3万人がゴール目指して走る姿を見ると、膨大な数字です。これ
と同じ数の命が、自殺という形で失っているのです。
 12月1日“いのちの日”でした。いのちの日とは、心の健康問題に関する
正しい理解の普及・啓発を行うための日であり、健康日本21の自殺予防活動
の一環として設置されました。
 先週のメールマガジンでもお伝えしましたが、テレビでは特別番組が放送
されました。

 私も見ましたが、自殺には本当に様々な原因があります。
 大きな要因として“うつ病”がありますが、
 そのほかにも
 「職場環境の変化」「職場の人間関係」「過労」「業績不振」「失業」
 「仕事の悩み」「生活苦」「負債」「家族の不和」「身体疾患」「いじめ」
 「介護・看護疲れ」・・・・書いていても切りがないほどあります。

 要因は十人十色といっていいでしょう。その対策として、全国各地で、
 「ワンストップ・サービス・ディ」が開催されました。これには、ハロー
ワーク、労働基準監督署、社会福祉協議会、医師・保健師、弁護士会などが
集まり相談にあたりました。このように多方面にわたる相談員が一堂に会す
る取り組みは初めてです。テレビ番組の中にも「相談できて良かった。生き
ていて良かった」という声もありました。

 12月4日には多くの新聞に「うつ病100万人」という見出しが出ていました。
100万人ということは、同時に日本国民の100人に一人と同じです。これは、
うつ病患者の人数ですから、軽度のうつ病・うつ病予備軍はその何十倍も多
いはずです。10人の職場でしたら、2〜3人は軽度のうつ病またはうつ病予
備軍と考える必要があります。
  
 ライフリンクが自殺実態白書2008を公開しています。その裏表紙に書いて
ある言葉は

  自殺は、人の命に関わる極めて「個人的な問題」である
  しかし同時に
  自殺は「社会的な問題」であり、「社会構造的な問題」でもある

 と書かれています。
 自殺対策を企業で考える時は、人事や産業医など限られた人の対策ではな
く、会社全体で考えなければならないし、ときには、弁護士や保健所など外
部資源の活用も必要になります。また労働組合は自らの組合員を守るために
積極的な労使協力が必要になっています。

                        ご安全に! 
  関連サイト
   NPO法人ライフリンク
    http://www.lifelink.or.jp/hp/top.html
   自殺実態白書2008
    http://www.lifelink.or.jp/hp/whitepaper.html
   自殺対策100日プラン(自殺対策緊急戦略チーム)
    http://www.lifelink.or.jp/hp/Library/100days_plan.pdf



2009年11月28日(居酒屋火災)
 11月22日午前9時過ぎに東京都杉並区の居酒屋で火災が発生し、4人が死亡
12人が重軽傷を負った事故はニュース等でご覧になったと思います。
「え、朝9時に居酒屋が営業しているの?」と思ったのは私だけではないと
思います。
 火災の原因は死亡した調理人が焼き鳥を焼いていたところ、焼き鳥の油に
火が付き、台の下にたまった油にも引火。火柱が上がり、吸込みダクトに燃
え移ったということです。
 焼き鳥などの調理の際に炎が燃え上がることは、それほど珍しいことでは
無いと思います。なぜ、4人の命を奪うような災害になったのでしょうか。

 報道から読み取れる被害拡大の原因
 @ガス台の中に油が溜まっていた。
 Aダクトに多量の油が付着していた。
 B壁に油が付着していた。
 C油火災に水をかけて消火しようとした。
 D天井に飾り布が張られていた。
 E非常口に靴箱や座布団が置いてあり、使用されなかった。
 F出口階段が狭かった。(違法ではなかった)
 G従業員が4人いたが、誘導に問題があったかもしれない。
 H25年以上前から営業しており、油の付着は広範囲にあった。

 報道にはないが、推測できる原因
 @今年7月には消防訓練をしたと届けられていましたが、実効性があった
  のか疑問を感じます。
 A従業員が避難誘導指示を出せなかった。
  従業員さえ、非常階段の存在を知らなかった可能性もあります。
 A火事を発見した時に、大声で「火事だ!」と叫ばなかった。
  店内ば180平方メートルぐらいです。大きな声で叫ぶと奥の大座敷にも
  聞こえ、避難行動が取れると思います。
 C消火活動に無理があった。
  今回は天井付近から火災が広がっています。天井が燃えている場合は、
  消火はあきらめないと避難できません。噴射によって視界が悪くなり、
  避難が遅れる可能性が高くなります。

 私は防災教育をする時には、特に下記のことを必ずお願いしています。
 第一発見者の一番の任務は、通報でも消火でもありません。「火事だ!」
 と、力一杯叫ぶことだと教えています。
 今回の場合、店の一番奥にいた人でも、叫び声を聞いていたら、火の回り
 が早くても避難できたのではないでしょうか。
 もしもの時に、あなたの大声が人の命を救うことになります。
 火事を見たら「大きな声で叫ぶ」是非覚えていていただきたいと思います。

                        ご安全に!

追記
 
 今回問題になっている「飾り布」は多くの飲食店で見受けられます。飾り
布を吊り下げると、空間が立体的になり、布の持つ柔らかさが雰囲気を良く
し、照明を和らげるなどの効果があります。
 飾り布が消防法令に定める防炎加工が必要かどうかに注目しています。
 法令上、防炎性能が必要なものか、対象外なのか、下記の法文を見ても判
断に困ります。「法令に基づき、防炎性能が必要」と判断されると、多
くの飲食店で課題になってくるでしょう
 

(参考)防炎に関する法律
消防法第8条の3
 高層建築物若しくは地下街又は劇場、キャバレー、旅館、病院その他の政
 令で定める防火対象物において使用する防炎対象物品(どん帳、カーテン、
 展示用合板その他これらに類する物品で政令で定めるものをいう。以下同
 じ。)は、政令で定める基準以上の防炎性能を有するものでなければなら
 ない。

消防法施行礼第4条の3 第3項
 法第8条の3第1項の政令で定める物品は、カーテン、布製のブラインド、
 暗幕、じゅうたん等(じゅうたん、毛せんその他の床敷物で総務省令で定
 めるものをいう。次項において同じ。)展示用の合板、どん帳その他の舞
 台において使用する幕及び舞台において使用する大道具用の合板並びに工
 事用シートとする。


2009年11月21日(介護の腰痛防止)
 今週、新聞を読んでいて目を引いたのは、読売新聞11月18日に掲載された、
「力の要らない介護術」です。介護士、看護師の腰痛は職業病のように言わ
れています。中腰のような姿勢で体の不自由な人を起こしたりするのですか
ら腰に負担のかかるのは当然です。現在では多種の介護ロボットが開発され
ているほどです。
 「力の要らない」ということは腰痛対策にもなるのではと興味を持って読
みました。
 記事で紹介されたのは、理学療法士の福辺節子さんです。
 レポーターの記事によると、「ベットに横たわった人の上体が、見えない
糸で巻き上げられるように自然に起き上がる。福辺さんが支えるのは片手だ
け」とあります。
 福辺さんの極意として
「介助とは、介助される人との共同作業。介助される人のことを考えること」
「介助とは、介助する人の力で、介助される人を動かすものではない」
「一つ動作を行う前に相手の目を見て、「右腕を曲げますね」などと声をか
けること」
「相手の身体を掴むように触れてはいけない。手のひらで支えることが基本」
「要介助者の動作の方向や速度、力の入れ具合、タイミングに合わせて誘導
すること」
「力任せの介助ではなく、触れていることを感じさせない、空気のような介
助が理想」

 私は昔、特別養護老人ホームにボランティアに行ったことがあります。も
う20年以上前のことです。当時は力任せに“強制移動”させたようなもの
で、たった数日間でしたが、きつい仕事だったことを覚えています。
 “運んであげる”ではなく、“動こうという意欲に協力してあげよう”と
いう気持ちと優しい補助が必要だったのです。

 この福辺さんの“福辺流 力のいらない介助術”は、介助をしている方、
特に腰痛で困っている介護士、看護師に是非お勧めします。
 興味を持っていただいた方は福辺さんのホームページをご覧ください。
 http://www.mou-ippo.jp/index.html

 この事は介護だけに限ったことではないと思います。
 これから寒い時期には腰痛になる人が増える傾向にあります。
 力任せの作業はいつか、労働者の身体を痛めることになるでしょう。
 作業方法、作業姿勢、作業負担を軽減する対策は、労働者の負担を軽減し、
作業効率が良くなり、働きやすい環境にもつながります。
 これを読んでいただいている多くの方は、安全のご担当だと思います。
 労働者に対する優しい目を持って、職場を見てあげてください。
 「働こうという意欲を協力してあげよう」と考えたら、何かいい作業方法
等のアイデアが浮かぶかもしれませんよ。
                           ご安全に!


2009年11月14日記(点検⇒異常発見⇒緊急措置)
 今週気になった事故は、大阪市平野区の公園の事故です。(11月8日発生)
 公園の遊具(滑り台やアスレチック的な複合遊具)の手すりの下にはめ込
まれていた木製パネル(110cm×40cm)が無くなっていたために小学1年生の
男児が転落し、重傷を負った事故です。
 事故が起こった遊具は10月に点検しており、市は手すりの破損を把握して
いましたが、修理を怠っていました。さらに、市民から修理を求める電話も
ありましたが、放置されました。
 修理を放置したばかりか、遊具の使用を禁止する措置も取られていません
でした。職員が緊急性を感じなかったということでした。
 未然に防げるはずの事故なのに、とても残念です。
 点検は10月23日に実施されました。点検した人は転落防止のパネルが無い
ことを発見して、どのように報告されたかわかりませんが、次のような措置
が望まれます。

  検査員『こちらは長吉東部南公園に来ています。複合遊具の木製パネル
      が無くなっています。子供が転落する可能性があります。緊急
      措置が必要です』
  市職員『わかりました。すぐ駆けつけます。しかし、公園に到着するに
      は時間がかかりますので、ロープを張って、使用禁止の表示を
      してください』
  検査員『了解。使用禁止にしておきます。報告書はすぐに届けます』
 
 緊急性のある異常の場合で、担当者が近くに居ない場合はこのような措置
が必要だと考えます。

 私が企業で安全衛生担当をしていた時に職場パトロールをしていました。
ある日、職場パトロールをして、異常を見つけ、職場の担当者と一緒に確認
しました。次の日にパトロール結果報告書を届けに行くと、担当者がニコニ
コしています。『昨日、指摘されたのは、すぐ改善しましたよ』と、職場で
対策方法を検討し、すぐに実行されていたです。その改善の有効性を確認し、
『早急に対策をいただき、ありがとうございます』と、思わず御礼をいいま
した。とても気持ちがいい。こんな時に安全の仕事の楽しさを感じます。

 今回の事故を知り、今年4月4日に発生した静岡市の県営体育館で、バスケ
ットゴールのアームが落ち、首を挟まれて死亡する事故を思い出しました。
 簡単に概略を説明すると、
 昨年8月に体育館設備の点検をし、特に緊急性を要する異常を見つけ(シ
リンダー部の摩耗によりシリンダーが脱落する危険)報告しましたが、修理
見積もりを取ると60万円必要になり、7か月放置されました。その間放置さ
れ、使用をつづけていました。そして、利用者がバスケットゴールを片づけ
る時に、摩耗部が破断し、アームを支えていたシャフトが脱落し、アームが
落ち、首を挟まれたのです。

 職場パトロールや点検で、異常を見つけた場合は、その緊急性のレベルを、
点検者と職場の責任者が共有できるかが必要になります。これにもリスクア
セスメントと同様に、「災害の重大性」と「可能性」を評価することが望ま
れます。
                           ご安全に!


2009年11月8日(エアバッグ)
 11月4日に愛知県の日油武豊工場で爆発事故が発生し、1人が死亡するとい
う事故がありました。この工場では自動車のエアバッグを膨らませるための
点火用火薬を製造していました。
 自動車用のエアバッグは1970年代に開発され、日本では1985年にホンダの
レジェンドが最初に搭載し、今では軽自動車・貨物自動車など多くの車に搭
載され、自動車事故による死亡者減少に効果を上げています。
 通常「エアバッグ」と呼んでいますが、正しくは「SRSエアバッグ」とい
うそうです。 Supplemental(補助)Resraint(拘束)System(装置)
補助的な保護装置ですから、シートベルトと合わせて使用する必要があると
いうことです。このエアバッグは0.03秒から0.5秒の高速で大きく膨らみま
す。膨らむというより、内部で爆発が起こっていると言うべきでしょう。一
見柔らかそうなバッグですが、爆発の勢いで膨らむので擦り傷を受けること
があります。フジテレビの番組「ダウンタウンのごっつええ感じ」でダウン
タウンの松本人志がエアバッグの体験中に顔面を怪我して、1週間休養した
こともあります。また、運転席、助手席、後部座席等のエアバッグが一気に
膨らむと、車の室内の気圧が急激に上昇し、窓を閉め切った時には鼓膜を痛
めることも鼓膜を破ることもあります。SRSエアバッグは命を守りますが、
軽傷はあるものだというのは理解しなければならないでしょう。

 その爆発的は膨らみを発生させるために「点火薬」と「ガス発生剤」と
「点火装置」が必要になります。その点火薬を製造している会社で爆発が発
生したのです。
 点火薬は過塩素酸塩を主とした火薬で、「過塩素酸カリウム」「タングス
テン」「ジルコニウム」で、ガス発生剤は「硝酸カリウム」が主なものです。
1個のエアバッグに使用する火薬は1グラム程度のわずかな量です。

 今回の事故の原因は不明ですが、原料の調合作業で爆発したということな
ので静電気が起因しているのではないかと想像します。大量生産のためには
装置を大きくすることがあります。装置を大きくすれば、粉末の薬品を投入
する時間が長くなり、静電気の蓄積が大きくなります。または、作業者が手
順に反して、短時間で作業を済ませようとしたことも考えられます。

 命を守るためのエアバッグ製造でかけがえのない人命が失われたのはとて
も残念です。原因究明し、再発防止を図り、従業員への教育を実施すること
を望みます。
 また、同時にエアバッグが要らない状態(交通事故が発生しない)が一番
良いのです。安全運転を心がけましょう。
                           ご安全に!

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2009年10月31日(船の災害)
 今週、船の事故が連日報道されました。
 ひとつは関門海峡での護衛艦と韓国のコンテナ船の衝突です。
 大きな原因は韓国のコンテナが速度の遅い貨物船を追い越そうとしたこと
が考えられますが、関門海峡海上交通センターの対応も問題があります。
 新聞によると、関門海峡海上交通センターは情報提供を行うが、最終判断
はコンテナ船の船長であり、情報提供には法的な強制力は無いということで
す。しかし、その情報提供がコンテナ船に向けられたもので、「貨物船を追
い越す」という情報が護衛艦に送られなかった(情報が遅かった)と考えら
れます。貨物船とコンテナ船と護衛艦と海上交通センターの情報共有が不足
したのは、海上交通センターの危険予知能力の不足と、情報提供能力に問題
があったように思われます。

 もう一つは24日に台風の影響で消息を絶った漁船「第一幸福丸」の転覆事
故から救出成功の報道です。
 3人は転覆した船の「居住区」と呼ばれる部屋で救出を待っていました。
この居住区の大きさは縦2.9m横2.2m高さ1.7mの小さな部屋です。転覆か
ら90時間をこのわずかな室内で限られた空気(酸素)で生き伸びました。室
内の気積はわずかに10立方mしかありません。人間は寝ている状態で1分間
に約5リットルの空気を吸います。それから計算すると、空気の量としては
10時間分しかありません。人間が吐いた息には14%ぐらいの酸素が含まれる
のでそれを吸ったとしても長時間生きることは無理です。居住区と隣接して
いる機械室や倉庫にある空気(酸素)が流入する状態だったのでしょう。そ
れと3人が協力して、体力温存に注意したからでしょう。船に閉じ込められ
た状態で自力で脱出しても広い海ですから陸まで泳ぐことは不可能に近い。
助かる方法は救助を待つしかないと思います。それをなんとかして助かろう、
脱出しようと試みても酸素を消費するだけに終わり、全員救出できなかった
と思います。
 船の中に閉じ込められて、90時間後の救出は今までに例の無いそうです。
この救出劇で、閉じ込められた時のサバイバル能力の一つとして、何もせず、
体力温存と酸素消費を抑える事が状況によっては重要だということを学びま
した。

 しかし、喜んではいられない。まだ乗組員4人が見つかっていません。転
覆の原因は台風接近によるものだけでなく、気象情報は正しく把握していた
のか、回避する行動は正しく行われていたか、その意思決定の間違っていな
かったなど検証しなければならないでしょう。

                           ご安全に!


