難民認定手続きにおける手続保障に関するUNHCRの判断

回答1 回答2 回答3 裁判top ]



大阪地方裁判所第7民事部 御中
2000年12月19日
拝啓
アブドル.バセル氏の難民不認定処分取消等請求事件(事件番号平成12年(行ウ)第13号に関し、2000年11月27日付貴信に対する当事務所回答を添付致します。


敬具
カシディス.ロチャナコン
国連難民高等弁務官事務所
日本.韓国地域代表



(非公式訳文)
AIDE MEMOIRE
大阪地方裁判所第7民事部 御中

民事訴訟法第186条に基づき、貴裁判所がアフガニスタン国籍アブドル.バセルの難民不認定取消請求事件に関し、世界各地の難民保護.支援活動を任されている国際機関としての国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に情報提供を求めた2000年11月27日付調査嘱託書に回答致します。なお、嘱託書記載の項目順に従って回答させて頂きます。

1)難民認定手続における手続保障(特に、通訳ないし翻訳(翻訳文の添付)に関するわが国が拘束される条約、国際的若しくは地域的な合意が存在するか。存在するとすれば、どのような内容か。地域言語(方言)しか十分に理解できない者に対する特別な配慮がされているかも含めて回答されたい。

手続保障に関する条約規定
難民の地位に関する1951年の条約(以下「難民条約」)は庇護希望者の申請を審査する手続に関して特別な条項を設けていない。(1967年議定書も同様。)そのような手続の設立は条約締約国の裁量に任されている。  

しかしながら、前述の手続は難民条約の施行を無視したりその施行と矛盾すべきではない。 統一的規則が存在しない中、高等弁務官行動計画執行委員会(または、執行委員会、以下ExCom)とUNHCRは最低限守られるべき手続の基準を設けている(質問2に対する回答を参照)。これらの基準は難民条約適用において生じる格差を縮めることに貢献してきただけでなく、条約が発効してから過去50年間の国際人権法の発展に大部分沿うものであった。

まず、最初に考えるべき問題として、ある慣行(または手続の欠如)が難民条約の意図することにどの程度相反するものであるかである。この点で、条約法に関するウィーン条約第31条に、該当する解釈規則を以下のように見出だすことができる。

「条約の規定については、文脈により、かつその趣旨及び目的に照らして当てられる用語の通常の意味に従い誠実に解釈すべきである。」

難民条約の目的はまさに難民の基本的人権の保護であり、この目的は、国際的に保護されている地位である難民の資格に誰が値するのかを審査する上で公平な手続きなしには果たされない。庇護申請の事実を適切に把握せずには、ある者が難民であるか決定することは不可能であることはいうまでもない、(このことは、難民条約と議定書の第1条の定義を明確に引用している出入国管理及び難民認定法第2条(3)−2に定義されている。) 難民申請者が庇護国の言語を話さない場合、難民認定審査には通訳の援助が必要となる。

前述の見解は難民に関して無差別の原則の適用を規定している難民条約第3条によっても支持されている。庇護国の言語が話されていない国出身の難民に対して通訳者を提供しないことは、裁決を下す当局が母国語または共通言語で意志疎通を計れる者に比べ前者を非常に不利な立場に置くことになる。

日本の刑事訴訟法においてはすでに法廷における通訳及び翻訳に関し以下のような規定が存在する。
刑事訴訟法第十三章 通訳及び翻訳  
 第七十五条 国語に通じない者に陳述をさせる場合には、通訳人に通訳をさせなければならない。  
 第七十七条 国語ではない文字又は符号は、これを翻訳させることができる。

さらに、日本は市民的及び政治的権利に関する国際規約の加盟国でもあるので、同第14条に含まれる適正な法手続の条項を厳守する義務がある。  

(14条)「1.すべての者は、裁判所の前に平等とする。(中略)3.すべての者は、その刑事上の罪の決定について、十分平等に、少なくとも次の保障を受ける権利を有する。a)その理解する言語で速やかにかつ詳細にその罪の性質および理由を告げられること。(中略)f)裁判所において使用される言語を理解することまたは話すことができない場合には、無料で通訳の援助を受けること。」

