感謝と礼儀


3.組織で充実した時間を過ごすために

 「感謝と礼儀」

 著者が企業において現役の技術職の研究員であった頃には、新入社員の導入時の研修においては以下のことが教えられたものであった。

 
「企業への入社において、あなたたちに今までに多くの多大な努力をかけてもらった親に対しては心から礼を尽くすこと。」また、「同じ組織の中においては上下の関係に配慮すること」、すなわち部下として、そして新たに加わる部下の上司として組織や部署を円滑に運営する大切さを団塊の世代の先輩方から学んだ。昭和の時代の企業の研修の中で大いに活躍して、第一線を既に退いた団塊の世代の教育者たちは、ある意味で「理」にかなった教育や指導の流れで対応してくれたのだと思う。

 時代はそれから何10年も経過して、今や「昭和」から「平成」を経て「令和」の時代となり、新たな企業研修として教育を受ける若手の社員が沢山入社してきた。また、彼らの教育を受けた若手社員も新たに教育を行う中堅から上級の社員となり、組織や仕事に対する考え方から社員の育成の仕方など多くのことが変化してきたと思う。

 教育を受ける者は、企業や組織に入ったらその場所での仕事や研究の仕方を学んで当然であり、そこに十分な組織からの配慮が無ければならず、その結果として教育を受けられなければ教えられる側にはたとえ指示命令されたことでも責任はないと考える。すなわち、この場合には、若手の社員は企業や組織に適合した正しく教育がなされていないので
「求められるレベルでの仕事はできない」と考えるであろう。

 社会人に限ったことではなく学生においても同じであるが、「学んでいない」ことはすなわち
「自分の責任ではない」というような反応をするのである。

 著者も現役の頃に教える側の立場を経験したことであるが、若手の社員の導入教育をした折に
「おやっ」と感じたことがあった。著者は、昭和61年4月に、ガラス製造会社の研究所の技術職になったが、当時の教育相手は30歳以上も離れていたと思う。仕事においても、関連する技術や技能そのものを教えることと、それらを広く活用できるようになるために、「人と人とのネットワーク」を作っていくことなど多方面にわたる習得が必要であった。技術そのものは教科書や座学や独学でも十分に習得が可能である。しかし、人為的なネットワークの構築に対しては単なる勉強ではできない。すなわち、その場に適応できる能力(というかセンス)が必要になり、それが不足しているならば努力して獲得していかねばならないのである。
 
 著者の驚いた実例として、業務を遂行する中で、部下に次の指示や段取りを教える過程において若手から以下のような返事があった。

 
「了解です~!」、「わかりました~!」

 「~!」は相手の返答の状況を文字の雰囲気で表したものであるが、軽い「ノリ」のようなアクションでこちらでも大変困惑したことを今でも鮮明に覚えている。現役時代に属していた組織においては、著者は教育される側に対して30歳以上も年上であるし当時の組織の長でもあった。そのためにこれまでの部下からの返事とは大きく異なるとても軽いノリのような返事には困惑した。

 著者とほぼ同年配の友人からは、
「あまりにも失礼な返事だね」とか、「社会人のイロハも知らずある意味でとっても無礼だ」とも言われた。著者自身も、目上の上司や教える側の教官などに対して本当に「社会人としての常識を知らない人」だな、とつくづく感じた。普通ならば、「承知しました」とか「畏まりました」と返答すべきであろう。また、指示された内容に対しては、確認の意味も含めて「~については~までに承知しました。」とか「~について~まではどの段階までに進めたら宜しいでしょうか。」などと具体的にまた丁寧に対応することが組織の内部だけでなく社会人として大切になる。そう言えば、あの「笑点」においても、座布団運びの山田邦夫君が司会(今は笑福亭昇太さん)の指示に対して、「畏まりました」と返事をして次の行動に入る。やはり、軍隊やそれに近い管理組織ではないものの(そのような場合には必ず復唱して“了”と返事をするらしい)、上下の関係は考えて行動して欲しいものである。

 社会人としての導入教育が不十分であったというか学生から社会人となるときの自覚が十分でないのであろうが、近年特にこのような若手が多くなったとつくづく感じる。やはり
「親しき中にも礼儀あり」とよく言うが、こうした自分自身が気が付かないうちに若手社員の自分自身の立場や状況を悪くすることも有ることを考えて欲しいものであると強く感じた。

 よく“パワーハラスメント(パワハラ)”とか、“○○いじめ”という言葉を耳にすることが多くなったが、後日行き違いから立場を悪くしないためにも、先ずは自らがその立場をよく理解して相応の対応を心掛けるようにして欲しいと感じている。企業や組織においては、その場の状況に合わせた対応も求められる。
ちょっとしたボタンの掛け違いから、それ以降にお互いに嫌な雰囲気になってしまうことも多々あるので、自分自身でも状況を改善できるようなことはできる限り考えておきたいと思う。

 とにかく、
「感謝」と「礼儀」はどのような場面でも基本であるので、教育や指導を受ける場合には、基本中のこととして考えて欲しいものである


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