2009年10月24日(予想もしない)
 ゴルフ界では平成生まれの石川遼選手が人気・実力とも日本のトッププロ
になり、各地での大会はギャラリーであふれています。今週開催されている
ブリジストンオープンでは信じられない出来事がありました。15番ホールで
林の中に打ち込んだボールを女性ギャラリーが拾い上げてしまいました。す
ぐに周囲のギャラリーが制止したので、プレーは続行されましたが、誰も予
想しない出来事だったでしょう。
 石川選手の人気が高まれば高まるほど、石川遼選手見たさに集まるギャラ
リーのマナー(特にゴルフに詳しくない人)が問題視されています。プレー
中にギャラリーが移動したり、カメラ撮影したり・・・・私の知人が石川遼
選手の観戦に行って、マナーの悪さに驚いたと言っておられました。

 今週、「予想もしない事故があった」と言えば、大袈裟かもしれませんが、
特に関心をもった事故がありました。
 10月19日神奈川県川崎市にある大同特殊鋼川崎工場で鉄粉から火が出て、
4トンほどの鉄粉が焼けました。幸い怪我はありませんでした。原因は鋼材
の切断作業で出た火花が近くにあった鉄粉のに飛び散り、火災になったもの
です。切断作業を行う時に周囲の状況を確認し、防火の措置を怠ったものか、
鉄粉が燃えるものという認識が無かったのだと推測します。
 私が注目したのは、火災発生時の初期対応です。新聞記事によると、「近
くにいた作業員が水で消そうとして、火の勢いが強くなった」ということで
す。私にとっては「水で消す」という行動が予想外でした。
 鉄粉は消防法でいう危険物(第2類可燃性固体)に該当し、火災時には、
「乾燥砂、乾燥珪藻土、乾燥消石灰、バーミキュライト、金属火災用消火剤」
等で消さなければなりません。決して水をかけてはいけないものです。
(取扱所・貯蔵庫には「注水禁止」の掲示をすることが必要です)
 私にとっては水で消すという行動が予想外でしたが、消火しようとした作
業員にとっては金属が燃えるということが予想外だったかもしれません。
 私はお客様の会社に行って、安全教育をすることもありますが、私の想定
することと参加者の想定することが食い違うと教育効果が薄れます。こうい
う事故を見ると、安全教育の難しさを感じます。
 
 もし、仮に、今回の火災で、作業員がABC粉末消火器を使用していたら
もっと大きな事故になったかもしれません。放射の時の勢いで鉄粉を吹き飛
ばすようなことがあれば粉じん爆発を起こす可能性があるからです。

 11月9日からは火災予防運動が始まります。会社の中の可燃物(特に消
防法の危険物に該当するもの)を確認し、特別な消火方法が必要なものにつ
いてはご注意をお願いします。

                           ご安全に!


2009年10月18日(本棚崩れ、姉妹が重軽傷)
 10月13日札幌市にある古本屋で本棚が倒れ、10歳の女の子が意識不明にな
る事故が発生しました。本棚は木製で、1mの本棚を上下に2段接続し、さ
らに本棚の背中合わせに連結し、横にも連結したもので、横幅は5.4mあり、
奥行は35cmです。3列の本棚を天板部に9cmの板で連結したもので、床・天井
とは接続されていませんでした。本棚の高さは2mになりますが、本棚の上に
も本を乗せていたということです。警察の発表によると、本棚3列に収納さ
れていた本は2万6千冊、総重量は4.8トンというから驚きました。
 テレビニュースで、利用者のインタビューを聞くと、「いつもぐらぐらし
ていた」と言います。
 なぜ倒れたのでしょう。
 倒れるというのは、重心の位置がずれて、床の設置面から外側に外れた場
合か、地震か、床面の傾きか、横からの力が加わったケースになります。地
盤沈下も地震も報道がないので、重心の位置がずれたことと、横からの力が
加わったことが考えられます。当時、何人がこの本棚に居たのか分かりませ
んが、本棚と本棚の間が50cm程度しかないということなので、人がすれ違う
時に本棚を押すような力が加わるでしょう。お客さんが本棚にもたれかかる
こともあります。高いところの本を取るために、よじ登ることも考えられま
す。ぎっしり詰まった本棚に本を戻す時は押しつけるような力も加わります。
床面に固定が無いことから、本棚の位置が動いていたことも考えられます。
また、棚の上の固定にしても、1枚の木の板だけでは、歪みを防止するには
不十分だったと考えられます。

 では、どうすれば良かったのでしょうか。
 まず、どのようなものが倒れやすいか考えてみたいと思います。
 中央労働災害防止協会から報告のあった「転倒危険度」で考えてみます。
 (出典:職場の地震対策ハンドブック)
 転倒危険度は、奥行(奥行または幅の小さい方)と高さから求めます。

 転倒危険度=奥行/√高さ

 計算の結果が4未満なら転倒防止対策が必要となります。
 事故のあった札幌の本棚で計算すると、35cm/√210=2.41となります
 4未満なので倒れやすいと考えられます。210cmの高さがあれば何センチ
の奥行が必要かというと、58cmとなります。逆に奥行が35cmなら高さは何
センチまでなら倒れにくいかというと、76cmとなります。

 次に固定の方法ですが、天板部の固定の1点止めでは揺れを吸収できま
せん。今回のような棚では天板ではなく、側面に複数の固定または幅の広
い板を側面から固定する方法が良いでしょう。(天井近くまで本が積まれ
たことから、天井との固定を合わせて行うのが効果あります)
 先週の安全週記にも書きましたが、南海・東南海地震は私たちが生きて
いる間に発生すると言われています。会社を地震から守るというより、私
たちの命を守るためにも地震対策を実行していただきたいと思います。

                           ご安全に!


2009年10月10日(防災・危機管理教育)
 本日、10月10日は東京オリンピックが開会した日です。(1964年)
 この日は統計的に晴れの可能性が高いということでオリンピックの開会式
の日に決められたそうです。今年も朝から晴天です。
 先日、お客様より防災に関する講話の依頼があり、ネットで情報を集めて
いたら、「eカレッジ 防災・危機管理」というサイトを見つけました。
 防災に関する情報がたくさん掲載されています。
   http://www.e-college.fdma.go.jp/
  その中に「一般の方向け」があり、そこには
 ○災害の基礎知識コース
 「地震・津波災害」「風水害」「火山災害」「火災」「津波から身を守る」
 ○災害への備えコース
 「事前の備えチェック」「家庭内の安全性チェック」「わが家の耐震性チ
  ェック」「損害保険」
 ○いざという時役立つ知識コース
 「初期消火」「救命手当」「救命手当(AEDを用いた方法)」「救命手当」
 「救助」「119番通報」「電気安全」「ガス安全」「避難」「安否の確認」

 地方公務員向けコースには 
 ○災害対応の基礎コース
 ○災害予防コース
 ○災害応急対応 時系列コース
 ○災害応急対応 基盤コース
 ○災害応急対応 活動コース
 ○災害復旧・復興コース

 消防団員向けコースには
 ○火災の現象と消火理論

 消防職員向けコースには
 ○救急(AEDを用いた心肺蘇生法指導要領)
 ○予防(防火対象物における火災の予防)
 
 また、「深く学ぶ」シリーズもあります。
 すべて、動画とナレーションがありますので、これだけでも、社員教育が
できるぐらいです。理解度を確認できるように「コーステスト」もあります。

 「南海地震」「東南海地震」「東海地震」は30年以内に発生すると言われ
ています。私も含めてみなさんが生きている間に経験する可能性がとても高
いのです。これらが発生した場合はマグニチュードがM8.5に達すると言わ
れています。M8.5というと、阪神淡路大震災(M7.3)に比べ、1.2大きい
のですが、地震のエネルギーに換算すると30倍以上にもなります。
 地震に対する備えを忘れずにお願いします。
                           ご安全に!


2009年10月3日(鉄人28号)
 昔、好きだったテレビアニメに「鉄人28号」があります。
 少年探偵の金田正太郎が鉄人28号をリモコンで操作し、悪を倒して、平
和を守る物語です。
 鉄人28号は横山光輝先生が書かれました。横山光輝先生のアニメには、他
に、「魔法使いサリー」「ジャイアントロボ」「バビル2世」「三国志」な
どがあります。
 なぜ、鉄人28号の話になるかというと、兵庫県神戸市長田区の若松公園
に高さ18メートルのモニュメントができたのです。(9月29日完成)
 「KOBE鉄人PROJECT」
 http://www.kobe-tetsujin.com/

 上のURLを見ていただくと、完成時の写真に加えて、制作中の写真が多く
掲載されています。
 私は安全の仕事をしていますので、「鉄人28号」のモニュメントより、
足場の方に目が向きます。
 この足場は大きな問題があります。
 ご承知とは思いますが、今年の6月1日より足場等からの墜落防止の対策の
ため、法改正がありました。
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei26/dl/01.pdf
 従来、足場には手すりを設置することになっていましたが、足場からの墜
落は、手すりがあれば防げるものではありません。
 足場の上で、“しゃがんだ”状態を考えてください。しゃがんだ状態にな
ると、手すりの位置は頭の上になります。ということは、しゃがんだ状態で
は、手すりはあっても無くても同じことになり、墜落が発生しやすくなりま
す。また、足場の板を踏み外すと、墜落します。したがって、墜落は手すり
だけでは防げないのです。そのため、今年6月に施行された労働安全衛生規
則は、手すり以外に「中さん」と「下さん」の設置を義務付けたのです。
 鉄人28号の施工写真を見ると、「わく組足場」で「交差筋かい」があるた
め、「中さん」は無くても法に抵触しませんが、「下さん」が無いのは法違
反になります。

 このような地域の活性化を目的としたモニュメントには多くの人の夢と希
望が込められています。もし、この現場で墜落などの事故があれば、せっか
くのプロジェクトが台無しです。鉄人28号の足元に献花台があってはなら
ないのです。
 建設に従事する方は多くの人の夢と希望を形にする職人です。夢を形にす
る前に、安全に作業することが重要です。まさに「安全第一」です。
 
                           ご安全に!



2009年9月26日(温室効果ガスCO2削減目標)
 今週、鳩山総理大臣が世界に向けて二酸化炭素排出量を25%削減すると宣
言しました。海外からは拍手喝采のようですが、これを読んでいただいてい
る皆様にとっては頭が痛い問題ではないでしょうか。
 1990年比25%というと、1970年代のレベルと言われます。30〜40年前の社
会を考えると、とてつもないハードルにも思えます。
 
 先日、こんな記事がありました。
  北京交通大学で光学技術を研究するジェン教授によると、電気容量1000
  ワット(冷蔵庫が1日に消費する電力)のソーラー板を生産するために
  10キログラムの多結晶シリコンが必要で、これだけの多結晶シリコンを
  生産するためには、2トン以上の石炭を消費しなければならないという。
  2トンの石炭があれば、冷蔵庫を20年間使うだけの電力を発電できる。

 これから考えると、ソーラーパネルは20年以上使用しないと温室効果ガス
削減に効果が無いことになります。ソーラー発電を普及させればさせるほど、
短期的には温室効果ガスを排出するという不合理なことにもなり、二酸化炭
素排出量削減の難しさを感じます。

 一気に25%削減するような「魔法」は知りませんが、投資せずに数%削減す
ることは不可能ではないと思います。
 私は仕事でいろいろな会社に行くことがあります。その時、トイレを借り
ると会社の意識・躾(しつけ)の状態を感じることができます。トイレに入
った時、照明が消えている会社は、整理整頓ができ、職場もきれいです。し
かし、無人なのに照明が点きっぱなしの会社は、職場の整理・整頓、躾は、
それなりの問題があるものです。最近では、トイレの照明にもセンサーライ
トを導入して、人が入る時に照明が点いて、時間が経てば消えます。消し忘
れを防ぐ効果はありますが、無駄を無くす「点けたら、消す」という躾とい
う点では疑問を感じます。
 安全衛生の基本は何かと聞かれると、私は5S(整理・整頓・清掃・清潔・
躾)だと答えるようにしています。
 照明は必要な時だけ必要な数だけ点けて、終われば、消すこと。そんな当
たり前の事が出来れば、電力使用料も数%削減できるはずです。お金をかけ
なくても効果があります。
 5Sは二酸化炭素削減に効果があるだけではありません。整理整頓ができ
れば、不安全状態も減るでしょう。清掃・清潔ができれば、職場環境は改善
されるでしょう。躾ができれば、不安全行動も減っていきます。5Sは災害
防止にも、職場環境にも、地球環境にも効果があり、経費が下がると、業績
に反映します。

 ちなみに、私の事務所では昨年の冬の暖房は使いませんでした。熱源は、
パソコンからの排気熱だけです。投資額はゼロで、経費の削減ができて、地
球環境保全にも寄与できました。皆様に暖房ゼロを勧める気はありませんが、
作業効率を維持できる最低の暖房をしてはいかがでしょうか。
 
                           ご安全に!
(参考:5S)
   ☆整理=「要るもの」と「要らないもの」に分けて「要らないもの」
       を捨てること
   ☆整頓=「要るものを使いやすいように置き、誰にでもわかるように
       明示する」こと
   ☆清掃=「常に掃除し、きれいにする」こと
   ☆清潔=「整理・整頓・清掃の3Sを維持する」こと
   ☆躾 =「決められたことを、いつも正しく守る習慣づけ」のこと


2009年9月19日(消火器破裂)
 9月15日の夕方、駐車場で遊んでいた小学生が突然、悲劇に見舞われまし
た。大阪市東成区の駐車場に放置されていた消火器を触っていた時に消火器
の底が破裂したのです。消火器は小学生の頭に直撃し、10mも飛びました。
小学生は意識不明の重体です。
 この消火器は20年近く駐車場に放置されていたようです。
おそらく、消火器はかなり錆び付いていたものと想像できます。
 破裂した消火器はABC粉末消火器で、油火災にも電気火災にも効果があ
るので広く使用されています。ただ、重量が約10kgということなので20
型と思われます。(一般の家庭用より大きい)
 この破裂の原因はまだ調査中ですが、消火器の破裂事故は毎年のように発
生しています。それは、消火器本体が錆び付いて、使用時(誤使用含む)に、
レバーを握った時に本体内の圧力が急上昇して、錆び付いて弱くなったとこ
ろが破裂するのです。多くの場合、底面が錆び付きますので、底の面が破裂
し、ロケットのように勢いよく飛び上がるのです。
 ただ、ABC粉末消火器は、何もしない状態では錆び付いても破裂するこ
とはありません。なぜなら、消火器内部には消火剤しか入っておらず、圧力
はかかっていません。破裂する時は、安全ピン(黄色のカギ状のもの)を抜
き、レバーを握った時、消火器内にある液化炭酸ガス容器に穴があき、本体
内に1MPa(メガパスカル)ぐらいの圧力がかかり、破裂するのです。
 今回の事故の目撃者によると、小学生はピン・レバーを触っていたという
ことから、上記の原因だと考えます。
 要らなくなった消火器でも、置いていると法定点検が義務付けられており、
(一般家庭用は点検義務はありません)不要と思っても点検費用が必要にな
ります。廃棄しようと思っても、産業廃棄物としては引き取ってもらえませ
ん。防災器具を扱う業者に処分料を払って処理するしかないのです。その為、
今回のように放置されることが多いのでしょう。
 
 今回の事故を契機に職場の消火器を確認しましょう。
 濡れているところに置いていないか?
 塩、酸・アルカリ性の液体に触れていないか?
 錆び付いていないか? 傷、変形はないか?
 法定点検は受けているか?
 古い消火器はないか?(メーカーでは8年で交換を推奨しています)
 取り出しやすい場所にあるか?
 屋外では雨にあたらないようにしてあるか?
 
