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山彩湖ものがたり その2

 山彩湖の心地よい空気に誘われるように、その後も何度か訪れた。お世話になっている家の仕事を手伝いながら、野良で一服するときに村の人達と話す時間があった。
 そのお茶の輪に長老のじいさまが顔を出して円居に加わり、話の合間に私に声をかけた。
「若いの。心はどこにあると思っておられるかな?」
不意のことに私は、以前にこの長老のじいさまがやったとおり、胸を押さえて、
「ここでしょうか?」
と答えた。
「そうよナ。心の臓器と書いて『心臓』と言うからには、心はそこにあると思っている人が多いんだよな。」
「違うんですか?」
「間違いではない。ドキッとしたり、鼓動が早くなったり、ときめいたりするのだから、確かに心の臓器ではあるのだ。しかし、心臓がモノを考えるかのぅ。」
「それじゃ、頭でしょうか。」
「そのとおり、モノを考えるのは頭じゃ。それなら、頭に心があるのかのう。」
「頭とも、言いにくいですねぇ。」
「わしは、口からこぼれ出るものに心が入っていると、よく言って聞かせておる。」
「言葉、ですか?」
「コトダマ、と言ってな、言葉にはその人の魂が入り込み、口から人の心が出てくるのじゃ。だから、よい言葉をたくさん学び、悪い言葉を使わぬように修練を積まねばならん。」
「言霊ですか。それが、サイコさまなのかも知れませんね。」
「サイコさま、か。まぁ、この村に何度も通ってくれたから、若い衆にしたことがある話をしたまでさ。人によって考えは違うとは思うがナ。」
 不躾にも、村の好意に甘えて何度も山彩湖にお邪魔しているのに、その上に考えさせられるよいお土産を長老のじいさまから頂戴した気がした。