■FFR測定の実際
FFR測定の準備
@ 大動脈圧(AO圧)のゼロ点校正
AO圧トラスデューサーの大気解放部を胸郭の厚みの1/2の高さに合わせ圧トランスデューサーのゼロ点校正を行う
(圧トランスデューサーの三方活栓のコック[閉]を患者側に向け、大気解放部を胸郭の厚みの1/2の高さに合わせゼロ点校正を行う)

ゼロ点校正完了後、トラスデューサーの大気解放を解除する
(圧トランスデューサーの三方活栓のコック[閉]を大気側に戻す)
≪Point≫
・ | 圧トランスデューサーの設置は、必ずカテ台の上下に連動する位置に取り付ける(∵ 患者と圧トランスデュサーの位置が変わるとゼロ点がずれる) |
・ | 圧トランスデューサーの流路内に気泡がないことを確認する |
A プレッシャーワイヤーのプライミングとゼロ校正
プレッシャーワイヤー先端部のセンサー部を生理食塩水(生食)で満たしゼロ校正を行う

≪Point≫
・ | 生食を満たす際は、気泡の混入を避ける(センサー部に気泡が付着するとゼロ校正に影響を当る) |
・ | カップやバット内にセンサー部を浸けてゼロ校正を行うと浸ける水の深さで水圧の影響を受けるためプレッシャーワイヤーの保護ケース内で行う方が良い |
・ | ゼロ校正時振動などを与えない |
B プレッシャーワイヤーのEqualize(normalize)
1) | 透視下でプレッシャーワイヤー(PW)のセンサー部をガイディングカテーテル(GC)先端部の位置(イコライズポイント)まで挿入
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2) | 止血弁からインサターを抜去し、Yコネクターを締め、GCを生食でフラッシュする |
3) | 大動脈圧(Pa)、PW圧(Pb)にdicrotic notchが見られ、波形がなまっていないことを確認
 |
4) | Equalize(normalize)を行い、PaとPdの波形が一致しPd/Pa値が1.00になることを確認
 |
≪波形がなまっている場合の対応≫
AO圧(Pa)がなまっている場合 |
| @ | 止血弁からインサーターが抜去され、Yコネクターが閉まっていることを確認 |
| A | 生食でカテーテル内をフラッシュし造影剤を取り除く |
| B | GCがWedge(ウェッジ)していないか確認し、WedgeしていればGCを外す |
| C | 圧トランスデューサーや圧ラインにAirがないことを確認 |
PW圧(Pb)がなまっている場合 |
| @ | GCがWedge(ウェッジ)していないか確認し、WedgeしていればGCを外す |
| A | PWのセンサー位置を血管壁やGCに当たらない位置に移動させる |
| B | 上記で改善しない場合は、一度PWを体内より抜去し、センサー位置に血栓や気泡がないことを確認する |
≪Point≫
・ | Equalize(normalize)は、GCの先端圧(大動脈圧;Pa)とPW圧(Pb)の平均圧のずれの補正を行うものでEqualize(normalize)が適切に行われなければ、FFR値は正確に測定されない |
・ | PWのセンサー部は、PWの不透過部分すぐ手前にあるため不透過部分をGC先端からすべて出しきった位置でEqualize(normalize)を行う |
・ | 病変部が入口部に近い場合は、GCを少し引いた状態でセンサー部に病変がかからない位置でEqualize(normalize)を行う |
・ | 圧波形がなまった状態では真のAO圧(Pa)より低い状態であるため、その状態でEqualize(normalize)を行うとFFR値は真の値より高くなり偽陰性となる |
・ | ドリフトの発生を低減するため、Equalize(normalize)の位置で10〜20秒程待ってからEqualize(normalize)を行い、Pd/Pa=1.00で落ち着いていることを確認する |
・ | Equalize(normalize)の補正値が、平均圧の1割以上である場合はPWのゼロ校正をやり直す |
FFR測定
@ プレッシャーワイヤー(PW)を可及的末梢に挿入する
A PWのセンサーの位置を造影で確認後、止血弁からインサーターを抜きYコネクターを閉め、造影剤を生食でフラッシュする
≪Point≫