 なお、今回のような事故があると、あなたの会社に悪質な消火器点検業者
が訪問するかもしれません。
「消防署の方(ほう)から来ました。ニュースでご存じでしょうが、古い消
火器で破裂事故がありましたので、点検に参りました。」という具合に。
 ご承知と思いますが、「消防署の方(ほう)」は、消防署から来たのでは
ありません。消防署がある方向から来たという意味です。消防署が企業内の
消火器の点検に来ることはありません。(立ち入り検査は別)
 この被害に遭うと、1本で30万円ぐらいの点検費用を請求されます。
 ご注意ください。
 詳しくはこのホームページを見てください。(東京消防庁)
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/lfe/office_adv/houmon_syoukaki.htm
 
                           ご安全に!
(参考)
 消火器内部の粉末は?
 リン酸二水素アンモニウム等でできており、「リン」「窒素」が多く含ま
 れます。
 (参考:消火剤のMSDS(ヤマトプロテック)
 http://www.yamatoprotec.co.jp/products/ex002/pdf/MSDS.PDF
 リン・窒素というと、肥料が思い浮かびませんか?
 すでに肥料としてリサイクルされています。
 (参考URL)
 http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.1207624.article.html
 古い消火剤をリサイクルして消火剤としても使用されています
 (参考URL 初田製作所)
 http://www.hatsuta.co.jp/environment/technology.html

 (参考:消火器の構造 噴射のメカニズムが良く分かります。宮田工業)
 http://www.gear-m.co.jp/bousai/shokaki/s04.html


2009年9月12日(東京メトロ東西線 保守車両衝突)
 先週は成田エキスプレスの事故をとりあげましたが、今週は東京メトロで
す。9月9日朝4時過ぎに、保守車両が停車中の始発電車に衝突する事故があ
りました。怪我はありませんでしたが、通勤・通学客など29万人に影響があ
りました。

 この事故は、保守車両の運転手が始発電車が停車している線路に侵入した
ことが原因でした。
 この事故には多くの要因がありました
@「まくら木」の交換作業に時間がかかってしまい、補修現場を出発する時
 間が遅くなった。そのため、制限速度を超えて走行していた。
A通常、始発電車は「引き込み線」に停車するのであるが、引き込み線付近
 で漏水防止工事があったため、営業車両の停止位置を変更し、線路に停止
 していた。
Bまくら木交換場所の近くの引き込み線では、別の保守車両が脱線したため、
 その引き込み線が使えなかった。

 Bの別の保守車両が脱線したため、事故を起こした保守車両の行先が変更
になりました。運転手は行先が変更になった事を理解していたが、運転中は
その事を忘れてしまい、営業車両が停車している線路を走り、衝突してしま
いました。

 今回の事故の原因にある「忘れ」「失念」というのが、災害防止上、厄介
なものです。
 「忘れる」というのは、良くあります。たとえば
 (1)コピー機に原稿を乗せ、コピーした時に、原稿をコピー機に忘れた。
 (2)封筒を出勤途中にポストに投函しようと思って、カバンに入れて家
    を出たが、出すのを忘れ、そのまま家に帰宅した。
 (2)電話をかけて、挨拶とか他愛のない話をしているうちに、本題を忘
    れた。
 (3)トイレで用をたした後に、ズボンのチャックを忘れた。
 (4)電車の網棚の物を置いたまま、電車を降りた。
 「忘れる」というのは無意識なものだから、忘れをゼロにするのは無理か
もしれません。現場では“指差し呼称”などで「忘れ」「ミス」を無くす活
動をしていると思います。しかし、「忘れ」「ミス」をゼロにすることは保
障できません。
 
 交通機関の場合は、「忘れ、ミス」が多くの人命を奪うことも考えられま
す。保守車両であっても、ATS(自動列車停止装置)などの安全装置は必
要です。
 「人間はミスをする動物」であることを忘れてはいけません。

                           ご安全に!


2009年9月5日(成田エクスプレスが工事車両と接触)
 今週は母の告別式のため東京に行きました。
 エスカレーターの乗り方が関西と逆なので、家内はちょっと戸惑ったよう
です。電車の車内も大阪と違いました。大阪の電車には7人掛けの椅子があ
りますが、6人が掛ける時が多いです。東京の電車にも7人掛けがありますが、
2人と2人と3人とに分かれるように仕切りの鉄棒があります。これならいつ
も7人が座るので効率がいい。と思いながら、「この鉄棒は7人が座れ、吊皮
に手が届かない人にも安心して持てるいいものには違いないが、急停止の時
にはこの鉄棒が凶器に変わる可能性がある。クッションを巻き付けるべきだ」
と感じました。

 そんな関東で電車の事故がありました。
 9月3日池袋と成田空港を結ぶ“成田エクスプレス”が工事用車両のアーム
と接触しました。幸い、出発した直後なのでスピードもあまり出ていない状
態でしたので、車体を損傷するだけでした。
 もし、見通しの悪いところで、スピードが出ている状態で、工事用車両の
アームが大きく線路側に飛び出したら、大きな事故になったことでしょう。
 この事故の原因は、作業員がポケットにベルトコンベアーのリモコンを入
れており、何かに触れた際に起動した事でした。
 このような重機の操作がリモコンでできるとは知りませんでした。
 リモコンはとても便利なものですが、重機をリモコンで動かすことには、
疑問を感じます。私の携帯電話は折りたたみ式ですが、その前には、知らぬ
間にリダイヤルしていたこともありました。皆さんにも経験があるのではな
いでしょうか?
 リモコンは誤操作の恐れがあります。誤操作を防ぐ対策が必要です。
 ○操作を無効にする“キーロック”
 ○デッドマンスイッチ(イネーブルスイッチ)
 これは、そのボタンを押している間のみキー操作ができるものです。これ
であれば、キーを押すだけ(キーに接触したとき)では無効になります。2
つのボタンを操作することにより、意図的な操作が誤操作かを機械的に判断
することができるのです。
 さらに、これを、より安全にした“3ポジションデッドマンスイッチ”も
あります。この3ポジションデッドマンスイッチは押した時も押さない時も
キー操作は無効になり、半押しの状態だけキー操作が可能になるものです。
 また、同じ重機が近くにあった場合には、他のリモコンに反応することも
あります。(同じ重機でも操作リモコンを特定し、誤操作を防止する機能は
技術的に可能)
 重機のリモコンには上記のような誤操作防止機能が必要になります。
 
 私がいつも行くスポーツジムの自転車型トレーニング機にはテレビが付い
ています。後ろの人がチャンネル替えると、私のチャンネルも同時に替わり
ます。テレビのチャンネル誤操作では事故は起こりませんが、産業の現場の
リモコンの誤操作は大きな事故になります。
 「使い勝手重視」より「安全重視」で考えていただきたいと思います。

                           ご安全に!


2009年8月29日(インフルエンザ)(クレーン事故)
 8月28日、厚生労働省は10月上旬のピーク時には1日に76万人の患者が出る
と発表しました。季節性インフルエンザは例年、1割ほどの感染者が出てい
るので、新型は2割が発症すると想定しています(都市部は3割)。
 9月下旬から10月上旬をピークとした正規分布曲線が示されています。
 国民の2割〜3割が発症するのであれば、当然、職場でも影響が出るでしょ
う。企業の対応としては、職場内感染を防ぐことを第一に考えなければなら
ないでしょう。具体的には、高熱や咳がある人を見つけたら、すぐに帰宅さ
せ、そして、3日から5日の自宅待機をさせることです。どこの職場でも、社
員が3日も5日も休まれたら大きな問題になるでしょう。しかし、一斉に休ま
れたら事業に深刻な影響を与えます。企業内でのインフルエンザ発症のピー
ク患者数を下げ、長期間続いたとしても、同時に休む人をできるだけ少なく
する事が必要だと考えます。
 インフルエンザの事で何人かの医者に尋ねました。
 「インフルエンザ対策としてマスクが品薄状態になっているが、マスクは
必要でしょうか?」
 すると、「必要ない。マスクは感染者が咳でウイルスを飛ばすのを防ぐも
ので、予防的効果はほとんど期待できない。ただし、効果は薄いものの、家
族の中に妊婦、乳幼児、重篤な疾患がある人が居るのであれば、した方が良
いかもしれない。」ということでした。

 でも、やはり心配だからマスクしたい。でも、入手に困っている方もいる
でしょう。その場合は、薬局ではなく、ホームセンターへ行かれたらどうで
しょう。粉じん用のマスクの中にも、インフルエンザ対策として違和感無く
使えるものもあります。

 さて、話は変わりますが、今週、興味深い、信じられないような事故があ
りました。
 8月27日、大阪府門真市で、移動式クレーンが電線に接触し、電柱を折る
という事故がありました。幸い、けが人はいませんでした。被害としては、
電線が切れ、電柱2本が折れたので周囲が停電する事態になりました。
 45歳の運転手はクレーンをほぼ垂直に立てて作業した後、クレーンを下ろ
さずに、走行したということです。クレーンは長さが7メートルもあります。
なぜ、下ろし忘れたのでしょう?なぜ、気が付かなかったのでしょう?
 人間は「間違える動物」と言われることがあります。ヒューマンエラーは
誰にでもあると。しかし、この事故は単にヒューマンエラーだけの問題では
ないような気がします。
 昔から「段取り8分、仕上げ2分(注:“ふん”ではなく“ぶ”)」とい
います。良い仕事は良い準備が必要です。この「良い仕事」には、「出来栄
え」だけでなく、「安全に」が入ります。
 このような信じられないような事故が起こる背景には、人・時間が足らず、
仕上げを優先して、段取りを疎かにしているのではないかと考えられます。

                           ご安全に!

2009年8月22日(インフルエンザ流行宣言)
 8月19日、舛添厚生労働大臣はインフルエンザの流行を宣言しました。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/info_message.html
8月10日から16日の1週間で11万人が感染したということです。(1医療機関
当たりの患者数が1人を超えた状態)その1週間前(8月3日〜9日)で6万人
感染しており、この2週間では17万人が感染したことになります。9月になる
と学校の2学期が始まるため、さらに感染が広がるでしょう。
 多くの企業ではこれを受けて、消毒用アルコールの設置、うがい液の設置
をし、手洗いとうがいを呼びかけています。
 インフルエンザ予防の「決め手」と言ってもいいインフルエンザワクチン
の確保は遅れており、(8月20日の厚生労働省の発表では、年内に生産でき
る量は1300人分から1700万人分)年内に生産できるインフルエンザワクチン
は、医療関係者、大臣・知事・市長などの国または地方の危機管理に関係す
る人、警察など治安に関係する人、ライフラインの維持に関係する人への接
種が優先されるでしょう。また、呼吸器の疾患などがあり、重症化するリス
クが高い人も優先されるでしょう。
 このことから、私たちのような一般人にはまわってこないのです。
 では、私たちはこれから何をすればいいのでしょうか?
 現在のように感染が流行している状態では、社員の感染をゼロにすること
は不可能だと思います。今からできることは
 ○社内での感染を防ぐ
 ○社員が休んでも、事業を継続し、安全を確保することです
 手洗いやうがいができる環境を整え、実行を促進することが必要です。
 その他、いくつか対策を記載しますので、ご参考になれば幸いです。

@季節性インフルエンザ予防接種
 冬になると、新型インフルエンザと季節性インフルエンザの両方が流行す
 る可能性があります。季節性インフルエンザは予防接種でかなり高い確率
 で予防できます。職場での混乱を防止するために季節性インフルエンザの
 予防接種は必要と考えます。

A全員朝礼などの検討
 大きな企業では何百人もの社員を一同に集めて朝礼をすることがあると思
 います。たった一人が咳をしただけで、一度に全員に感染してしまう可能
 性があり、事業活動に大きな支障をきたすおそれがあります。
 全体朝礼などは実施を見送り、社内放送などに置き換える必要があると考
 えます。

B作業手順書の見直し
 感染が広がると職場の多くの人が会社に出勤できなくなり、納期的に優先
 される業務に集中することが必要になります。その際、ノウハウを持った
 方が休むと、品質の低い製品を作ったり、労働災害が増える可能性があり
 ます。作業手順書を見直して、作業者が代わっても安全・品質を維持でき
 るようにする必要があると考えます。

C作業主任者資格者や特別教育修了者の増員
 感染が広がると法定の作業主任者が休むこともあります。作業主任者が不
 在になると、作業は中止しなければなりません。そのような事態にならな
 いように複数の作業主任者資格者を増員しましょう。
 また、作業によっては作業者全員に特別教育の受講を義務付けているもの
 もあります。一時的・応援的な業務でも、法に定められた教育は必要です。

D体温計の常備
 ある企業では社員通用門にサーモグラフィーを設置し、通勤時の体温をチ
 ェックしています。高熱を発している社員を社内に入れないことは感染拡
 大を防止するためにも効果があると思います。
 例えば、複数部署が集まる会議において体温を図ることも効果があるでし
 ょう。さらに職場朝礼時に体温を測定し、体調を確認することも必要だと
 考えます。

E空気清浄器の設置
 三洋電機が8月18日に電解水技術を利用した「ウイルスウォッシャー」が
 新型インフルエンザウィルスの抑制効果があると発表しました。
 http://jp.sanyo.com/news/2009/08/18-1.html
 シャープの「高濃度プラズマクラスター」、パナソニック「ナノイー」等
 もありますが、このような空気清浄器を設置することも検討が必要だと考
 えます。 

 なお、5月には、インフルエンザ予防のためにマスクを着用し、マスクが
店頭から無くなる事がありましたが、マスク着用が絶対的なものではないと
思います。(市販されているマスクでは隙間が生じるため)また、着用して
いても、ずれていて、鼻・口を完全にカバーできていないとか、交換しない
とか、フィルター面を触るとか、手洗い・うがいをしないのであれば、マス
クの効果はほとんど無いと思っていいでしょう。
 ただ、家族に妊婦や、重い疾患が人が居る場合は、密着性を良く確認して
使用することをお勧めします。マスクを着用して、手洗い・うがいなどを気
を付けていただきたいと思います。

 最後に
 「オレが居ないと会社は機能しない。インフルエンザぐらいで会社を休め
るか」と思っている人へ
 あなたが頑張って会社に出てきたら、その日は問題なくても、3日後には
職場の全員が発症して休むと会社は本当に止まってしまいますよ。

                           ご安全に!


2009年8月15日
(高速道路の無料化について考えてみました)

 8月11日、静岡県沖で大きな地震がありました。東名高速が崩れ、帰省ラ
ッシュの足を奪ってしまいました。すぐに復旧に向けて工事が進められまし
たが、私は、その工事がとても心配になりました。なぜなら、地震が起こっ
たその日の内に工事が進められました。工事の前には十分な調査(地盤の状
況等)が必要ですが、すぐにクレーンなどの重機が崩壊した道路に据えられ
ているのを見て驚きました。「崩壊を免れたアスファルトは重機を十分に支
える強度があるのだろうか?」一刻も早い開通は必要ですが、それよりも大
切なのは、復旧工事に従事する人の安全です。
 余震が続く状況でしたし、残っているアスファルトの下の部分の状況は分
かりません。時間的にも調査は十分とは思えません。作業中に新たな崩壊が
発生しないこと、大きな余震が発生しないことを祈っていました。
(これを書いている時点では災害の情報は入っていません。皆様がこれを読
む頃には無事に開通していることを祈ります。復旧工事着工時に調査が不十
分だったことは、再三の補強工事方法の変更から推定できます)

 今回の帰省では一部の区間(東名高速)が使用できなかったこともありま
すが、GWの時よりも渋滞が気になります。渋滞でゆっくり走るから、事故
が起こりにくいなどと考えている場合ではありません。地球温暖化の原因に
もなる二酸化炭素の排出量が増えることが気になります。
 この高速道路1000円乗り放題は正しかったのでしょうか? 空いている夜
間や平日に値下げするのは利用促進になるのでしょうが、ピーク時にも導入
すれば、さらに集中し二酸化炭素の放出が増えてしまいます。

 そこで、高速道路料金について考えてみました。高速道路料金「無料化」
が某政党のマニフェストにありますが、気になることがあります。それは、
無料になれば料金所が無くなるということだと考えます。料金所が無くなる
とどうなるでしょう。
 私が心配するのは、「自転車や原付バイクなどが侵入するのではないか?」
ということです。今はゲートがありますので、高速道路とは、囲まれている
空間とも言えます。産業用ロボットなどの原則と同じで、「危険源との隔離」
状態なのです。なおかつ、産業用ロボットの囲いにはインターロックなどの
安全の仕組みがあります。
 高速道路はどうでしょうか? 入口にはゲートがあります。インターロッ
クのような仕組みはありませんが、自転車・原付バイクなどの入場を制限し
ています。しかし、無料化によってゲートがなくなれば、自転車・原付バイ
クの侵入を阻止できません。高速道路の中を自転車が走るのはとても危険で
す。信号もない、歩行者もおらず、走りやすいので、原付バイクが故意に走
行するケースは十分に考えられます。
 高速道路無料化の是非については、ここで論議するつもりはありませんが、
安全の仕組みは十分に検討していただきたいと考えます。
 
                           ご安全に!


