
2年目のスタートに「春の祭典」を持ってくるのは、音楽監督の意欲と自信を示したもの。大植英次が、<次のステップ>を踏み出した。
「春の祭典」、低音楽器のファゴットが高音域の旋律を吹いて始まる。順調な滑り出し。オーケストラも徐々に調子を上げてくる。弦楽器のリズムも管楽器のアクセントもつぼを得た感じ。
総じて予想通りの演奏で、今や日本のオーケストラもこの難曲をごく当たり前のように演奏できるようになったんだなと、いまさらながら感心しました。
ラヴェルの「ラ・ヴァルス」、混沌とした音の塊が徐々にワルツに成って行く音楽で、見通しの良い、リズムのはっきりした演奏で、大植英次の特徴がはっきり出た好演でした。
問題はベートーヴェンの協奏曲。オーケストラの出だしは、腰の座った落ち着いた演奏で、スケールの大きさを感じさせる。そしてピアノが入ってきてオーケストラとの共演。ファジル・サイのピアノは自由奔放で個性的。カデンツァなどを聴いているとすごさを感じるけれど、ベートーヴェンの演奏としては納得できなかった。ピアノとオーケストラが別々の音楽をやっているようで、やや不完全燃焼であった。
-今日の一言-
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2004年のスタートにふさわしい、意欲的なプログラム! |
ファジル・サイ(Fazil Say) |
1970年トルコ生まれのピアニスト。主にヨーロッパで勉強し、94年に第1回ヤング・コンサート・アーティスト国際オーディションで優勝。以後ヨーロッパ・アメリカを中心に活動中。
作曲家としての活動も旺盛で、16歳でベルリン建都750周年を記念して「Black
Hymns」を作曲。
ピアニストとしては、ストラヴィンスキーの「春の祭典」でピアノを壊さんばかりの演奏をしたり、ジャズを演奏するなど、かつてのグールドやグルダと比較されている。 |

<美酒に酔う>という言葉はあるが、ヴァイオリンに酔うという表現はあるのかな?・・・・・
こんなことを考えさせるような素敵な、夢のような一夜でした。諏訪内晶子の名前は数年前から耳にしてたが、実際に聴いてみてその素晴らしさに驚嘆です。
出だしは控えめ、そしてやや線の細さを感じたが、曲が進むにつれてそんな不安はすぐに吹き飛び、ヴァイオリンが流れるように響いてくる。音楽が、自然に流れていくのです。転調して音楽が変わっても、その流れが淀むことなく、本当に自然に変化してゆく。ヴァイオリンの音がこんなに生き生きと聴こえてきたのは初めて。昨年、竹澤の豊かな響を経験したが、諏訪内のヴァイオリンは、閃きと新鮮な響きで、単刀直入に切り込んでいくような音楽で、曲の難しさなどまったく感じさせない。
アンコールで弾いたバッハは、大げさに言えば、一丁のヴァイオリンがオーケストラに匹敵するくらい多彩な語りかけだった。バッハの音楽としては少しやりすぎという感じがしないでもないけど、今の諏訪内晶子の<バッハ:無伴奏ヴァイオリンソナタ全曲>を聴いてみたい!! と思います。
R.シュトラウスの音楽、いつまで経ってもあまり好きになれません。多彩な音の競演で、パワーは感じるけど、感銘は少ない。
秋山和慶(あきやまかずよし)
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諏訪内晶子(すわないあきこ) |
1941年生まれの指揮者。桐朋学園で斉藤秀雄に師事(小澤征爾と同門)。東京交響楽団との結びつきが強く、今年から桂冠指揮者になる。
アメリカ・カナダでの活躍も長い。
国内での活躍も幅広く、サイトウキネン・オーケストラ設立の立役者の一人でもあり、大阪フィルとの関係も深い。 |
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1990年、最年少でチャイコフスキー国際コンクールに優勝し一躍国際的な注目の的になる。しかし彼女はここからが違う。演奏活動を休止してニューヨークに留学しジュリアード音楽院で研鑽を積むのである。95年、演奏活動を開始してからは、その卓越した演奏で一躍世界中から引っ張りだこ。
今世界で最も注目を集めるヴァイオリニストの一人。
使用楽器:ストラディヴァリウス<ドルフィン> |
指揮 |
ヘルムート・ヴィンシャーマン |
独奏 |
野津臣貴博 |

