■最大充血
最大充血とは
抵抗血管を最大に拡張した状態を最大充血と呼びます。冠血流は、冠循環の自己調節能によって一定の範囲内血圧の変動に対して抵抗血管を調節し一定に保とうするため冠内圧と冠血流は比例関係となりませんが、最大充血時は抵抗血管が最大拡張した状態であり、冠血流が最も増加した状態といえその状態は、冠血流と冠内圧は直線的関係となり、冠血流の比は冠内圧との比で表すことができるようになります。そのため、FFR測定には、抵抗血管の最大拡張である最大充血が不可欠となります。
≪安静時≫
自己調節能によって、冠内圧50mmHgの時も100mmHgの時も血流は、一定で冠内圧の変化によって冠血流が変動しません。
≪最大充血時≫
冠血流と冠内圧が直線的となり冠血流と冠内圧を比で表すことができ、
FFR = | 狭窄血管の最大血流 |  | 正常血管の最大血流 |
| = | 狭窄遠位部の冠内圧(Pb) |  | 大動脈圧(Pa) |
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という関係で示すことができます。
冠循環の自己調節能(オートレギュレーション;Autoregulation)
最大充血薬
最大充血における冠血流と冠内圧の直線関係
最大充血により冠血流と冠内圧が直線的となり、FFR = | 狭窄血管の最大血流 |  | 正常血管の最大血流 |
| = | 狭窄遠位部の冠内圧(Pb) |  | 大動脈圧(Pa) |
| となる関係をグラフを用いて示しますと | |
狭窄の無い正常冠動脈に最大充血を惹起し、冠内圧1mmHgに対し4ml/min増加する冠血流と冠内圧の直線関係を仮定した正常冠動脈と
狭窄により正常冠動脈の75%低下した冠血流、50%低下した冠血流が下記グラフとなります。

大動脈圧(Pa)を100mmHgとした場合、正常冠血流は400ml/min、75%の血流は300ml/min、50%の200ml/minの冠血流となります。
正常冠血流の状態から狭窄などで冠血流が75%低下した状態(FFR=75%)の狭窄遠位の冠内圧(Pd´)はというと75mmHgで、
FFR=Pd/Pa=75/100=0.75で冠内圧の比も冠血流の比と一致しています。
同じく冠血流が50%低下した状態(FFR=50%)の狭窄遠位の冠内圧(Pd”)は50mmHgで、FFR=Pd/Pa=50/100=0.50で一致しています。
このように、冠血流と冠内圧が直線(比例)関係であれば、冠血流の比を冠内圧に比で表すことができます。
※ 具体例として、大動脈(Pa)=100mmHgで示しましたが、大動脈(Pa)がどの値に変動してもこの関係は成り立っています。
≪参考;数値≫
冠内圧 | 50 | 62.5 | 75 | 87.5 | 100 | 112.5 | 125 | 150 |
正常冠血流※1 | 200 | 250 | 300 | 350 | 400 | 450 | 500 | 600 |
正常冠血流の 75%血流 | 150 | 187.5 | 225 | 262.5 | 300 | 337.5 | 375 | 450 |
正常冠血流の 50%血流 | 100 | 125 | 150 | 175 | 200 | 225 | 250 | 300 |
※1 正常冠血流は、冠内圧1mmHgに対し4ml/min増加を正常状態と仮定 |
■圧較差の要因
圧較差の要因は?