2009年8月8日(プリウスの新たな危険要因)
 トヨタ自動車のプリウス(ハイブリッドカー)の販売がとても好調です。
今、購入しても納車は来年になるそうです。そのためか、プリウスの中古車
は新車よりも高い値が付くほど人気があります。
 そんなプリウスなどのハイブリッドカーや電気自動車に関して、今週、注
目すべき点が報道されました。
 @高電圧による感電
 A静かさ
 Bけん引禁止
 
 プリウスはエンジンとモーターの2つのパワーで駆動します。モーターの
回路には200ボルトを超える高い電圧が流れており、感電の危険がありま
す。もちろん通常の走行ではほとんど問題が無いのですが、
(1)知識が無い人が高電圧回路に触れた時の感電する可能性
(2)事故で大破した際に漏電し、搭乗者や救出者が感電する可能性
(3)車両火災の際に水をかけるた時の感電の危険性
(4)豪雨時に水没した時の感電の可能性
 電圧は車種によって異なりますが、200〜288ボルトありますので、
感電死の可能性はとても高くなります。

 2つ目は“静かさ”です。トヨタのプリウスやホンダのインサイトや電気
自動車はモーターで動きます。モーターはエンジンと違って、非常に小さな
音しか出しません。そのため、歩行者などが“車の接近”に気が付かないと
いうことが実験されました。(8月5日国土交通省の対策検討委員会が実施)
その結果、視覚障害者の多くが車の接近に気がつかないため、メロディや人
工疑似エンジン音が必要だというものです。
 静かさが自慢の車ですが、将来、音を発しながら走行しなければならない
かもしれません。

 今週、車を運転していて“ヒヤリハット”がありました。前方の左端を自
転車が走行していました。その後ろからスピードの速い自転車(20代の男
性が運転)が走っていました。「これは追い越すな」と思ったので、車線内
の右側に寄り、スピードを落とし、後ろの自転車の行動に注視していたら、
案の定、追い越しを始めたのですが、まったく、後ろを見ずに右に寄りなが
ら追い越して行きました。良く見ると、両耳にはイヤホンを付けています。
見ることも聞くこともできない状態で、追い越しているのです。イヤホンを
付けて自転車に乗る人をよく見かけます。聴覚が無いことと同じです。危険
だと思います。
 企業の方は、通勤途上災害を防ぐためにも自転車・徒歩通勤者のイヤホン
禁止を徹底して欲しいと考えます。

 最後に“けん引禁止”です。事故などで、走行ができない場合は、けん引
して運びますが、けん引中にモーターが起動し、暴走する可能性があるとい
う事です。モーターの回路を遮断せずにけん引すると危険なのです。

 1つ目の危険性は、ハイブリッドカーや電気自動車のユーザーが気を付け
ればいいのではありません。これらの車の事故時に、安易に接近し、救出を
する時に、二次災害の恐れがあるということです。
『事故時、水没時には感電の恐れがあるので、近づくな!』などのステッカー
を貼り付けて欲しいと考えます。
                           ご安全に!

( ご参考に )
 感電の危険には、自分の意思通り体が動かないという怖い面があります。
例えば、漏電しているところを握った場合、電流が流れ、筋肉が収縮します。
手の指などの筋肉が収縮すると、電流が流れているところを握った状態にな
るのです。自分の意思では筋肉を伸ばすことができません。手を離す事がで
きないのです。その結果、長時間電流が流れ、感電死に至ります。
 
 万一、
 感電し、物を握った状態で、手指が動かなくなった時はどうすれば良いか?
 
 その時には、ぶら下がりましょう。体重の重さを筋肉が支えきれなければ
 手は離れます。


2009年8月2日(目に見えない危険:一酸化炭素)
 福岡県で一酸化炭素中毒が相次ぎました
    7月30日福岡市パン店「ふらんす館」で4人が被災
    7月25日飯塚市モスバーガーで従業員3人が被災
    7月21日福岡市モスバーガーで客を含む9人が被災
 一酸化炭素は無色無臭なものです。一酸化炭素を吸っても、自覚できませ
ん。しかし、体の中では大きな変化があります。肺から取り入れた酸素が血
液中のヘモグロビンと結合して、脳へ酸素を送りますが、一酸化炭素は酸素
と比べ、とてもヘモグロビンとの結合が早い(酸素の250倍も結合しやすい)
のです。そのため、酸素があっても酸素はヘモグロビンに結合できないため、
酸素は脳に送られません。その結果一酸化炭素中毒になるのです。
 7月30日の事故では、換気扇のスイッチの入れ忘れが主な原因でした。
 7月25日の事故は、換気扇が故障したまま営業したことが原因でした。
 7月21日の事故は、換気ダクトに異物が入っていたことが原因でした。

 焼きたてパンの店に人気があり、店舗が増えています。多くのパンを焼く
ために大きな釜を備えています。狭い厨房に大きな釜があります。限られた
店舗の中に大きな釜があるため、、気積(作業場から設備などの容積を除い
た空間)が小さくなっています。気積が小さいため、わずかな一酸化炭素で
も濃度が高くなり中毒症状が出ます。

 そのような一酸化炭素中毒を防止するために、「業務開始時には換気扇を
回せ」と徹底すれば災害を防ぐことができるでしょうか?
 人間は忘れる事があります。また、可動しているのに、停止状態と間違っ
て、スイッチを押し、停止させる場合もあります。機械的には、換気扇は電
力を失うと停止します。故障して停止することがあります。一般的に換気扇
は電力を失うなどの故障時には静かに回転を止めてしまいます。換気扇の停
止は作業者には判りません。
 したがって、「換気扇を回せ」と厳しく徹底したとしても、安全は確保で
きないのです。
 目に見えず、臭いもない。人間の五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)
で判らないものには、工学的な対策が必要です。 
 ○釜と作業場所を隔離する方法
 ○換気扇の回転をセンサーで監視する方法
 ○排気口の排風速度を監視する方法
 ○排気ダクト内の一酸化炭素を監視する方法
 ○室内の一酸化炭素を測定する方法
 ○作業者全員が一酸化炭素モニターを所持して監視する方法
 ○排気系統を2系統にし、バックアップ機能を持たせる方法
 などがあります。しかし、センサーの故障などの可能性があるので、安全
を保障することはできません。一つの方法では安全が保障できませんが、複
数の方法を採用すると、安全性は高くなります。
 もう一つ大切な事として、教育があります。いくら優れた対策をしていて
も、作業者に知識がなければ、「安全装置の無効化」をする可能性がありま
す。「工学的な対策」と「教育」が重要です。
 
                           ご安全に!
(参考)
○一酸化炭素中毒症状
 低濃度では、頭痛・耳鳴・めまい・嘔気などが出現するが、風邪の症状に
 似ているため一酸化炭素中毒を自覚しにくい。さらに濃度が高くなると、
 意識はあるが、徐々に体の自由を失う歩けなくなると避難ができないため、
 死亡につながる
 高濃度の一酸化炭素を吸引すると、自覚症状を感じることなく、昏睡状態
 になります。

○労働安全衛生法に基づく事務所衛生基準規則では50ppm以下(空気調和設備
 または機械換気設備のある事務所では10ppm 以下)
○大気汚染に係る環境基準については、1時間値の1日平均値が10ppm 以下であ
 り、かつ、8時間平均値が20ppm以下

MSDS(化学物質安全データシート)情報はこちらから入手してください
http://www.jaish.gr.jp/anzen_pg/GHS_MSD_FND.aspx



2009年7月25日(豪雨)
 山口県防府市で大規模な土石流が発生し、死者が14人にも上りました。
 大きな被害を受けた特別養護老人ホームの裏の山では100か所以上の土
砂崩れがあり、木、石、土が土石流となって、老人ホームの1階は石・土砂
で埋まってしまうほどです。「鉄砲水」も怖いものですが、土石流は、大き
な石(人間の頭ほどもある物)や大木も凄まじい勢いで流れてきます。人間
を飲みこみ、建物を壊すほどの威力があります。
 山口県では、この場所を土砂災害警戒区域に指定し、調査も進められてい
ましたが、対策はまだできていなかったことが残念です。
 そして、24日には福岡県でも土砂崩れが相次ぎました。
 昨年を思い出してみると、7月28日には神戸市の都賀川で増水し、子供
ら4人が死亡しました。また、8月5日には東京都豊島区の下水道で増水が
あり、5人が流される事故がありました。
 これを書いている間も枚方市では短時間でしたが、前が見えなくなるよう
な豪雨がありました。このようなゲリラ豪雨はしばらく続くと思います。十
分にご注意ください。特に下水道、河川、マンホール等で業務される方は、
危険してください。
 屋外での作業では現場責任者にかかる責任はとても重いです。特にゲリラ
豪雨の場合、下流は雨が降っていなくても、上流では降っていることがあり
ます。現在は、屋外であっても、インターネットを利用して局地的な天気予
報を入手することができます。多くの情報を集めて、安全に作業してくださ
い。先週の大雪山系登山客の遭難でもガイドの判断が非常に重要ということ
を学んだと思います。
 不測の事態を予測して、備えてください。避難指示の方法や、避難場所の
確保、救出方法、救出用具の確保などを作業の前に検討し、準備してくださ
い。部下のために、部下の家族のために「安全最優先」でお願いします。

                           ご安全に!


2009年7月19日(バスのシートベルト)
 7月14日に高校野球部の部員を乗せたバスが横転し、1名が亡くなり、
42人が重軽傷を負う事故がありました。
 事故の原因として、速度オーバーと「ハイドロプレーニング現象」(タイ
ヤと路面の間に水の膜が発生して、摩擦力を失う現象)の可能性が高いと言
われています。
 しかし、その後の展開には驚きました。
 事故を起こしたバスは1991年に製造・登録したものですが、製造時に
あったはずの後部座席のシートベルトがありませんでした。さらにこのバス
の整備をした整備会社はシートベルトがないにも関わらず、保安基準に適合
していると誤った判断をしていました。
・整備会社は営業用車両のみシートベルトが必要と誤認識していました
  ・路線バスの車検項目では運転手以外のシートベルトを必要としていま
   せん
  ・路線バス以外のバスは運転手以外のシートベルトが必要です
  ・同じバスでも、路線バスとその他のバスでは規制が異なります

 昨年の道路交通法改正で後部座席でもシートベルト着用が義務つけられて
いたにも関わらず、学校の先生も誰も疑問を感じなかったのでしょうか?
・「後部座席はシートベルトが必要とは知っているが、普段から後部座席で
  シートベルトをしていない」から気づかない
・「バスは不要と思っている」から気づかない
・「後部座席のシートベルトが無いから、要らないと判断している」 
 
 このようにみんなが見ているようで誰も見ていない(気づいていない)こ
とはよくあることだと思います。
  

 なお、別件ですが、首をかしげるような事案が7月18日のニュースにあ
りましたので紹介します。
 福島県会津若松市の国道でT字路の2つの信号が同時に青信号になってい
ることが分かりました。これが原因で交通事故が6月に発生し、事故の当事
者双方が「青だった」と証言したため、県警が調査した結果、両方が7秒間
青信号になっていたことが判明しました。この信号の設置は30年前です。
誰も気が付かなかったのでしょうか。
 設計時のプログラムミス、設置後の確認ミスというようにミスの連鎖があ
ったのですが、その後、何年間、誰も指摘しなかったようです。
  
 「異常に気付く」・「疑問を持つ」ことが安全・安心社会も目指す上で必
要なことだと考えます。
                           ご安全に!


2009年7月12日(パチンコ店放火)
 7月5日夜のニュースは大阪にある雑居ビル1階のパチンコ店の放火ばか
りでした。ガソリンを10リットルまき散らし、火を付けるという大胆な犯
行で、4人もの尊い命が奪われました。事故直後の報道では、店員と口論を
していた客が腹いせに放火したのではないか?とありました。どんなトラブ
ルにせよ、腹いせの方法としては、度が過ぎていると思っていました。
 犯人が捕まってみると、『誰でもいいから殺したかった』という無差別殺
人でした。しかも、昨年の秋葉原通り魔事件のようなナイフでの殺傷では、
多くの人を殺せないからという理由でガソリンを使ったというから恐ろしい。

 私は、20年以上パチンコに行っていません。この事件を見て、パチンコ
店の内部はどうなっているのか興味を持ち、近くのパチンコ店に入りました。
昔もやかましかったけど、今もやかましいですね。80〜85dB(デシベル)はあ
りそうな感じです。それとタバコのにおいは凄い。タバコだけではなく、タ
バコの臭いと芳香剤の臭いがミックスして強烈なにおいがしていました。
 あんなやかましいところで、かつ、臭いところに座ってパチンコする気に
はなれません。パチンコの店内を1周まわって、ほんの2分程度で出ました。

 さて、パチンコ店で火災が発生した場合の避難通路の問題ですが、背中合
わせに座っている時の、イスとイスの間のの幅ですが、約60cm。狭いところ
では50cmしかありませんでした。これでは、今回のような爆発的な延焼では
逃げれないでしょう。
 それと気になったのが、足元に高く積み上げたパチンコ玉の箱です。避難
するの時に、この箱に足をひっかけて倒すと、何百というパチンコ玉が床に
広がります。床に玉がこぼれて広がると、足元をすくわれ、避難もできない
でしょう。
 パチンコ店に行った感想としては、騒音と臭いと通路の狭さと足元に広が
る可能性のあるパチンコ玉の箱が気になりました。
 私が見に行ったパチンコ店の床はPタイルが貼られていました。この床面
にカーペットフロアを敷くと、騒音が吸収され、床面での反射騒音を抑える
ことができ、万一、床にパチンコ玉がこぼれても、広がりにくくなります。
 床面をカーペットにすれば、環境面にも安全面でも良いと思います。
 皆さんの中でパチンコに行かれる方はどのように思いますか。

                           ご安全に!


2009年7月4日(幼児2人同乗用自転車)
 7月1日より幼児を2人同乗できる自転車がブリジストンサイクルとヤマ
ハ発動機から発売されました。

 ご承知の通り、自転車は1人乗りですが、6歳未満の幼児1人を乗せても
よいとされていました。しかし、現実には2人の幼児を乗せる自転車があり
ます。法律上、違法ではありますが、多くの方が幼児を2人乗せており、黙
認されている状態でした。今年、幼児2人同乗自転車の基準を定め、多くの
メーカーの試作品を検討し、認められることになりました
その基準は下記の6項目です
  @幼児2人を同乗させても十分な強度を有すること
  A幼児2人を同乗させても十分な制動性能を有すること
  B駐輪時の転倒防止のための操作性及び安定性が確保されていること
  C自転車のフレーム及び幼児用座席が取り付けられる部分(ハンドル・
   リヤキャリア等)は十分な剛性を有すること
  D走行中にハンドル操作に影響が出るような振動が発生しないこと
  E発進時、走行時、押し歩き時及び停止時の操縦性、操作性及び安定性
   が確保されていること

 この話は以前からとても関心を持っていました。今から18年も前のこと
ですが、私が娘を自転車の荷台に乗せ(幼児用のキャリアを使用)てポスト
に投函しようとしていました。娘を荷台に乗せたまま、自転車を降りた時で
す、近くに居た人から「子供を荷台に乗せたまま、自転車を離れたらダメ!
自転車が倒れたらどうするのですか?」と怒られました。
 当時は幼児用のヘルメットもなく、もし「自転車が倒れたら」と考えると、
とても危険な行動でした。その頃はまだ安全の仕事をしていなかったのです
が、“安全”に深い関心を持つきっかけになったのです。

 今回、2社から発売されました。基準を満たしたものですが、私は疑問を
感じます。「駐輪時の転倒防止」の基準はありますが、停止時の転倒防止が
必要と感じます。何かに接触したとか、急ブレーキをかけた時、停止して、
自転車から降りて、スタンドを立てるまでの間に倒れる危険があります。運
転者は受け身が取れますが、幼児は受け身を取れません。
 幼児を乗せる自転車は3輪または4輪の転倒しにくい構造が必要だと考え
ます(幼児を1人以上乗せる場合)。私の考えは、社団法人自転車協会にも
メールしましたが、採用されませんでした。今回発売された自転車は価格が
高いため敬遠されているようです。3輪以上にした場合、さらにコストの問
題が大きな障害になります。
 小さいけど、かけがえのない命を守りたい。
 新規格の自転車が普及し、さらに安全対策の進んだ自転車の開発を期待し
ています。
                           ご安全に!