予想外、というのは失礼な話だが、苦手なバッハをまとめて聴くいい機会、くらいのつもりでした。
静かに始まり、やや控えめの音楽かなと思っていたが、曲が進むにつれオーケストラも乗ってきた。バロックトランペットの新鮮な響き、野津のフルートのふくよかな音(と言っても、決してフルートだけが浮き上がることなく、オケの一員としてまとまっていた)、予想以上に楽しませてくれたオーボエなど、室内楽を楽しむ雰囲気で時間が過ぎていった。
全4曲の組曲の最後に第3番。2曲目に<G線上のアリア>として有名な音楽があり、この日一番の聴き所でもあった。弦のアンサンブルが実に自然で、指揮者のヴィンシャーマンが何もせず聴き入ってるという場面もあった。
何が良かったのか、後で考えてみた。一言で言えば、作為的な部分が全くなかったと言うこと。テンポを変えて効果を狙うような場面でも、淡々と演奏していた。これが自然な音楽になり、大きな感銘に繋がった。
オーボエ奏者としてのヴィンシャーマンは名手、でも指揮者としては全くの未知数だったが、少人数の大阪フィルのメンバーからこんな豊かな音楽を引き出したことに脱帽!
終演後、スコアをパタッと閉じ、客席に向かってそれを掲げ、<Bachの音楽が素晴らしいんですよ>とでも言ってるような姿が印象的でした。
-今日の一言-
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期待せずに行きました。終わったとき、言葉にならないくらいの感動でした。 |
ヴィンシャーマン(Winschermann)
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野津臣貴博(Nozu Mikihiro) |
1920年生まれのドイツのオーボエ奏者・指揮者。
60年に<ドイツ・バッハ・ゾリステン>を創設し、指揮者としてまたオーボエ奏者として、バッハ演奏の一時代を築き上げた。 |
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桐朋学園・英国王立音楽院などで学ぶ。
95年に大阪フィルの第1フルート奏者として入団。傍ら,ソロ活動も活発に行い、トークを交えた演奏会としても有名。 |

常任就任2年目のシーズン、朝比奈隆の誕生日にこの曲をもってきた。
朝比奈がその一生を掛けて挑戦してきたブルックナーの交響曲、特にこの8番は交響曲史上最高峰に君臨する曲であり、朝比奈を語る上で欠かすことの出来ないもの。その曲に大植英次がどう挑戦するのか・・・・
今シーズンのプログラムが発表されたときから、期待と不安でいっぱいでした。
大阪フィルのファンだけじゃなく、日本中で注目されていたと思います。
結果は如何に・・・?
結論から言えば、ほぼ満足できるものであった。
オーケストラが充実、弦はコントラバスがしっかり低音で支えてたし、管楽器も健闘。ただしホルンはもう少し充実してほしい。
大植の指揮も、全体を見通した歯切れのいい演奏で、オーケストラの醍醐味は十分与えてくれる演奏会だった。
でも・・・・
4楽章もいよいよ大詰めのコーダにさしかかる所、大きく盛り上がるのだが大植はアッチェレランド(しだいに速く)していく。音楽を盛り上げるには非常に効果的ではあるけど、ブルックナーの音楽は、そういう効果を持たさなくてもいい音楽で、同じテンポのままで徐々に盛り上がっていくはず。テンポを早めていくことが、逆効果になるように思うのです。
ブルックナーの交響曲第8番、これはクラシック音楽の中で最も巨大な音楽のひとつだと感じてます。そしてその大きさを感じさせてくれたのは、ドイツの指揮者ギュンター・ヴァント、ルーマニア出身のチェリビダッケ、日本の朝比奈隆。
彼らに共通するのは、テンポを変化させたり、効果を狙った演出がないということ。どっしり構えて悠々と音楽を進める。
大植英次の今のブルックナーは、若々しさを前面に出した演奏。朝比奈と比較しても意味のないこと、5年後、10年後、そして30年後のブルックナーに期待したい。
-今日の一言-
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素晴らしい演奏。でもそれ以上に朝比奈隆のすごさを再認識させられました |