自由権規約委員会は一般的意見(General Comment)13 (1984)において以下のことを再確認している。

「2.(中略)第14条は個人に対する刑事上の罪を決定する手続だけでなく、訴訟における彼らの権利と義務を決定する手続にも適用される。(中略)13.ャ段落3(f)「通訳の援助については、外国人及び自国民に当てはまる。裁判所により使用された言語の無知や理解の困難が弁護の権利に障害をきたす場合などは非常に重要な問題である。」 (仮訳)

庇護希望者がある庇護国へ入国するために正規でない方法を取らざるを得ない可能性もあるので、この規定は重要である。(多くの場合、彼らは旅券を得るために本国の施設を利用することができず、庇護国への入国査証を得るために必要な財政的手段等を持ち合わせていないかもしれない。)よって、出入国管理及び難民認定法の見地からは第4章に含まれるいずれかの入管法違反を犯す可能性が生じ、不法入国や不法残留を理由に刑事事件手続の対象とされるかもしれない。難民条約第31条と出入国管理及び難民認定法の第70条−2にある免除を享受する為には、彼らは自らが難民であることを立証しなければならない。仮に、彼らと当局間の意志疎通が不十分であったために事実が立証できなかったとしたら(ゆえに懲役、禁固、罰金や送還を避けられない場合)、我々の見解では市民的及び政治的権利に関する国際規約の第14条が破られたことが明らかと言える。  

手続基準
難民条約の適用を監督する任務を持つ組織であるUNHCR(第35条)と各国政府は、質の高い通訳の提供は適正な法手続の基本原則であることを同意している。 なぜなら、そのことによって初めて以下のことが保障されるからである。

1  庇護希望者によってなされた供述が正しく記録されている。
面接官の質問を庇護希望者がよく理解している。このことは申請者の供述の信憑性を判断する為に重要な要素である。
申請の詳細が面接官により正しく理解され、彼らが十分な情報に基ずいた決定を下すことができる。

これらの基準は後述の諸文書に定められている。これらの手続の保障は重要であるるなぜなら、UNHCRの経験から、難民申請供述の誤訳の問題により誤って不認定とされる可能性があるからである。そのような不認定判断は申請者の生命や自由に重大な結果を招くことになる可能性もあり、懸念を抱かざるを得ない。

同様に、質の高い通訳を提供する必要性は難民認定を行なう当局に提出された諸言語の証拠の翻訳についても当てはまる。両当事者が完全に理解しない言語で粗略な面接を行なうことや提出された証拠を言語の困難を理由に無視して結論に達することはルフールマン(迫害を受ける国に申請者を強制送還すること)の事例を招く可能性がある。このことは難民条約の第33条の違反だけでなく、(日本が批准した)拷問等禁止条約第3条の違反にもなる。したがって、UNHCRの見解では、当局が事実を把握するための助けとなる通訳の必要性を無視する難民条約の解釈は、「明らかに不合理で不当」な結果を招く可能性があると言える(条約法に関するウィーン条約第32条違反)。

手続の保障手段確立における裁判所の重要な役割
以下の回答に示されるように、難民認定制度に関し国内法が欠如している場合、国内裁判所の司法判断はこの分野の基本的な基準を定める上で大切な役割を果たしてきた。例えば、難民の定義や庇護手続の重要な側面に関して(立証基準、及び「迫害」、「政治的意見」、「特定の社会集団の構成員」の定義の問題等)裁判所は難民条約の人道的精神を 考慮し、難民の定義の要素の溝を埋めることや正しい法的解釈を示すことで多大な貢献をしてきた。

2)難民認定手続における手続保障(特に、通訳ないし翻訳(翻訳文の添付)の保障)に関する国連難民高等弁務官事務所のガイドライン等が存在するか。存在するとすれば、どのような内容か。地域言語(方言)しか十分に理解できない者に対する特別な配慮がされているかも含めて回答されたい。