2009年6月27日(道路工事の事故)
 6月23日福島県の常磐道(高速道路)の工事現場にトラックが突っ込み、
工事作業員4人が死亡し、2人がケガをする事故がありました。
 この日は走行車線の路面工事のため追い越し車線だけが通行可能でした。
加害者となった42歳の運転手は居眠り運転をし、最初は追い越し車線を走
っていましたが、工事中の走行車線に進入し、工事作業員をはねました。
 運転手の居眠り運転には、は過労か睡眠不足かSAS(睡眠時無呼吸症候
群)などが原因だと考えられます。
 眠たくなるのは生理現象だから防ぐことは困難です。眠気を感じたら、端
に寄って休息すれば良いのですが、今回のように高速道路であれば、決めら
れた場所以外では止まることもできません。高速道路のような単調運転であ
れば、居眠りは起こりやすいものです。
 工事側の方では災害を防止することはできないでしょうか?
 工事場所の上に陸橋を作り、その下で工事することも可能ですが、多くの
資材を使用したり、長いエリアの工事をするには現実的ではありません。
(今回のように進路を変えて工事現場に進入するような場合は効果がありま
せん)
 今回、工事現場の入口に監視人がいましたが、トラックは高速道路を時速
60kmで走っていれば、100mをわずか6秒で通過してしまいます。瞬
時に避難指示を徹底するのも困難です。さらに、削岩機(コンクリートブ
レーカー)での騒音は大きく(100dB前後)、避難指示も届かないし、
トラックの接近を感じることも困難です。
 監視人が居ても災害防止が困難であれば強固は柵を設置すれば良いのです
が、工事関係車両など必要な進入もありますので、強固な柵を設置するのも
困難な作業と思われます。
 
 運転中に居眠りを無くす方法は無いでしょう。しかし、居眠り運転を瞬時
に見つけ、または居眠り運転の予兆を感知する研究も進んでいます。居眠り
運転を感知し、警告を発しながら、減速・停止する装置の早い実用化と普及
に期待したいと思います。このような居眠り運転防止装置を設置した車には
1000円で高速道路が利用できるようになれば、ETCのように普及させ
ることができるでしょう。合わせて、飲酒運転の感知装置にも期待していま
す。将来、エアバックのように標準装備になれば、今回のような居眠り運転
による事故は激減するでしょう。

 もう一つ、この事故で感じたことがあります。
 今回のような騒音を発する場所では異常事態を通知することがとても困難
だということです。そんな場所で、私が提案したいのは、骨伝導トランシー
バーです。これがあれば、騒音対策として耳栓をしていても、騒音があって
も必要な指示を聞きとることができます。
☆骨伝導とは、http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AA%A8%E4%BC%9D%E5%B0%8E

 6月13日に大分県の製錬所で酸欠になった事故は、再発防止策を立てて
操業を再開しました。再発防止策の中には個人用酸素濃度計を全員が携帯す
る事も含まれています。
 安全のために、命を守るために、優れた商品が生まれることを期待してい
ます。
                           ご安全に!


2009年6月19日(同僚を助ける
 6月13日に大分県の製錬所の船倉で3人が酸欠で死亡する事故が発生しま
した。(原因は積み荷の銅鉱石が酸化して酸素が消費され、酸素欠乏になっ
たものです)6月16日に山口県のコンクリート製造業で2人が生き埋めにな
り、1人が死亡する事故がありました。
 両方に共通するのは、「同僚を助けに行って被災」があります。
 酸欠で一番怖いのは、「見えない」ことだと思います。酸欠で1人が倒れ
た時に、一番先に助けに行ったのは酸素欠乏に関して十分な知識と経験があ
るはずの酸欠作業主任者が空気呼吸器などの保護具を着用せずに、救助に行
き酸欠で倒れ、命を失いました。
 同僚が倒れているのを見たら、「すぐに救助」と考えるのは当然の反応だ
と思います。もちろん救助は必要なのですが、無防備で行ってはいけません。
私は建設業労働災害防止協会で酸欠作業主任者の技能講習を担当しており、
救助の事故事例を多く説明しています。作業開始する前に作業方法を説明す
すると思います。その時に救助の方法を説明し、救助のための空気呼吸器を
準備するように指導させていただいています。
 今回の災害では作業前の酸素濃度測定をしていましたが、作業者が倒れた
「ひさしの下」は測定していなかったようです。測定しにくいから測定をし
なかったのではないかと想像します。「測定しにくい場所」ということは、
「対流が少ない場所」でもあります。

 山口県の生き埋め事故については、作業手順に疑問を感じます。タンクの
補修工事をするなら、タンクの中の物を全て出して補修工事をするのが当然
と考えます。しかし、100トンもの砂を入れ替えるは時間とコストがかか
るので、そのまま作業が実行されたのかもしれません。作業計画に重大な過
失があったのではないかと考えます。
 タンクの架台は相当腐食していたのではないかと想像します。補修工事の
振動や衝撃が加わり、破断したと考えます。そして、大量の砂が落ちて、生
き埋めになってしまいました。それを見た同僚が救助を始めましたが、この
時には頭上のタンクに数十トンの砂が残っており、振動・衝撃で残りが落ち
て生き埋めになりました。

 会社で災害など緊急事態を想定して、救助・救出を含めた処置について教
育訓練していることでしょう。しかし、眼の前で人が倒れるというパニック
状態で、冷静な判断を求めることにはとても困難なことです。しかし、災害
事例を繰り返し教育し、訓練を繰り返すことで無意識に正しい行動が取れる
可能性が高まります。
 救助も大切ですが、救助が必要な事故を起こさない事こそが最も大切なこ
とです。
                            ご安全に!


2009年6月13日(心の病)
 6月8日に厚生労働省が「平成20年度における脳・心臓疾患及び精神障害
等に係る労災補償状況について」を発表しました。
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/06/h0608-1.html
新聞などでも報道されましたので、皆さんもご覧になったと思います。
 多くの方は「こんなにも大勢の方が・・・・・」
 と思ったのではないでしょうか?
 私は、「今年もこれだけなの?」と感じました。「これだけ」というと、
「命を軽く見ているのではないか」と、お叱りを受けそうですが、「これだ
け」というのは、「本当の数字はもっと多い」と考えているからです。警視
庁が5月14日に「平成20年中における自殺の概要」を発表しました。
 http://www.npa.go.jp/safetylife/seianki81/210514_H20jisatsunogaiyou.pdf
平成20年の自殺者数は32,249人。そのうち、被用者・勤め人は8,997人と、
全体の約3割を占めます。
 自殺の原因として、1番は健康問題、2番は経済・生活問題、3番は家庭問
題、4番は勤務問題となっています。勤務問題を原因と判定された人は2,412
人おられ、
  仕事疲れ     694人
  職場の人間関係  568人
  仕事の失敗    412人
  職場環境の変化  268人
と、報告されています。
 厚生労働省が発表した数字は、労災補償の認定基準を満たしたものの件数
であって、認定されなかったものでも「労働は無関係」というものではあり
ません。また、労災申請しないものの中でも労働が起因になっているものも
相当数があると思います。
 労働者の約6割が「強いストレス」を感じていると言われています。
 「精神障害等の労災補償請求」をした人、「脳血管疾患及び虚血性心疾患
等の労災補償」をした人でも氷山の一角に過ぎないのです。さらに、被用者
の自殺者数は8,997人ですが、過労・ストレスが原因で職を辞め、無職になっ
た人を含むとさらに労働が原因となった被災者の数は膨らむでしょう。

 12日、NHK金曜ドラマ「ツレがうつになりまして」の放送が終わりまし
た。何事も几帳面で完璧を求める会社員を原田泰造が演じ、うつを発症する
ところから、自殺未遂をおこします。藤原紀香がその妻を演じ、る家族の支
え、主治医のアドバイスを受け、うつと正面から向き合っていく感動的なド
ラマでした。(原作者:細川貂々)
原作の文庫本はこちら(私は昨日購入しました)
 http://www.gentosha.co.jp/search/book.php?ID=201955 
 http://www.gentosha.co.jp/search/book.php?ID=101968
                            ご安全に!


2009年6月6日(一酸化炭素中毒)
 6月2日に山口県の観光ホテルで一酸化炭素中毒が発生し、修学旅行に同
していたカメラマンが死亡し、教諭や児童などが被災する事故が発生しまし
た。
 最初にこの事故を知った時に、「なぜ3階で発生したのだろう」と思いま
した。1階でコンロを使って、その時不完全燃焼したとしても、3階で一酸
化炭素中毒というのは考えにくい。翌日になって、ボイラーの排気管から一
酸化炭素が漏れたのが原因だと分かりました。
 一酸化炭素は換気が不十分な場所など、酸素が不足した状態で不完全燃焼
が起きると発生しやすいものです。一酸化炭素は無色で臭いがなく、比重は
空気と同じぐらいです。したがって、吸いこんだ時でも、「一酸化炭素を吸
い込んだ」という感覚はありません。感覚は無くても、体の中では大きな変
化が生じています。血液の赤血球に含まれるヘモグロビンは酸素を運ぶ働き
がありますが、一酸化炭素はヘモグロビンと非常に結び付き易く、酸素を運
ぶことを妨害します。酸素が運ばれないため、頭痛、めまい、吐き気、手足
がしびれ、逃げることができず、死亡することも多く発生しています。
 最初に児童を3階の部屋に連れて行った看護師が「気分が悪い」と連絡し
ました。それを聞いた教諭が3階に駆けつけ、次々と倒れ、救助に向かった
消防隊員も中毒になりました。一酸化炭素中毒の恐ろしいところは、その場
所に人が倒れていても、なぜ倒れたか分からず、パニックになり、無防備に
近づいてしまうことです。そして、異変に気づいた時には歩く事が困難にな
り、避難できなくなるのです。
 病気で人が倒れることはありますが、二人以上が倒れている場合は、酸素
欠乏、一酸化炭素中毒、硫化水素中毒などが考えられるので安易に近づかな
いことが必要になります。しかし、冷静に考えれば判断できることでも、パ
ニック状態になれば判断を誤ります。今回の事故から緊急時対応の大切さを
学び、同様の事故がなくなることを願っています。

 今回の事故では建物の構造・排気ダクトの問題がありました。排気ダクト
は建物の中を貫通する状態でした。ボイラーの排気ダクトが、建物の外であ
れば、多少漏れが発生しても今回のようにはならなかったでしょう。建物の
見栄えを優先したことに問題があると考えます。また、排気ダクトにも問題
があります。排気ダクトは漏れが無いように作られていますが、老朽化など
により隙間ができることがあります。その漏れを防ぐために排気ファンを排
出口に付けると、排気ダクト内が負圧(陰圧)になり、わずかな隙間があっ
ても漏れ出しを防ぐことができます。(今回の事故の場合、排出口にフタが
乗せてあったということだから、論外と言うべきでしょう)
 
 今回の観光ホテルは「廃業する」とも報道されています。命を奪い、修学
旅行の思い出を壊し、従業員は職を失う。とても残念な事故でした。

                           ご安全に!


2009年5月30日(平成20年死亡災害)
 平成20年の労働災害のうち死亡災害発生状況の報告がありました。
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/05/h0526-2.html
 平成20年の死亡災害は1,268人と過去最低になり、昨年と比べ、89
人減少しました(減少率は6.6%)。昨年示された「第11次労働災害防止
計画」の死亡災害の削減目標は平成19年に比べ、20%減少ですから、第
11次防止計画の初年度で6.6%減少できたので順調と言えます。いまだに
千人を超える死亡災害があるので、喜べませんが、数字上はいい傾向にあり
ます。
 
 しかし、総務庁の国勢調査では、
 http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/sokuhou/03.htm
 平成7年の就労者数は6414万人、その内、第二次産業は2025万人、
 平成17年の就労者数は6151万人、その内、第二次産業は1593万人
 この10年で第二次産業は430万人も減少しています。建設業・製造業・
鉱業などの労働者が減っており、リスクの高い業種での労働者が減っている
ことから考えると、死亡者数の減少は当然の事ではないでしょうか。
 もう一つ、死亡者数が減少している要因は、医療の進歩です。労働災害の
集計は、その年に発生して、その年に死亡したものが死亡者数とカウントさ
れます。平成19年に発生して、平成20年に死亡したものや、平成20年
に発生して、平成21年に死亡したものは含まれません。医療が進み、延命
処置技術も進んでいます。
 死亡災害の半分以上が建設業・製造業です。その2つの産業の労働者が減
少し、医療が進歩したのですから、減少するのは当然なのです。

 それと、死亡災害で忘れてはいけないものが自殺です。自殺者3万2千人
の内、約9千人が就労者です。この中には労働が原因の自殺もありますが、
自殺の原因調査には長い時間が必要になり、その年に労災が確定しないケー
スが多く含まれています。

 今回の発表では派遣社員の労働災害状況が報告されました。平成16年か
ら増加の一途でしたが、平成20年は減少しました。派遣社員の労働災害は
「経験不足」「教育不十分」が原因と言われ、皆さんの企業では派遣社員の
労働災害に努力していただいたことと思います。
 皆さんの努力もありますが、一番の減少要因は昨年10月から社会問題に
もなった「派遣切り」だと考えられます。平均すると1日あたり150人も
の派遣労働者の死傷災害が発生しています。平成19年と比較して254人
減ったとなっていますが、その減少分は2日分にもなりません。派遣社員だ
けの度数率・千人率は発表されませんが、度数率も千人率も増加していると
考えられます。

 今回、平成20年の死亡災害と派遣社員の死傷災害について、私の考えを
述べさせていただきました。
 来月上旬には派遣社員を含む全産業での死傷災害状況が報告されます。そ
の時、私の所感を書かせていただきます。次回もお付き合いください。

                            ご安全に!


2009年5月23日(自転車は危険な乗り物)
 車に乗っている時とか歩道を歩いている時に、危険な自転車に遭遇するこ
とが多いのではありませんか?
 ・携帯電話を使用しながらの運転
 ・2人乗り
 ・交差点の飛び出し
 ・歩道でスピードを出した運転
 ・道路での逆走(道路の右側を走行すること)
 ・横2列になってしゃべりながらの運転
 ・夜間の無灯火
 書きだしたら切りが無いほどです。
 先日も無灯火の自転車が飛び出してきて、呼び止めて注意したら、
 『この自転車ライトないんや、どないせぇちゅうねん』と開き直られ、
 『ライト無くても事故起こすようなドジじゃないわっ、そんな事で呼び止
めるな』って、逆に文句言って走り去りました。
 ごく一部の人でしょうが、こんな人は事故を起こさないと考えを改めない
でしょう。(事故を起こしても、運が悪いとしか思わないかもしれません)

 皆さんの会社では多くの自転車・バイクの通勤者がおられると思います。
通勤途上の事故や、始業時間ぎりぎりになって、猛スピードで出勤するなど、
安全を担当されている方は心配事が絶えないでしょう。
 特にこれから梅雨を迎えるにあたって、改めてもらいたいのが、「傘差し
運転」です。片手で傘を持って運転するのはとても危険なものです(前方が
見にくい。風であおられる。ハンドル操作が困難等)バイクと同じようにレ
イコートを着用して欲しいと思います。(都道府県によっては傘を持つなど
の片手運転は禁止し、罰則を設けています)

 通勤途上災害は事業者責任を問われないケースが多いのですが、大きな災
害になった場合は、突然、何日も休むことになります。最悪の場合、死亡し
たら、その人のノウハウを一瞬に失うことにもなります。これは事業者にと
って大きな損失ですから、対策が必要だと考えます。
 例えば、
 危険要因を無くすという視点で、公共交通機関利用への移行
 管理面対策という視点で、自転車通勤ルールの決定・運用
 安全意識を高めるという視点で、自転車交通安全教育の実施
               (道路交通法や自転車マナー、事故例等)
 用具の適正という視点で、自転車点検・整備(ライトやブレーキ)
 使用方法という視点で、傘差し運転の禁止、夜間ライト点灯
 保護具という視点で、ヘルメット着用
 経済的リスク回避の視点で、自転車保険への加入義務付け

 自転車による災害で重症となるケースの多くは頭部の損傷です。個人的に
は自転車用ヘルメットの着用義務付けを導入して頂きたいと考えます。(着
用が世間的に目立つことと、監視が行き届かないという困難な面があります)
 ご注意頂きたいのは、自転車通勤でも、構内に入ってからの自転車事故は
通勤災害ではなく、労働災害になります。構内での自転車通行帯を定める事
(歩行者動線、自転車動線等)を検討することも重要だと考えます。
 
 自転車・歩行者は「交通弱者」と呼ばれることがあります。しかし、加害
者になった事例も多くあります。
 自転車の保険(傷害保険・賠償責任保険)に入っていないケースが多く、
相手に障害が残った場合や、死亡させた場合には経済的にも大きな負担にな
ります。
 会社に通勤で自転車を利用される方には自転車保険に加入を義務づけるの
も必要なことだと思います。(自動車保険の特約に含まれる場合は可)
 
 6月から全国安全週間の準備月間が始まります。
 労働災害防止の活動の中に安全運転のための活動を加えてはいかがでしょ
うか。一般的な交通安全教育より、テーマを絞って、自転車運転者、バイク
運転者、自動車運転者を分けて、実施した方がいいと考えます。

 下に自転車運転者向けの安全運転教育資料のホームページの一部を紹介し
ます。                     
                            ご安全に!

