「楽しく仕事が出来ているかい?」 | |
2.上司と上手に「たたかう」方法 梯子を外されても慌てない プロジェクトや事業計画を進める中で、現在進行中の業務や実施内容に対していきなり中止や取り止めを言われることがしばしばある。このような状況を業界においては「梯子を外す」と言うが、担当者は多くの場合にプロジェクトや業務を遂行する気力すら無くしてしまう。このような状況が重なると部下と上司の行き違いが日常的となり、さらに上司に対する部下の不信感となり、最終的には上司は部下からの信頼を無くして、有能な部下を育成することもできなくなる。 ただ、このような「梯子を外す」と言う状況は必ずしも直属上司だけの問題ではない。直属上司の上には彼らを統括する上司がおり、さらにその上には役員級の上司がいる。そして、多くの場合には経営者側(役員)の影響を受けていることが多いのだろう。また、地震や感染症などの予測できない緊急的な事態から生じる経営判断による「梯子外し」の場合もあり、こうした「梯子を外す」という状況は単純に考えても必ずしも直属上司だけを非難するわけにはいかない。 ただし、「梯子を外す」という部下にとっては不幸なアクシデントに対しては、明らかに影響を受ける側(部下)は常にある程度の危機感を持ってプロジェクトや事業計画に加わることが重要であると考える。これがいわゆるKY(危険予知)と言うことになるのだろう。 企業や利益を追求する組織は常に収入と支出のバランスを維持していなければならない。収入が支出を上回る黒字ならばその企業や組織は成長していくことができる。そのために、収入を増やすか支出を減らす(いわゆるコストダウンと呼ばれる活動)が重要となる。プロジェクトや事業に加わる若手や新人の社員は常にこうしたことを意識しておかねばならない。ただし、それ以外に、単純に上司のその場気分で「梯子を外す」ことが行われることもあるので、状況を把握しながら注意しておくことが良いであろう。 著者の実際の体験であるが、20年以上前に独立分離した組織(いわゆる分社と呼ばれるもの)の事業所長であった頃に、新しい試験分析の装置を導入するために1000万円を超える機器を購入する機会があった。そのために、毎日、上司には計画を具体的に初期の段階から説明して、分析装置の製造業者との詰めも行い(勿論、試験的な分析も行って)、「さぁ~」起案書を作成して提出の段階になってから、「なぜ、この機器が必要なのか?なぜ、今購入すべきなのか?」と言われて、最終的には「これは購入できない!」と断られたことがあった。「バカな!」とか「上司は何考えているのか!」とか、「この上司は技術のことを全く疎かにしている!」と怒りまくったことがあった。しかし、後になってよくよく考えてみると、かなり前にこのような状況は著者の友人の行った起業申請でも同様に行われていたことを思い出した。「あぁ~、上司は本当に信用できない者だなぁ…」とつくづく感じた。 全ての事例に当てはまることではないが、計画の初期段階で修正や停止を指示されるのは、ある意味で仕方ないという感じを受けるが、最後の詰めの段階で否定されるとダメージは図り切れない。ある意味で、上司の「能力不足」すらも疑ってしまう。しかし、このような状況に陥らないためにも、またダメージを低減させて挽回するための方策はそれなりにある。 これも著者の経験であるが、試験分析の組織の一員であった頃に海外出張のチャンスがあった。北欧フィンランドでの技術的な発表であり英語での講演であったが、今後の技術の進歩と向上のために「是非出席したい」との提案を上司に告げた。結果は、「大変良いことではあるが予算が無い」という大変「つまらない」返事であった。しかし、関連する他の組織も含めて間接上司や先輩や友達に相談した(いわゆる根回しを行った)結果、受託研究テーマとして契約してある程度の予算を付けることに成功した。そして、この状況をよりどころとして継続して8年間に3回北欧に出張する機会を得た。残念ながら一緒に出張した先輩社員は早期退職してしまったので、それ以降はこのような進め方が絶えてしまったが、この3回の海外出張の経験は著者に対して極めて大きな力を与えてくれた。 また、最近では、関連部署の後継者となった責任者からは大きな信頼を得ていたので、技術的なレベルは大きく向上した(これらの活動もあり、国際誌には論文投稿をする機会も得た)。また、関連する事業に対しても国内外の競合する他社とも互角に議論ができるようになり、時には彼らを先導できるようになってきたいと思っている。このような活動がきっかけとなって、フランスやドイツや英国などで数回以上の議論をする機会も得た。そして、多くの技術者の友人もできて、彼らとの議論によって、技術の枠は広がりさらに深いレベルで考察をすることが可能となった。 「梯子を外される」という状況は、外す側の責任や資質にも大きく影響するが、外される側の詰めの甘さや油断や思い込みも大きな影響をもたらしたのだと思う。著者の経験から、そうした状況を十分に考慮して結果を得るためには、いくつかの注意や配慮も必要となる。 一般的には、 1. 納入業者や技術的な相談相手に対しては、起業申請が正式に承認されるまで決して安易に契約を承諾しない。 2. プロジェクトや計画は、企業や組織の経済的な状況や天災(あるいは人災)などの影響を受け易い。特に、企業や組織が順調に機能していないとか、あるいは何かのダメージを受けている場合にはそのようなリスクは高い。そうした中でのプロジェクトに対しては、常にリスクをを考えておくことが必要である。 3. 日常から組織の内部で議論できる友人を持つことが必要である。必要な時には躊躇せずに彼らに助けてもらう。そのためには技術者であるならば組織的にオンリーワンとなろう。オンリーワンであるならば、少なくとも自社内ではナンバーワンであるので、自分自身が中心となって対応できる。 4. 常に「Give and Take」を考える。「助けてもらう」だけでは友人や上司や先輩は決して潤わない。また、将来の信頼関係も生まれないであろう。長期にわたって継続的な信頼関係を築いていくことが非常に大切である。製造や生産の現場、あるいは加工などの部署に対して有益な情報や提案や改善を積極的に行うことが良いと考える。 「梯子を外される」ならば、外されないための方法や対策を考えておこう。必要ならば「外された梯子」を友人などにかけ直してもらおう。どうしてもかけ直せないならば、非常階段を探しておこう。案外、直ぐ近くに解決策はあるものである。
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