ショスタコーヴィチの10番は聴いたことのない曲、今日はシベリウスのヴァイオリン協奏曲を聴くのが目的です。私が若いときから大好きな曲。
北欧の夕暮れを感じさせる音楽で、華やかさより静けさ、外面的じゃなく内面をじっとみつめさせる、そんな曲で、ヴァイオリンが目立ちすぎたらだめ。
そういう意味で今日のヴァイオリニストはこの曲に合ってたように思います。
やや線の細い、それでいてテクニックはほぼ完璧、そんな演奏だった。特に長い第1楽章はオケとヴァイオリンが一体になりにくい音楽なのに、黄は流れに完全に乗って演奏していた。自分が突出することなく、かといって埋没することもなく、シベリウスを堪能させてくれた。
後半のショスタコービチ、曲がよくわからないだけにコメントが出来ないが、シェーファーの統率力は見事。
-今日の一言-
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シベリウスの音楽は日本人の心情にぴったり! |
シェーファー(H.Schaefer)
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黄蒙拉(ホァン モンラ) |
1968年ドイツ生まれ。
22歳の若さで、ヴィオラ奏者としてベルリン・フィルに入団。
2000年、音楽監督のクラウディオ・アバドのもとでベルリン・フィルのアシスタント・コンダクターになる。
以後、ベルリン・フィルとの仕事と共に他のオーケストラも指揮するようになる。 |
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1980年生まれの中国のヴァイオリニスト。
2002年のパガニーニ国際コンクールで優勝。(庄司紗矢香が優勝したのもこのコンクール)
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ドヴォルザークのこの曲は、高校時代からの愛聴曲。ワルター指揮コロンビア交響楽団の演奏が身体に染み付いています。<新世界>交響曲よりこじんまりしてますが、メロディー・リズムともこちらのほうが親しみやすいかもしれません。私はこちらのほうが好きです。
井上の演奏は、大変メリハリの聴いた音楽で、楽しめました。
前半の<カルメン>も、編曲がシチェドリンという作曲家がバレー音楽に編曲したもので、聴きなれた<カルメン>とは違う曲のようでした。。
この2曲の間のショパン、風のように流れる演奏。実力派の小山の音は大変きれい。それだけにやや平凡な印象。
それにしても、今日の指揮者は、当初フェドセーエフの予定が、病気のため急遽井上道義に変更。ロシアの実力者が始めて聴けるとたのしみにしてましたが、残念です。
井上道義
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小山美稚恵 |
1946年生まれ。桐朋学園で齋藤秀雄の門下生でもある。
1971年、ミラノのギィド・カンテルリ指揮者コンクールで優勝、以後新日本フィルなどとともに活動。マーラーの交響曲全曲演奏なども行う。
独特の風貌(丸い頭、エキゾチックな目)で、テレビで見る機会も多い。 |
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ショパン・コンクール、チャイコフスキー・コンクールという二つの国際コンクールに入賞。
各地での演奏活動のほか、最近レコーディングが増えてるようで、その評価も高い。 |
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指揮 |
大植英次 |
独奏 |
福井敬(サムソン)/竹本節子(デリラ) |

オペラを日常的に楽しむ習慣の無かった日本人にとって、オペラはやはり敷居の高いものです。音楽と劇、どちらかに神経が向いてしまって片方がお留守というのが私の印象でもありました。
最近になって、映像文化が浸透したことで、いろんなオペラを手軽に鑑賞できるようになった。
でも、この曲には一度も接する機会がありませんでした。
大植英次がなぜこの曲を・・・?という思いと、彼のオペラ指揮者としてのお手並み拝見!という気持ちで出かけました。
まず、彼が暗譜で全曲演奏したことにびっくり。音楽も劇的な部分だけでなく、歌手のサポートも文句なし。一番感心したのは、後半のバレー音楽の部分。劇の間に挿入された比較的長く、華やかな音楽は、実に生き生きとしていた。
紀元前のイスラエル、今の時代にも尾を引く宗教と民族の対立を扱った壮大なドラマなので、舞台装置・衣装などの整った形で見ることが出来れば、感動はもっともっと大きかったと思う。
サムソンを歌った福井さん、最初は落ち着いた雰囲気に見えたが、ドラマが進行するにつれ徐々にヒートアップ、役になりきった演技とクライマックスまで持っていった歌唱力は素晴らしかった。
-今日の一言-
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オペラは音楽と劇が一体となったもの、音楽だけでは・・・・残念! |
曲目: |
シャブリエ作曲 歌劇「グヴァンドリーヌ」序曲
サン・サーンス作曲 チェロ協奏曲第1番イ短調作品33
フランク作曲 交響曲ニ短調
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サン・サーンスの協奏曲がチェロのテクニックを誇示するような演奏だったので、メインの曲が心配だったが、そのフランクの交響曲は大変いい演奏だった。
1楽章の前半で、阪がオーケストラを完全に掌握している様子がはっきり分かり、ピアニッシモの一糸乱れぬアンサンブルが徐々にクレッシェンドしていく様は、ベテランの風格すら感じられる。
交響曲を一曲しか書かなかったフランク、循環形式という手法でがっちり構成された曲なので、ベートーヴェンやブラームスといったドイツ音楽という印象を受けやすいのだが、フランクはフランスの音楽家でその音楽はフランス音楽。阪の演奏はそのことを認識させてくれた。
阪哲朗という若い指揮者、今後の活躍が楽しみ。
-今日の一言-
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指揮者とオケの相性が好いと、素敵な音楽になる |



- 大植英次の色がオーケストラに浸透。熱い演奏が多かった。
- オケのピアニッシモが非常に美しい瞬間が忘れられない。
- マーラー・ショスタコーヴィチなどのの大曲を安心して聴ける。
- コンサートマスターが二人増え、これからのオケの質の向上が期待できる。
- 諏訪内晶子との共演が素晴らしかった。
反面、心配もある。
- ベートーヴェン・ブラームス・ブルックナーというドイツ音楽は、朝比奈の重厚な音楽のような説得力がまだ無い。
- オーケストラのトレーニングのためのプログラムという印象を受けることがある。
大植英次に望むこと
- <器用な指揮者>にはならないでほしい。
- <朝比奈のブルックナー><大植のマーラー>となって欲しい。
- バイロイト音楽祭で、大きくステップアップを!
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