警視庁 自転車安全教育用 図説パンフレット&パソコンソフト
http://www.jatras.or.jp/jitensya/jitensya.html

大阪府警察作成 自転車の交通安全ルールハンドブック
http://www.police.pref.osaka.jp/03kotsu/jitensya/images/bicycle.pdf

警察庁 交通事故危険予知トレーニング
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/kotu/yosoku/yosoku.htm


2009年5月16日(トレーラー事故)
 5月12日、大阪の阪神高速でトレーラーのコンテナが落下する事故が発
生して6人が負傷しました。新聞やニュースでご覧になった方もおられると
思いますが、トレーラーが中央分離帯に接触して、そのはずみで、反対側の
車線にコンテナが落下したのです。中央分離帯の壁の上からコンテナが飛ん
でくるようなもので、その時、走行していた人は驚いたことでしょう。そん
な大きな事故でしたが、幸い軽傷でした。しかし、翌日には、名古屋で大型
トレーラーが横転して、下敷きになった2名が亡くなりました。
 原因は、国交省の通達によると、両方の事故とも、トレーラの荷台とコン
テナを固定する緊締装置のロックができていなかったということです。
 固定ロックができていない事故がたまたま2日続いたのでしょうか?
 偶然続いたというのではなく、この事故以外にも固定ロックができていな
いケースもあるのではないかと思います。ロックが不十分でも、大きな遠心
力・大きな衝撃がなく無事に走行したケースも多いでしょう。
 
 コンテナを積み込んだら、もう一度、指差し呼称で点検してください。急
いでいても、確認! 「弘法も筆の誤り」「猿も木から落ちる」といいます。
「ロックを忘れるなんて信じられない」と思っているでしょう。誰でもミス
をする可能性があります。

 この事故を受けて、国土交通省は通達を出しました。

  国土交通省自動車交通局 通達
   http://www.mlit.go.jp/common/000040115.pdf

 この事故を考えていると、「制限速度」とは何だろうと考えてしまいまし
た。車両の種類によって、また、区間によって決まっています。
 ポルシェ・フェラーリのような車高の低いスポーツカーも、車高が3メー
トル近いトレーラーもバスも同じです。この制限速度を守っていれば転倒し
ないというものではありません。カーブなどで遠心力が働けば倒れやすくな
ります。
 名古屋で転倒したトレーラーとコンテナの重さは合わせて約27トン
 遠心力を計算するのは、「(質量×速度の2乗)÷半径」となり、1トン
の乗用車に比べると27倍の力が加わります。その上、重心の位置は普通乗
用車の3倍以上高くなります。
 メーカーの方では十分な計算に基づいている設計になっているでしょうが、
それはコンテナが正常に固定されている場合であって、固定が不十分であれ
ば、わずかなカーブでもコンテナが落下するでしょう。

 コンテナ設置後、コンテナの回りを1周しながら確認するだけで事故は激
減するでしょう。
 安全は、確認の時間を作るだけで、信頼性は高くなります。
                             ご安全に!



2009年5月9日(インフルエンザ発症と今後)
 5月9日早朝に飛び込んできたニュースは日本人3人が新型インフルエン
ザに感染したということでした。
 空港で実施している水際対策として飛行機内での検疫が功を奏しました。
もし、検疫がなければ、3人の感染者はウイルスをまき散らしながら大阪へ
移動し、国内で二次感染が出るところでした。
 検疫官についてはGWも休みなく、そして、自分自身が感染するという危
険がある中で対応いただき、本当に感謝しています。しかし、まだまだ世界
では感染者は拡大しています。しばらく続きますが、がんばっていただきた
いと思っています。
 この新型インフルエンザはいつまで続くのでしょうか。日本では気温が高
くなり、梅雨にも入ります。日本国内で感染が発生しても爆発的な感染拡大
にはなりにくい気候になっていきます。
 しかし、それは北半球のことで、これから冬を迎える南半球では、これか
ら感染が拡大することは容易に想像できるでしょう。そのため、日本では夏
が過ぎ、冬を迎える頃には新型インフルエンザが猛威を振るうことも考えら
れます。予防ワクチンは製造されると思いますが、間に合わないかもしれま
せん。
 皆様の会社ではどのように対応されたでしょうか。感染国への出張を延期
することや、駐在者を帰国させる会社もあったでしょう。ある企業ではGW
明けにサーモグラフィーを使用して出勤途中の社員をチェックしていました。
マスクを集める企業や非接触型体温計を購入する企業もありました。
 さて、次の冬には今までの季節性インフルエンザと新型インフルエンザの
両方に警戒しなければなりません。今以上の混乱が起こるのではないかと考
えます。新型インフルエンザに感染すると、社長であろうが、人事担当者で
あろうが、例外なく隔離されます。
 新型インフルエンザの免疫を持っていないし、予防ワクチンの投薬はいつ
から開始されるか分かりません。今後できるのは季節性インフルエンザの予
防接種をすることでしょう。もちろん新型インフルエンザには何の効果もあ
りませんが、高熱を出した社員が居た場合、すぐに発熱外来に行かせ、感染
の可能性がある人を隔離する必要が出てきます。検査の結果、陰性だとして
も、多くのロスが発生します。そうならないように季節性インフルエンザの
予防接種をするのは必要だと考えます。
 10月頃に全社員の季節性インフルエンザ予防接種の実施をお勧めします。
 なお、私は、今年冬の季節性インフルエンザ予防ワクチンは不足すると予
想していますので、早めに検討してください(新型インフルエンザワクチン
を同時に製造する場合、季節性インフルエンザワクチンの製造が少なくなる
と考えているからです)
                             ご安全に!

2009年5月2日(有機溶剤中毒を考える)
 4月23日に山口県の日立製作所笠戸事業所で3人が有機溶剤中毒になり
1人が死亡する事故がありました。
 事故の状況は、直径約7m、高さ約14mの円柱形の貯蔵タンクを横に倒
し、タンク内部の壁面をメチレンクロライドという有機溶剤を布(ウエス)
に染み込ませて拭き取る作業をしていました。
 作業時間は朝8時半から始まり、昼休みをはさんだ午後1時半頃に作業員
が助けを求めたということで、3人が有機溶剤中毒になり、死亡者が出る事
故でした。作業に関しては、防毒マスクを着用し、直径60cmの換気扇を
2台作動させていました。
 メチレンクロライドは第2種有機溶剤に該当します。許容濃度は50ppm
管理濃度は100ppm。発がん性の疑いもあるものです。
 防毒マスクを着用して、換気もしていたのになぜ、死亡事故になったので
しょうか?
 詳細は明らかにされていませんが、私なりに考えてみました。
 1番目の疑問は、防毒マスクに使用する吸収缶の使用限度を超えて、破過
したのではないか(破過とは、吸収剤が有機ガスを吸引し、限度を超えたた
めに有機ガスが吸収缶を素通りする状態)と考えます。
 吸収缶は何時間使用できるかは決まっていません、空気中の有機溶剤ガス
濃度と気温と湿度で変わってきます。濃度が高いと短時間で破過するのです。
 当時、タンク内の有機ガス濃度はどのくらいだったのでしょうか。測定を
したとしても、時間的に濃度の変化が大きく、濃度を決定するのは困難でし
ょう。
 なお、防毒マスクは使える濃度の上限があります。
  全面型防毒マスクは、許容濃度(曝露限界濃度)の50倍まで
  半面型防毒マスクは、同上の10倍まで
   (日本呼吸器保護具工業会の指導)
  平成2年9月26日の労働省告示第68号「防毒マスクの規格」では
 http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=942   
  隔離式防毒マスクは、空気中の有機ガス濃度2%まで
  直結式防毒マスクは、空気中の有機ガス濃度1%まで
  直結式小型防毒マスクは、空気中の有機ガス濃度0.1%まで

 2番目の疑問は換気です。
 60cmの換気扇が2台あったと報道されていますが、タンク内が密閉状
態で排気換気した場合、空気の流入がないので排気できず、換気扇が空回り
します。また、開口部(入口等)があって空気の流入があった場合でも、開
口部と換気扇が接近している場合は、開口部から新鮮な空気が入るが、すぐ
に換気扇で排出された場合は、タンク内部の空気の換気が十分できません。
換気は開口部(空気取入れ口)と排気口(換気扇)の間に発生源がなければ
効率よく換気ができません。また、メチレンクロライドは蒸気密度が2.93
あり、空気の約3倍の重さがあるので、下の方に溜まりやすく、換気の効率
が悪くなります。
 換気扇の能力と、蒸気密度を考慮し、開口との位置関係が不適切だったの
ではないかと考えます
 今回の場所は、商品である貯蔵用タンクであり、換気扇を適切な場所に設
置することは困難であるため、排気ダクトを使い、濃度の測定が困難なため、
送気マスク(エアラインマスク、ホースマスク)を使用するのが適切と考え
ます。
 それより、内部の壁面(約300u)の拭き取り作業で、メチレンクロライ
ドを使って、手で拭き取る作業を改善することが必要だと考えます。
 
                             ご安全に!

2009年4月25日(新型インフルエンザに警戒)
 今日、25日はJR福知山線が脱線した日です。今日で丸4年になります。
JRでは事故の風化防止と社員の安全教育のために“鉄道安全考動館”を吹
田市のJR西日本社員研修センターに開設しました(2007年4月3日)しかし、
JRは遺族に配慮して一般公開はしていません。JALの安全啓発センター
(東京都太田市)は一般公開しているのでJRも公開して欲しいと思います。
   参考 JAL安全啓発センター
   http://www.jal.com/ja/safety/center/center.html
 
 今朝、ニュースで豚インフルエンザが人から人へ感染し、死者が60人を超
えていると報道されました。世界を脅かす新型インフルエンザかもしれませ
ん。ただ、H1N1型はAソ連型と同じ型であるし、多くの方が免疫を持っ
ているが、実際に死者も出ていることから十分な警戒が必要だと思います。
(近日中にも“フェーズ4”が発令される可能性があります)
フェーズとは
フェーズ1:ヒト感染のリスクは低い
フェーズ2:ヒト感染のリスクはより高い
フェーズ3:ヒト−ヒト感染は無いか、極めて限定されている
フェーズ4:ヒト−ヒト感染が増加していることの証拠がある
フェーズ5:かなりの数のヒト−ヒト感染があることの証拠がある
フェーズ6:パンデミック期

 現段階(4月25日)では十分な情報がありません。
 必要都度、下記などから情報を集めてください

新型インフルエンザ対策ガイドラインはこちらを確認してください。
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/09.html

厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/
メキシコ及び米国におけるインフルエンザ様疾患の発生状況について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/04/h0425-1.html
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2009/04/dl/h0425-1a.pdf
厚生労働省 新型インフルエンザ対策関連情報
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/index.html
国立感染症研究所 感染症情報センター
http://idsc.nih.go.jp/index-j.html
米国疾病対策センター CDC
http://www.cdc.gov/
                             ご安全に!


2009年4月18日(原因は? クレーン転倒事故)
 14日に東京千代田区でクレーンの転倒事故がありました。
 長さ28メートル、重さ104トンもあるクレーンが倒れる衝撃は本当に
凄まじい。
 なぜ倒れたか?
 まだ、詳細は明らかにされていませんが、現在のところ、ケーシングと呼
ばれる金属製の円筒形資材とクレーンの位置が離れすぎていたと報道されて
います。クレーンはクレーン車の中心から距離が離れれば最大荷重が減りま
す。人間も、体の近くで物を持ち上げる時と、腕を水平に伸ばした時に持ち
上げる時を比べると、体から離れるほど持ち上げる力は弱まりますね。人間
とクレーンは同じように距離が近いほど能力を十分に発揮するのです。しか
し、クレーンは距離が離れても物を持ち上げるパワーは距離が離れても一緒
です。距離と重量を掛けたモーメントが、あるポイントを過ぎると、クレー
ンは倒れるのです。
 クレーンには過負荷防止装置が付いているものがあります。ジブ(アーム)
の角度と荷重を感知し、定格荷重を超えそうになれば警報を発し、定格荷重
を超えた場合、自動的に停止させるものもあります。
 事故を起こしたクレーンのオペレーターは無資格運転と報道されていませ
んから、距離と最大荷重の重要性は知っていたと思います。
 この事故の原因は、単に最大荷重(荷重と距離)を誤っただけではないよ
うに思います。ケーシングの重さは当初の報道は実際より3トンも少ない7
トンでした。報道を見る限りでは、クレーンとケーシングの距離は事前に測
っていなかったようです。さらにケーシングは地中に埋め込んだ状態あった
のでケーシング本体の重さより大きな荷重がかかったはずです。しかも、斜
め吊をしたと報道されているのだから、安全にクレーン作業ができる状態で
はありませんでした。
 ケーシングを吊り上げるためにはケーシングに接近する必要がありますが、
104トンのクレーン車を動かすことは容易なことではありません。地中の
ケーシングを引き上げる際の摩擦抵抗を計算することも容易ではありません。
しかし、その作業は安全には絶対必要なものです。
 頭では分かっていても、時間的制約、人員的制約、金銭的制約があってで
きないケースもあるのでしょう。今回の事故の原因は、単にケーシングまで
の距離を誤っただけでないと推測します。「安全が最優先である」という意
識と、それを実践するためコスト(時間・人員・金銭・教育)が欠如してい
たことだと思います。
                             ご安全に!

2009年4月11日(安全グリップ付きゴミ袋)
 先日、テレビを見ていて、とても感心した商品がありますので紹介します。
ゴミ回収用のゴミ袋です。名前は“安全グリップ付きゴミ袋”労働災害防止
型ゴミ袋なのです。大分県にある日本フィルム株式会社の製品です。
 ゴミ袋は家庭のゴミを入れて出すだけだから、どのメーカーでもあまり差
が無いように思われます。しかし、この製品は、使う側にはあまりメリット
がないのですが、回収業者の従業員の安全にとても役立っているのです。
 回収業者の従業員の労働災害の中に、ゴミ袋を持つ時の“突き刺し”災害
がとても多いのです。皆様方はきれいに袋詰めをして出していると思います
が、中には、尖った物が袋を突きぬけてることや、ガラスのような危険な物
が入っていることもあるでしょう。それによって回収業者の従業員が怪我を
しているのです。このゴミ袋には、回収業者の従業員が持ち易いように取っ
手(グリップ)が付いているのです。それも上と下の両方にあります。回収
業者の従業員はこの取っ手を持って、回収車に投入することができるので、
刺し傷、切り傷が減っているのです。
 指定ゴミ袋を導入している市区町村では、この“安全グリップ付きゴミ袋”
を指定して欲しいと思います。

日本フィルム株式会社のHPは
http://www.nipponfilm.co.jp/
安全グリップ付きゴミ袋の紹介ページは
http://www.nipponfilm.co.jp/seihin/frame/main-002.html#001
                             ご安全に!

2009年4月4日(突然の陥没)
 4月2日、北海道のゴルフ場でコースの一部が突然陥没し、女性が墜落し、
底の地下水の中で窒息死する事故がありました。
 誰もが予想しない事故だったのではないでしょうか。
 地質学者によれば、「現場付近は、水を通しにくい地層の上を火山灰や軽
石などが覆っており、地下水や雪解け水が原因で穴ができた可能性もある」
ということです。
 芝生の地下茎がマンホールのフタのような働きをして、見た目には異常が
分からなかったのでしょう。
 このようなリスクも「あり得る」ということを頭に入れておきましょう。
 
 今年の労働安全衛生規則の改正で足場等の墜落防止があります。
 北海道の陥没事故は見えにくかったのでやむを得ない事故でとても残念で
すが、産業の現場には見えている開口部から墜落する事故が多く発生してい
ます。
 今回の改正では、手すりの高さを85cm以上にすること。と定められま
した。手すりを高くすると、しゃがんだ時などに、手すりの下から墜落する
可能性が高くなります。そこで、作業床から高さ35cm以上、50cm以
下の位置に“さん”を取り付けることになりました。さらに、足場などの作
業床から工具・材料などを落とすことによる災害を防ぐため、足元に15
cm以上の幅木を取り付けるようになりました。
 なお、この手すりの高さの変更は建設現場の足場だけのことではありませ
ん。墜落の危険がある場所では85cm以上の手すりを付けてください。

●「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について」
    基発第0311001号 平成21年3月11日
 足場関係 
  架設通路および作業構台からの墜落および物体の落下にかかる労働災害
  防止対策の強化のため
  (1)高さ85cm以上の手すり
  (2)高さ35cm以上50cm以下のさん又はこれと同等以上の機能を有す
   る設備(中さん)
  その他詳細は
 http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-50/hor1-50-5-1-0.htm
                             ご安全に!



