第二の緑の革命

中崎 龍

CONTENTS

不耕起栽培

不耕起栽培は雑草との闘い

ベッドを用いた農地作り

第二の緑の革命へ


 現在CIMMYT(国際小麦・とうもろこし改良センター)では、『Love and Peace and Agriculture』で述べられたような基本理念をもとに、第二の緑の革命を起こすべく、すなわち世界を飢餓から救うため、研究が続けられている。

ここでは、現在CIMMYTで研究・実践されている具体的な農法について詳しく述べる。





不耕起栽培

 CIMMYTでは現在、発展途上国において不耕起栽培を推進している。不耕起栽培とは文字通り、耕耘をまったく行わないことである。そもそもなぜ耕耘を行うかというと、一つは播種や定植のための床の造成であり、種子の最適発芽環境と確実な初期生育を保証するためで、もう一つは土壌改良剤や有機物を土壌中に混入し、地力培養を図るためである。深く耕すことは、作土を厚くし、土壌の孔隙を増大させることにより、透水性や通気性が改善され、その結果、土壌微生物が活性化される。また耕耘によって土壌中の肥料成分は均質化される。有機物は深くまで混合され、微生物も混合された層の中に均一に分布する。このため根張りがよく、根群域は拡大され、丈夫な作物作りに適する。しかし、人為的に深くまで耕耘するため、土壌の粗孔隙は増大するが、毛管孔隙は少なくなる。そのため水はけはよいが保水性に劣り、干ばつの被害を受けやすくなるのである。

 一方、不耕起では、表面に有機物(施用有機物や植物遺体)が集積し、そのため微生物も多く分布する。表面に近い部分で有機物分解が活発に行われ、作物に必要な養分が放出されるため、根は表面に集中して分布する。逆に、根が多く分布している表面に養分がきわめて高くなっていると言える。また、土壌は粗孔隙が少なく水はけは悪くなるが、根の腐敗したあとに生じる微細な孔隙(毛管孔隙)が多く見られ、保水力はよくなる。このため、干ばつには強いが、畑状態で急激に多量の雨が降った場合、地下浸透が不十分で、表流水となって流れやすいので、一般畑作では実施しにくい方法である。しかし、ここで考えたいのが、CIMMYTが対象としているのは発展途上国とりわけアフリカであり、多くが乾燥地あるいは半乾燥地である。つまり、上記のような多量の雨が降ることはなく、不耕起による土壌の保水力は重要となってくる。

 また、土壌の表面に有機物が集中すると先に述べたが、野菜のように窒素要求性の高い(約3kg/a以上)作物では濃度障害により根の生育が不良となる可能性があるが、CIMMYTの対象とする作物はこのセンターの名称からわかるように、コムギ、トウモロコシであり、窒素要求性の低い(1kg/a)ものである。

 CIMMTが不耕起を選ぶ大きな理由の一つに低コスト・省力であることが挙げられる。耕耘には機械の燃料費や人の手間などがかかるのである。これは、貧しく、人手の足らないアフリカの農家においても非常に重要な問題なのである。





耕起
不耕起






不耕起栽培は雑草との闘い

ところで、不耕起栽培は耕耘を行わないため、雑草が非常に多くなり、大きな問題となる。事実、雑草防除に大量の除草剤を用いるシステムはアフリカにおいて持続可能ではないという指摘がある。そこでCIMMYTの雑草対策について以下の二つの方法を考えている。

 一つは、ワラを用いた防除である。ワラを畑に敷きマルチの役目をさせ、雑草の生い茂るのを防ぐ、よくある方法である。また、このワラくずは後に有機物として分解され、肥料にもなるのである。

 もう一つの対策は、品種改良である。CIMMYTでは、初期生育が旺盛で、初期の葉が横に広がり、後生の葉は光合成に適した角度になるという品種を開発している。初期の葉が横に広がることで、日光を遮り、雑草の生える余地を与えないのである。もともと伝統的な品種は葉が横に広がるものであり、それらを交配することによって、新しい品種を生み出そうとしている。







ベッドを用いた農地作り

 前回の「緑の革命」では無謀で過剰な灌漑が土壌の荒廃を起こし、問題となった。

 そこでCIMMYTでは現在、ベッドを用いた農地作りを行っている。ベッドとは下図のような畝のようなものであり、この上に作物を植える。ベッドとベッドの間にはもちろん溝ができる。この溝に水を流すのである。水はベッドへと横にしみ込んでいく。こうすれば畑全体に灌漑するよりも水利用効率がよく、水の節約にもなり、また水資源確保のためのコストも少なく済むのである。このことはとりわけアフリカなどの乾燥地では非常に重要になってくる。

 ところでベッドを作るのは不耕起ではないのではと思われるかもしれないが、これももちろん不耕起下の話である。何も一般の耕耘のように土をひっくり返すわけではなく、土を寄せて作るだけのものである。

 ベッドを作ることには他にも利点がある。作物を密に栽培しないので害虫や病気が広がりにくくなり、また植物個体間の光の競争がなくなるのである。

ベッドを用いた農地








第二の緑の革命へ

 以上に述べてきた不耕起栽培、そして『Love and Peace and Agriculture』で述べられている農家を巻き込んだ品種評価システムを組み合わせたモデルの確立を目指し、第二の緑の革命を目指している。

 5年前からCIMMYTによって普及され始めた不耕起栽培は現在、発展途上国の農地50万haにまで広がっている。

 しかしまだ始まったばかりであり、結果が出るまで何年かかるかわからない。恐らく新たな問題も生じてくるだろう。

例えば、ワラを用いた雑草防除について述べたが、途上国においてワラは燃料として非常に重要であり、農業に用いるほどの余裕があるのか、あるいは同じく雑草防除で、初期生育旺盛な品種では、初期生育に土壌中の養分が不足してしまうなどの土壌における課題も残されている。

しかし、現在CIMMYTが研究している農法は持続可能な農業を見据えたものである。不耕起栽培にしても、本来耕すのが基本である農業から発想を転換させて、その土地にあった農法を考え、またワラを用いた農法においても、伝統的な農法を見直し、新しいものを作り出そうとしている。前回の緑の革命のように一つの品種で解決しようというものではなく、もっと総合的、体系的な農法を考え出すことで、持続可能な農業を目指している。

これらはもちろんCIMMYTだけではなく、他の国際機関の世界的な協力があって達成されるものである。

これからの動向に目を向けていきたいと思う。

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参考文献

 ●『作物学辞典』 日本作物学会編 朝倉書店

 ●『実例追求 新しい土壌管理』 西尾道徳編 農文協

 ●『熱帯土壌学』 久馬一剛編 名古屋大学出版会