since 04'03/10   平成の隠居

玄関 クラブ室 工作室 食事室 箱庭農園 みみずの呟 戯言室
製作体験

玄関にに戻る   工作室へ行く


スイッチング方式の 真空管ラジオ用専用電源

 学研から真空管ラジオのキットが売り出された。1万台の限定販売のようだがマニアの中では大人気である。このラジオの電源には電池が採用されている。1.5VのA電源(ヒーター用)と45VのB電源(006P×5個)の2種類を必要とする。どうやら電気用品安全法の適用を避けるのが狙いのようだ。
 電池には寿命があるから直ぐに交換しなければならない。100VAC電源の動作をいずれ皆が望むようになると思い、昔製作した電源の回路図をHPに掲載した。しかし、トランスを2個も必要とする代物でどうも気に入らない。またもやジャンク箱をかき混ぜ、眠っていたDC/DCコンバーター2個を使い、12VDCで動作する電源を作ってみた。これもいささか大げさすぎて気に入らない。なにしろ使ったDC/DCコンバーターは1個が3千円もする高価なものと判ったからだ。
 電源トランスを特注し作るのが一番簡単で確実なのだが、自分が必要としているわけではなく、強いて言えば製作欲求を満たせば良いことなのでまたもやジャンク箱に素材を求めることに相成った。

電源に求めらる厄介な条件

 学研のラジオや、一般的な真空管式ポータブルラジオに求められる電圧・電流はさして厳しいものではない。しかし、直熱管が使われていためにA電源とB電源は完全に独立していなければならない。別の言い方をすれば、マイナス側の共通接続は出来ないのである。B電源のマイナス側は抵抗を介してアースラインに接続され、出力管のグリッドにバイアスを与えるよう設計されている。電源を製作しようとする場合この条件を満たす必要が有り意外と厄介な条件なのだ。トランスの2次巻線をA電源用とB電源用に2つ巻いた物を使い、夫々を独立した整流回路とするのが手っ取り早い方法である。残念ながらこのようなトランスは市販されておらず特注せねばならない。輸送費用まで含めると5千円近くの費用が発生しそうだ。しかも製作欲求は満たされるものの知的の満足は得られない。そこで別の方法を探す事になった。

オリジナル電源ボード

 ジャンク箱の中に、12V・1.3A出力のスイッチング電源があった。これを、目的の45VのB電源用に改造できないかと考えたのだ。先ず出力電圧を何処まで高められるか実験したところ35Vまでの確認はとれた。しかしそれ以上の電圧は不可能と判った。使われているシャントレギュレータICの最大定格(カソード最大電圧37V)をオーバーしてしまう。惜しいことに10Vが不足するのだ。多分、35Vでもラジオは動作すると思うものの折角45Vの仕様で設計してある。理想からすれば67.5Vを使いたかったところを45Vで我慢していると推察し、安易に妥協してはシーラカンスの名が廃る。諦めきれずにボードからトランスを取り外し良い智慧が無いかと眺めたのであります。
トランス外観

 右の写真は巻線の2次側を上面にして撮影したスイッチングトランスである。動作上は1つのはずだが現物は巻線が2つ有る。 二つの巻線がプリントパターンでパラレル接続されて使用されているのだ。これは面白い!・・・
 前に作ったDC/DCコンバーター利用の電源(回路図はここをクリック)がここでヒントとなった。巻線を別々に使い1個当たり22.5Vの整流出力を得る事が出来ればその2倍の45Vが実現できるはずだ。この思いつきに気をよくし、久しぶりにボードから回路図を起こし、具体策の検討に着手したのであります。
 たかだか数十点の部品が片面基板に実装されているボードなので回路作成も簡単と思ったのですが、意外とてこずた。スイッチング電源の知識が乏しいのも理由の一つだが全く思いがけない部品に遭遇したためである。それはTO-92のプラスチックモールドの[C1093] と表示されたトランジスタでした。どう考えても理屈に合った回路にならないのです。現物が正常に動作するのは確認済みですからそれぞれの端子の電圧を測定し、トランジスタでは無いとの結論に達しました。基板からこれを取り外しアナログテスターでチェックしてもトランジスタの様相を示しません。困り果てインターネットと格闘する事しばし、漸く[upc1093] で検索し実体が判明したのであります。トランジスタと思っていたのはSHUNT REG IC upc1093TL431相当品だと判明したのです。これで動作が理解できる回路図が完成しました。動作に関係ない部品類は一部省略してありますが下にそれを示します。