血流が、狭窄部を通過すると圧損失が生じ、その結果狭窄前後で圧較差が生じる。この圧較差は、簡易ベルヌーイの式で表されます。
圧較差ΔP= f×Q+s×Q2
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f= | 8π×μ×L |  | As2 |
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s= | ρ |  | 2(1/As−1/An)2 |
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π | : | 円周率 |
μ | : | 血液粘度 |
L | : | 病変長 |
ρ | : | 血液濃度 |
Q | : | 平均冠血流量 |
An | : | 正常部内腔断面積 |
As | : | 病変部内腔断面積 |
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f×Qは、血液の粘性摩擦による圧損失、s×Q2は、血流が狭窄出口で渦状の乱流が発生によって生じる圧損失です。
式からわかるように血流量(Q)に依存して圧較差が発生します。乱流の発生による圧較差は、s×Q2より血流量の2乗に比例して増加し、狭窄前後の圧較差は血流量の2乗して増加していきます。
又、病変部内腔断面積(As)の最小内腔断面積(MLA)は、2乗で割っている為、MLAの2乗に反比例しています。それに対し病変長は、1乗のためMLAほど圧較差の影響は大きくありません。
このため、FFRは血流量とMLAに非常に大きく影響を受けます。
■FFRの論理的根拠と値の解釈
FFRの論理的根拠
冠循環を直流回路に見立てることで、冠血流Qを電流、灌流圧Pを電圧、血管抵抗Rを抵抗としてオームの法則(電圧=電流×抵抗)で表すことができます。
正常血管では心筋外血管には圧較差が存在しないため、大動脈圧(Pa)と冠動脈遠位圧(Pd)は等しくなります(Pa=Pd)。この場合、冠静脈圧をPvとすると心筋への灌流圧は(Pd-Pv)は、(Pa-Pv)に置き換えることができ、最大充血時の心筋内の微小血管抵抗をRとすると、正常血管最大心筋灌流量Qn_maxは
正常血管最大心筋灌流量 Qn_max= | Pa-Pv |  | R |
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冠動脈狭窄により、圧較差が生じると冠動脈遠位部(Pb)は灌流圧が低下するため、心筋への灌流圧は(Pd-Pv)、最大充血時の心筋内の微小血管抵抗Rは一定であるため狭窄血管最大最大心筋灌流量Qs_maxは
狭窄血管最大心筋灌流量 Qs_max= | Pd-Pv |  | R |
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FFRは、正常血管最大心筋灌流量に対する狭窄血管最大最大心筋灌流量の比であるため
FFR = | Qs_max |  | Qn_max |
| = | (Pd-Pv)/R |  | (Pa-Pv)/R |
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最大充血時の微小血管抵抗Rは最大拡張の状態で一定であるため
FFR= | Pd-Pv |  | Pa-Pv |
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最大充血時の冠静圧Pvは、Pa、Pdに比べて非常に小さく無視できるため
FFR= | 冠動脈遠位圧(Pd) |  | 大動脈圧(Pa) |
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となります。
FFR値の解釈
FFRは、最大充血の項やFFRの論理的根拠の項で示した通り、
最大充血の状態で、FFR = | 冠動脈遠位圧(Pd) |  | 大動脈圧(Pa) |
| を測定することで | 狭窄血管の最大血流 |  | 正常血管の最大血流 |
| を表していることとなります。 | |
これは、全く正常の血管であれば、FFRは、1.0(冠血流量 100%)となり、FFRが、0.6であればその血管が正常であった場合の最大血流量(FFR1.0の状態)の60%しか狭窄によって心筋内に流れてないという意味となります。又、PCI治療により、FFRが0.6から0.9に改善されれば、治療前の状態より最大灌流量が150%増加したこととなります。
では、最大血流量が狭窄により何%下がれば心筋の血流不足である虚血に陥るかというと
最大血流量から25%と低下した状態、つまりは、FFR≦0.75でほぼ例外なく有意な心筋虚血が存在するといわれており、FFR>0.75では有意な虚血であることは稀といわれています。
圧で測る理由
FFRは、 | 狭窄血管の最大血流 |  | 正常血管の最大血流 |
| であると説明してきましたが、何故、血流量直接測定せず、圧という間接的な数値から血流量の比をだしているのか疑問に思うかもしれません。 | |
それは、圧を測定することは非常に簡便ですが、冠血流の絶対量を計測することはできないからです(CFRの値は流速の比で血流量ではありません)。
又、冠内圧は、狭窄のない正常血管では冠動脈の入口圧と遠位部の圧は圧損失がなく等しい為、狭窄が存在しても冠動脈の入口圧を狭窄血管遠位部血管の正常状態の圧として仮定することができます。
一方、冠血流は、分岐するごとに末梢の血管の血流は減少していくため、狭窄ない血管でも末梢の血流は入口部の血流より減少し、入口部と遠位部の血流は等しくありません。そのため、狭窄下では狭窄遠位部の正常状態の血管の血流を把握することは不可能となります。