本編3 タンタン。 「お願いッ、入ってーーー」 叫ぶ由佳。 「入る」 オレイアスの言葉。ボールはその言葉に導かれるように、リングに入った。 「やたーーーーッ!!」 由佳は飛び上がった。 「見た!? 私のハラハラドキドキショット! …ってキミは運命が分かるから、全然ハラドキしないかー」 あー残念、と言わんばかりの顔つきで、由佳はボールを箱に直して、ベンチに座った。 「キミってさ、バスケ上手いんでしょ? 一緒にやってきたら? 由佳には、オレイアスが手持ちぶさたに見えたのかもしれない。 「あ、そだ。ダンクできる? できるんでしょ? 「ダンクはできない」 できるものだと決めつけていた由佳は、一瞬間の抜けた顔をした。 「え…? 死神なのに?」 きょとんとした面もちの由佳に対し、オレイアスは箱からバスケットボールを取り出して、 「魔力を解放すれば簡単だ。 そのボールを人差し指の上で、くるくる回した。 ◆◆◆ 「お疲れーーー」 6時を回って、クラブは終わる。部員達は次々と帰っていく。 すると、一人の男が由佳に近づいてきた。 「由佳ちゃん、ちょっといいかい?」 「あ、霧嶋先輩…」 由佳は心なしか困った顔をした。 「この間のこと、考えておいてくれた?」 疑問形ではあるものの、完全に答えを決めつけている質問。 「え…とね…。そのことなんだけど…、ほら、やっぱり受験とかあって忙しいしさ。うー、つまり…」 由佳が答えに窮していると、 「照れなくてもいいんだよ」 なんと霧嶋タケルは由佳の唇に急接近。 「わっ!ちょ…」 由佳は反射的に顔を背けたが、肩をがっしりと押さえ込まれていたため、奴はどんどん迫ってくる。 「由佳から離れな」 オレイアスだった。 「何だい、君は!?」 目的を成就できなかった霧嶋タケルは、その恨み辛みをオレイアスにぶつけた。 「彼はオレイアス君。ほら、留学生の」 代わって由佳が説明する。九死に一生を得た面もちで。 「へー。君が噂の留学生か。 五月蠅い蠅でも追い払うかのように、霧嶋は手を振った。 「由佳は俺の物だ」 え――― ◆◆◆ 霧嶋タケルは怒りに震えていた。 「そ…そこまで言うんだったら、バスケで勝負しようじゃないか! 理性の欠片すら感じさせない、感情だけの叫び。 「もし、君が負けたら、僕の下僕になりたまえ。どうだ!?」 そんな挑発を受けて、オレイアスはスッと目を細めた。 ◆ 由佳は気が気でなかった。 「ああっ、戦車のカード様〜。オレイアスに正の力を、霧嶋君に逆の力を〜」 神頼み、否、タロット頼みの由佳だった。 戦車(THE CHARIOT) しかし、そんな心配はオレイアスに必要なかった。 霧嶋タケルは同様が隠せなかった。 「ちッ!」 霧嶋タケルは、強引に右からドリブルで抜き去ろうとした。 「一体何なんだよ…。僕の動きを先読みしてると言うのか…?」 小さく呟く。 「俺は運命が見えるのさ」 試合は一方的なまま終わった……。 「アンタ、いい死に方できないぜ」 予言を受けて、霧嶋タケルは、あたかも生気が抜けたかのようにその場に崩れ落ちた。 |