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山彩湖ものがたり その3

 お世話になっている家の仕事とは、家の裏にある大きな柿の木の収穫の手伝いである。当主が登って切った枝を、下で干し柿用に切り整える仕事である。
 幾つもの実が付いた枝から、つるし柿になるようにT字に枝がついた実に切るのである。 太い枝は力がいるし、細い枝は実の重さで折れてしまいそうで、簡単そうなその仕事は結構力が必要だった。
 手伝っている村人は、上と下で声を掛け合いながら手際よく作業をしている。要領の悪い私は仕事に追われているような気持ちで、T字にならなかった失敗作の柿もいくつか作ってしまった。
「いいよいいよ、どうしてもそんなのが幾つか出来るから。それを集めて串柿にすりゃ良いんだから。」
 私の失敗も、やさしく受け止めてくれた。
「百匁柿と言ってね、3つで1kgほどあるんよ」
奥さんたちとおしゃべりをしながらの作業だった。
「これがねぇ、干すと半分位の重さになって、生の柿より甘く、おいしくなるんだから。」
「皮も干しておくと、漬物の甘味付けに使えるしね。」
女性たちの自然を大事にして、その恵みを有効に使いこなしている様子が垣間見えた。
 当主が木から降りてきた。木を見上げると梢にまだ10個ほどの柿が残っている。
「アレは取らないんですか?」
「ウン、残しておく物なの。何でも全部、根こそぎ取ってしまうもんじゃないんだ。」
「へぇ〜、もったいないと思ったけど、そういうもんですか。」
「もうちょっと熟すと、鳥が食べにやってくるんだ。」
「鳥のために残すんですか?」
「そうよ、鳥のオヤツだからな。」
「カラスやスズメは悪いこともするが、居なくなると都合が悪いはずだからね。」
「幼虫や昆虫の天敵だからですか?」
「そう、鳥たちが食べる分を分けておくんだ。」
「あちこちに、ばらして残すと、鳥が争わなくていいでしょ。」
 自然によって生かされている、豊かな恵みを必要なだけ頂き、鳥たちとも分けあっているからこそ、欲がない生き方につながっているのだと感じた。 この気配りの生き方もサイコさまなのかも知れないと思ったが、違うのだろうか。