コラム

社員の化学日記 −第185話「閑人閑話」−

もう12月…。 今年もいろいろありました。

暖かい日が続くと思ったら、急に寒くなったり、その翌日には最高気温20℃であったり。 だんだん年をとると、急な冷え込みもだんだんきつくなってきて、体調管理も大変だ。

毎秋会社の生活習慣病検診は毎回受けている。 幸い、血圧、コレステロールなどの項目は何とか正常範囲内を保ち続けているが、この年齢にしておなか周りだけは"すくすくと成長"し続け、今では"立派な"生活習慣病予備軍として毎回注意を受ける羽目となってしまった。

今年から血液検査の項目に腫瘍マーカーがオプションとして加えられたというので、早速検査を希望してみた。 すべて陰性であったが、いろいろ調べてみると当然のことながらこれらはあくまでも指標に過ぎず、陽性であったしても癌である確率が○%〜○%という程度でしかないらしい。 結局のところ、疑われる患部の画像診断なり、組織の病理検査等に勝る検査はないようだ。

最近、通勤時に気になっていることがある。 地下鉄車内の中刷りで、寄生虫の線虫を利用した癌検診の広告をよく見る。 線虫は土壌、海洋など至るところに存在するが、農作物等媒介して人間や脊椎動物に寄生する種もあり、肥料としてし尿が使用されていた時代には「人⇒土壌⇒野菜⇒人」の感染サイクルがよく見られたらしい。

検査で使用される線虫の種類は調べたところではよくわからなかったが、尿を検査に用い、癌患者の尿の臭いに線虫が引き寄せられ、引き寄せられた線虫の数と離れていった線虫の数を複数条件下で数えて判定するらしい。 でも、腫瘍マーカー検査のように化学的に検査するのではないから、検査精度はどうなのか、検査に使用する線虫の個体差による影響はないのか等々、医学的な知識がない素人としては次々と疑問がわき出してくる。 いずれにしても100%ではなく、癌である可能性(確率)が判断できるに過ぎないであろう。

ここで、"%"、百分率といえば…。 小学校の算数で習うくらいで、日常的によく使用される。

パーセント(percent、percentage)百分率(ひゃくぶんりつ)は、割合を示す単位で、全体を百として示すものである。 上記のような確率や消費税など税率表示の際に使用されるが、化学の世界では濃度や特性成分の含有率を表示する際にも使用される単位である。

パーセント以外にも全体を千とするパーミル(千分率、‰)や、一万とするパーミリアド(ベーシスポイント、一万分率)などがある。

千分率は、海洋学では海水中の成分濃度の表示に用いられることがある。 一万分率は、金融分野では金利の変化や違いを表現するのに用いられるらしいが、科学分野ではほとんど使用されず、日本の計量法でも規定されず、取引・証明に用いることは禁止されている。 そのほか、環境基準などでも用いられるppm(parts per million、百万分率)やppb(parts per billion、十億分率)、ppt(parts per trillion、一兆分率)、ppq(parts per quadrillion、千兆分率)などがある。

仕事上よく使用するのは%、ppmである。

特に%は製品(薬品)の純度を表示する際に使用するが、分析化学的な考え方としては100%、0%は存在しない。 分析機器を用いる微量成分の分析測定においても検出できる限界値があるため、純粋なものといっても数字として100%同一成分であることを証明することはできない。 通常は「99.999…」のように9を続けて何桁目まで保証できるかによって純粋な度合いを表示する。

現在通常使用されている分析方法では測定できなくても、より微量な成分を検出できる方法では測定可能であったり、将来的に開発される高性能な分析方法では検出できるようになるかもしれない。 一万分の一までしか検知できないのか、十億分の一まで測定できる方法であるかに左右されるので、分析結果を「0%」とは表示せず、ND(Not Detect)、検出限界以下などと表記する。

20年ほど前、大量破壊兵器保有疑惑をもたれた某国の元大統領が「持っていないものを"ない"と証明することはできない」と証言したらしいが、ゼロであること、無であること、存在しないことを数値で完全に示すことは事実上できないのである。

 【道修町博士(ペンネーム)】

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