・ | PWのガイドワイヤーをケーブルコネクタ(又は送信機)から取外し可及的末梢に挿入後再接続する際は、接続部は乾いた状態で接続しPW圧(Pb)が表示されることを確認する。もし、血液などの汚染があれば生食などで濡らしたガーゼで拭き取った後乾いたガーゼにて水分を拭き取り再接続する |
・ | 生食でフラッシュ後、GCの先端圧(大動脈圧;Pa)がなまっていないことを確認する |
B 最大充血薬を投薬し、投薬開始のタイマーを開始する
C 記録を開始し、バイタルに注意しながら最大充血が得られた時点のPd/PaをFFR値とする
≪Point≫
・ | 最大充血薬の副作用(血圧低下、不整脈、不快症状など)の出現に注意する |
・ | 最大充血薬を冠動脈内投与する際は、投与後GCがWedge(ウェッジ)していないかPaの波形(dicrotic notch)を確認する |
・ | ATP/アデノシン(経静脈投与)で最大充血を行い圧較差が揺らぐ(不安定)な際は、投与量を増加させる |
・ | 最大充血薬によって効果時間が異なるため、投薬開始から時間に注意する |
・ | 3〜5心拍(機器設定等で変化)毎の平均値をとっているためPd/Paが下げ止まり、安定した値をFFR値とし、マーカーを入れる |
最大充血薬
D 最大充血の状態で透視下でPWを引き抜き、圧センサーの位置と圧の変化を確認する

≪Point≫
・ | PW引き抜き時、血管壁に圧センサーが当たり、圧波形にアーチファクトが出現することがある |
・ | 最大充血薬の冠動脈内投与の場合、効果時間に限りがあるため投薬開始からの時間に注意しイコライズポイントまで引き抜く |
・ | 圧センサーが目印となる側枝などを通過した際にマーカーを入れることで記録の見直し時にどの位置で圧が変化したのかわかり治療部位の判別に有用である |
・ | ある程度一定速度で引き抜くことで圧較差の変化によって、限局性(focal)病変かびまん性(diffuse)病変かを判断できる。 但し、Pd/Pa値は3〜5心拍(機器設定等で変化)毎の平均値をとっているため特定の位置で正確なPd/Pa(FFR)値を測定したい場合は3〜5心拍待った方が良い |
・ | 同一冠動脈内に2つ以上の狭窄が存在する重複病変(tandem lesion)では、どの病変で圧較差が大きく変化したかでどの病変が有意な狭窄かを判定することができる。 但し、重複病変の場合、お互いの狭窄の影響で圧較差が過小評価されるため圧較差が小さい狭窄部位であっても有意な狭窄ではないとはならないため一つの狭窄病変治療後に再度FFRを測定することが必要である |
E Equalize(normalize)を行った位置(イコライズポイント)でPd/Paを確認し記録を終了する(最大充血薬経静脈持続投与の場合は投与を停止する)
1) | 透視下でプレッシャーワイヤー(PW)のセンサー部をイコライズポイントに合わせる |
2) | Yコネクターが緩んでいないか確認する |
3) | 大動脈圧(Pa)、PW圧(Pb)にdicrotic notchが見られ、波形がなまっていないことを確認 |
4) | 3〜5心拍待ちPd/Pa値のズレがない(Pd/Pa=1.00)かを確認し記録を終了する |
※ | 最大充血薬経静脈持続投与の場合は投与を停止する |
≪Point≫
・ | イコライズポイントでPd/Pa値にズレがない(Pd/Pa=1.00)ことで、測定したFFR値が正しいかどうかの確認できるため必ずイコライズポイントでのPd/Pa値を記録する |
・ | イコライズポイントでPd/Pa値にズレが生じ、PdとPaの平均値のズレが±3mmHgの超える場合やFFR値がグレーゾーンの場合FFRの再測定が推奨される |
・ | イコライズポイントでPd/Pa=1.00でない場合は、FFR値の補正を行う必要があるため「Paの平均値とPdの平均値」あるいは「Pd/Pa値」を書き留める |
・ | Pd/Paは、3〜5心拍(機器設定等で変化)毎の平均値をとっているためイコライズポイントで3〜5心拍待った後Pd/Pa値のズレを確認する |
・ | 大動脈圧(Pa)、PW圧(Pb)の波形のなまりは、Pd/Pa値のズレにつながるためGCがWedge(ウェッジ)してないか、PWのセンサー位置を血管壁やGCに当たっていないか確認する |