手続の基準に関するUNHCRガイドライン
UNHCRは難民認定手続の基本的保障に関する数多くのガイドラインを出している。それらはExComの国際保護に関する結論(特に難民の地位の認定と題される結論題8号−1977及び第28号と第30号)難民の地位の認定の基準及び手続に関する手引き(以下UNHCRハンドブック)、そしてUNHCRにより発行された各種文書の中に含まれている。上記の文書はこの問題に対する国際的コンセンサスと共通の認識を示している。さらに、それらは信頼に値する判断基準とされ難民認定手続の運用に均一性をもたらし、また、庇護手続や適用基準の様々な溝を埋めることで各国政府や裁判所の援助となっている。

上記のガイドラインはいずれも、能力ある通訳及びすべての重要書類の翻訳を無償にて提供することを、公正な庇護手続の重要な要素として含んでいる。

UNHCRは事務所規定に基づき認定を行なっており、 この機能を遂行するための国内難民認定制度が未熟もしくは欠如している世界50以上の国々においてこれを実施している。UNHCR職員は庇護の面接を行なう際、必要な場合は常に能力ある通訳を用いている。また、申請者により証拠として提出された関係書類の翻訳も通訳者に依頼している。これら一連の経費は、大部分の難民申請者が経済的に困難な状況におかれていることを考慮し、UNHCRにより負担されている。参考までに「難民申請者を面接する」(特に、英語版6、7、13、42頁を参照)と「難民の文脈からの通訳(仮訳)」のUNHCRガイドラインを添付します。

2a)右に関連し、貴事務所発行の「難民認定基準ハンドブック」189頁以降(日本語訳51頁以降)は、認定手続につき記載し、1977年高等弁務官行動計画執行委員会の 勧告する基本的要件(貴事務所執行委員会の「難民の国際的保護に関する結論」第8号)を192頁以下で解説しているが、わが国を拘束する点があるか。あるとすれば、その内容について。

手続基準に関するその他の情報源
すべての難民認定手続(締約国政府およびUNHCRによりおこなわれている)は、(国内法で取り決めがない限り)締約国に対し法的拘束力はないものの難民法の分野で重要かつ無視の出来ない発展をしてきた最低限の守られるべき国際基準に従わなければならない。欧州連合はすでに様々な枠組みで庇護手続基準の協調を推し進めている。(以下ヨーロッパの項を参照)それらの基準は以下の実体.枠組みによって確立されている。

UNHCR執行委員会(ExCom)により定められた難民認定手続に関する政府間基準
UNHCR執行委員会(ExCom)は57ケ国の代表からなる諮問機関であり、高等弁務官の職務遂行に関しガイダンスを与える。執行委員会の権限は国連総会と国連経済社会理事会より託されたものである。日本は執行委員会(ExCom)の現構成国であり、難民の受け入れ、認定制度及び処遇についての政策指針を規定した国際的保護に関する結論に賛成してきた(添付の「難民の国際的保護に関する結論(選集)」を参照)。 ExComの結論は法的拘束力を持たないが難民条約に従い難民認定手続をおこなつている各国政府や裁判所に指針を与えている。さらに、ExComにおいてこれらの結論を採択してきた国々は、これに従うことにより庇護申請者に対する責任を果たすという道徳的義務感を持ち続けることも期待される。

UNHCRガイドライン
条約締約各国による難民条約の均一的な適用を保障する為に、執行委員会の構成国は1977年に、UNHCRに対し、難民の地位の認定の基準及び手続に関するハンドブックの作成を要請した。ハンドブックに掲げられた目的は「各国政府に指針」を与えることであつた。(ExCom結論第8号(g)傍線筆者)。ハンドブックには難民条約発効後の最初の25年間でUNHCRや政府が築いてきた知識だけでなく各国政府の実務や見解も含まれている。(ハンドブック−はじめに−セクションX、Yを参照)その後、ハンドブックは1992年に再編集されている。

