もう、あんな変態達とはつきあってられない。
 そう考えて、私は一人で廃墟内を探索している。
 薄暗く、陰湿な廃墟内は非常に不快だったが、奴らと共にいるよりは遙かにマシだった。

 「あれ…? もしかして宝箱かしら」

 崩れかけた壁の陰になんと宝箱があるではないか。
 私は希望と期待を込めて、そのふたを開いた。

 「残念だったな、女。どうやら空のようだな」

 背後からナルセスさんの声。
 しつこいぞーっと振り返った私は、危うく自我を破壊されるところであった。
 なぜなら―――

 「きゃああああぁぁぁぁぁッッッ!!!

 なんと、マッスルトリオの装備品が葉っぱ一枚」に変更されているではないか!
 
一体彼らに何が起こったんだぁ〜〜〜!?

 「コーディーのブッシュファイアが、身体に塗ってたオイルに引火して大変だったんだぞ」

 んなもん塗るな。

 「君のハートにバーニンラヴ!」

 求愛ポーズ(?)を取るタイラー。やめろ、きしょい

 「だ、大体その葉っぱ…なんとかしてよッ!!」

 「お前は女のくせに、葉っぱの一枚も携帯していないのかッ!?
  だから筋肉に嫌われるんだ

 激しく憤るナルセス。女のくせに…って何よ!
 つーか、いつ私が筋肉に好かれたいなんて言った?

 「ナルセスさん、コーディーは新米なんですから大目に見てあげて下さい」

 言っとくけどね、ウィル。アンタも新人なんだよ。
 それなのに、なんでそんなにも
シンクロできるの!?
 そんな私の思惑も気にせず、ウィルは続ける。

 「コーディー、俺のマッスルリーフ(スペア)を貸すよ。吸湿性に優れ、多い日も安心…」

 「いるかぁ〜〜ッ!!!

 ってゆーか、多い日も安心って……何が?

 「まあ、女性に葉っぱ一枚は少し酷かもしれんな」

 と、私の肩にポンと手を置くタイラー。
 この人は、他の二人に比べればまだ少しマシか…
 …なんて甘いことを考えた私がバカだった。

 「特別に、3枚を許可しよう

 その瞬間、私は多段突きでタイラーを蜂の巣にしていた。

 「ヘ〜イ、ゴクラク・テンショ〜〜〜!!

 100万クラウンの笑顔でその場に崩れ落ちるタイラー。
 こいつら
ホントに人間か?

◆◆◆

 とにかく、空箱の前でじっとしていても仕方がない。
 早々と、別の部屋を探索する方が賢明だろう。
 そう思って、この場を離れようとした刹那―――

 「ぬおおおおおッ!! マッスル・チョ〜〜〜ップ!!!

 なんと、ウィルが空箱相手に格闘しているではないか。
 
ついに狂ったか?
 巻き上がる爆煙。
 そして、その煙が引いた時、一つの「剣」が残されていた。

 「そうか、マッスルチョップが鍵だったのか!?」ポンと手を打つナルセス。

 箱が二重底になっていただけだと思います。

 とにかく、私はその「剣」に近づき…それを手に持ってみた。

 クリス・アカラベス…どうやらクヴェルのようだ。
 私はディガーではないが、それぐらいのことは分かる。
 しかし、このクヴェルの持つアニマは一体…?
 現在解明されているアニマは「樹」「石」「火」「水」「音」「獣」の6種類だ。
 しかし、このアニマはそのどれにも該当しない。

 「これは…未解明アニマ…?」

 私は思っていたことをそのまま口にした。

 「フン、お前のような小娘には分からんだろうな」

 ナルセスさんの言う言葉には刺々しさがあったが、
 私はこのアニマの正体を知らないのも事実だ。

 「ナルセスさん、教えて下さい。未解明アニマとは何なんですか?」

 「まあ、いいだろう。教えてやる。未解明アニマとは………」

 ここで、ナルセスさんは一呼吸置いた。

 「…筋肉だ!

 気付いた時には、私はナルセスにかかと落としを鮮やかに決めていた。

 「トレビア〜〜ン、し…白……」

 倒れるナルセスは、文字通り「出血大サービス」とばかりに、景気良く鼻血を吹き上げた。

 「とにかくだ」

 即座に復活を遂げたナルセス。

 「よくクヴェルを見つけたな。さすがウィルだ、ムキッチョだ

 ナルセスは例によって、親指を立てている。

 「きっとタイクーンになるぞ、ウィル」

 涙を流し始めるタイラー。

 「さあ、クヴェル発見を祝して、レッツ・マッスルダンス・アゲインだ!

 ウィルの言葉をキッカケに再び狂喜乱舞し始める3人。
 数時間前、酒場で繰り広げられた地獄絵図が、如実に再現されている。

 「さあ、コーディー。今回こそ君も踊ろう!」

 「私はいい…。さっきの砂親父とのバトルで、HPが残り少ないから……」

 「そうか、親父とハッスルしすぎて、もうヘトヘトかあ〜」

 本気で勘違いしているウィル。
 
こいつは脳細胞まで筋肉なのか?

 「ワンス・モア・ハッスル!!」

 例によって例の如く、またまた親指を立てるナルセス。
 
こいつも同類だ。

 「フフフ、ギブミ〜・ユア・ブル〜・スプリ〜〜ング」

 もはや、宇宙と交信してるとしか思えないタイラー。
 コイツらと一緒にいるとホント疲れる……。
 
私も身体を鍛えないと…って、もしかして私、洗脳されてる〜〜〜ッ!?

