学校に着いて、色々と考えさせられた。
 とりあえず、教室に入るなり…冷やかされた。…これは予想していたが。
 問題は次だ。
 何故か、休み時間とかに私に話しかけてくる者が激増した。
 何故だ?
 私はいつも人を避けていた。
 集団行動を拒絶し、進んで孤立していた。
 それなのに何故なんだ?
 少し考えて…答えはすぐ出た。

 ウラメだ。

 ウラメ…私を人の道から追いやる忌まわしき病。
 それによって、人を避けようとする私の行動が裏目に出て、逆に周囲の人々を引きつけている。
 もしかしたら、人の目に私は「クールでミステリアスな人間」と映っているのかもしれない。
 本当は、人の皮を被った悪魔だというのに。
 周りは、私が悪魔だということに気付かず、私に色々と話しかけてくる。

 「上野さんってAB型でしょ? ポーカーフェイスで何を考えてるのか分からないし
―――

 「ねぇ、上野さん。ここの問題教えて!
  え? みんな知らないの〜? 上野さんって、すっごく成績いいんだよ
―――

 「上野さん、何座? この週刊誌の星占い、めっちゃくちゃ当たるんだから
―――

 周りの人達の言葉が、私の意識を破壊する。
 ボーッとなって。
 真っ白になって。
 何か見える、何か聞こえる。
 すれ違う気持ち。
 取り残される私。
 幼い私の泣き声が聞こえる。

 嫌だ、もう傷つきたくない!

 誰も来るな。
 誰も寄るな。
 誰も近づくな。
 私に近づかないで。
 私に近づかないで…。
 私に…。

 ワタシニチカヅカナイデ!!

 衝動的に、目の前の女子を突き飛ばしていた。
 ガシャガシャガシャーーン!
 突き飛ばされた彼女は机をいくつかひっくり返し、床に倒れ込む。

 ワタシハナニヲヤッテイルノ?

 その刹那、教室の窓ガラスが割れ、丸い物体が私の目の前を横切った。
 野球の硬球だった。
 女子が元いた位置は、ガラスの破片でまみれていた。



 クラス内に沈黙が流れた。
 一瞬の出来事で、状況が把握できなかったのかもしれない。
 しかし、やがて。

 「上野さん、スゴ〜イ!!」
 「咄嗟に庇うなんて、大した反射神経だよ!」
 「しっかし、危ないよな〜。死人が出るかもしれなかったんだぜ〜」
 「でも、誰も怪我してないよな? 全く上野さんのおかげさ」

 そして。
 私が突き飛ばした女の子が立ち上がった。

 「上野さん、助けてくれて…本当にありがとう」

 シニンガデタカモシレナカッタ。
 ウラメ。
 ワタシハナニヲノゾンデイタ?
 アリガトウ。
 ワタシハナニヲ?

 私は震えていた。
 ガチガチガチガチ、歯が軋んだ。
 寒かった。
 自分が怖かった。
 溢れそうになる涙をこらえて、私はその場を走り去った。


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