結論としてUNHCRは国際的難民保護とは難民条約の条項の有効で良心的な運用.適用に基づくものであると考える。よって、国際組織(ExCom、国連総会、国連経済社会理事会など)の構成国としてその原理原則や基準の確立に関与し、そして積極的に推進する国々には、それらの原則や基準に従いその責任を果たすという道徳的な義務がある。さらに、難民条約は人道の精神に則って解釈されるべきものであるため、しかるべき手続についての公正で正当な基準が「法的拘束力」がないからという理由で保障されないという主張は、結果的に難民もしくは申請者に重大な危険を及ぼす恐れがあり、疑問の余地が残る。

UNHCRハンドブック及びUNHCR執行委員会(ExCom)結論の裁判所における使用について

UNHCR難民認定基準ハンドブック、ExCom結論の双方とも、これまで諸国の裁判所において難民認定の学識的及び解釈上の根拠として引用されてきた。

法解釈上の根拠としてのUNHCR難民認定基準ハンドブック
カナダ連邦最高裁判所は多くの判例で、UNHCR難民認定基準ハンドブックを法解釈のための貴重な根拠として言及している。中でも、歴史的な「カナダ政府(司法長官)対ワード」判決([1993]2Can.SCR)は、以下のように述べている。

「…(条約自体の歴史的経緯を見るよりも)より説得力のある根拠が存在する。この問題について頻繁に引き合いに出されるのはUNHCR難民認定基準ハンドブックの第65項である・・・このハンドブックには正式な拘束力はないものの、・・・カナダを含むUNHCR執行委員会の参加各国はこれを支持し、締約国の裁判所によって依拠されている。(傍線筆者) 」

この見解は繰り返し再確認されてきた。中でも「チャン対カナダ政府(雇用.移民省)判決([1995]3SCR593)は次のように述べている。

「UNHCRの難民の地位の認定基準及び手続に関する手引き(難民認定基準ハンドブッ ク)の基準により、控訴人は難民委員会に対して自己の主張をいま一度述べる権利を有する。難民認定基準ハンドブックは、カナダを含む締約各国をを正式に拘束する力はないものの、締約各国における難民認定手続基準についての累積知識を基に形成されたものである。頻繁に引用されており、カナダ政府代表を含むUNHCR執行委員会により支持され、締約各国の裁判所によって判定基準として依拠されている。よってUNHCR難民認定基準ハンドブックは、難民認定実務において極めて正当な拠り所として扱われなければならない。これは当然、難民委員会のみでなく再審理を行う裁判所にも適用される。」

アメリカ連邦最高裁判所は、1987年3月9日の「移民帰化局対カルドザ.フォンセカ」の歴史的な判決において、UNHCR難民認定基準ハンドブックについて次のように述べている:

「当法廷は、国連ハンドブックの説明が法的拘束力その他何らかの方法により、208(a)の庇護条項について移民帰化局を拘束する、と示唆するものでは当然ない。実際、ハンドブック自体が「1951年条約及び1967年議定書に基づく難民の地位は…その領域に難民の地位の認定を申請するものが存在している締約国の責務である」と述べ、そのような自らの強制力を放棄している。しかしながら、ハンドブックは、米国議会が遵守に務めてきた1967年議定書を解釈する上で重要な指針を与えるものである。議定書の定める各国の責務を明確にする上で、ハンドブックが有用であることは広く認識されるところである。」(注:米国は1967年議定書のみ加盟している)

上記の最高裁判決は、後に米国内の諸判決に引用されている。特に合衆国第九巡回控訴裁判所は、1996年に「アントニオ.フロー.チャンコ、マリア.オフェリア.サン.ミゲル.チャンコ対移民帰化局」判決(82F.3d298)で次のように述べている。