2009年3月28日(休日の閉じ込められ事故)
 3月22日(日曜日)に鳥取県農林総合研究所のコンテナ型木材乾燥機に
閉じ込められ、熱中症で45歳の女性が死亡する事故が発生しました。
 被災者は休日に出勤し、木材乾燥機を操作しました。木材乾燥機は55度
に設定し、中で作業している際に、中に閉じ込められ、熱中症で死亡したと
されています。この木材乾燥機は長さ約5m、横幅は約2m、高さも約2m
のコンテナ型で、入口のドアは中からも開けられる構造でした。しかし、中
から操作するボタンが故障しており、外に出ることができませんでした。ド
アは被災者自身が閉めたのか、風などで自然に閉まったのかは分かりません。
ドアの内側には、被災者が必死になって壊そうとした打撃の跡があり、この
災害の悲惨さを物語っていました。
 この災害の原因は、ドア内側のドアロック解除ボタンの故障でした。この
日に壊れたのか、以前から壊れていたのかは分かりません。
 この日は休みのために出勤者も少なく、残念なことに、携帯電話を持って
いましたが、この作業の際には事務所に置かれたままでした。近くに誰かが
いたら、または携帯電話を身につけていたら助かっていたはずです。
 原因はドアロック解除ボタンの故障でしたが、構造にも課題があったよう
に思います。ドアロック解除ボタンはいつかは故障するでしょう。今回のよ
うな装置では、ドアはロックされず、外からカンヌキ等で閉める構造が良い
でしょう。(ドアの内側に取り付けられているドアロック解除ボタンは、風
で、勢いよく閉まる時の衝撃などが原因で壊れたのではないかと思います)
 今回のような閉じ込められる事故は、業務用のプレハブ冷凍庫などでも発
生します。倉庫など何も無いところに閉じ込められた場合は、飢えの心配は
ありますが、数日生きられると思います。しかし、今回のような熱風あるい
は冷気があるところでは、短時間で生命の危険があります。フェールセーフ
や2重3重の安全対策が必要になります。
 みなさまにおかれましては、閉じ込められる可能性がある場所をチェック
いただき、危険性が高いものから故障などの緊急時の安全性を検証してくだ
さい。
                             ご安全に!


2009年3月21日(野焼き)
 3月17日に大分県の湯布院で野焼き中に火が燃え上がり、4人の命が失わ
れました。調べてみると、毎年のように野焼きで死亡事故が発生しています。
それを見ながら、「なぜ、二酸化炭素削減の時代に野焼きをしているのだろ
う?」と思い、調べてみました。
 奈良の若草山、阿蘇草原など美しい草原がありますが、これは、そのまま
にしていると、森林になってしまうということです。日本人は野山を草地と
して継続して利用していくために、新芽が出る前に枯れ葉を焼いているそう
です。
 今回の事故には多くの要因がありそうです。
 ・野焼き作業者の高齢化。
 ・野焼き作業者の人材不足により他地区より応援を求めながらの実施で、
  慣れない人が多く、手順が周知できなかった。
 ・作業手順だけでなく、火の延焼時の避難方向が周知されていなかった。
  (不慣れなために防火帯の内側に行ってしまった)
 ・乾燥注意報発令時は禁止されていたが、ルールが風化されていた。
 ・乾燥していたため、火が勢いよく燃えた
 ・480ヘクタールという巨大な草原のため、作業員の監視ができない。
 ・火災旋風が発生したため、被害が大きくなった。
   (火災旋風とは:発生した火災が酸素を消費し、火災の発生していな
    い周囲から酸素を取り込むことで、局地的な上昇気流が生じる。こ
    れによって、燃焼している中心部分から熱された空気が上層へ吐き
    出され、それが炎をともなった旋風になる。さらに、これが空気の
    あるほうへ動いていき、被害が拡大していく。)
 ・多くの人力を必要とした。(今回の野焼きは70人で実施した)

 どうすれば良いと思いますか。
 作業方法、避難方法が周知されていたとしても、炎が接近してきたら、冷
静な判断はできないと考えるべきでしょう。したがって、教育やルールの周
知では防げない問題です。
 乾燥注意報発令時には実施しないこと。これが作業開始の判断になると考
えます。大分県の乾燥注意報の基準は、『最小湿度45%、実効湿度65%』
です。(基準は都道府県によって異なります。ちなみに大阪は最小湿度40
%、実効湿度60%』です)しかし、乾燥していなかったら安全とは言えま
せん。

 安全に作業をするには、以下を提案します。
 @最低湿度、実効湿度を測定する。実施基準で判定する
 A着火は遠隔操作とし、人間は防火帯の内側には入らない方法を取る。
 B防火帯は幅30メートル以上を確保し、堀や道路とする。
 C風下には消防車を待機させる。
 D作業者は飛び火の場合などの緊急時のみの対応とし、方法を周知する。
 E防火帯の内側には赤外線センサーを取り付け、作業者が内側に入った場
  合は反応するなどして、作業者の侵入を監視する。
 どなたか『野焼きロボット』を開発してはいかがでしょうか。
 全国で数百箇所もの野焼きがあるので、事業として成立すると思います。
 
 個人的には、野焼きは必要なのか考えています。毎年のように死亡事故に
なるリスクの高い野焼きを、二酸化炭素削減が必要と言う時代に実施する必
要があるでしょうか。このように書くと、非難を受けるかもしれませんが、
安全を確保する方法を検討する時には、必要か不要かを常に考える必要があ
ると思います。歴史を見直し、「廃止」することで、永久にリスクが無くな
るのです。
                             ご安全に!


2009年3月14日(感染性廃棄物)
 今週、気になった事故は、結果的には軽傷だったようだが、重大な危険性
を感じたものです。
 和歌山県立医大病院において、医療用の針がプラスチックゴミの中に捨て
られ、プラスチックゴミの中を整理していた、清掃会社の従業員の指先に針
が刺さった事故がありました。
 この事故で一番問題となるのはウイルス感染です。この災害では感染は認
められず、ひと安心となりましたが、本当に恐ろしい事故でもあります。も
しウイルス感染者に使用した針であれば、感染の可能性があります。感染す
るとその人は一生ウイルスと闘わなければならなくなり、生命の危険もあり
ます。
 病院など血液が付着したものなどを廃棄する場合は、廃棄物処理法(廃棄
物の処理及び清掃に関する法律)により、感染の恐れがあるものは特別管理
廃棄物として、特にに厳重な管理を求められています。例えば、医療に伴っ
て発生する感染性廃棄物を適正に処理するために、特別管理産業廃棄物管理
責任者を配置する必要があります。
 
 今回の事故では医療に使われた針が誤って、プラスチックのゴミに混入し
たことが原因だと思われます。
 清掃会社の作業者がすべての物を分別するのは不可能です。手袋を着用す
れば、血液付着物のゴミからは身を守ることができますが、針は手袋を突き
破るので効果が期待できません。
 なぜ針が混入したのかは分かりませんが、間違いを防ぐことは可能です。
 それは、医療行為を行う場所とそれ以外を分け、医療行為をする部屋のゴ
ミは全て感染性廃棄物として扱うのです。
 分別すると間違いが起こる可能性があります。分別しなくていい方法が効
果あるでしょう。(ただし、何かに付着した状態で室の外に出ることも考え
られるので、完全な方法とは言えません)
 それと、忘れてはいけないのが『教育』です。感染性廃棄物のことを教育
していなければ、守るべきルールも守られません。
 間違わない環境と、感染性廃棄物のリスクと守るべき内容の教育が必要だ
と考えます。
                             ご安全に!
 
  (参考)
  感染性廃棄物は、次の各号に定めるものをいう。
  1 形状の観点
   (1)血液、血清、血漿及び体液
   (2)手術等に伴って発生する病理廃棄物
   (3)血液等が付着した鋭利なもの
   (4)病原微生物に関連した試験、検査等に用いられたもの
  2 排出場所の観点
   感染症病床、結核病床、手術室、緊急外来室、集中治療室及び検査室
   において治療、検査等に使用された後、排出されたもの
  3 感染症の種類の観点
   (1)感染症法の一類、二類、三類感染症、指定感染症及び新感染症並
     びに結核の治療、検査等に使用された後、排出されたもの
   (2)感染症法の四類及び五類感染症の治療、検査等に使用された後、
     排出された医療器材、ディスポーザブル製品、衛生材料等
  
    また感染性廃棄物は「バイオハザードマーク」を表示することが推
    奨されています。 感染性廃棄物の適正処理については
    平成16年3月16日 環廃産発第040316001号をご覧ください
  
http://www.env.go.jp/press/file_view.php?serial=5741&hou_id=4791

2009年3月7日(エスカレーター)
 今週、JR東日本は全エスカレーター(1681基)の改良工事を行うと
発表しました。
 問題は緊急停止が頻繁に発生しているのです。頻繁とは毎月3000回に
もなります。1つのエスカレーターが毎月2回止まっていることになります。
 もし、エスカレーターが緊急停止したらとても危険です。手すりを持たな
い人が多いため、急に止まると転倒・転落も発生します。
 JR東日本は怪我をされた人数の公表をしていませんが、かなりの方が怪
我していると思います。自分は手すりを持っていても、上の人が落ちてきた
ら、きっと支えられず、一緒に落ちていくことになるでしょう。この緊急停
止はJR東日本に限ったことではありません。おそらく大阪も全国のエスカ
レーターもかなり高い確率で緊急停止していると思います。

 エスカレーターの事故で思い出すのは、
 2008年8月3日東京ビックサイトでの逆走事故
 2008年5月12日名古屋市営地下鉄での逆走事故
 2007年10月17日神奈川のスーパーで手すりから身を乗り出し小学生が死亡
 他にも樹脂製サンダルがステップの隙間に挟まれて足を怪我するなどがあ
ります。
 今月6日にはJR水戸駅のエスカレーターで女性が首に巻いたストールが
巻き込まれ窒息する事故もありました。

 JR東日本の緊急停止はエスカレーターを走ったり、荷物・靴がが引っか
かる等、大きな力が加わった時に安全装置が働くものです。
 JR東日本の対策は、「みんなで手すりにつかまろう」キャンペーンの実
施と、安全装置動作条件の変更と、緊急停止をゆるやかに停止させることで
す。
 日本エレベータ協会では、エスカレーター上での歩行を禁止していますが、
JR東日本ではエスカレーターで歩行を禁止と書かず、手すりを持つことを
呼びかけています。駅だから、急ぐ人に「立ち止まれ」と指導することに無
理があると判断したのでしょうか。でも、全員が急いでいるわけではないの
で、「エスカレーターは手すりを持って、左側に立ち止まって利用しましょ
う」(関西では右側になります)の方がいいのではないでしょうか。
 先日、エスカレーターに乗って、感じたのですが、エスカレーターは、黄
色い線を引いて、黄色い線を踏まないようにとしています。それより、足型
の形等を描いて、その上を踏むように指導した方が良いのではないでしょう
か?「ここを踏むな」というだけでなく、「ここを踏め」とした方が、より
安全だと思いませんか?
 皆さんは部下などを指導するときは、「こうしなさい」と「これはしては
いけない」「もしこうしたら、こんな事故がおこる」と、良い方法と悪い方
法を教えていると思います。
 今回、JR東日本はエスカレーターの改良を宣言しましたが、これで事故
が無くなるとは限りません。設備側の安全化と利用者側の安全意識が向上し
て、安全性が高まると思います。
 エスカレーターを利用する時も、ご安全に

参照ホームページ(JR東日本)
http://www.jreast.co.jp/press/2008/20090303.pdf

2009年2月28日(水道のレバー)

 水道のレバーを見ながら考えたことをお話します。
 昔は水道の蛇口と言えば、三角ハンドルでした。この三角ハンドルをどっ
ちに回転させれば閉まるのか? ということが、子供の頃にはなかなか覚え
られなかった記憶があります。「右に回せば閉まり、開ける時は左に回す」
と両方を覚えるので、間違えてしまう事が多かったのです。
 確か、父親が、「閉めるのは『ひらがな』の『の』と、同じ方向に回すと、
覚えなさい」と教えてくれました。これを聞いてからは間違うことなかった
と思います。
 多くの台所の水道は温水と冷水の混合栓としてレバー式になっています。
私の家の台所の水道のレバーは下げると水が出ます(平成6年設置)。当時
は、レバーを上げると水が出るタイプ(上げ式)とレバーを下げると水が出
るタイプ(下げ式)の混在でした。当時は、規格が無かったので、混在して
紛らわしかったと記憶しています。その後、1995年に阪神大震災があり、
揺れなどで、水道のレバーの上に物が落ち、水がでっぱなしになるケースが
多かったため、2000年4月に日本工業規格はレバーを上げる方式に統一
されました。
 JISにより、統一はされましたが、私は逆の向き(下げると出る、下げ
式)が理にかなっていると思います。蛇口からシンクの方に水が出る。すな
わち、上からレバーを下ろすと同時に水が同じ方向に出る、下げ式の方が自
然で覚えやすいのです。
 人間と機械をつなぐインターフェイスは、単純で簡単である必要があるの
です。例えば、車を運転では、右に曲がる時、右にハンドルを回しますね。
曲がりたい方向と操作の方向・動きの同じなので間違えにくいのです。
 したがって、水道のレバーのことは、地震などの備えて安全を保障する構
造になっているが、わかりやすいインターフェイスとは言えないということ
です。
 これはこのままでいいのでしょうか?
 水道の栓はJISでレバー操作が定められていても、産業の現場では類似
の作業・施設があるでしょう。
 水道だから間違えて出しても、間違えて止めても、それほど問題にならな
いでしょうが、産業の現場には有害な物・地球環境に影響を与えるものがあ
ります。もし、レバー操作を間違うと事故につながるかもしれません。
 そこで、私の案は、『レバーを無くす』ことです。センサー式の栓に換え
れば、汚れた手で汚染を広げることも、上げる失敗も下げる失敗も無くすこ
とができます。そして、閉め忘れも防止できます。
 産業の現場にはたくさんのレバーがあります。そのレバーの動きは機能と
つながりがありますか。レバーの向きを徹底的に調査してみてはいかがでし
ょうか。
                            ご安全に!

2009年2月21日(中小企業緊急雇用安定助成金)

 今週、ハローワークに行きました。ハローワークと名前が変わってからは
初めてです。
 目的は、2月6日に改正された、「中小企業緊急雇用安定助成金」の説明
を聞くためです。今週発表があったように、日本のGDP(国内総生産)が
2桁も減少する異常事態です。多くの企業が生産を落とし、休業するケース
が報道されています。報道の多くが大企業ですが、中小の企業はもっと大き
な現実に苦しんでいるのです。
 そんな中、従来の雇用調整助成金制度が見直され、中小企業緊急雇用安定
助成金制度が創設されました。
 この中小企業緊急雇用安定助成金は、生産または売上高が5%以上減少し
ている企業に対し、生産調整のために休業した場合、算定日額のの5分の4
を支給するものです。(大企業の場合、3分の2)
(注:中小企業とは製造業の場合、資本金3億円以下または従業員300人
以下)
 私が、眼を付けたのは、休業した日に教育訓練を受けた場合の助成金です。
上述の5分の4の助成金にプラスして、訓練費として1人1日6000円が
加算されるのです。
 これは、安全衛生に対する教育が不十分と思っている企業で、休業を考え
ている企業にとって、とても良い助成金ではないでしょうか。
 リスクアセスメントやマネジメントシステムを導入している企業や、これ
から導入しようという会社でも社員全員に教育するのはとても困難です。こ
の助成金を活用すれば、コストをかけずに(訓練費の助成金を講師の手配費
用に充当する)教育の充実を図ることが可能だと思います。
 詳しくは、以下の厚生労働省のホームページ資料をご覧ください。
 また、メールいただければ、中川が相談の乗らせていただきます。

参考
厚生労働省
「事業主の方への給付金のご案内」
 http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/naitei/jigyou.html
「雇用調整を行わざるを得ない事業主の方へ」
 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a-top.html
「中小企業緊急雇用安定助成金パンフレット」
 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/pdf/koyouiji.pdf
「中小企業緊急雇用安定助成金様式集」
 http://www.mhlw.go.jp/general/seido/josei/kyufukin/a04-1.html
                            ご安全に!

