本編4 「助けてくれたのは感謝するけど―――」 由佳は鼻の付け根をポリポリ掻いた。 「なんで私の部屋までついてくるの?」 ここは由佳の部屋。 「しかし…凄い量だな、この本の数は……」 オレイアスは部屋の中を散策していた。 「うわ、クロ−ゼットの中まで本が……」 驚きを通り越して、もはや呆れているオレイアス。 「い、いいでしょ! 「そんなに大声張り上げると、下にいるアンタの母親に怪しまれるぜ?」 「あっ」 由佳はあわてて自分の口を押さえた。 女教皇(THE HIGH PRIESTESS) 「精神現象学…? アンタこんな本ばっかり読んでるのか? 「あーーーーッ!! ヘーゲル様を馬鹿にしたわねッ! そう言うと、由佳はクローゼットの中に山積みされている本から 「はい、読んで! ペロっと読んで! もう目が覚めるよ!」 「本の山が崩れる」 「ふえ?」 由佳がクローゼットの方に振り返ると、 「わーーーーッ!」 あわてて支えようとした由佳だが、 「由佳〜、何かあったのー?」 下から由佳ママの声。階段を上がってくる。 「やばッ! ほらキミ! ボサっとしてないで、さっさと隠れる!」 「無駄だ、見つかる。運命がそう言ってる」 「クローゼットの中に隠れたら、見つからないって!」 「クローゼットは崩れた本が邪魔で、扉がしまらない。 「あきらめ…られるかーーッ! 必殺!」 由佳は運命に逆らって、最終奥義を発動した。 ◆ ガチャ。 「由佳、大丈夫?」 心配そうな顔つきで、由佳ママが入ってくる。 「だ、だいじょーぶだよ。ちょっと本が崩れちゃっただけ……」 「そうだったの。てっきり泥棒でも入ってきたのかなってママ心配したのよー。…あら?」 由佳ママは何かを見つけた。 「そのぐったりした物はどうしたの?」 「こ、これは、たれぱんだの類似品の『ぐったりボブくん』だよ」 由佳ママはしばらく『ぐったりボブくん』を見つめていたが、 「類似品には気を付けるのよ」 と言い残して、下に降りていった。 由佳は額の汗を拭い、安堵のため息を吐いた。 「見つかったけど、バレなかったから、作戦成功ね」 もちろん、『ぐったりボブくん』の正体が、 ◆◆◆ その直後、二人の仲は険悪になった。 「人間など塵芥(ちりあくた)に等しい。下僕こそ相応しいのだ」 この発言は不味かった。もちろん、オレイアスははずみで言ってしまったのであって、本意ではなかった。 「どうせ嘘泣きだろう」 オレイアスは心にも無い言葉を吐き捨ててしまった。 「…キミから見ればね…、人間は弱く愚かかもしれないよ…。 震える肩に同調してか、由佳の声もまた震えていた。 「それなのに…それなのに…塵芥だなんて……」 由佳は顔を上げた。 「…キミなんて、大っ嫌いだ!」 それは涙でくしゃくしゃの顔だった。 ◆◆◆ 「あんな女、もう知るか!」 真夜中、雨のミッドガルドをオレイアスは飛び回る。 オレイアスは街の一角に降り立った。 「何だ、テメー。見てんじゃねーよ!」 もう何事もオレイアスを縛ることはできなかった。 「我が名はオレイアス。 オレイアスは完全に死神としての本性を表していた。 「開け冥界の霊棺。すぐにこの者達を送呈してやろう」 街に叫び声が轟いた。 |