「楽しく仕事が出来ているかい?」 | |
1.部下を伸ばす上司と部下を駄目にする上司 部下の能力を伸ばす技 教育者は完全形を目指さない 教える側の上司の技術レベルが非常に高い場合や、上司や教育者があれもこれもやりたい性格の場合には、大抵の場合に部下がやりたいことを提案しても完成形を見るまでに至らず中途半端な状態で断念してしまうことが多い。そのような場合には、不幸にも部下はほとんど成長することなしに終わってしまう。つまり成功体験を得ることなしに常に手の届かない高いレベルの目標だけを追いかけて終わってしまうのである。 例えば、分析技術を調査して適用を検討している場合には、実際に行った実験や見つけた現象などの記載的なまとめは非常に大切であり、本来はそのような視点を中心にして測定や観察のデータをまとめて記載していくことが求められる。しかしながら、実験や観察を行ったときに得られた現象をまとめた先にそれに至るメカニズムや反応過程や科学的な作用などが見え隠れすると、最終的な大きな結果に対してのみの興味が先行してしまうらしい。このような状況では、いわゆる「まとめ」までの時間が果てしなく長くなり、多くの場合にはほとんど成果が出ない状態に至ってしまう。何年たっても上司の期待できる成果はまとまらず、教科書的な理想形や想定した完全形のみを追いかけているだけになってしまう。つまり絵にかいた餅を食べることができずに終わるのである。こうした技術者の上司や教育者には、技術的な報告書や科学論文は決められた期間の中で完成させることはほとんど期待できないのである。 このような研究のスタイルが教育を実施する上司や先輩社員の中だけにあるならば、当然、当事者だけのことなので本書では扱うべきものではない。しかしながら、部下の教育や若手の育成の場合には、このような行動は後々大きな問題となり、人材の育成に対しての大きな停滞を生じさせ汚点を残す。つまり、このような状態では、部下は先走る上司の考えの下で置き去りになる傾向が高いのである。 仮に理想形となる最終的な目標が解っていても、その目標に対して的確に到達するためには何段階もまとめと結果を積み重ねていかなくてはならない(多分そうしないと当事者たちは納得できないのであろう)。しかしながら、部下を教える側(上司や教育者)が理想形だけを優先するようになると明らかに未熟な部下はほとんど対応することができない。教える側が理想形のみを優先しようとすると未熟な部下は全く対応できないのである。そうした場合には、将来の有能な部下を育成することはできずに、いわゆる「宝の持ち腐れ」の状態となる。では、こうした状況や状態を改善するためにはどのようにしたら良いのであろうか。 当該技術の第一人者が公開した論文や書籍、あるいは教科書などを読むと自然とその答えが出てくる。すなわち、彼らの論文や書籍に書かれた文章はほとんどの場合に以下のような書式である。 「はじめに」→「課題と背景」→「個々の記載」→「解析結果」→「考察」→「結論」 したがって、個々の技術に対する部下の教育や育成においても、同じような流れで行うことが大切であると考える。 このような考え方の流れの中で、一番大切なことは部下や若手が行う(あるいは行う予定の)課題や背景を十分に理解させることである。これがなければ何のための研究や開発をするのかが全くわからず意味のない作業を続けてしまうことになる。「なぜ、この研究開発を行うのか?」、「この研究の重要性はいったい何なのか?」、「この研究は事業のどこに貢献するのか?」、あるいは「我々の研究開発はどこを最終目標として目指すのか?」などを上司と部下はお互いに議論して語り合うことが極めて大切である。すなわち、上司からの一方的な背景や内容の説明だけではなく、お互いに理解できるような議論が大切であると考える。議論は”discussion”と言い、対話は”dialog”と言う。議論と対話は全く異なる状態である。意見交換や議論をするならば、やはり”dialog”ではなく”discussion”でありたい。 次に大切なことは、研究開発を行う最終的な目標に対して「どのようなやり方や進め方をするのか?」、そして「それぞれの段階(ステージ)では何をどこまで達成するのか?」を筋道をたてて理解させることが大切になる。仮に最終的な目標がわからないとかあるいは見えない場合には、区切りの良い段階方式での進め方でも良いであろう。また、部下の性格や能力を日々の相互議論から考えながら、途中の段階での取り組みでもきちんとお互いに認識しながら進めたいものである。 自分自身のやるべき内容、目的、背景、重要性、あるいは進め方などが決まれば少しずつ着実に進めていくことが重要になる。そのような状況において上司は決して焦ってはいけない。しかし、同時に常に1〜2歩先を見据えておかねばならない。
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