2009年2月14日(電動自転車を考える)
 先日、大阪市内を歩いていた時のことですが、正面から自転車がもの凄い
スピードで向ってきました。とても怖かった。この自転車は『フル電動自転
車』と呼ばれるものでした。電動自転車というと一般的に『電動アシスト自
転車』を指します。『電動アシスト自転車』は、人力の補助をするモーター
が付いて、ペダルをこぐ力に応じて電力を供給しますが、『フル電動自転車』
はペダルをこがなくても走るのです。この『フル電動自転車』は道路交通法
上、自転車には該当しないのです。『原動機付き自転車(原付)』として扱
われます。しかし、売られているものは方向指示器などの装備がないので、
公道を走ることはできません。
 今、この公道を走れない違法自転車が、堂々と歩道・車道を走っています。
 外観はペダルもあるし、一見して自転車です。違いはペダルを踏まなくて
も走る点です。(電動アシスト自転車はペダルを踏まなくては電動機が働き
ません)
 電動アシスト自転車は10万円前後するのに比べ、フル電動自転車は4万
円前後で買うことができます。販売店は「この電動自転車は公道を走ること
ができません」と断り書きをしているだけです。安いし、楽だから、今後、
増える可能性があります。
 ペダルを踏まなくても時速30kmも出るのです。これが、歩道を走った
り、車道を逆走したりしているのだから、とても危険です。

 これを読んでいただいている多くの方は事業場で安全にかかわっておられ
る方だと思います。
 是非とも事業場の通勤自転車のチェックをお願いしたいと思います。
 公道を走れない違法自転車で交通事故を起こすと、保険会社から保険給付
ができないケースもでてくると思います。
 
 昨年12月から道路交通法が改正され、電動アシスト自転車の人力に対す
る動力比率が1対1から1対2に変わり、今まで以上に楽に走ることができ
ます。今まで車を利用していた方が電動アシスト自転車を利用することにな
れば、二酸化炭素排出抑制など、環境保全のためにいいことですが、その反
面スピードが出やすくなっています。自転車の災害防止や違法自転車の排除
など皆様の力で改善していただきたいと思います。

(参考HP)
香川県警察(ペダル付き原動機自転車は免許が必要)
http://www.pref.kagawa.jp/police/koutsuu/gentsuki/index.htm
(参考)
もし、フル電動自転車で公道を走りたいと思ったら、フロントライト・テー
ルランプ・方向指示器・ブレーキランプ・スピードメーターなどの装備が必
要になり、原付の運転免許を持ち、メルメットを着用し、ナンバープレート
を取得する必要があります。自賠責保険の加入も必要です
                            ご安全に!


2009年2月8日(人間のミスは防げない)
 2月5日の新聞に、JR西日本が列車ドアの開け間違いゼロにする『ドア
誤扱い防止システム』を開発したと報道されました。
 この報道によると、ホームに列車が到着した際に、ホームと反対側のドア
を誤って開けてしまう事案が10年で60件もあったそうです(JR西日本
のみ)。その頻度は2カ月に1度の割合に相当します。
 信じられますか?
 乗務員がドアを開ける前にホームを確認すれば、間違うことはないはずで
す。しかし、実際には多くの間違いが発生しています。乗務員には指差呼称
しなさいと指導されています。「見て」「指差して」「声に出す」この3つ
のアクションを行えば、ミスは起こりにくいものとして、多くの事業場で実
践されています。しかし、実際にはミスが起こっています。(指差呼称をし
て間違ったのか、指差呼称をしなかったのかは明らかではありません)
 JR西日本では超音波によってホームを感知しなければドアを開ける操作
をしてもドアが開かないシステムを開発し、今後導入するということです。
このシステムは何も新しいものではありません。産業の場には多く導入され
ています。
 このことから、「間違うはずがない」と考えられていることでも、人間は
ミスをしてしまうのです。ホームを確認すれば間違いはないけど、その確認
を忘れてしまえば、いくら指導しても、徹底してもミスは防げません。
 人間はミスをするもの。ミスをすることを前提にして、センサーなどで安
全化を図る必要があります。しかし、作業の全てに安全確認型のシステムを
導入することは、容易なことではありません。どこが危険なのか、その重篤
度や可能性を検証すること(リスクアセスメント)が必要なのです。

                            ご安全に!


2009年2月1日(南日本造船のタラップが落下事故の続き)
 落語の小話に、家に棚を作ってもらったという話があります。
 「この前、作ってくれた棚が落っこちちゃったよ(怒)」
 「そんなはずは無ぇけどなぁ。なんか乗っけたんじゃねぇのか?」

 これは落語の話ですが、実際に同じようなことが南日本造船で発生しまし
た。
 労働安全衛生規則第540条(通路)や第552条(架設通路)などに、
『安全な』とか、『丈夫な』などの言葉があります。安全に通行できるかど
うかの根拠もなく使用されました。
 事故の背景には、「過去に作ったタラップでは事故が発生していない」と
いう成功経験があるのでしょう。十分な強度計算もせずに、「安全に使えた」
その慢心があっただろうと思います。成功した経験は安全を保障するもので
はありません。安全な船を作るより前に、安全な船を作る作業者の安全を確
保していただきたいものです。
 
 さて、船のタラップのことで、「オープンウォーター2(2007年ドイ
ツ)」という映画を紹介します。うっかりしたミスにより大変なことになっ
てしまうという設定ということで、ヒューマンエラーを考えるための教材に
使えるのではないかと興味を持って見ました。

 ストーリーは男3人女3人の若者がメキシコ湾に豪華なヨットでクルーズ
に出かけた話です。海の真ん中でエメラルドグリーンの海に、はしゃぎなが
ら次々に飛び込みました。そして、上がろうと思った時に、タラップを出す
ことを忘れたことに気が付きました。船体は大きく、船の側面は水面から2
メートルぐらいあります。ジャンプしても届きません。シンクロナイズドス
イミングの団体競技であれば、2メートルぐらいジャンプできるでしょうが、
そんな技術はありません。そのうち、そばを通る船がありました。船に手を
振って、大声で助けを求めましたが、声は届きません。その船の人は「手を
振ってくれてる」と思ったので、手を振り返して、そのまま通り過ぎて行き
ました。
 6人は助かるために、いろいろ試してみますが、ことごとく失敗が続きま
す。体温は下がってくるし、体力は消耗していきます。

 『タラップを出し忘れる』という単純なミスから大変な事態になったとい
う映画でした。(結末を書くとお叱りを受けると思いますので、結末は伏せ
ておきます)興味がある方はお近くのレンタルショップで探してください。
  映画の予告編は下記アドレスのYouTubeで見れます。
  http://jp.youtube.com/watch?v=J8p-bkKN8KA
                            ご安全に!


2009年1月24日タラップが落下。25人が死傷
 新聞・ニュース等でご存じと思いますが、23日に大分の造船所でタラップ
が落ちて、2人が死亡し、23人がけがを負う大きな事故が発生しました。タ
ラップは長さが27メートル、幅は1メートルもあり、重さは6.8トン。まさか
そんな大きなタラップが落ちるなど、誰も予想しなかったでしょう。今のと
ころ、固定をしていたボルトが折れたために落下したと言われています。
 なぜ落ちたのでしょうか。
 死傷者は25人ですが、事故発生時には40人もの人がタラップに居たと言わ
れています。40人の体重に工具などの機材を含めると3トンを超えるでしょ
う。タラップの重量と合わせると、10トン近くなります。4本のボルトで支
えられる重量ではないでしょう。
 発生要因は事故の前にありました。作業開始は朝8時の予定でしたが、ク
レーンに不都合が生じたために、作業員は1時間も待機しなければならない
状態になりました。待機する場所は岸壁です。冷たい風が吹いています。作
業場所は船内だから、早く船内に入って作業を開始しようと考えるのは当然
です。そのため、わずか27メートルのタラップに、先を争うように40人も押
し掛ける状態になったのです。
 強度計算にミスがあったと想像できます。なぜなら、事故当時の発表では、
タラップの重量は3トンと報道されましたが、事故後に測定すると、6.8トン
もありました。タラップの重量は半分以下の重量で計算されたのですから、
安全率を勘案しても落下の可能性は高いです。まして、作業者が40人も先を
争うようにタラップを上るとは考えもしなかったでしょう。
 この事故が関係者だけにとどまらず、日本中の人が、『失敗事例』と考え、
職場を見直し、作業を見直して欲しいと思います。
                            ご安全に!


2009年1月17日奇跡を呼んだベテラン機長
 16日にニューヨークを飛び立った飛行機が墜落した。と思ったけど、実際
は奇跡と言われるような、見事な不時着でした。
 鳥がジェットエンジンのエアインテークに吸いこまれる「バードストライ
ク」という現象は多く発生しています。空中を高速で飛行するのですから、
鳥との衝突は避けられないものです。現在は、ジェットエンジンに1.8kgの
鳥を吸い込ませても、推力を維持できることを確認しています。それでも、
鳥の群れを飛行すると、大量の鳥が吸い込まれ、機能停止に追い込まれるこ
ともあります。操縦士は、片方のエンジンが停止しても、安全に着陸する方
法をシュミレーターで訓練しています。しかし、今回は両方のエンジンが停
止しました。(今回の両方が停止した原因は明らかではありませんが、もし、
バードストライクによって、両方のエンジンが停止したとすれば、初めての
ケースになります)
 この見事な不時着こそ、緊急事態対応訓練の賜物でしょう。多くの訓練経
験に基づく、技術と、冷静な判断が今回の155人の命を救ったのでしょう。
 つくづく、緊急事態を想定した訓練の重要さを感じました。

 話は変わりますが、インフルエンザが流行っています。電車の中でも、店
の中でも、咳をする人を見ます。皆さんの職場でも多いのではないですか。
インフルエンザで会社を休んでも、翌日には出勤してくる人もいるでしょう。
薬などで、症状は緩和できても、ウィルスは死滅しません。5日間ぐらいウ
イルスを撒き散らすことがあるので、周囲の人は気をつけましょう。
(インフルエンザにかかったら、5日間ぐらい休むべきだと思います)
 私はインフルエンザの予防接種をしていますが、それでも安心できません。
なぜなら、今年インフルエンザにかかった人の3割がタミフルでも効果あり
ませんでした。タミフルはインフルエンザに万能で、新型インフルエンザに
も効果があると認められていますが、時が経つとタミフル耐性になるかもし
れません。インフルエンザウイルスは進化続けているのです。その証拠に、
昨年インフルエンザにかかった人も、今年かかる可能性があるのです。それ
は昨年のウイルスと今年のウイルスが違うからです。(昨年できた免疫が今
年は機能しないということです)
 人類は永遠にインフルエンザウイルスと闘わなければならないのです。

                            ご安全に!

2009年1月10日(タクシーの事故防止)
 昨年暮れからタクシー運転手の被害が相次ぎました。とても残念なことで
す。タクシーの運転手も労働者です。対策はないものでしょうか。
 タクシーの運転手が何十万というお金を持っていることは少ないでしょう、
わずかなお金目当てに、かけがえのない命まで奪うという卑劣な行為は許せ
ません。
 かなり昔のことですが、運転手の首を絞めて、お金を奪う強盗が相次いだ
時に、運転席と後部座席の間の仕切り板を付けることが多くなりましたが、
大阪のタクシーは少ないようです。ある調査では16%しか付いていないと
聞きました。関東ではとても高い取付率になっているそうです。大阪のタク
シーは競争も厳しいのでそこまでコストをかけられないとか、コミュニケー
ションが取りにくいので付けないようです。しかし、このように犯罪が続け
ばそんな事は言ってられません。犯罪にあった商都交通では全車両に仕切り
板を付ける作業を始めています。また、京阪タクシーでは表示板(空車など
の表示板)に『助けて』と表示するものの設置を始めています。
 対策として列挙すると、
● 予防措置として
@仕切り板を付ける。
A緊急警報装置(助けを求める表示板)があることを乗客に知らしめる。
B車内の状況をビデオで撮影して、犯行を止める(しかし、プライバシーの
問題があるが、人命優先なので世間の理解が必要です)
C防犯教育(上記や下記を含めたもの)、防犯マニュアルの作成・周知
D怪しいと感じた時に、車内の音声または映像を本社または警備会社に送信
できるものを備え、GPSで現在地を送信する装置を付ける。

● 緊急措置として
@逃げる。
逃げやすくするために後部座席に煙幕を出す装置や、後部座席に強烈なライ
トを向けて、眼を眩ませる装置が開発されています。
A護身術を実践する(訓練が必要)。たとえば、相手の指を噛むとか、催涙
スプレーをかけるとか、スタンガンを使うなどがあるでしょう。
B外部に助けを求める表示板を点灯させる。

● どんな場合・どんな乗客が危険か
@行先が変わったり、あいまいな場合(犯罪に適した場所を探すため)
A人通りが少ない夜間
B停車時(周囲に車・人が居ないとき)
C運転手の真後ろに座って、バックミラーに映りにくくする人
D顔を隠そうとするような人
こんな人がいたら、警戒する必要があるでしょう。

 こんな事を考えながら、昔のスパイ映画OO7を思い出しました。シフト
レバーに隠されたボタンを押すと、天井が開き、運転席ごと、外に脱出する
ものです。それは無理だとしても、アクリル板(金属網入り)などで、完全
に後部席を隔離し、料金は集金器(投入された金額を調べ、お釣りが出せる
もの)で支払ってもらうとか、EdyなどICカードで決済する方法にして
いかなければならないでしょう。
 運転手が首まで保護するような防弾スーツで身を固め、スタンガンを膝元
に置き、車内の様子をモニターしながら走る状況は寂しさを感じますし、注
意力が後部座席に集中すると、交通事故の誘因になります。

 話は変わりますが、タクシーが防犯の役に立っているのをご存じですか、
たとえば、夜間に客待ちをする場合にコンビニの駐車場で待機すると、コン
ビニの強盗防止対策になります。コンビニの防犯対策と、タクシーの待機場
所確保という両者のメリットが生かされる良い事例です。そんな、コンビニ
防犯に役立っているタクシー運転手を守って欲しい。タクシー運転手の被害
が無くなることを祈るばかりです。
                            ご安全に!

2009年1月2日(健康診断結果の偽装)
 あけましておめでとうございます。
 この安全週記も2006年から始めて4年目になります。本年も私なりの
視点で事故・事件の本質を追及し、災害防止のヒントになるよう、頑張りま
すので、よろしくお願いします。

 さて、昨年末の慌ただしい時に、「やっぱり、こういう会社は存在したの
だ。そして最悪の結果になったなぁ」という事件がありました。
 12月29日に明らかになった事件ですが、11月12日に横浜市の作業
現場で血を吐いて倒れた人がいました。結核でした。周囲の作業員を検査す
ると、結核になった男性を送迎していた社員に結核が感染していたことが判
明しました。調査の結果、作業員を雇っていた会社は、健康診断を実施せず
に健康診断報告書を偽造していたことがわかったのです。
 最初に結核になった作業員は、大手ゼネコンなどの建設請負をしている業
者「トウキュウ総建」の従業員でした。大手ゼネコンは請負会社の社員も含
めて健康診断受診の確認をするものですが、このトウキュウ総建は、法定の
健康診断を実施しないばかりか、健康診断結果を偽装して、契約先に提出し
ていました。健康診断を実施しなかったために結核に感染した労働者を発見
することができず、結核の2次感染に発展する最悪の事態となりました。
 この会社の偽造の手口は、関係ない人の診断書の名前と生年月日を修正液
で消して、書き換え、医師の名前の印鑑を勝手に押していたのです。目的は
健康診断費の節減だというから本当に悪質です。大手ゼネコンといえども騙
されてしまいました。
 しかし、この種の偽装はトウキョウ総建だけではないかもしれません。今
回、結核患者が見つかったことが発端で明らかになりましたが、結核がなけ
れば、見つからなかったのかもしれません。氷山の一角が崩れただけかもし
れません。
 結核は過去の病気と思っている人が多いかもしれませんが、特に大阪府で
は毎年3000人もの感染者がおり、罹患率は全国ワーストワンです。結核
にかかると、どんなに重要な人であっても、社長であっても数か月間出勤停
止しなければなりません。とてもリスクの高いものです。
 偽装の生まれない、風通しのいい社風を創るとともに、外部への監視を怠
らず、従業員が安全で健康に働ける職場を創りましょう。
                            ご安全に!
(参考)
平成19年結核発生動向調査結果(厚生労働省)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou03/07sankou.html#s2-1