「楽しく仕事が出来ているかい?」


1.部下を伸ばす上司と部下を駄目にする上司

 もっと揉まれよ!

 各個人が持つ技術力を効果的にまた飛躍的に高めるためには、周囲(競合他社や自社あるいは自部門の研究開発のライバル)からの適度な刺激も必要不可欠になる。そのためには、自らが周囲に対して他流試合的な交流を継続的に行いながら積極的にプラスになる影響を受けていくことが良い。しかしながら、これらの刺激は自社や自部門などの既に知り得ている文化や組織内での刺激では明らかに不十分である。理想的には、上司や教育者の適切なアドバイスも含めて自らが外部に議論の場を求めて積極的に出ていかねばならない。特に、企業の研究開発の部門で技術開発を行う場合には、学会や講演会などで「その道」の第一人者の研究者や競合他社の研究員や技術者との質疑応答あるいは議論などが重要となる。

 すなわち、
「井の中の蛙大海を知らず」では若手技術者は将来において決して大きく成長することはできない。 同じ文化や組織の中だけでの議論ではどうしても着目する技術内容が類似化してしまう。すなわち、自分自身が十分に考え抜いたと思っていたことでも案外気が付かないことが沢山あり、何かにつけて考えが一方向的になりやすい。

 しかしながら、日常とは異なる組織や文化に接するとしばしば全く異なる技術的な着眼点を得ることができる。今まででは、同じ組織やグループ内で決して重要とは思われない技術内容や解決ができない技術の難題に対しても、議論において質問された内容に対して案外解に近い大きなヒントを与えてくれるものである。

 すなわち、このことは研究開発における難題や困難に対して、多方面からのアプローチが可能となることを意味している。 一般的に言うと、科学的な現象や作用に対しては、我々は理解することは可能であるが完全な正解を得ることは難しい(多分、ほとんどの場合にはできないであろう)。

 多くの異なった視点からの議論を重ねることによって新たな知見を得て、そしてそれらを積み重ねて自己の技術的内容のレベルを大きく向上させることが議論によって可能となる。 若手の技術者に対しては、このような貴重な経験を積ませることが極めて重要となる。そして、さらにこうした場外での他流試合が若手技術者の技術力を大きく向上させるだけでなく各個人の精神力も強くするのである。

 このようなレベルになると、ちょっとした程度の圧力(あるいはストレス)には負けなくなる。すなわち、世間で言われるようなある程度の
「ハラスメント」などは跳ねのけてしまうだろう。よく、「骨太技術者を育成する」ことが企業や組織の教育課程の中で言われるが、場内の者だけでは考察や議論する能力に対して必ず偏りが出てしまう。そのために、一流(ナンバーワン)と認められる技術者になるためには場内で揉まれた力を場外で振り回さなくてはならないのである。

 著者はこのような状況に対して
「もっと揉まれなさい!」と言いたいのである。上司や教育者の方々は「揉まれる」ことに対しても人材育成においては重要なミッションであると思って教育のツールに加えて欲しいと、読者の皆さんに対しても強くお願いしたい。

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