もう、あんな変態達とはつきあってられない。 そう考えて、私は一人で廃墟内を探索している。 薄暗く、陰湿な廃墟内は非常に不快だったが、奴らと共にいるよりは遙かにマシだった。 「あれ…? もしかして宝箱かしら」 崩れかけた壁の陰になんと宝箱があるではないか。 「残念だったな、女。どうやら空のようだな」 背後からナルセスさんの声。 「きゃああああぁぁぁぁぁッッッ!!!」 なんと、マッスルトリオの装備品が「葉っぱ一枚」に変更されているではないか! 「コーディーのブッシュファイアが、身体に塗ってたオイルに引火して大変だったんだぞ」 んなもん塗るな。 「君のハートにバーニンラヴ!」 求愛ポーズ(?)を取るタイラー。やめろ、きしょい。 「だ、大体その葉っぱ…なんとかしてよッ!!」 「お前は女のくせに、葉っぱの一枚も携帯していないのかッ!? 激しく憤るナルセス。女のくせに…って何よ! 「ナルセスさん、コーディーは新米なんですから大目に見てあげて下さい」 言っとくけどね、ウィル。アンタも新人なんだよ。 「コーディー、俺のマッスルリーフ(スペア)を貸すよ。吸湿性に優れ、多い日も安心…」 「いるかぁ〜〜ッ!!!」 ってゆーか、多い日も安心って……何が? 「まあ、女性に葉っぱ一枚は少し酷かもしれんな」 と、私の肩にポンと手を置くタイラー。 「特別に、3枚を許可しよう」 その瞬間、私は多段突きでタイラーを蜂の巣にしていた。 「ヘ〜イ、ゴクラク・テンショ〜〜〜!!」 100万クラウンの笑顔でその場に崩れ落ちるタイラー。 ◆◆◆ とにかく、空箱の前でじっとしていても仕方がない。 「ぬおおおおおッ!! マッスル・チョ〜〜〜ップ!!!」 なんと、ウィルが空箱相手に格闘しているではないか。 「そうか、マッスルチョップが鍵だったのか!?」ポンと手を打つナルセス。 箱が二重底になっていただけだと思います。 ◆ とにかく、私はその「剣」に近づき…それを手に持ってみた。 クリス・アカラベス…どうやらクヴェルのようだ。 「これは…未解明アニマ…?」 私は思っていたことをそのまま口にした。 「フン、お前のような小娘には分からんだろうな」 ナルセスさんの言う言葉には刺々しさがあったが、 「ナルセスさん、教えて下さい。未解明アニマとは何なんですか?」 「まあ、いいだろう。教えてやる。未解明アニマとは………」 ここで、ナルセスさんは一呼吸置いた。 「…筋肉だ!」 気付いた時には、私はナルセスにかかと落としを鮮やかに決めていた。 「トレビア〜〜ン、し…白……」 倒れるナルセスは、文字通り「出血大サービス」とばかりに、景気良く鼻血を吹き上げた。 ◆ 「とにかくだ」 即座に復活を遂げたナルセス。 「よくクヴェルを見つけたな。さすがウィルだ、ムキッチョだ」 ナルセスは例によって、親指を立てている。 「きっとタイクーンになるぞ、ウィル」 涙を流し始めるタイラー。 「さあ、クヴェル発見を祝して、レッツ・マッスルダンス・アゲインだ!」 ウィルの言葉をキッカケに再び狂喜乱舞し始める3人。 「さあ、コーディー。今回こそ君も踊ろう!」 「私はいい…。さっきの砂親父とのバトルで、HPが残り少ないから……」 「そうか、親父とハッスルしすぎて、もうヘトヘトかあ〜」 本気で勘違いしているウィル。 「ワンス・モア・ハッスル!!」 例によって例の如く、またまた親指を立てるナルセス。 「フフフ、ギブミ〜・ユア・ブル〜・スプリ〜〜ング」 もはや、宇宙と交信してるとしか思えないタイラー。 ◆◆◆ その後、私達はポケットドラゴンとアンバーマリーチを見つけることになる。 「空箱にはマッスルチョ〜〜〜ップ!!」 無駄かつキモい一撃を空箱に叩きつけるウィル。 「さすがだな、ウィル。人数分に分けるとはブラボー!」 例のポーズを繰り返すナルセス。おそらく単細胞なのだろう。 「もちろん、そのつもりだったのさ」 爽やかに答えるウィルだが、この言葉がウソであることは数分後に明らかになる。 アンバーマリーチの方は雲散霧消、つまり無数個に分解されたからだ。 「キャッホ〜〜〜イ!! 今度はたくさん出てきたぞ〜〜〜!」 盛り上がる3人。もはや彼らは、アナザーワールドへ旅立っている。 ◆◆◆ 探索は無事(?)終了し、私達4人はヴェスティアに戻る。 「あ、マッチョ様御一行ですね。奥のテーブル席へどうぞ!」 ちょい待て、ウェイトレスっ! 勝手に私を「マッチョ様御一行」に加えるなッ! 「本日のランチを4人分頼む」 妙に冷静なタイラーだが、もちろん葉っぱ一枚だ。 「本日のランチは生卵×30・プロテイン・リポビタンM(マッスル)となっておりますが、 店先に置いてあった看板と全くちが〜〜〜うッ!!! 「ナイスメニューだ!」 単細胞ナルセスは、例のポーズを決める。 「なんだ、ウィル。私に何か文句でもあるのかッ」 「ナルセスさんには関係ありません。 筋肉質ぶって…ってナルセスさんが「ナイスメニューだ!」と親指を立ててたこと? 「…なんだと」 同じく立ち上がるナルセスさん。 「来い、ウィル。私が筋肉を叩き直してやる」 二人は、厨房の方へと消えていった。 「お前もウィルを信じろ」 タイラーさんだった。 「二人の間に何があったのかは分からない。 「タイラーさん…」 全く彼の言う通りだった。 「分かりました。私もウィルとナルセスさんを信じます」 「それでいい」 腕を組みつつ、うなずくタイラーさんには、いつもとは違う輝きがあった。 「タイラーさん、教えて欲しいことがあるんですけど…」 「筋肉を付けるコツだな。まずは有酸素運動を…」 「ち、違うんです。聞きたいことというのは…」 「まさか、新マッスル体操のことかッ!? 「最後まで聞けぇ〜〜ッ!」 危うく、奴の顔面を破壊しそうになる。いけない、それこそ奴の思うツボだ。 ◆ すると、酒場のドアが開かれ、一人の男が入ってきた。普通の男だ。 「ぶっーーーーーっ! す、すっげぇ筋肉! 自分でオイル塗ってんのかぁ? と長いセリフを残した後、スキップしながら帰っていった。 ◆◆◆ しばらくして、厨房からウィルとナルセスさんが戻ってきた。 「やあ、コーディー。次の目的地が決まったよ」 爽やかスマイルのウィル。 「私達の気持ちは、再び一つとなったのだ」 例のポーズを決めるナルセス。 「南大陸ナ国の首都グリューゲルから、さらに南へ向かう」 「そ、それって大砂漠じゃない!? 「なるほどな、ウィル。読めたぞ」 ニヤリと笑うタイラーさん。 「え!? タイラーさん、一体どういう…」 「コーディーは、まだ気付かないのかい?」 3人は同時にその答えを言った。 「日焼けさッ!」 |