私の名はコーデリア。
 新米ヴィジランツとしてヴェスティアの酒場に訪れている。
 今日は初仕事となる日のはずであったが。
 置いて行かれたのだ。

 「…これでも」

 私は酒場のマスターにつっかかった。

 「実力には自信があるのよ。足りないのは―――」

 「筋肉だッ!

 そう、私に足りないのは筋肉――って違〜〜う!
 誰よッ!? 私の話に水を差すのは…。
 私は声がした方角…つまり、酒場の入り口に振り返った。
 そこにいたのは―――。

 「いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!

 なんと戸口には黒ビキニパンツ一丁の男が立っているではないか。
 何やらよー分からんポーズを決めているその身体は、
 オイルでテカテカと黒光りさせていた。

 「やあ、僕はムキムキ新米マッチョディガー、ウィル・ナイツ。略してムキッチョさ!」

 夢…?
 そうよ、これは夢よ。
 こんなディガーいるわけないじゃないッ!
 私の苦悩も余所に、ムキッチョはどんどん話を進める。

 「今日はハンの廃墟をディグアウトさ。さあ、誰か俺と共に行こう!」

 「良かろう、小僧。私が一緒に行ってやる」

 カウンターに座っていた男が振り返った。

 「私の名はナルセス。術戦士だ。して、私の取り分だが……」

 「筋肉に比例だ

 なんでやね〜ん。

 「望むところだ

 ナルセスさんも、それでいいんかい!

 絶対グルだ。
 この二人はグルになって、私をハメようとしている。
 きっとこの後「ドッキリカメラばんざ〜い」って展開になるに違いないッ!

 すると、店の奥で静かに様子を窺っていた男が、突然口を開いた。

 「さっきから筋肉、筋肉と…くだらないな」

 こ、この人は正常だ〜。よかった、私一人じゃなかった。

 「なんだと〜! 俺の筋肉をバカにする気か〜〜ッ!?
  誰だ、キサマ。名を名乗れぃ!」

 いきり立つムキッチョことウィル。

 「フッ、俺の名はタイラー。真の筋肉とはこれをいうのだッ!

 バ〜ン。変身するタイラー。
 もう、私の15年間積み上げてきた常識は
解散総選挙していた。

 「赤いフンドシか…ナイスチョイスだ!

 親指を立てるナルセス。

 「あ、兄貴と呼ばせて下さいッ!!!

 ひざまずくウィル。

 「俺達の出会いを祝して、レッツ、マッスルダンスだ!

 タイラーのこの言葉と共に狂喜乱舞し始める3人。
 私は呆然とするだけだった。

 すると、ウィルが踊りながら近づいてくるではないか。

 「やあ、君の名前は?」

 「コ、コーデリア…」

 「オー、コーディー。レッツマッスル、オーケー?

 「ノーサンキューッ!!!

 私は右手の槍をウィルの脳天めがけて、思いっきり振り下ろした。

 「ワーオ、ハッピ〜〜〜

 恍惚の笑みを浮かべ、崩れ落ちるウィル。
 うらやましそうにこちらを見つめるナルセスとタイラーの視線が、妙に気になった。

◆◆◆

 私達4人はアナス川上流にあるハンの廃墟に向かう。

 「この娘も一緒なのか? 私一人で十分なのにな」

 どうも、ナルセスさんは私に絡んでくる。

 「おい、女。お前は何が出来るんだ? 筋肉もないくせに

 この言葉には、さすがにカチンときた。

 「ナルセスさん。確かに、私には筋肉はありません。
  でも、私にはその筋肉を補って余りある「技」があるんです!」

 「技だと?」ナルセスは笑い出した。

 「おい、ウィル。この女に教えてやれ」

 「いいかい、コーディー。
  戦いにおいて1番大切なのは
筋肉
  2番目は
根性。3番目は気合い。以下、友情努力さり気ない愛……。
  そして、君の言う「
」は、
  千五百、飛んで 三億、飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで………」

 飛びまくるウィル。

 「回って回って回って回〜る〜」

 回り出すナルセス。

 「……二十三位だ」

 冷静なタイラー。しかし安心はできない。コイツも変人だ。

 「分かったか、女。「技」など150300000023番目に必要とされる、いわばゴミだ」

 もうツッコむ気にもなれなかった。
 実際戦闘になれば、技のすばらしさが分かるだろう。

◆◆◆

 すると、私の願いが通じたのか、1匹のモンスターが行く手を塞がる。

 「砂親父ッ!? 気を付けろ! 奴の突進を受けたら、ひとたまりもないぞ!」

 叫ぶタイラー。
 
ふんどし一丁でどーやって戦うつもりなのか。

 「力を合わせて戦おう」

 身構えるウィル。
 しかし、
こちらも黒ビキニ一丁だ。

 「小娘ッ!力を合わせるんだぞ!
  いいか。私達の力すなわち筋肉を密着させるのだッ!」

 おもむろに上着のボタンを外し始めるナルセス。

 「早くしろ、女ッ! さっさと服を……」

 「脱げるかぁぁぁぁーーーーッッッ!!!!!