12V 1.3A出力のSW電源回路図(改造前)

真空管ラジオ用スイッチング電源へ改造

 
 上の回路図で、出力電圧はR1と(R2+R3)で分割された電圧がシャントレギュレータICのRef端子に加えられる。この分割比を変えれば希望の値を得る事が出来るのだ。(出力電圧Voとすれば  Vo=Vref(1+R1/(R2+R3) が成立する。VrefはICにより異なるが、upc1093の場合、Vref=2.495V である)
 トランスの2次巻線は図のように2n1と2n2の二つがあり並列に接続されている。2n1をそのまま残し、2n2をパターン上で切り離し別の整流回路を構成すればお互いに 独立した出力を得る事が出来るはずだ。そして1次側とはフォトカップラで分離されているから、先に述べた必要条件であるお互いの独立性を完全に満たしている。
 トランスの巻線スペースに余裕の有るのは写真で判るとおりだ。おまけに空の足(nc)が1本ある。これらを利用して2n3なる巻線を追加し、1.5VのA電源も取り出そうと考え20turnの巻線を追加する。これを加味した回路図が下に示したものである。
真空管ラジオ用スイッチング電源回路図

 後は回路図に従ってボードを改造するのみだ。空いたスペースに電界コンデンサーを配置、プリント面に整流ダイオード(ショットキーダイオード)等の接続加工をし改造は完了、最後の電圧調整へと進んだ。  
     
パターンをカットし巻線を独立させる 空きスペースに部品を詰め込んだボード  パターン面に整流ダイオードを実装

 オリジナルボードの電圧調整用抵抗はR1=3.9k、R2=1k、R3=10Ωであった。出力電圧を45V(22.5V×2)にするにはR2が476Ωと計算されたが、1kの半固定抵抗器を使い調整可能なようにしておいた。
 実際の動作は出力電圧の制御は巻線2n1にふら下がる回路に対して行われるだけで、2n2および2n3の巻線からの電圧は巻線比に比例した出力となるだけだ。そこで+−出力間をモニターしならら45V出力となるよう電圧調整を実施した。幸いな事に両者の電圧差は0.5V未満でほぼ同一電圧が得られた。なお、B電源の出力電圧は67.5Vまで上げる事も可能で、この時ICの最大定格電圧を越す事は無い事も確認できた。

最後の詰めに甘さが!

 狙い通りの成果が得られ大満足であったのは束の間であった。ちょっと目を離している間に電圧が急激に下がり、ついにはヒューズが飛んでしまったのだ。しかもA電源用のダイオードが異常に熱を持っている。何かの都合でA電源がショートしたためと軽く考えA電源回路を切り離し、再度電源投入するとまたもやヒューズが溶断する。詳しく調べるとスイッチングのFETが破壊している。完成目前まで来て諦めるわけには行かない。ジャンク箱を引っ掻き回し類似のFETを探し出す。オリジナルのFETは三洋製の2SK1445で、探し出した類似品は日立製の2SK1567だ。仕様を調べると両者はほぼ同じと判りこれと交換し、恐る恐る電源に接続すると正常に動作するでは無いか。但し、A電源は切り離した状態である。
 どうやらA電源回路が悪さをしていたのだが悪さの理由がわからない。そこで2n3の巻線の出力をオッシロスコープで観測してみた。すると何と50V以上もの電圧が発生しているではないか!。わずか20tしか巻いていないのに。
 整流ダイオードの逆耐圧をはるかにオーバーする電圧が加わり、2n3巻線を短絡に近い状態で通電していた事になっていたのだ。さすがにFETも耐えられずに破壊し、ついにはヒューズ溶断に至ったと考えられる。
 2n3の巻線を10t巻き戻し電圧測定するもまだだ高い。ダイオードの耐圧をオーバーする電圧では無かったので回路を元に戻す。後は負荷をかけた状態で4Vの電圧となるよう巻数の調整だ。最終の巻線数がいくらになったかは不明だが3-4回のカットアンドトライの末、200mAの負荷をかけて3.7VのDC出力が得られる所まで追い込んだ。この出力をシリースレギュレータに加え、1.5VにすればA電源は万全だ。(回路はDC/DCコンバータ方式に示しているためここでは省略する)
 最後にレギュレーションのチェクを行う。A電源の負荷を0mAから200mAに変動させた時、B電源の出力45Vは全く変動しなかった。漸く全てを満足するスイッチング電源が完成したのである。(06/03/19完)

TOPに戻る