「UNHCRハンドブックは移民帰化局に対し法的拘束力は無いものの、難民の地位に関する国連議定書を解釈する上で重要な指針を与えるものとして最高裁にも引用されている。同議定書には合衆国も加盟しており、議会も合衆国難民法を作る上でこれに依拠している。」

「ラモス.バスケス対移民帰化局」判決、57F3d1424、1427(g Cir.1994),他。 英国貴族院も、UNHCRハンドブックの解釈上の価値について述べている。「T.対内務大臣」判決([1996]2 ALL ER 865 )では次のように述べている。

「UNHCRハンドブックは、国内法、国際法における拘束力はないが(Bugdaycay対  内務大臣[1987]1 ALL ER 940,[1987]AC514参照)、あやふやな問題に対処する上 で有益な情報源である。」(同判決の「当局」(3)、「文脈と動機」参照)

英国控訴裁判所(民事局)は、「V−内務大臣、移民控訴審、ex parte(一方的に)アンソニーピライ.フランシス.ロビンソン」判決(FC396/7394/D)において、国内避難という代替選択肢について解釈源を求め、こう述べている。

「11.難民条約の解釈と履行の責務を負う国際裁判所は存在せず、そのため(UNHCR)ハンドブックは…条約上の義務の国際的理解を示すものとして特に有用である。」

法解釈上の根拠としてのUNHCR執行委員会(ExCom)結論
ニュージランドの難民の地位控訴局は、決定の中でEXCOMの結論に頻繁に言及している。当局は難民No.1/92(30 April 1992)決定において、執行委員会結論の権威について以下のように述べている。

「本決定が折りに触れUNHCR執行委員会の結論を引き合いに出したことを鑑みれば、これら結論のもつ重要性についてここで述べるのは適当であろう。…本決定で参照した執行委員会結論は、当局に対する拘束力は無いものの、相当に説得力のある拠り所となるものである。」

2b)結論第8号以降、最近までのUNHCR執行委員会の結論(例えば第81号、82号等)において、通訳ないし翻訳(翻訳文の添付)等の手続保障について、日本政府を拘束する点があるか。あるとすればその内容について。

手続上の一定の基準を定めた特定のUNHCR執行委員会結論
以下は前出の2.aにおける回答あわせて読まれたし。

1977年の結論第8号が定めた基準は、現在も効力を持つものである。特に、段落(e)(iv)は次の通りである。

“申請者が、事案を関係機関に提出するために必要な便宜(能力のある通訳の提供を含む)を受けること。”


さらに、近年、執行委員会は、結論第81号(h)(1997),第82号(d−ii)(1997),第85号(1998)等において、こうした基準を再確認した。

結論第85号は以下のように述べている。

[執行委員会は]:
(r)各国に対して、難民の請求を取り扱う為の手続を考案し、かつ実行するように強く促す。なお、その手続は、適用可能である普遍的難民文書および地域的な難民文書に定める保護に関する諸原則と一致し、更に国際的基準および執行委員会が勧告する諸基準にも矛盾しないものでなければならない

(s)国内の難民認定手続を誤用しまた乱用する傾向が増えているという国々からの報告に憂慮の念をもって留意し、また各国が国家レベルでも国際協力を通じてもこの問題に対応する必要性を認め、ただし、各国に対して、国内法及び出入国管理措置を含む行政上の実務慣行が、関係国際文書に定められているような、適用可能な難民法及び諸基準と両立しうることを確保するように強く促す。 (傍線筆者)

3)上記の条約等の存否や拘束力の点は別として、通訳ないし翻訳(翻訳文の添付)の保障(手続保障の概要の説明、調査手続への呼び出し状や難民不認定等の決定文等について説明や通知、呼び出し等を含む。)について、各難民条約締約国の法規や実情はどのようなものか。

通訳保障に関するヨーロッパ各国の政府間合意
 上述の執行委員会結論第8号以外で、難民条約の正当な適用における基本的手続の基準を定義した最も一般的な国際文書は、1995年6月20日のEU委員会決議「庇護手続における最低限の保障」であり、以下の通りである。(Official Journal of European Communitiesに掲載されたものを添付)