 私は槍でナルセスを串刺しにしていた。

 「イエ〜〜〜イ! カ・イ・カ〜〜〜ン

 至福の表情でその場に倒れ込むナルセス。
 こいつら…真性の
バカだ。

 その間にも、砂親父は目の前まで迫ってきているではないか。
 もう選択の余地はない。

 「私がデュエルします。
  ウィルとタイラーさんは、ナルセスさんを連れて向こうの岩陰で休んでいて下さい」

 「そうか、じゃあ頼むよ、コーディー。実は俺もタイラーさんもHPが残り少なかったんだ」

 「なんでやね〜〜ん。まだ一度も戦ってへんやろ〜〜〜!!!

 「酒場でのマッスルダンスでHP(ハッスルパワー)を使いすぎたんだ」

 そうなのか?
 HPってそーゆーイミなのか?
 じゃあ、私のHP219つーのは何?
 
つーか私って何?

 「…もーいーです。さっき言ったとーり、私がデュエルしますから……」

 こいつらの為に戦うのも虚しかったが、
 とにかく奴らに「技」のすばらしさだけでも教えてやろう。

◆◆◆

 「なんて硬い奴なのッ!?」

 私は吐き捨てるように小さく叫んだ。
 と、息をつく暇もない。来るッ!
 突進してくる砂親父を間一髪、地面転がって避ける。
 背後が取れた。おそらくこれが、私の最後のチャンス。
 私はギュッと槍を握り直した。

 「集中、集中、突く――エイミングーーーッ!!!」

 私の槍は、砂親父の装甲の隙間を貫いた。

 「や、やった……」

 私は大きく息を吐いた。しばらく、深呼吸して息を整える。
 そして、ウィル達がいる岩陰へと向かった。

 「どう、技のすばらしさが分かってもらえたかしら」

 私は岩の裏にいるだろうウィルに声をかけた。
 しかし、返事がない。ウソ…?
 私は焦燥感のようなものに駆られ、急いで岩の裏へと回り込んだ。

 いない…。
 誰もいない。なんで?
 私を置いてっちゃったの…?

 一人…。

 私は廃墟内を走り回った。3人を捜して。
 ウィル、ナルセスさん、タイラーさん…。お願い…出てきて!

 私は孤独の恐ろしさを初めて知った。

 今思えば、彼ら3人は私をリラックスさせる為に、
 ワザと変態チックな振る舞いをしていたのではないか?
 それなのに私は…。
 私はなんてバカだったのだろう。
 3人に再び会えたら、まず真っ先に謝ろう。

 そんなことを考えていると、廃墟の奥から聞き覚えのある声が響いて来るではないか。

 「おおおおおッ!」ウィルの声だ。

 「ウィル! お前は低く構えろッ! 俺から仕掛ける!!」タイラーさんもいる。

 「タイラー、私もまだいけるぞ。忘れないでくれ!」ナルセスさんも一緒だ。

 3人とも何かと戦っているのか?
 早く私も合流しないと。

 「いいか、ウィル。大切なのはタイミングだ!」

 「いきますッ!!」

 「まだだ、まだ早すぎるッ」

 急げ、あと5メートルだ。
 この壁の向こうにウィル達が…。

 「今だ、いけーーーーーッ!!!」

 「私もバトルに参加します!」

 「おお、コーディー。君も交じるのか〜い?」

 敵はいなかった。
 ただ…3人が絡み合っているだけ。

 「女ッ、いいところに来たな。たった今、私達の「知恵」「勇気」「節制」の
  “
トリプル・ミックス・マッスルアートof正義”が完成したところだ」

 おそらくこれにはプラトンも脱帽するだろう。

 「ワンダフルだろ?

 私は変態トリオの中心に、ブッシュファイアを投げ入れて、その場を去った。

 「お〜、マンマミ〜ヤ〜〜〜

 3人の見事にハモった断末魔を背中に聞いた。

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