コラム
社員の化学日記 −第203話「レッドブルで車のガラスが粉砕!!」−
あるショート動画で、車のガラス部分にレッドブル(清涼飲料水)をかけると、瞬時に粉々に砕ける様子が映されていた。動画の最後には種明かしがあったが、初見ではその原理が理解できなかった。
ガラスに影響を及ぼす化学物質として、最初に思い浮かんだのはフッ化水素酸である。これはガラスの主成分である二酸化ケイ素(SiO2)と化学反応を起こし、ガラスを溶解させるため、 通常はガラス瓶ではなく樹脂製のポリ瓶が使用される。 また、ガラスは引張応力(物体が引き延ばされる際に働く応力)に対して弱く、引張応力を受けた状態で水と接触すると、Si-O-Si結合が水分子と反応し、シラノール基(Si-OH)に変化することにより強度が低下する。 この現象は**「応力腐食(Stress Corrosion)」**と呼ばれる。
しかし、フッ化水素酸を含む清涼飲料水が市場に流通しているとは考えにくく、また水に触れただけでガラスが粉々に砕けるのであれば、ガラス製品の使用は著しく制限されることになる。そのため、通常このような現象は発生し得ないと考えられる。
種明かし:応力腐食を利用した演出
動画内での種明かしによると、事前にガラスに傷を付けておくことで、応力腐食による破壊を誘発するトリックが仕掛けられていた。具体的には、グラインダーなどを用いてガラス表面に微細な傷を形成し、その傷の上からレッドブルをかけることで、水分が傷口に浸透→応力集中→化学反応による亀裂拡大→瞬間的な破壊が生じる仕組みとなっていた。
レッドブルを使用した演出により、一見すると異常な化学反応による破壊現象のように見えるが、実際には応力腐食が主な要因となっており、この現象は**ガラスの遅れ破壊(Delayed Fracture)**として分類される。
アンプル瓶の開封との類似性
この種明かしを見た際、類似する現象としてアンプル瓶の開封方法を想起した。アンプル瓶の開封については今でも問い合わせを受けることがあるが、その方法はこの動画の原理と非常に近いものである。 1.アンプル瓶にヤスリで傷を付ける 2.熱したガラス棒を傷口へ押し当て、温度差による亀裂を形成する 3.息を吹きかけて傷口に水分を付与する 4.最後に衝撃を加えて瓶を開封する
ガラス棒やガラス管を切断する際にも同様の手法が用いられ、傷を付けた後に息を吹きかけることで切断が可能となる。
演出の巧妙さ
本動画では、科学的に説明可能な現象を工夫することで視覚的に驚きを与える演出がなされていた。このような仕掛けを用いることで、身近な物理現象を新たな視点で捉えられることに感心した。
【白色林檎(ペンネーム)】
次のコラムへ>>