この決議は、庇護申請者が「手続について、また手続が行われる際の権利及び義務について自らが理解できる言語で知らされる」権利について広範に述べている。「特に、申請者 は当該部局に申請する際、必要な場合には常に通訳を与えられなければならない。通訳が正当な権限を持つ当局によって召喚された場合、こうしたサービスは公的資金から支払われなければならない…」(第13条)。

さらに、同決議は第15条で、(i)申請者への決定の伝達、及び(ii)決定の趣旨の通達と異議申し出の可能性の通知を本人の理解できる言語で行うための適正手続を保障している。

ヨーロッパ各国の庇護問題担当大臣委員会会議の推薦書[No.R(94)5,OP11;No.R(98)15,OP1.6]をはじめ、その他の注文書においても通訳の必要性について言及している。

通訳保障に関する国内立法:諸事例
難民認定関連の国内法の大多数においては、通訳を得る権利を一般原則として保障している。 例えば

スペインの庇護法(Law 9/94)は、申請書の提出やその後の手続き全般について通訳が無料提供されるべきであること、または庇護申請者はそうしたサービスを受ける権利について恒常的に通知されるべきであることを定めている。

オランダの外国人法にも、すべての庇護申請インタビューに政府負担で通訳がつけられるべきとの類似条項がある。

フィンランドの外国人法第2条では、難民認定インタビューに限らず、難民申請者が医療サービス、法的助言、学校教育を受ける場合にも通訳が無料で提供されることになっている。

通訳保障についての裁判所判例:
諸事例 カナダでは、最高裁判所が「相手を理解し、相手に理解されることは、適正手続の中で最低限の条件である。」とした。(Societes Acadiens de Nouveau Brunswick Inc.対 教育の公正を求める親の会」判例、1986-1 SCR549,622)。庇護申請の手続で通訳を受ける権利は連邦控訴審裁判所により堅持されてきた。「オウス対雇用.移民省」判決(1989-FCG No.173)で裁判所は、当該案件の状況により通訳の必要性が示される場合には、この権利 を行使できるとした。「ミン対雇用.移民省」(1990-FCJ No.173)判例で裁判所は、上記最高裁判決に従い申請者が十分な能力のある通訳を利用する権利を保障している。
 
庇護申請者に対する通訳提供の手続上の保障は、ベルギー国家委員会でも Nwokolo Etat Belge 判決で確立された。(Couseil d'Etat,29,June,1990,no.35.346-lieme chamber 参照)それによると、通訳をつけないということは、申請者に自分の権利を正当に弁護する機会を与えないことであるから、ヨーロッパ人権憲章と1951年の難民じょうやくの違反にあたる。
 
アメリカでは、申請者への質問と本人の返答について通訳を受ける権利は、庇護申請中の必須事項である。


4)難民条約締約国(我が国も含む)における最近10年間(1990年から回答時点まで)の(a).各年毎のアフガニスタン難民の難民申請数、(b)マンデイト難民認定数等、及び、(d).各認定理由毎の内訳について回答されたい。

1990年末の時点で、世界のアフガン難民は2,562,000人を数えた。その多くは「戦争難民」とみなされ、集団として保護を受けた。イランに 1,325,000 人、インドに 14,500人等、彼らは主に周辺諸国において庇護され、UNHCRやNGOその他から物的支援を受けた。アフガン難民全体数の中でも比較的少数のみが、0ECD(経済協力開発機構)各国に庇護を求めた。これらの人々は全体の1パーセントに満たない。日本におけるアフガニスタン人の難民申請数が他の先進国に比べて非常に少ないことは顕著である。

1951年の難民条約締約国におけるアフガニスタン人の難民申請及び難民認定数(1999年)

追加情報については、UNHCRのインターネットホームページ http://www.unhcr.ch/statist/99oview/toc.htm の統計資料を参照。




UNHCR 日本・韓国地域事務所、 2000年12月