◆◆◆

 その後、私達はポケットドラゴンとアンバーマリーチを見つけることになる。
 しかし、ポケットドラゴンの方は―――

 「空箱にはマッスルチョ〜〜〜ップ!!」

 無駄かつキモい一撃を空箱に叩きつけるウィル。
 今回も二重箱だったようで、ポケットドラゴンを入手――って……。
 …
4つに割れてるぅーーーーッ!!
 大体、クヴェルとツールの違いっていうのは、壊れるか、壊れないかにあるはずでは?
 やはりコイツらには「常識」が通用しないってことなのか?

 「さすがだな、ウィル。人数分に分けるとはブラボー!

 例のポーズを繰り返すナルセス。おそらく単細胞なのだろう。

 「もちろん、そのつもりだったのさ

 爽やかに答えるウィルだが、この言葉がウソであることは数分後に明らかになる。
 なぜなら――。

 アンバーマリーチの方は雲散霧消、つまり無数個に分解されたからだ。

 「キャッホ〜〜〜イ!! 今度はたくさん出てきたぞ〜〜〜!

 盛り上がる3人。もはや彼らは、アナザーワールドへ旅立っている。

◆◆◆

 探索は無事(?)終了し、私達4人はヴェスティアに戻る。
 酒場に入って、少し遅い昼食を取りながら、取り分の話をしようということになった。

 「あ、マッチョ様御一行ですね。奥のテーブル席へどうぞ!」

 ちょい待て、ウェイトレスっ! 勝手に私を「マッチョ様御一行」に加えるなッ!

 「本日のランチを4人分頼む」

 妙に冷静なタイラーだが、もちろん葉っぱ一枚だ。

 「本日のランチは生卵×30・プロテイン・リポビタンM(マッスル)となっておりますが、
  よろしいですか?」

 店先に置いてあった看板と全くちが〜〜〜うッ!!!
 なにこれ、
詐欺!?

 「ナイスメニューだ!

 単細胞ナルセスは、例のポーズを決める。
 そして、またいつものように、変態トリオのバカ話に花が咲くのか…
 …とげんなりしていたところ、ウィルがガタッと席を立ち上がった。
 少し雰囲気が違う。こんなウィルを見るのは初めてだ。
 ウィルは激しくナルセスさんを睨みつけている。
 その視線に気付いたのか、ナルセスはウィルの方を見上げ、言った。

 「なんだ、ウィル。私に何か文句でもあるのかッ」

 「ナルセスさんには関係ありません。
  こんな時だけ筋肉質ぶって、いつものすかした態度は何ですか?
  いつものナルセスさんのように放っておいてくれればいいんですよ」

 筋肉質ぶって…ってナルセスさんが「ナイスメニューだ!」と親指を立ててたこと?
 なんで、ウィルはこの行動に対して怒るんだ?
 だって、だって…。
 
他にもツッコミ所満載じゃない!?

 「…なんだと」

 同じく立ち上がるナルセスさん。

 「来い、ウィル。私が筋肉を叩き直してやる」

 二人は、厨房の方へと消えていった。
 一体、二人の間に何があったのか?
 分からない。けど…放っておいていいはずがない。
 私も厨房へ行こうとして、席を立ったまさにその時―――

 「お前もウィルを信じろ」

 タイラーさんだった。

 「二人の間に何があったのかは分からない。
  しかし、俺達に出来ることは二人を信じること…ただそれだけだ」

 「タイラーさん…」

 全く彼の言う通りだった。

 「分かりました。私もウィルとナルセスさんを信じます」

 「それでいい」

 腕を組みつつ、うなずくタイラーさんには、いつもとは違う輝きがあった。
 おそらくタイラーさんは、それだけ二人を信じているということなのだろう。
 しかし、どうしてタイラーさんは、そこまであの二人を信頼できるのか。
 これが長年つきあっていた友だというなら分かる。
 しかし、私達はお互いを今日知り合ったばかりだ。
 一体何故…?
 私は、この疑問を素直にタイラーさんにぶつけることにした。

 「タイラーさん、教えて欲しいことがあるんですけど…」

 「筋肉を付けるコツだな。まずは有酸素運動を…」

 「ち、違うんです。聞きたいことというのは…」

 「まさか、新マッスル体操のことかッ!?
  
ダ、ダメだ! これは秘伝中の秘伝で…

 「最後まで聞けぇ〜〜ッ!

 危うく、奴の顔面を破壊しそうになる。いけない、それこそ奴の思うツボだ。
 先程まで輝いて見えたタイラーだが、
やはりオイルのせいだったか

 すると、酒場のドアが開かれ、一人の男が入ってきた。普通の男だ。
 その男は店に入ってくるなり、タイラーさんに向かって、

 「ぶっーーーーーっ! す、すっげぇ筋肉! 自分でオイル塗ってんのかぁ?
 いいなぁ、きっと世界に一つしかない筋肉だろうな。
 俺もなんか自分だけのものが欲しくなっちゃったよ」

 と長いセリフを残した後、スキップしながら帰っていった。
 筋肉ウィルスは、着実に一般人を
浸食している。

◆◆◆

 しばらくして、厨房からウィルとナルセスさんが戻ってきた。

 「やあ、コーディー。次の目的地が決まったよ」

 爽やかスマイルのウィル。

 「私達の気持ちは、再び一つとなったのだ」

 例のポーズを決めるナルセス。
 どうやら二人は、仲直りした上に、次の仕事の算段まで考えていたようだ。

 「南大陸ナ国の首都グリューゲルから、さらに南へ向かう」

 「そ、それって大砂漠じゃない!?
 どうしてクヴェルの出ない、あんな不毛の地を目指すの?」

 「なるほどな、ウィル。読めたぞ」

 ニヤリと笑うタイラーさん。

 「え!? タイラーさん、一体どういう…」

 「コーディーは、まだ気付かないのかい?」

 3人は同時にその答えを言った。

日焼けさッ!

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