FFR値の補正
FFR値測定後、Equalize(normalize)を行った位置(イコライズポイント)まで引き抜くと大動脈圧(Pa)とPW圧(Pd)に圧のズレが生じる場合がある。その際には、測定されたFFR値にこのズレを補正して再計算する必要がある。
イコライズポイントでのPaとPdのズレの許容範囲は、±3mmHg。許容範囲を超えている場合やFFR値がグレーゾーン付近の場合は補正ではなく再測定が推奨される。
≪イコライズポイントでのPd/Pa値と補正FFR値の変化≫
イコライズポイントでの Pd/Pa値 | 補正FFR値 |
Pd/Pa>1.00 (Pd>Pa) | 補正することで測定FFR値より下がる |
Pd/Pa<1.00 (Pd<Pa) | 補正することで測定FFR値より上がる |
≪正確な補正計算法≫
補正FFR値= | 冠動脈遠位圧(Pd)−ドリフト値 |
---|
 |
---|
大動脈圧(Pa) |
|
|
---|
ドリフト値= ePd−ePa
ePa:イコライズポイントでの大動脈圧 ePd:イコライズポイントでのPW圧 |
≪簡易な補正計算法≫
この計算法は、非常に簡易な計算であるため速やかに補正することができるが、ドリフト値が大きい場合やPa値、Pd値によって上記の正確な補正計算値と多少異なるFFR値を算出することがあるため注意が必要である(特にグレーゾーン付近では)。
補正FFR値=測定FFR値−ドリフトPd/Pa値
|
ドリフトPd/Pa値= ePd/Pa−1.00
ePd/Pa:イコライズポイントでのPd/Pa値 |
≪例1≫
| イコライズポイント値 | FFR測定値 |
大動脈圧 | ePa=95 | Pa=100 |
PW圧 | ePd=93 | Pd=88 |
Pd/Pa | ePd/Pa=0.98 | FFR=0.88 |
● 正確な補正計算法
ドリフト値= ePd−ePa= 93−95= −2
補正FFR値= | 冠動脈遠位圧(Pd)−ドリフト値 |  | 大動脈圧(Pa) |
| | = | 88−(−2) |  | 100 |
| | = | 88+2 |  | 100 |
| | = | 90 |  | 100 |
| =0.90 | |
● 簡易な補正計算法
ドリフトPd/Pa値= ePd/Pa−1.00= 0.98−1.00= −0.02
補正FFR値=測定FFR値−ドリフトPd/Pa値=0.88−(−0.02)=0.88+0.02=0.90
≪例2≫
| イコライズポイント値 | FFR測定値 |
大動脈圧 | ePa=95 | Pa=100 |
PW圧 | ePd=97 | Pd=88 |
Pd/Pa | ePd/Pa=1.02 | FFR=0.88 |
● 正確な補正計算法
ドリフト値= ePd−ePa= 97−95= +2
補正FFR値= | 冠動脈遠位圧(Pd)−ドリフト値 |  | 大動脈圧(Pa) |
| |
= | 88−(+2) |  | 100 |
| | = | 88−2 |  | 100 |
| | = | 86 |  | 100 |
| =0.86 | |
● 簡易な補正計算法
ドリフトPd/Pa値= ePd/Pa−1.00= 1.02−1.00= +0.02
補正FFR値=測定FFR値−ドリフトPd/Pa値=0.88−(+0.02)=0.88−0.02=0.86
≪例3≫
| イコライズポイント値 | FFR測定値 |
大動脈圧 | ePa=80 | Pa=84 |
PW圧 | ePd=82 | Pd=70 |
Pd/Pa | ePd/Pa=1.03 | FFR=0.83 |
● 正確な補正計算法
ドリフト値= ePd−ePa= 82−80= +2
補正FFR値= | 冠動脈遠位圧(Pd)−ドリフト値 |  | 大動脈圧(Pa) |
| | = | 70−(+2) |  | 84 |
| | = | 70−2 |  | 84 |
| | = | 68 |  | 84 |
| =0.81 | |
● 簡易な補正計算法
ドリフトPd/Pa値= ePd/Pa−1.00= 1.03−1.00= +0.03
補正FFR値=測定FFR値−ドリフトPd/Pa値=0.83−(+0.03)=0.83−0.03=0.80
※ このように補正計算法と簡易な補正計算法で多少のズレが生じることがある