コラム

社員の化学日記 −第189話「化学の授業を始めます」−

友人がこの本おもしろいよ、と貸してくれました。

化学を生業とする人には面白く読めるんじゃないかということでした。

「化学の授業をはじめます(原題:Lessons in Chemistry)、訳:鈴木美朋 」という小説

ボニー・ガルマスBonnie Garmusという人のデビュー作で全世界で流行って(2024年初)読まれているという触れ込みでした。

同内容のドラマがテレビ番組で深夜に放映されていたのは知っていましたが小説は知らなかった。

最初は化学のハウツーものだと思っていたのですが意に反して、女性主人公の生きかたに読みごたえがあり化学云々には関係なくその生き方に共感を覚える読者が多いらしいです。昨今いわれているジェンダー問題にタイムリーな話題もその小説が支持される理由だと思います。

小説は1960年代初頭のアメリカが舞台で当時は女性蔑視の真っただ中。それゆえに実力がありながら女性であるために様々な不当な扱いを受け苦労を続けるが、信念を曲げず周りに忖度せずに生きていく主人公の生きざまが描かれます。

又彼女の娘も文系の面でなかなかの天才的な能力を持っているために最初は母親と行き違いになるが、母親の個性的な行動に感化されていく様子や飼い犬が人間の言葉を理解でき娘と心を通う合わせるなど人間物語としての魅力も満載となっています。

が僕にとって惹かれるのは主人公が根っからの化学者であるため化学で説明するので化学用語が多々出てくるということ。

テレビの料理番組、プロデューサーの意向は女性の色気を利用して人気を得たいため女性である主人公を料理の講師に採用しますが、彼女はなにせ生粋の化学者なので視聴者に媚びを売ることなく「料理は化学、化学的に料理を教える」ことを淡々と実施したことです。

例えば、塩を塩化ナトリウムという場面に代表される化学的な料理説明や「ひとめぼれ」は「水素結合」と説明したり、亡きパートナーの墓石に「愛情ホルモンの構造式はオキシトシン」と彫ったりします。

普段から化学に接している者にとって思わず「にやり!」としてしまう場面が多いです。

この主人公の料理番組のように化学の授業ができたら化学に興味を持つ人が増えるんじゃないかとも思います。

自分の信念を曲げない個性的な彼女は普通ではないことに気弱になることもありますが、普通とは時代の変化とともに変わる概念であって普通じゃないからこそ人間は面白いし普通じゃないからといって傷つくいわれはないといったようなことで、自分の個性を愛することの大切さを化学を通して知ることになります。

私ども三津和化学薬品株式会社、一般的に理想と言われる経営方法にとらわれず自分の好みでもって会社を続けていくこと、したがって他の会社ではやらない日本唯一の個性的な企業として存在していると他社の人から良く言われることですが、この小説の趣旨によく合っていると感じました。

化学に興味ある人や化学を教える境遇にある人だけでなく「普通でない」ことに悩んでいる人にぜひ読んでほしい一冊です。

令和6年3月
 【今田 美貴男】

次のコラムへ>>

<<前のコラムへ

▲このページのtopへ