「畑違い」のどうしょうもない上司に対峙する


2.上司と上手に「たたかう」方法

 「畑違い」のどうしょうもない上司に対峙する」

 よく言われることであるが、組織のトップ(例えば社長や統括部長)が交代したり、また経営の方針が大きく変化したりすることによって、部下に指示する内容やまたやり方が大きく変化することがある。このような状態は、企業や組織の経営状況が悪化すると起こりやすい。例えば、技術系の企業のトップ(CEOやCTOなど)が技術の知識や情報を持たない営業分野のトップに交代し、あるいは技術系のトップクラスの経営者であっても、鬼軍曹のような過去に唯一の成功体験のみを誇りにする上司がその企業の最高責任者(CEOなど)になると、その部下たちはかなり無理難題を背負うことになる。中には営業畑の出身であっても、広く技術の情報を吸収して、それらの重要性を理解して、組織として技術の有用性を考えようとする経営者もいるが、最近の経済状況に見られるように、事業の運営に対して余裕がなくなると企業や組織の目先の損益だけしか見えなくなるようである。すなわち、企業や組織の経営を技術を含めた総合的な見方で運営できなくなるので、人材育成も疎かになり、企業は空洞化の様な状況となり、その結果技術力も低下して最終的には営業力も低下して企業としての存続も厳しくなるであろう。しかし、トップになれば、技術畑の出身者でも企業や組織を経営する能力が必須となるので、単なるオタク的な「技術バカ」だけでは受け入れがたい。

 いっぽう、経営者の中には技術分野のエキスパートの出身でありながら経営にも長けた者も沢山おり、この場合には問題なく技術の向上と組織の成長がバランスよく進んでいくような状況にある。やはり、技術中心の企業に対しては技術の内容を理解できる(あるいは理解しようと努力する)責任者が経営者となって欲しいと強く感じる。

 とは言っても、現実は必ずしも思い通りにはならず、著者が現役時代に研究開発を支援する技術的な業務を担当していた時代に、何人かのCEOの交代の裏では経営や営業、あるいは人事部門の出身者がトップに登用されたことによって、技術的に思い切った展開ができないなどの課題があったと強く感じた。また、技術系のトップでも企業や組織の全体を俯瞰できる考えや意見も持たないし、部下からの提案や意見に対してもほとんど耳を貸さないことや、あるいは組織の予算を上手活用しないなど、あまり魅力のない統括者もいたことを記憶している。

 しかし、本書でも既に議論してきたが、上司は部下をある程度は選ぶことができる(例えば、新入社員の配属においては希望を主張できるし、能力的に適合しない部下は移動させるなど)が、部下は残念ながら上司を選ぶことができない(部下の最終手段は異動の申請かあるいは退職か?)。そこで、著者の少ない経験から解につながるかは分からないが、以下に幾つかの「気休め」を書いてみよう。

 1) 経営者やトップが交代するときには、自分が所属する企業や組織の状況(経営状況や研究開発の状況など)を良く把握しておこう。著者の少ない経験では、外部から登用された
最高経営責任者(CEO)や統括部長などの業務遂行に対しては、彼らの行動や考え方だけでなく、自分自身が所属する企業や組織の経営状況や研究や製品の開発の状況などにも大きく影響するので事前によく把握しておこう。

 例えば、銀行業界や金融会社などの役員が技術系の企業の役員やCEOになったり、あるいは他社の技術系の責任者(例えば事業部長など)を自社の組織の統括責任者に登用されることがある。多くの場合には、経営面での改革が率先して行われるのであろうが、技術系の企業では経営側のメンバーと技術者とが交流(意見の交換や調整など)できない場合には、それらの新しい経営者ははっきり言って
「能力なし=無能」と思って間違いないと思う。

 すなわち、技術系の経営者は、自社の技術の内容やそのレベル、あるいは他社との技術力の違いなどを多くの情報から正しく理解して経営的に判断できる者でなくてはいけない。そのためには、経営者は組織の担当者と広く議論して多くの意見を聴いて正しい判断をできる者でなくてはいけない。このような行動なしに決して組織の成長は無いし、また同時に社員や技術者の成長は無い。

 よく
OJT(On the Jon Training)といって、実際の仕事の中で社員を教育して育成させるという重要な活動が行われているが、形式的にやっているというポーズだけでは社員は決して成長しない。新入社員から新人を経て中堅社員から生え抜き社員といったように、社員が段階的に成長することが求められる。そのような仕事の進め方が組織の内部の者でも実感できることが本当の育成の姿である。

 さて、経営者の交代によって、今までよりもより良い組織となるか、あるいは今までと違ったやり難い組織となるかなどは誰にも分からない。これも言ってみれば運次第であると言える。しかし、多くの場合には、社外からの人材による経営者の交代に対しては、事業を細々と続けるか、あるいは起死回生の改革をするか、さらには技術を地道に進めるかなどによって、受ける側の社員の感じ方や思いは大きく異なる。一般的に銀行業界や金融会社から登用された場合には、経営の立て直しなどの場合が多いので、自社の技術者に対しては明らかに
「冬の時代」になる。しかしながら、おそらくその耐える期間も3年程度が最大と思われるので、その間は技術を着実に積み重ねながらじっと耐えることになるのであろう。

 技術者自身の事業に対する思い。もっと分かり易く言えば担当している技術内容に対する考えをその期間に自分自身で整理して次の機会に提案するアイテムを提案できるように具体的に整理しておくことが良いだろう。そうすれば、万が一技術者自身が最悪の場合にその場から身を引くときに(異動を申請したりあるいは職場を辞めたりするなど)、次の組織でのセールスポイントを得ることができると考える。

 2) 経営者やトップ
(CEOや統括部長)が技術系の分野の出身者に交代するような場合にはまさにチャンスが到来したと考えてもらいたい。これまでに準備していた技術的な提案をチャンスを見ながら出していこう。ただし、その場合には、既にここで書いたようにできるだけ多くの技術者の仲間を集めよう。直属上司はできる限り仲間になってもらう。組織の責任者(領域長や統括部長など)、あるいは賛同する分野を越えた技術者や生産現場の仲間も集めよう。

 ただ、このような場合に注意をしておかねばならないことがある。自社の中で昇格によってなった経営者に対してはある程度は組織や企業の状況を理解できるが、他社から役員や経営者として抜擢される(多くの場合には自社の役員が引き抜いてくるので受ける側の社員は何も知らされずに人事が進む)場合には勝手が違う。

 他社においてやたら昔の成功体験で攻めて来たり、あるいは全く効果的な行動につながらずに少数の小兵を集めて自社内の意見を聴こうとしないなど、技術系の社外から引き抜かれた技術系の経営者が最もややこしいのである。このような場合に対しては、とにかく地道に成果を出して少しずつ理解をさせていかねばならないであろう。このような場合でも、製造現場や直属上司あるいは同僚などの結束も重要となる。とにかく仲間たちでスクラムを組んで対峙したいものである。

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